ブルーピリオドを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
クリスマス、新年。
迫りくる受験本番を前に、八虎たちの心は強く軋みだす。
疑い、揺れ、苛立たれて喜び、間近の破滅に安心を得る。
魂が摩耗する日々の中で、それでも確かに積み重なる、実力と縁。
どこにたどり着くかなんて、誰にもわからないまま、それでも。
そんな感じの美大受験地獄ドキュメンタリー、内圧パンパンに上がる年の瀬と年明けである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
心と体をメコメコに削られながら、迫りくるXデイに脳髄をグラグラ揺らされ、何が正しいのか、自分が何をやっているのか、何も見えなくなるような時間が、濃密に描かれていた。
受験特有の張り詰めた感じ、出口なく煮詰まった雰囲気を細緻に描きつつ、フッとそれが逃げていく瞬間を切り取る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
辛くて苦しい日々の中に、一瞬そんな風が吹くからなんとかやれてる。
そんな青春のモーメントが、厳しくも優しく描かれるエピソードだった。
”楽”の瞬間だけでなく、”苦”が確かに実力を生み出してる描写もあって、縁と思いが溶鉱炉でドロドロに溶け合って、何かになるかならないか…それすらも判然としない魅力的な混沌が、温度を上げていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
炸裂の瞬間は受験本番となるか、はたまた祖の周囲を取り巻く青春の只中か。
どっちにしても、八虎は悩み描き己を正して、また描くしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
自己模倣と言い訳の沼に沈みそうになった時、自分を客観視して張り飛ばせる所が、八虎生来の清さと言える。
そのキッカケは、わけわからん天才の悪戯電話である。
(画像は"ブルーピリオド"第6話より引用) pic.twitter.com/HfU4XCkntO
後に湯島天神で掘り下げられるが、八虎にとって世田介は心地よい存在ではなく、しかし遠ざけたくなる異物でもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
そこにあることで、否応なく自分の形を思い知らされるような、不快で目を離せない、魅力的な存在。
それが理解できない接触をしてくることで、八虎を閉じ込める壁に穴が開く。
溶鉄の縁を模倣して、その段階で安心しようとする自分を張り飛ばせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
そうさせるために、大葉先生も率直でキツい言葉を使っていたわけだが。
…八虎は”そこ”から、なんとか進める人物だと見込んだからこそ、そういう指導をしとるんだろうな。
声と体のデカい恩師は、ホント生徒をよく見とるわ…。
ここで世田介のへんてこな電話がなかったら、楽しい事ばかりじゃない現実に倦んで沈んで、八虎の受験は終わっていたかも知れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
停滞しようとする自分を爆破する偶然が、飛び込んでくるのもまた、変化する金属としての”縁”か。
作中仕上がった作品を、物語自体が追いかけてくの好きな構図だな。
かくしてみっちり課題付け、天才じゃない自分を思い出しつつ、八虎は新しい武器を手に入れようとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
『天才って効率いいよなー』と、分かりもしない他人を勝手に羨むフェイズから、『俺はやっただけしか出来ない』と、未熟な自分をちゃんと見る段階へ。
(画像は"ブルーピリオド"第6話より引用) pic.twitter.com/PojUI2NtmM
高い分析力と言語化能力で、『ショートケーキの強み』を腑分けして、ただ食べるよりもっと栄養になるように、腹に収めていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
八虎の優等生っぷりは、”べき”で足を止めちゃう弱点にも、客観的に自分と世界を観察し考えて書く強みにも繋がっている。
個性は、それ自体ではどんな力にもならない。
より効率的に、己の望むままに”らしさ”を形にして伝えるべく、構図があり画材がありテーマがあり、グダグダのたうつ地獄の日々がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
大葉先生は生徒が自発的な興味を抱けるように、的確に新しい視点、新しい課題を与え続けて、学習の酸素供給を怠らない。
一人ひとりが、受け止められるだけの栄養を
いいタイミングを見計らって、咀嚼できる形で差し出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
サラッとやってるように見えて、準備も実践も大変なことを、情熱を傾け愛情を持って、ただ甘く優しだけで終わらぬようやり続けるのは、とても大変なことだ。
八虎も、そんな営為にちゃんと応える。根が真面目ッ!
