薔薇王の葬列を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
バーネットの霧中に、陣太鼓が響く。
王弟ジョージのヨーク陣営への帰参により、両軍の勢力は拮抗。
リチャードは同士討ちを演じることで、戦況に楔を打ち込む。
敵も味方もなく殺し合う修羅界の果てで、羊飼いは一人呆然と立ち竦み、運命を待っていた…。
そんな感じの第二次内乱決着! マジで戦争ロクでもねぇなッ!! な、薔薇王の葬列第10話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
第3話、第一次内乱を決着させたモーティマーズ・クロスの闘いと同じく、白けた幻の中でバッタバッタと人が死に、政治とロマンスが演じられ、時代が動く回である。
あの時見た三重太陽の予言はジョージの帰参により現実になったように思えるが、しかし未来を思えばまだまだ骨肉の闘いは続き、玉座は血を求める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
ウォリック伯が討たれ、ヨークとランカスターの闘いの趨勢が決まるこの戦いも、因縁の決着であると同時に起点であり、救いは当然無い。
前回と同じく、ジョージは演劇的効果を伴って”忠節の王弟”を演じる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
クリスマスに演じられた仮面劇に吐き気をもよおしていた彼は、リチャードが捏造した亡霊に背中を押されて、”ヨークの男”としてエドワード六世の旗へ帰還する。
これとランカスターの遅参が、互角の戦いを演じさせる。
種も仕掛けもある策略と、誰にも気取られない狂気。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
これが霧の中で並走して戦争の行く末、歴史の行く先を決めていく。
それは無秩序であると同時に運命に縛られ、狂気に満ちているのに芝居がかってもいる。
人生の絵の具全てをぶちまけた、混沌のキャンバス。
それが戦場であろうか。
史書に名高いウォリック陣営の同士討ちを、リチャードの策略とする変奏はなかなか面白かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
かつてジョージを調略するべくウォリック領へ侵入した時も、リチャードは”女”を演じるのにためらいがなかった。
偽り、騙し、利用する。
生きるためには仕方無し、真実などこの霧の中ではあまりに遠い。
そんな冷徹なマキャベリズム以外にも、自身の性別がどこにあるのか、性的アイデンティティが浮遊している状況が、リチャードと偽りの親和性をあげている感じもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
本当の自分など何処にもないのだから、誰に嘘をつこうが問題はない。
そんなやけっぱちの開き直りを、勝手に感じ取る。
とまれ所属を偽る外道働きは見事に機能し、ウォリックはバッキンガム公に討たれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
新旧キングメーカーの交錯で、エドワード六世は助命を願っていたウォリックが死ぬのは、時代の潮目が動いている感じがして面白い。
バッキンガムが討ったウォリックも、彼の”リチャード”を王にと願った。
父王リチャードはなーんも悪くないのだが、あんまりカリスマが強くて色んな人が夢を懐き、しかし人間なので当然運命に巻き込まれて無様に死んで、夢の残骸が毒を染み出す流れになっているのは、なんとも無惨である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
リチャードと同じく、ウォリックも彼の王に幻を見た。
それは、王が死んでも消えない
父王の首に接吻した時、リチャードの運命と精神は強めにねじ曲がったが、ウォリックにおいてもそれは同じだったのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
だからエドワードに彼の王の幻を見て、愛に踊って裏切られ、互いに刃を向け合うことにもなる。
消えない幻というのは、かくも恐ろしい。
そういう意味では事ここに至ってなお、なんか甘ったるい懐旧に酔っぱらえるエドワード四世は、醒めない幻に酔える人なんだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
このノリでエリザベスと結婚し、ウォリックの顔に泥を塗って関係が破綻したのに、なお本気でロマンスを演じられるのは、ある種の才能であろう。
ジョージとの間に演じられる政治的メロドラマも、多分本気で信じていて、それがこの内乱が収まった後にも響いてくるわけだが…この段階で未来が読めるなら、ウォリックと戦争なんてしてないわなぁ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
