薔薇王の葬列を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
15世紀、ブリテン島イングランドは内戦の炎に焼かれていた。
ヨーク家三男リチャードは、王冠の果てにある楽園を目指し、敬愛する父王と共に覇道を進む。
その身に刻まれた一つの秘密と、囚われの果て出会った羊飼い。
運命は茨の如く、未来の悪王へ手を伸ばしていた…。
そんな感じのシェークスピア史劇原案、少女漫画雑誌の超老舗・月刊プリンセス連載作のアニメ化である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
重厚な史実を前提知識として、かなりかっ飛ばし気味に進む独自のテンポと、影絵めいた静止画を活用した画作り、常時曇り空のくすんだ色彩が、独自の味わいを生む第一話となった。
イギリス史上最悪の暴君、醜きせむし男と史実に刻まれるリチャード三世が、実は両性具有の業深き存在であった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
そんなifを結節点に、謀略と因縁が渦を巻く15世紀イングランドを描く物語である。
女であり男であり、そのどれでもない存在。
野心に満ちた簒奪者であり、王冠を約束された王である存在。
悪魔のように戦争を呼び込み、愛なきその身に純粋な涙を流す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
リチャードは乳房とオッドアイを必死に隠す、境界線上の存在として描かれている。
囚われの身から逃げ出し、家名も戦争の現実も脱ぎ捨て、”ただのリチャード”として出会った男は、すなわち父に玉座を差し出すために殺すべき仇。
何もかもがグラグラと危うく揺れ、酷く不安定な秘密と嘘の只中で、リチャードはどのような存在に成り果てていくのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
シェークスピアの原案にしても、史書に刻まれた所業にしても、未来は既に示されている。
しかしそれを転倒させるアイデアと描写が、そこに至るまでの宿命を…
至った後玉座から見える景色を、これまで描かれたものとは大きく変化させていくだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
リチャードが”女”の属性を宿すことで、仇敵ヘンリー六世とは家名を越えた悲しいロマンスの気配が匂う。
史実には苛烈な内戦を越えられれなかった、精神薄弱のたわけと描かれた彼も…
”女”でもあるリチャードを鏡とすることで、信仰と救済を求めた哀れな羊飼いとして、描かれ直すことになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
ここら辺の変奏は、バラ戦争に数多流れる血…その象徴として死んでいく王をキリストと重ね合わせるイメージの奔流と重なって、なかなかに面白い。
年表の中では野心に燃えるヨークとランカスター、両家の冷たい殺し合いに見えるものが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
悪王として描かれがちなリチャードを性別的に、また人格的に反転させることで、弱さや恋、狂気や思い込みに満ちた、酷く人間的な一つの劇場として、異化され躍動し始める。
男と女、王と簒奪者、野心と純粋。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
境界線上で揺れるリチャードを主人公にして媒介とすることで、バラ戦争それ自体、イングランド宮廷を飲み込むうねりそれ自体が、物語の主役として今までとは別の顔を見せてくる…のか?
