ルパン三世 PART6を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
殺し屋達が、ダイナーで標的を待ち構えていた。
衒学的な長広舌、粗雑に詰め込まれる食事、撒き散らされる銃弾と死。
ヘミングウェイの短編集になぞらえた、見立て殺人の如き怪事件。
どこかで見たような殺し屋と、どこかで見たような標的と、どこかで見たような怪盗達の話。
そんな感じの押井節全ッ開! 引用と当てこすりと沸騰する暴力とシニカルなメタ視線が乱舞する、PART6ゲスト脚本回第二弾である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
正直もっとダルくなると思っていたが、鮮烈な銃撃戦あり、嘘か真かな心地よい秘密と謎解きあり、煮えた掛け合いありと、”押井のルパン”をたっぷりサービスしてくれた。
『ホントは30分、ずっと喋らせて不在の標的、不在のルパンで終わらせたかったんじゃなかろうか…”殺し屋”初稿ってそこで終わってるし』と思わされる、画面が固まる会話劇から話はスタートする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
もみあげで既にネタがバレてる二人組は、インテリ過ぎるウェイトレスと軽妙な会話を交わしていく。
周囲にはゴルゴっぽいのとか、デスペラードっぽいのとか、スタローンっぽいのとか。男たちの挽歌っぽいのとか、リメイク版ジャッカルっぽいのとか、色んな殺し屋が無駄にクダを巻いている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
なにかのギズモ、なにかのコピー、なにかの引用で埋め尽くされた、如何にもなダイナー。
台詞の端々に『あハイ、wikiで確認してくださいね』と言わんばかりの”男だけの世界”の引用が乱舞し、中身が有るんだか無いんだか、無いことに意味があるようで無い会話がダラダラと続く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
滴る押井汁に、彼が大好きで大嫌いなアニメオタクは暴発寸前である。
唐突に背景だった殺し屋達は喋りだし、『喋りすぎるやつから死ぬ』というメタルールを語り、それに導かれるように鮮烈な銃撃戦が炸裂して、対外が死ぬ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
ダルい序盤を一瞬でかき回す乱射表現の強さは、押井脚本を前に押し出して評価されるだろうこの回、最大の白眉だと思う。
不味そうで雑で、雑さに手を込めているメシが大好きな脚本家のオーダーにしっかり答え、しっかり差し出されたサンドウィッチにしても。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
乾いて湿った殺し屋達の夜、陰謀の闇を上手く形にした画作りにしても。
今回、凄くエピソードの空気にマッチした作画が元気だったと思う。
一番喋ってた二人組はルールを超越して生き残り、仮装を引っ剥がして生き残る理由を晒す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
御存知の通り、千変万化の怪盗はそうそう簡単には死なない。
こんなパルプな物語で”ルパンの死”なんて描かれちゃ堪ったもんじゃない。
”男だけの世界”を出し抜いて、お宝を盗み出す不二子の手際も同様だ。
ルパンによって語られる事件のからくり。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
ヘミングウェイの稀覯本と、そこにCIAが隠したコードブック。
何も知らないまま盗み出し、諦め果てて死を待つスウェーデン人を、不二子は元ネタになぞらえて殺さず逃がす。
ここら辺の虚実の絡め方、ウソとホントのバランス感覚は、やっぱり心地いい。
出し抜かれたことでもお宝を横取りされたことでもなく、出来の悪いサンドウィッチを当てこすり、挨拶か冗談のように銃を突きつけ合う、いつもの三人。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
ルパンは物語に隣接しながら浮遊して、事件の全部を知りつつ傍観する。
浮ついて遠い、しかしあまりに”ルパン”な物語は、最後までそれらしく終わる。
衒学と定形とメタ視線とが、心地よい配合で喉を通り落ちて、ただその心地よさだけが徒花のように咲く、良い短編だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
ここで作中に語られた、長編と短編の難しさの違いを生真面目に考察するほど、僕も押井守が好きではない。
まぁ、なんか雰囲気、”そんな感じ”だよ。
そう言って思考停止して、そこに描かれているもの、作家性なるものを追わないくらいの自衛策は、一応ながら用意してある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
”男だけの世界”の見立て殺人であり、ルパン式の変装/変奏たる事件が果して、TV長編第2作”ヘミングウェイペーパーの謎”をどんだけ透かしてるかとかは、あえて考えない。
空疎で、趣味的で、挑発的で、如何にもルパンで如何にも押井守。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
それが手癖の極みなのか、何らかメッセージを込めて描かれているのか、判断するのは正直疲れる。
何かが意味深に描かれているような仕草で、しかしその輪郭をなぞってみれば快楽だけが残り、泡のように意味が蒸発していく現象。
今回ヘミングウェイのコードブックが、具体的な醜聞を解き明かさないように。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
殺し屋やスパイや詐欺師に物語において、ただ物語を牽引するために存在する謎めいた空疎…マクガフィンとして、物語の全てが機能している。
もう”押井”に振り回されるのもウンザリな自分としては、そう思いたい所だが…。
空っぽ故に手を突っ込みたくなる、魅力的な輪郭がやハリこの作品には色濃く匂っていて、それは多彩過ぎる顔を持つが故に答えがない”ルパン”と、思いの外相性が良いのだな、と思わされる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
ニヒルで、皮肉屋で、ガツガツと飯を喰らい活力にあふれているようで、どこか厭世的。
今回その輪郭を執拗になぞって浮かび上がってくるルパンとその物語は、50年間ポップアイコンとして生存し、数多の物語を背負ってきたトリックスターの肖像として、やっぱりよく出来ている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
見たいものであったし、描かれる意味のあるものであったと思う。
あとまぁ、やっぱ面白かった。
それは脚本と結び合いつつ外側にある”絵”が、独自のムードと語り口をしっかり保持していたのが、大きいと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
脚本家のクレジットを外しても、今回不思議で面白い短編だったと思うよ。
なんだかんだ、脳髄に大文字で”押井守”を刻まれちゃってる腐れオタクは、それを外せないわけだけど。
手を突っ込んでその奥行を思わず探りたくなる、魅力的な穴。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
輪郭だけしか無い、チャーミングな空疎。
このお話はそんな風に、とても”ルパン的”だったと一応の結論を付けて、僕は感想を綴る/閉じる。
ありそうでないもの、ないからこそあると思いたいもの。
野良犬めいた諦観と未練、犬儒の皮肉と知恵。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
真ん中にある大活劇と、そこがクライマックスじゃない心地よい肩透かし。
決まりきった様式と、それへの反発と受諾で編まれる、心地よく喉を滑り落ちていく苦味。
結局、この味が好きなのだと思い知らされる。
だから次回、全く別のお話が始まってくれるのはありがたい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月7日
この得体の知れない、心地よくて癖になる飴玉をしゃぶり続けていると、他のものが入らなくなる。
次の”ルパン”は大正帝都、一体何が描かれるやら。
何やっても収まっちまうのは、器がデカいからか、白紙だからか。確かめていくのは楽しい。