かくして”愛”に酔う道化の芝居は、かつての盟友の首を獲っても続く。救われねー…。
戦場の流れを決めたリチャードも、定かならぬ幻を追って戦場を駆ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
ジャンヌと父王、両者の亡霊(あるいは狂気)どちらを選ぶかで、後者を選んでいるのは興味深い。
それは男であり、王を望む存在であり、壊れた心が生み出す幻に過ぎない。
まぁジャンヌもまた、狂気の住人ではあるのだが…。
ヘンリーへの愛をささやく”女”を切り倒し、玉座への妄執を後押しする”男”を選んだことは、のちのリチャード三世が自分をどんな存在として規定するか…そう定めた道が窮屈にリチャードを窒息させるかを、強く示すように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
自由奔放で、狂いきった現実を肯定するジャンヌを、リチャードは切った。
男と女の境界線を乱す男装の魔女として、リチャードの秘された真実を共有できる存在よりも、”男”としてヨークを継ぎ、父の無念を晴らす道を選び取ったのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
この決断が、より血腥い道へとリチャードを引き込んでいく。
ヘンリーとの運命的対峙は、その一歩目に過ぎない。
王たるべきものならば、そんな綺麗な顔と手してるわけねぇだろ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
錯乱した少年の糾弾は、民の苦しみを聞こうとする優しき王の真実を暴く。
王の責務、男の義務、父の重責から逃げ、優しく弱い存在でいた結果が、この血と怨嗟の沼である。
『なーにが羊飼いかッ』って、言いたくなる気持ちは解る。
徹頭徹尾王に向いてねぇんだから辞めりゃいいんだが、家名と宿命はそんな事を許してはくれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
それでも形だけの玉座に強引に押し込まれた結果が父王リチャードの蜂起であり、今目の前の内紛なのだから、確かに目の前の死者は全て、ヘンリーが殺したのだ。
そんな修羅の巷で、羊飼いと天使は再開を果たす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
あの無原罪の森での一瞬の夢とは違い、今回二人はお互いの立場と家名を名乗る。
かたや、グロスター公リチャード・プランタジネット。
かたや、イングランド王ヘンリー六世。
どれだけ剥ぎ取ろうとしても、戦の塵と家の鎖はしぶとく絡みつく。
嘘と殺戮と狂気に満ちた戦場を抜けて、ただのリチャードとただのヘンリーとして愛し合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
そんな未来を夢見ていたリチャードに、最悪のタイミングで突きつけられた真実…あるいは、ただの事実。
父の仇を討ちその無念を晴らそうと思えば、救い主と頼んだ相手を殺さねばならない。
しかしシニカルな見方をすれば、騙し討ち上等で暴れ倒した嘘つきに、一番キツい形で嘘と無知が精算された…とも言えるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
亡き父の無念を晴らすの、真実の愛だの。
そういうキラキラ綺麗なモノを踏みつけに突っ走った先には、踏んだのと同じ泥が待っているだけだ。
因果応報というにはいかさま重たい、無惨極まる夢の精算。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
バーネットの戦場を越えて、ヨークの治世を生み出すための始末の中で、リチャードは更に苦しみ、何かを切り捨て何かを選ぶことになる。
いやー…この段階で相当にロクでもないが、まだまだ酷さは加速していくよッ!!
愛は育めずとも、友達にはなれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
船に閉じ込められたアンとエドワード王子の未来も、ウォリックを弑した戦場の霧に飲まれ、全く定かではない。
天下分け目の決戦に致命的に出遅れたことが、リチャードへの未練を拭い、父への恨みを許して王の妻として進み直そうとしたアンに、どんな試練を与えるか。
愛した女も、男としての存在証明も。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月15日
全てを与えてくれるはずの玉座を、エドワード王子が掴むことはもはや叶わない。
眩き幻を砕かれた後に広がる、無惨な現実の色合いは、彼の義父たるウォリックがひと足早く、その血で描いたところだ。
戦場の霧を抜けても、迷妄と残酷は続く。
次回も楽しみ。