それは、もう少し話が転がらないと判別しきれない部分である。
しかし斎賀みつきの好演もあって、ヨーク家を戦乱に巻き込む魔女であり、愛を求める哀しき子供でもあるリチャードのアンバランスな…そしてアンビバレントな魅力は、上手く彫り込めていたと感じた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
彼であり彼女であり、そして誰でもない…誰であることも時代に許されない存在。
今は純粋に父王を信じ、王冠の果てにある楽園を夢見る若人はしかし、数多の運命を越えて王となる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
玉座への道は血と呪いで舗装され、森の中見据えた眩暈と悪罵は、既に確定している未来の予告である。
リチャードは男として君臨し、悪王として戦場に斃れる。それ以外の未来はない。
しかし、それ以外を確かに求めてもいたと、この第1話はよく告げている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
父王への敬慕、母への思慕。
性差も家名も捨てた森の中で、確かに心を通じあわせて何かを委ねあった、羊飼いとの対話。
それら輝くものは、渦を巻く運命の中で全て、残酷に裏切られる定めが約束されている。
この残酷を、どのように華麗に描ききるのかがなかなか楽しみである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
軽薄なるエドワード・オブ・ウェストミンスターが、リチャードを”女”と認識してしまったことがまた、大嵐を呼び込みそうな気配プンプンだ。
後の王妃アン・ネヴィルが、白い猪を助けてくれた優しい”男”と見ているのと、面白い対比ね
リチャードを史実の狂気へと誘う物語的装置として、”男装の罪”で火刑台に送られた百年戦争の魔女が登場するのも、なかなか面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
原案である”ヘンリー六世”において、悪鬼魔女と描かれた描写を忠実に拾った、悪魔的ジャンヌの描き方…とも、少し位相のズレた感覚。
胸のある男として、あるいは鎧を着込む女として、時代の歯車に残酷に轢き潰されていく犠牲同士の共鳴が、この取り合わせには宿っている感じもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
史上最悪の暴君と、フランスの魔女。
共に”イングランド”にとっては、目を背けたくなる悪逆の輩であろう。
既に火刑に処されているジャンヌの末路は、清らかに幼きリチャードの未来でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
男と女の間、聖者と魔女の境界で危うく踊って、毀誉褒貶の奈落に突き落とされる者たち二人の、超自然的な共鳴は如何にして、青年の運命を狂わすのか。
あるいはジャンヌの跳梁によって、年表通りにリチャードは正道から遠ざけられ、暴虐と狂気に突き進んでいくのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
作中から見れば亡霊の介入によって歪んでしまった運命であっても、史実を知る僕らにとっては、むしろ正当な流れに引き戻す介入ともなる。
大仰で時代がかった台詞回しと合わせて、史的物語的タイムキーパーとしてのジャンヌが作中にあることが、運命劇の様相を色濃くして、とても興味深い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
流石原案シェークスピア、舞台っぽさが随所に踊っていて、なかなか好みの味付けである。
リチャードの囁きにより薔薇の戦火は激しく燃え盛り、一度は穏やかに収まりそうだった戦役は、運命の坂道を転がり落ちていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
栄光と愛を求める戦いは常に犠牲を求め、高潔なる者の首は泥に落ちる。
黄金の環の先に、楽園など無いことを二人のリチャードは、未だ知らないのだ。
しかしそれでも、悪魔こそが楽園を求めた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
このギャップが、作品をどのように牽引していくのか。
なかなか今後が楽しみである。
野心に燃える国盗り合戦と並走して、くっそ面倒くさそうな恋愛模様、親子の桎梏がグチャグチャ絡み合いそうで、まーヤバい予感しかしねぇな…。
女の胸以外に変奏された、リチャードのオッドアイ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
赤と白の薔薇が覇を競い合う戦争を照らすように、悪魔の赤と天使の白に分かたれた瞳が何を選ぶか。
その結末は、既に幾度も語られ、歴史に刻まれている。
だが”この”リチャードが、柔らかな胸に何を宿すかは、心地よい無明の只中である。
それを見届けたいと思わされる、なかなか良い第一話でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
あまり動かしすぎず、絵画的印象を繋ぎ合わせて物語を編んでいく独特の演出技法は、『アニメ化された劇場』ともいうべき味わいがあり、今後も堪能したい所。
登場人物が多く、情勢が複雑怪奇なのは…まぁ原案どおりだな!
色んな感情と矛盾、因縁と狂気が随所にばらまかれたスタートですが、こっからどんな悪種が芽吹くのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月12日
宮廷という牢獄、王冠という鎖の重たさと魔力を、どんな風に描いてくれるか。
今後がとても楽しみです。
やっぱ”麗しき残酷”には、心惹かれるよなぁ…原案と史実に同じく、滅茶苦茶やってくれ!