メダリスト 第6巻(つるまいかだ、アフターヌーンKC)を読む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
前回衝撃のラストから、いのりちゃん渾身の滑走、中部予選決着とその先に広がる未来…という巻。
主役の勝たせ方、噛ませ犬共の任せ方にダンドリ感が一切なく、新鮮な裏切りと盤上この一手の納得、敗者たちの涙に滲む尊厳が眩かった。
前回本気過ぎる少女たちの鼻血でもって、『フィギュアは限界を超えて挑み、失敗して当然のスポーツ』という前提を読者の脳内にガッチリ作り上げた上で、いのりちゃんはノーミスで踊り切ることで金メダルをもぎ取る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
興奮が生み出す予断は、最高の前フリだ。
作品を飲み込み、作品に飲まれる快楽は、後で描かれてみれば当然の勝ち筋を綺麗に見落とさせ、心地よい不意打ちを生み出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
これを最高に気持ちよくぶっ刺すには、最高に気持ちよく読者をノせ、犯行の瞬間を最高に描ききらなきゃいけない。
それをやりきってる。凄いことだ。
同時にこの奇策をやりきる強さが、司コーチといのりちゃんには確かにあるとここまで示してきたわけで、都合がいいはずの奇跡には納得と感動が宿る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
ここまで続けてきたこと、追い求めてきたことが、形になる瞬間の喜び。
それは敗者の涙と、常に隣り合わせである。
つらい状況の中、スケートが好きな自分を守ってくれた夕凪に金を取ってほしかったと泣きじゃくる、四葉ちゃんの涙が熱い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
主役の勝利の裏に転がってる、敗残兵共の死骸にどんだけの無念と想いが宿っているか、かなりページを使って刻み込む筆がありがたい。
それは同情ではなく、憐憫でもなく、ただ必死に戦ったものが相応に順位を付けられ、選ばれ、あるいは選ばれないだけのこと。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
その厳しさを前提に競技が回っていることも、夜鷹純と光ちゃんの闇の師弟を核にしてしっかり描いているが、しかし否応なく、そこには魂の血が宿ってしまう。
皆、本気だから。
負けていったものたちが、その言葉のほんとうの意味で”弱い”から負けたのではないのだということに、このお話はずっと瞳を向けている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
その優しさは、勝つべきものしか勝てない厳しさと常に一緒で、だからこそ敗者を慈しむ視線から湿り気が抜けている。
結果は結果、情は情。切り分けつつ繋がっている
第20話ラスト、フィギュア全然知らなかった加護パパが、フィギュアとはどんな競技なのかを体験し、言葉にしていく場面はとても美しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
それはこの作品を、それが追いかける競技の価値を、見事に結晶化させた場面だ。
奇跡を見守るスポーツ。
端的で美しく、魅力的な言葉である。
それを成立させている厳しさも常に描かれてきて、関わる人達の縁や和も、丁寧に編み上げられている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
中部コーチたちの地獄焼肉、コミカルで大変良いシーンだったけど、終わった後垣根なく向き合える業界の風通しが感じられ、凄く良い。
子供預かっとるからな…そういうの大事よな。
大人らしい付き合いができてる他のコーチに比べ、夜鷹純は未だリンクにこだわり、氷上に奇跡を生み出すこと以外の価値を認められない、幼い存在だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
押し寄せる世間の目から自分と教え子を守るすべを知らず、全ては慎一郎さんが防波堤となって、二人の子供が輝ける場所を維持している。
司くんがアイスダンサーだったからこそ、生み出せた強さがいのりちゃんを勝たせたわけだが、純はコーチではなくショーキャストとしての司くんだけを評価する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
自分の中に価値を見出さず、誰かを飛ばせる自分に価値を見出す。
そんな生き方を、妥協であり負けであると断じる。
現役引退してなおこのスタンスなのは、かなり危うくガキっぽい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
それでも、世界で一番美しく翔べる男の生き方を否定するのは難しい。
紳一郎さんが、体を張って守りたいと思える魅力(あるいは魔力)が出てもいる。
それでもかつて夜鷹純に憧れた青年は、魔力に抗い闘いを選ぶ。
夜鷹純の内面が夜のリンクに反射した今回、司くんが指導したいのりちゃんが、純が導く光ちゃんに勝つ未来には、別の意味が加わった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
現役至上主義、勝利絶対主義。
それを成し遂げうる、奇跡の体現者である自分だけを認める姿勢。
それに囚われている純を、開放するための闘い。
そういう意味合いが、今回宿ったように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
自分の全存在、全人格を叩きつけて、人間としてより豊かな高みに教え子を導きながら強くしていくスタイルと、ただただ技術の極限に導き、生き様に感化させて道を作るやり方の対決…とも言えるか。
