輪るピングドラムを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
全てが暴かれ、坂を転がり落ちていく。
みすぼらしさを繕っただけのトタンのお城も、偽物の家族も、魔法がとけて消えていく。
後に残るのはテロルの残滓、腐臭と血しぶき。
それだけが、この世界に在るのか。
かくして、終わりが始まる。
そんな感じの最終章開始、何もかもが暴かれ解れていくエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
この話を見て、『ああ、終わるのだ』と痛感させられた記憶が、今猛烈に蘇っている。
愛しく守りたかったもの、嘘と知りつつ大事にしたかったもの。
物語は残酷に、終わりへと目覚めていく。
そこに一切の容赦がないのが、このお話らしくて好きで、大嫌いである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
あんなに明るく頭悪く、楽しいホーム&青春コメディとして始まった物語も気づけば、死体とテロルが大暴れする因業のサスペンスの顔を、もう隠そうとはしない。
そう、”隠そうとはしない”のだ。
再視聴して思ったのは、このお話はかなりサスペンスとしてフェアだ、ということだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
後に暴かれる真相の種は随所に蒔かれていて、全てを知った後舞い戻れば、謎めいた風景に踏められたものの意味は、鮮烈に突き刺さる。
でも初見では巧妙に、見落とすように話と快楽が編まれている。
ひまりの涙を止めるために、錆の浮いた現実を糊塗するべく塗り上げられたトタンは、今回冒頭からその魔法を失っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
第1話冒頭から猛烈に、見ているものを引き込んだキッチュで、可愛らしく、どこか必死な嘘の城。
それがどれだけみすぼらしいかを、スタジオパブロの美術が誠実に、鮮烈に切り取る
それは最初からそういうもので、だからこそ兄妹は嘘を望んだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
自分たちは人殺しの息子で、親から捨てられた他人同士で、それでもこの氷の世界で暖かく生きていたかったから、嘘で塗り固めて自分を守った。
それを残酷に暴くことで、嘘をつかざるを得なかった切実が、痛く突き刺さる。
この構図は他のキャラクターでも同じで、皆戯けた仮面の奥に残酷なリアルを秘め、しかしその奥に更に、どうしょうもなくどうにもならない人間のカルマを、沸騰する生き血を抱えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
多蕗とゆりはそんな道を行き着いて、今高倉の兄妹の眼前で崩れようとしている”家”に戻ろうとする。
ゆりは復讐よりも運命よりも、嘘から始まった家族を迎えに来た。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
それが悪徳の報いとして血に汚れるとしても、打ち捨てられた死者の国ではなく、その外側に広がっている…多蕗と既に辿りついていた場所こそが、彼らの終着駅だ。
みすぼらしい生存者として、救世主亡き世界を生きる。
その切なさを、かつてあった温もりを共に覚えているものと共に過ごせるのならば、この氷の国でも生きていける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
冠葉が決定的に、義父達の呪いに引きずられて現世否定のテロルに落ちていく動きと、それは対称的な…そして完全に相似の歩みだ。
上がるか、下がるか。生きるか、死ぬか。
その線引は見た目ほど固定的ではなく、ひまりが既に心に決めているように、死は全てを闇に飲み込む永訣ではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
それでも、冠葉は死に惹かれる。
そこに、一度打ち捨てられた己の魂があるからであり、実子でないからこそ”高倉”を継ぎ、自分を選んでくれた少女に報いる己でありたいと願う。
偽物の兄妹たちを繋いでいた引力は、”カネ”という怜悧な現実の前に解けて、形が無くなっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
カメラは執拗に、高倉の家がどんな場所なのか、どんな場所であったかを写す。
二十数話、僕らがずっと見続け、引き寄せられ、愛しただろう場所。
柱の傷、レトロな鍋、たくさんの写真。
物言わぬ彼らこそが、冷たく別れていく兄妹の内心を、本当に大事なものを雄弁に語り、しかし誰もが、そこに真っ直ぐには進めない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
ネジレきった現実を突破するには、蠍の火で世界を焼き尽くすしかないのか。
それを問いただす歩みに、兄妹は一度偽りの家から出た上で、挑まなければいけない。