額縁に収まった表現が、どんな技術と意志で出来ているのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
クリエーターの奥底に広がり溜め込んでいるものを、分かりやすく言語化し物語化しているのも、このお話の魅力だと思う。
八虎は色んな技術、視点を教師から与えられて、その出会いが壁を突破していく…助けの一つになる。
今回は画材。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
ローラにチャコペン、新しい道具が新しい世界を連れてきてくれる。
見つけたと思えば囚われ、止まった所で先に進む。
一進一退の人生修業が、八虎に何を与えてくれているのか。
その総体が簡単には見えきらないところに、お話の魅力があると思う。チャーミングな複雑怪奇。
新しい技術だけが八虎の世界を広げるわけではなく、人との触れ合いもまた、彼の腐りゆく世界を一新していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
気が合うんだか合わないんだか、訳の分からねぇままどうしても意識してしまう、世田介の不思議な引力が、湯島天神で光を放つ。
(画像は"ブルーピリオド"第6話より引用) pic.twitter.com/QB04KzvYkW
最初は遠く小さかった(しかし確かにある)光が、凄く奇妙で噛み合わない…しかし絶妙に重なり合う青春会話を経て、どんどん近く大きくなっていく演出が好きである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
大好きで大嫌いだと、堂々言ってしまうこと。
俺もあんたを無視できないと、面と向かって言われること。
なんとなく上手く、世間を泳いでいく上では不必要なノイズこそが、八虎に生きている実感を与える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
シンプルに一色では塗れない感情を、内に秘めたままではなく、届けて解らせたい相手。
八虎にとって、世田介はそういう存在だ。
そして世田介にとっても、多分。
ライバルに『イライラするよ!』と言われて満点笑顔になり、いつものツレん所でぐーすか安眠する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
八虎の大晦日はなんとも奇妙なよろめきに満ちていて、だからこそ彼だけのオリジナリティが宿っている。
人生の一場面には、こんなに捻れて爽やかなこともまた、あるだろうな。
そう思えるシーンだ。
魅力的な異物たる世田介とのバチバチで話が終わらず、恋ちゃん達と合流して寝てオチる所、俺凄く好きなんだよな。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
安心して眠れる場所はやっぱり大事で、でもそこだけでは八虎の窒息は治らなくて。
絵と出会い、生き方を変え、苦しみの真っ只中でも嬉しいことはある。
それを腹に収めて実力を蓄えられるのは、物語が始まる前既にあった”縁”が、八虎を地面に繋ぎ止めているからこそだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
新しく出会ったものの瑞々しさが、既に手に入れているもののありがたさを、新たに照らす。
そういう距離感が静かにスケッチされているところも、このお話の好きなところである。
かくして生真面目の槍を年末年始に突き立てた八虎は、自分で勝手に決めていた限界を一つ破り、また戸惑う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
時間がないのに油絵禁止、デッサンデッサンまたデッサン。
不安と焦りにグラグラ揺れながら、一歩間違えば堕ちる場所を見下ろして得る優越感。
(画像は"ブルーピリオド"第6話より引用) pic.twitter.com/BaGNDYM5Vf
明るくて優秀で奔放なギャルに見えていた桑名さんが、背負う薄暗い色。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
高くて不安定な場所で風に吹かれながら、八虎は明るいオレンジの上り階段を、桑名さんは暗い下り階段をそれぞれ背負う。
このどん詰まりで、二人がどんな心を抱え、どんな役割を背負うのか。
それこそ”絵画的に”示すカットが多く、個人的に見応えがあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
鬱屈を瞳に宿した表情の作画、階段に満ちる腐敗した闇と、確かに吹いている風。
期日を食いつぶして煮込まれていく、受験前夜の凝った空気が、もう一人の”優等生”の仮面を引っ剥がしながら暴露されていく。
絵と、出来ない自分と、冷然とそびえ立つ現実と向き合う時間が長くなり、生徒たちは限界だっ!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
そして大葉先生は、耐えれるギリギリまで負荷をかける
泣きながらスケッチひっちゃぶく石井くん、この作品が何と向き合ってるのか一番良く語る絵面で、ホント好き
(画像は"ブルーピリオド"第6話より引用) pic.twitter.com/NdmcjV2FVH
息抜きに抜け出した場所では、顔に薄暗い陰りを宿した”優等生”がいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
