イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

後宮の烏:第一話『翡翠の耳飾り』感想

 集英社オレンジ文庫原作の、中華ファンタジーのアニメ化第一話。
 後宮に身を置きながら夜伽をしない、異能の力を持つ謎めいた妃・烏妃。彼女のもとに簒奪の廃太子が現れ、翡翠に宿る幽鬼の由来を尋ねる……という、雰囲気あるスターとである。

 『オメーラ予習は済んでんだろ!』とばかりのスピードで投げつけられる専門用語には面食らうが、華やかな化粧や内装、小物のデザインが王朝ファンタジーの空気を華やかに彩り、ヴィジュアル面での独自性、力強さは十分。
 ミステリアスでありながら純情、跳ねっ返りの塩対応にチョロさを滲ませる烏妃ちゃんも、ヒロイン力が高くて大変良い。
 術を発動させる時の鮮烈なイメージ、過去の因縁を語る時の影絵調と、主人公と作品世界の魅力を際立たせようと、演出頑張ってくれているのは非常に良かった。
 今後烏妃と縁を深めていくだろう皇帝陛下が、凄惨な過去を背負いつつも穏やかで清廉な印象を受ける傑物で、好きになれる王子様なのもグッド。
 やっぱボーイに可愛げと清潔感がないと、ラブコメ(要素もある歴史異能ミステリ?)は素直に食えねぇわけよ。

 お話の方は烏妃と皇帝が閉じ込められている後宮……というか、帝国国家権力それ自体の檻の息苦しさ、情のなさを描きつつ、翡翠の耳飾りにまつわる謎を掘り下げていく感じ。
 宮廷雲雀である九九ちゃんが、いい塩梅に情報をだだ漏れにしてくれることで、大体の情勢と雰囲気は飲めた……と思う。
 悲惨な死すら娯楽にしてしまう、美しき牢獄。
 陰謀術数渦巻く後宮の主でありながら、内政を制圧しきれていない皇帝の悩みとか、恐れられ孤独に遠ざけられている(自分でも、孤独であることを任じている?)烏妃ちゃんの憂鬱とか、パッと見の華やかさに色濃く延びる陰鬱が、なかなか好みの味付けである。
 先々代が簒奪した旧王朝の恨みなどもスケッチされ、ここが烏妃ちゃんとどう絡んでくるか……第1エピソードが終わったあたりで動き始める部分か?

 人間の温かい部分を遠ざける後宮の空気、権力の残酷に、皇帝陛下は染まっていない。
 妄執に囚われ楽土に旅立てない哀れな幽鬼を想う気持ちは、仁君の貫禄十分である。
 この優しさが、幽界の理を知る異能の巫女たる烏妃ちゃんと共通してるのが、二人の関係が今後いい方向に転がっていきそうな期待感を、しっかり高めてくれる。
 かわいそうな幽霊さんの気持ちを知り、世評に揺れることなく真実を見据える……そういう英明で、ヒロインと相手役の魂が重なってるのは凄く良い。

 鮮やかなアイシャドウを一旦拭い、”妃”の身分を捨てた唯の寿雪として噂を集める探偵パートも、黒衣に身を包んでいた時は見えない少女としての顔がよく見えて、なかなか面白かった。
 なんでもかんでも霊能で調べるのではなく、当たり前の情報収集で地固めした上で伝家の宝刀を抜く構造は、後宮の俗世に潜る捜査に存在意義を与える形になってて、なかなか良い。
 陛下と烏妃の清廉に心あらわれつつ、超ろくでもない後宮ネトネト人間模様を安全圏から接種したいという、ジャンル特有の欲望。
 ここら辺をちゃんと叶えて、たっぷりおどろおどろしい噂話、因縁奇譚を集めないと謎が解けないようになってるのは大変良い。今後も、ろくでもなくやって欲しい。

 後宮に漂う華やかな眩さと重たい陰りをしっかり描き、作品世界の雰囲気、キャラクターの個性、囚われている因縁と繋がる心を軽妙にスケッチした、とても良い第1話でした。
 今後塩対応な烏妃ちゃんのチョロかわいい部分とか、ダーリンに心ときめく乙女な部分とか、異能と因習に縛られてそれに素直になれない様子とか、見れるとマジで嬉しいかな。
 ビジュアルと雰囲気になかなか味わえない面白さがあるので、この強みを最大限ぶん回し、異能ミステリ、後宮ロマンスとしての仕上がりを楽しんでいきたい。
 次回も楽しみです。