輪るピングドラム 第16話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
運命の日記を狙う謎めいた女、夏芽真砂子。
前回表になったゆりの伏せ札に続いて、彼女の根源が暴かれるエピソードである。
濃厚な業とエロティクスが妖しく香ったゆりさんにたいし、真砂子はぶっ飛びギャグテイスト。
ジジイがとにかくヤバ過ぎるッ!
もちろん『面白うて、やがて哀しき…』というのはこの作品の基本調子であり、ギャグで生きたり死んだりループしたりを繰り返す裏には、夏芽家に一人囚われ、一人護り、誰かの救いを待ち続ける少女の悲哀が滲む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
家という檻は、時籠、荻野目、あるいは高倉の家々とはまた違った形で、真砂子を離さない
真砂子は超絶家父長である祖父の影響と支配を受けつつ、身近な暗殺者として彼を殺し、それは夢でしかなく幾度も目覚める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
それは顔を見せない父からの甘えた指令であり、父への愛は祖父への殺意へと、捻れてコンバーションされる。
しかし誰かの終わりを願う愛は、本当に愛なのだろうか?
結局父は遠方から手紙を送るだけで、祖父の消えた…そしてマリオに取り憑いて生存し続ける家には戻ってこない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
殺意とプレッシャーに一人苛まれる娘に、生身の体温を伝え報いることはしない。
そのまま暗い地下鉄に乗って、息子に殺され冥府へと落ちていくだけである。
前時代的なヤダ味満載で暴れる祖父だけでなく、一見優しき愛を伝えるように思える父もまた、家族の縁を使って真砂子に何かを強いる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
使命の檻、祈りの檻、愛の檻。
優しい真砂子は”家”から出れないまま、夢うつつの境界を彷徨い、いつも以上にお話の輪郭は曖昧になる。
トンチキ極まる夏芽家の日常は、果してマジックリアリズムに支えられた現実なのか、それとも何かの暗喩なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
この問いかけは作品全体に、長く敷衍しているようにも思う。
何が現実で、何が夢か。
このアニメーションは、その境界線を常に揺らしている。今回は、それが爆濃に炸裂しただけ…
というには、ジジイがあまりに大暴れである。すり潰されたりせんぞッ!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
無視するには強烈すぎるネタのフィルターを引っ剥がしてみると、高倉父から冠葉へ、あるいは時籠父からゆりへ、否応なく継承されてしまう家と血の輪廻が、透けて見える。
祖父が死に、マリオは祖父のコピーとなる。
真砂子と祖父が、トレースしたように同じ形で企業に君臨するのは示唆的だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
毒を食らわば皿までと、夏芽家のやり方を継承した真砂子は非常に祖父的な人間になっている…あるいは、そう演じることで権力と財力の基盤、マリオへの愛を維持する足場を守っている。
そして生き様は毒のように、演じることで本質を侵してもいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
大嫌いだった祖父のような生き方を演じていくことで、真砂子もマリオも祖父になっていくのだ。
反発も同調も、たとえ相手が運命の果に消え果てたとしても、血で結ばれ家で温められた影響は消えることはない。
時に血縁を意味する”身内”という言葉のとおり、体の中に取り込まれた毒は知らぬ間に、そのものの生き方に強く残響する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
ゆりが性虐待の被害者であり、加害者になりかけたように。
真砂子もまた、マッチョな超権力志向の犠牲となり、叛逆し、気づけばそれ自体になってしまっている。
怪物それ自体になってしまうことが、怪物に殺されない最も安楽な道であるから、犠牲者は容易に加害者となる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
そのレールを外れ、暗い引力に惹かれて墜ちていく当たり前の道を書き換えるためには、多大な努力と犠牲が必要になる。
みな、繰り返しなど望んではいない。
だが殺意と救済願望を無視して、世界は繰り返す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
祖父を珍妙な手段で殺すシーケンスは、作中の特殊なリアリティで本当にあったことなのか、それともあくまで子供でしかない真砂子の、殺戮の夢でしかないのか。
それを判別しきる鍵は、おそらくどこにもない。
夢幻的な現実、あるいはリアルを侵食する悪夢の中で、真砂子は必死に愛を探し、欲しい物を手繰り寄せようとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