世田介との奇妙なやり取りを経て、あるいは大葉先生のスパルタ課題を咀嚼して、今は安定した高みにいる八虎は、光を強く浴びている。
陰りに沈んだ桑名さんを、引っ張り上げる特権を持っている。
食事も喉を通らないほど追い込まれていく友達を見て、自分を救っていた罪悪感。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
それに苦しむ彼女が、八虎にカロリーメイトを差し出し続けるのは、印象的に切ない。
話すこと、糧を分け与えること。
それが出来る明るさと優しさがあるからこそ、眼下の暗闇に吸い込まれそうにもなる。
桑名さんはリタイアしてしまった友達にこそ、カロリーメイトを食べて欲しかったのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
八虎に幾度もそれを差し出すのは、アタマでわかってる正解に踏み込めなかった自分の弱さを、少しでも贖う代償行為か。
暗闇から吐き出される、主席の人間的な震え
(画像は"ブルーピリオド"第6話より引用) pic.twitter.com/jQ6vpS9Kjc
そこに八虎が、ひどくシリアスに柔らかく差し出した一言が、彼女をオレンジ色の領域に引っ張り上げる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
ずっと黒一色で描かれていた下り階段も、光が当たれば明るい色がある。
八虎の働きかけが、桑名さんをどういう場所に動かし得たのか、よく可視化している演出だと思う。
桑名さんが自分をお姉さんのコピーと受け取るのは、大好きで大嫌いだから。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
相手は違えど、遠ざけようとしても脳味噌を浸す不思議な引力に支配されてる仲間だからこそ、八虎は桑名さんに届く言葉を、カロリーメイトのお礼として差し出せたのかも知れない。
苦しむ他人で救われる、惨めで残酷な自分を客観視出来てしまう賢さと、その醜さと踊れるほどには整ってない足腰。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
大人と子供を繋ぐ階段の踊り場で、ふと出会った二人が交換し合うものは、嘘がなくて熱を帯びている。
生真面目に生きることしか出来ない、だからこそ苦しい人々のスケッチ。
誰かを助けようなんて欠片も思わず発せられた、世田介の言葉。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
それを受け取って壁を超えた八虎が、同じく助けようなんて欠片も思わず、ただ同じ場所で苦しんでる仲間に真摯に、投げかけた想い。
それが藻掻く少女に、一息与える。
答えなんてなくても、俺達はここにいるのだ、と。
その力まない滑らかさが、僕にはとても眩しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
ここでこういう言葉を紡ぎ、行いを差し出せる魂があればこそ、八虎はあの青い渋谷を描いたし、天使にウィンクされたんだろうな、と思う。
それは幸福ばかりを連れてくるわけじゃない。
好きなことをしてればこそ、苦しいことは山ほどある。
それでも、そんな道を走りきれるだけの糧を差し出してくれる人たち…受け取れる自分はいて。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
遂に蕁麻疹に覆われた腕を抱えて、残り一月。
八虎の受験は続く。
誰かが落ちれば、誰かが受かる。
そんなシンプルなゼロサムゲームでは、けしてない。
(画像は"ブルーピリオド"第6話より引用) pic.twitter.com/zvTAkRZcK8
リミットに向けて燃え落ち煮込まれていく日々と、そこに時折開く救いに、みっしり身を寄せたエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
世田介との年越しを前に置くことで、優等生コンビの交流…救われた側が救う側になる不思議が上手く、映える構成だったかなと思います。
グラグラ心身を揺さぶってくるプレッシャーの生々しさを、色んな角度から描いて立体視させた上で、その重苦しさだけが世界の全てじゃないと、そうして見つけたものが唯一の答えでもないと、心地よく震わせてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
群像それぞれに苦しみと救いがあって、触れ合い揺れながら、己だけの道を進んでいく。
そこには苦悩と尊厳があって、一人きりで寂しくはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
子供らの歩みを支える大人の書き方含め、人間のどーしょもない所と、凄く綺麗に輝く部分両方を見据えている、このお話らしいエピソードと感じました。
良いなぁ…凄く良い。やっぱ好きだ、このお話。
次回も楽しみ。
橋田曰く『気ぃ抜けるわ』な大葉先生の変わらぬ態度は、スゲー慎重に練り上げて生徒に提示してる空気穴で、それが必要な子どもたちの状況、それを差し出せる自分をしっかり見据えて、豪快にノンキやってる先生は偉いなぁと、つくづく思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月6日
手品の種がバレないよう、気さくにやってるのが偉い。