第2クールは様々なキャラクター、事件、状況が、表に見えているものを裏返しに、その奥に秘められていたものを暴いていくことで動いていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
のんびり多蕗は血みどろの復讐者であり、優しいゆりは情熱の茨に包まれ、家族は偽物で夢は砕け呪いは成就していく。
陽毬も、綺麗ななお姫様ではなかった。
彼女をお姫様でいさせるために、兄弟はペンキを塗り、冠葉はテロルに墜ち晶馬はきょうだいを止めていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
守りたいという祈りは、当たり前に生きて死んで、色んな無念を噛み締めてそれでもなお闘っている陽毬を、ヒロインの檻に閉じ込めてしまう余計ごとだったのかもしれない。
しかしそれでも、見つけ見つけられた思いは、あの時芽生えてしまった恋は、熱く脈を打ち続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
陽毬が記憶を取り戻し、お姫様なんかじゃないズルい自分に立ち返った直後、”敵”だったはずの真砂子に、妹から兄を奪ってしまった加害者として、同じ人を愛する共犯者として向き合うのが好きだ。
人形の天蓋に守られてる時から、彼女は自分の幽き命と、生存を許さない冷たい世界と、もう闘い続けてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
家を離れ、兄を置き去りに兄に寄り添うその決断は、そういう闘争の延長線上に在る。
それは”彼女が彼女でいるための闘い”で、冠葉が選んだ”陽毬を陽毬でいさせるための闘い”と、哀しく対峙する
真実はいつでも、外部から到来する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
ゴシップ記者は時計の趣味が悪いだけで、殺される理由はないはずだ。
それは都合悪く遠ざけていたものを、子供たちに再接近させただけだ。
でも、それでも。
トタン張りの夢を壊されたくなかった冠葉は、テロルの扉を決定的に開ける。
嫌味なロレックスだけを印象づけておいて、その末期に血塗れの手だけを写して記者を殺す演出は、とても良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
顔の見えない他人なら、殺しても良いのか。
身内に匿った存在なら、亡霊の囁きでも聞き入れるのか。
”家”なるものの扉を開け、内側を覗き込む悍ましさが、ラーメン屋の中を暴かれる中で踊る
あのトタン張りの夢を美しいと思う気持ちは、それを壊す外部を殺してでも守る思いと、きっちり癒着している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
冠葉は陽毬を奪う死に取り憑かれ、眞悧と剣山、二人の悪霊に囁かれて、他人のいない氷の世界へと突き進んでいく。
それはゆりと多蕗を刻んだ父が、陽毬を打ち捨てた母が…
そして誰より、冠葉を『間違い』と呪った父と同じ大人になっていく、永遠のループだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
そんな風に繰り返す以外、人の道はないのか。
己の身命を賭して、可愛い冬支度で武装した陽毬は、それを問いただす最後の戦いに挑む。
父に捨てられ、モノトーンに沈んでいた世界が、見つけられることで色づく。
冠葉を活かし狂わせるその思い出は、それを与えた陽毬こそが、あの灰色のマンションの奥、こどもブロイラーの只中で晶馬に見つけてもらったことで、手に入れた優しさだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
黙って見ていろ。
喧嘩に負けて、そう罵られた主人公は確かに、見て留まる人物として描かれ続けた。
しかし見つけること、見守ること、泣いている子供にジリジリとその足を近づけていくことに、どれだけのことが出来るかも、この物語はすでに書いている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
晶馬はそれしか出来ないし、それが出来るのだ。
物語は全てを暴かれ、終わりへと転がっていく。
始まりからして、もう終わっていたお話。
死と呪いが、ひ弱なトタン張りの結界を最初から貫いていたと、今回残った全てが暴かれて…そこから始まる物語。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
最終章はこれまで描いたもの、暴いたもの全てを燃やし尽くす、苛烈で真実な物語となる。
僕はもう、それを知っている。
見ていることしか出来ない。結末は変わらない。
だからこそ見直し、見つめようと思って、そろそろ半年である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月1日
視聴体験としても執筆体験としても、結構面白いものを手に入れ…それより何より、あの子達が好きだということを強く、思い出した。
燃えるように哀しく、泣けるように愛しい物語が、終わりに向かって突き進む。
次回も楽しみです。