手紙しかくれない父、一緒に汚れてやると約束した冠葉、無力な弟。
男たちは皆彼女を置き去りに、けして開くことのない扉の向こう側へと進んでいってしまう。
冠葉が囚われた、黒い列車。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
ペンギンの烙印が刻まれた黒い殺戮者達に、真砂子は同調しない事を誓う。
あくまで欲望を抱えた一個人として、すり潰されず、すり潰す側に回ることを思考する。
誰かの運命の果実をすり潰すことでしか、マリオを活かし、解毒することは出来ないから。
この唯一主義はまったく冠葉と同じであり、陽”毬”とマリオは共に無力なヒロインとして、運命に翻弄され死に瀕し…その哀れさ故に、兄姉を隘路に追い込んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
共にペンギン帽子を抱く彼らは、果して英雄を地獄に追い込むための装置としてしか、機能していないのか。
物語は、ここら辺も問うことになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
冠葉周りの情報出しは非常に巧妙で、幼い時から真砂子と縁があったと見せておいて、その色合いがどんなものかは、この段階でも上手く隠している。
『家族四人で、仲良く暮らそう』
父の呪いが、誰をカウントしているか…不在の母を、計算に入れないのがコツだ。
真砂子はマリオを”夏芽家の男”にしないために、毒の皿をまるごと食った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
結果社長としての立場、ふんぞり返った態度を継承し、”夏芽家の男”的な少女になってしまった。
その犠牲はしかし、マリオに悪霊が取り憑くことを防がない。
超自然的な憑依か、それとも継承の暗喩か。
ジジイの声で喋るマリオは一つの戯画であり、彼は真砂子の願いもも虚しく死んだ祖父の規範を内面化した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
竹刀をブンブンぶん回す、最悪なマッチョになってしまった。
そういう見方もできる。
そしてそういう”現実的”な見方をしても、状況は実は、ぶっ飛んだファンタジーとそう変わらない。
フグと竹刀があろうがなかろうが、亡霊が実在しようがしなかろうが、夏芽家の規範はそれを憎悪するものの中にこそ残響し、誰かを踏みつけにしながら存続してしまっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
家という檻の堅牢さ、犠牲者が被害者になる繰り返し、祈りが呪いに転化する理不尽。
そういう本質…と、安易に強すぎる言葉を使って良いものか、ひどく悩む作品であるけど…は、別に立ち現れたものが夢でも現でも変わりゃしないのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
かつて子供であった者たちは皆、繰り返す檻の中で苦しみ、亡霊の声を聞き、救済を祈り、誰かを踏みつけにしている。
誰かを選べば、誰かを殺すしかない無常のルールの外側から、生者に語りかける亡霊たち。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
眞悧がイヤーなアプローチを陽毬にかけて、まーた冠ちゃんが追い込まれておるけども。
『年上の、魅力的な恋敵』を演じることで、冠葉の純情に火をつけて死地に追いやるの、ホント最悪だな…。
陽毬は病とトラウマにより、幼年期から出ることのない永遠の少女だ。(だから、学校にも行けない)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
冠葉が胸に燃やしている、成熟すればこその庇護欲と愛がどんな手触りか、彼女は知らない。
少なくともこの段階では、おぼこな少女の顔のみを見せている。
運命の糸車を回す、無力なヒロイン。
そんな彼女が何に傷つき、何を思っているかもまた、巧妙に伏せられた大事な札だったりする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
意志なきトロフィーとして物語に君臨する少女は、ゆりや真砂子や桃果や苹果ちゃんがそうであるように、身勝手で力強く、自分だけの確かな世界と欲望を、ひっそり抱え込んでいる。
事態が過酷さを増すにつれて、それが見えてくるのもまた、後半戦の醍醐味である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
陽毬に全てを捧げる王子様を、画面の端っこでストーキングし続けるヘンテコな女。
そんな彼女もまた、彼女なりの檻と願いを持った”人間”だと描く回は、見た目ほど笑えない。
そう思い返す再視聴であった。次回も楽しみ
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月27日
サブタイトルはいつもどおり多重に主語を取っていて、”死なない男”はマリオに憑依して生存する祖父であり、死してなお呪いをばらまく眞悧でもあろう。
その列に、冠葉も名を連ねるのか。
真砂子の夢の中で、分水嶺は越えられていく。彼女の愛は、届かないのだ。