司と純、コミュニケーションのチャンネルが真逆なんだな…
純のどす黒い闇に、光ちゃんはけして飲まれることはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
四葉ちゃんが仲間に背中を押され、ビビりながらも差し出したクッキーをもぐもぐ食べて、心からお礼が言える純朴を守り続けてる。
いい子だねぇいい子だねぇ…。
おまけ4コマで不要な”毒”抜いちゃうの、凄いワザよね。
しかし不器用で傲慢で凶暴な純だからこそ、光ちゃんは規格外の怪物として、この先一生金メダルしか貰わない少女として、氷上に立ち続けられる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
余人凡人が預かり知らぬところで、黒い師弟は確かに影響しあい、強さを作り上げている。
それは相互コミュニケーションを大事に、言葉が持つ暴力性を自覚しつつも、祈りを差し出し魂に火をつけていく司くんのコーチングとは、全く反対だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
しかし文句のつけようのない結果と、確かな縁がそこにはある。
あの黒い闇も、主役が背負う眩い光と同じく正しい。正しいから勝つのだ。
同時にありえないほど間違ってもいて、それを正すためには勝つしか無い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
しかしその頂は高く、遠い。
ここにたどり着くために、何が必要か。
今、ここで結束いのりが”金”を取る意味をわかった上で、司くんは賭けに挑み勝利をもぎ取る。
高く跳ぶための翼は、期待を形にしなければ生えてこない。
現役時代不遇を極めたからこそ、司くんは結果を出すことの意味、それだけが連れてくる成長を良く知っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
自分が掴み取れなかった成功の翼を、キスクラを夢見涙してきた女の子に授けるべく、アンバランスな育て方を敢行し、賭けに勝って掴んだブースターで、更に高みを目指す。
とても優しく、心の奥底から子供のことを考えている司くんは、だからこそ野心的なギャンブラーだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
スケート歴一年で、ジュニアのてっぺんに手を届かせる。
そんな無茶苦茶を実現するために、何を成し遂げれば良いのか。
自分が何を捧げ、教え子からどんな掛け金を絞るのか。
優しく守るだけでは終わらない、共に極限のリスクを背負って勝ち切る信頼関係が、成長の背骨となって頼もしい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
ドラマティックなど素人成り上がり物語が、才能と同じくらい信頼を足場において高く飛んでるの、結構独特な味で好きだなー…『この人とだからこそ、高く飛べる』というお話。
スケーターとして純と滑る描写の中で、司くんもまた非凡な天才であることが示され、飛躍にさらにある説得力が乗った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
その才覚は司くん自身を高く飛ばせてはくれなかったが、しかし確かな糧となって、彼の教え子を…手を繋いで共に飛ぶ明浦路司を、新たな地平へ連れて行く。
そこに至るための、新たなステージ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
全国区のアスリートだけに与えられる練習環境の中で、過去を飾る1ページだったはずの”姉”が凄い勢いで存在感増してきて、こいつぁヤベェぜ…とビビる。
こぶたちゃんは、絶対なんかやる子だと思ってたんスよ…実叶ブヒ勢だとは思わなかったが。
つーかいるかちゃん、年上世代のヤバさを教える壁担当だとばっか思ってたら、結束姉妹に”強めの”持ってるヤバ人間で、グッとキャラがたった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
ていうかロr…ペd…可愛い子供が好きなお姉さん!!
それは個人の嗜癖として、なんで嫌味言いながらチュ~したの? そんなに結束に己を刻みたいの?
いるかちゃんと実叶にはぜってぇ”強いの”あると思うので、それが暴かれるのを楽しみにしつつ、さらなる高みを目指す師弟が見れる第7巻、大変楽しみです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
全国区にも、ヤバくて可愛く強い子たち、それを導く変で気持ちのいい大人たちが、沢山いるんだろうなぁ…”秒”で立ててくるからなぁこの漫画…。
追記 マグマのように高まる困難と情熱を、皮一枚で押し留めて余裕を演じる難しさ、健気、祈り。水鳥足下のあがきを、あえて見せない高潔は、やはりおぞましいほどに眩しい。
メダリスト追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
第20話の試技、いのりちゃんは常時顔を作って曲に入り、ふさわしい演技を崩さない。
激しいフィジカルスポーツであると同時に、審美採点される表現競技でもあるフィギュアにおいて、決死の表情で降りること、”頑張っていること”は必ずしも、評価の対象にならない。
曲を食い感性を育て、厳しすぎる演技を余裕の表情で演じきる、アクトレスとしての強さ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年7月31日
これが滑走を追えた瞬間に弾け、年相応の魂が顔に出た瞬間をしっかり漫画に出来てる落差含めて、いのりちゃんが何に優れ何故勝ったか、説得力のある話数だったっと思う。
競技へのIQと説明力が、高い漫画よね