イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

後宮の烏:第2話『翡翠の耳飾り 後篇』感想

 と、ときめく……。
 そんな感じの後宮霊能ミステリ、第二話である。大変良かった。

 翡翠の耳飾りに取り付いた幽鬼を憐れみ、慶して遠ざけられている黒の后に事件を持ち込んだことが、仇敵を正当に罰するきっかけを作る。
 個人レベルの怨霊祓いが、国家レベルの謀略を未然に防ぐことに繋がる構造が、なかなかサクサク転がっていって楽しかった。
 国家の中核として正しくあり続けることは、時に情を殺し人間の当たり前を置き去りにしてしまうが、陛下は親子の情、哀れみの心を豊かに持ち続け、復讐を終えた空っぽの心を、寿雪との爽やかなロマンスに滾らす健やかさも持ち合わせている。
 宮廷に満ちる毒に心を汚し、人非人に落ちてしまったほうが”皇帝”であるためには楽なのかもしれないが、陛下は己にそれを許さない。
 許さないから打ち捨てられた翡翠の耳飾りに、そこに宿る女の無念に耳を傾け、誰も訪れない烏后の扉を叩くことになったのだ。
 なかなか真っ直ぐ生きるのが難しい立場と人格であるが、好ましい人であると思う。
 むっちゃクールな声と仕草で、むっちゃグイグイ行くときは行くギャップも、めっちゃときめくしな……。

 そんな仁愛の帝と縁を深めていく寿雪であるが、墨染の髪は呪わしき出自を隠す偽り、雪のように白い髪の毛は鏖殺されし前王朝の末裔であることを示すことが、今回明かされた。
 幽鬼の恨みと哀しみを扱うこのお話、王朝安定のためとは言え赤子まで皆殺しにした現朝廷の罪は、すなわち皇帝の重荷となって二人にのしかかっていくだろう。
 今回は一個人としての情愛が、陛下に正当な復讐を成し遂げ、玉座を安定させる善き結果をもたらしたが、果たして未来においてはどうなるのか。
 母を見捨てた傷を背負う幼子同志、二人が惹かれ合う宿命にあるのは当然だが、足元を縛るお互いの立場、背中に広がる血みどろの因縁は、その恋を簡単には許してくれないだろう。
 こういう現世的な要素に加えて、不思議な術と幽霊が話の主題にある以上、超自然的なルールは実行力をもって、タタリを為し呪いを生み出す。
 今回温かに発芽した二人のロマンスが真実成就するためには、乗り越えるべき障害は多種多様、どれも険しそうである。
 だからこそときめくッ! つう話でもある。物語の基本設計が巧い。

 険しい道だけが用意されては見る側も重苦しいが、テンポ良く寿雪が謎を解き、持ち前の優しさを生かしつつ状況を前に進めていく様子は、爽やかな風を起こして後宮の毒を抜いてくれる。
 後宮スラムで襲われた時、匕首抜いた刺客がそれで脅すとかヌルい事一切せずに、勝ちに刺しに行ったの超面白かった。
 彼らは毒殺扼殺当たり前の謀略のコマであって、子どもの遊びやってんじゃないんだから、そらー刺すよなぁ……つくづく生臭くも厳しい世界に、寿雪も陛下も生きている。

 しかしそういう場所で、寿雪は九九を身を挺して庇う。
 捜査の都合上、成り行きで侍女にしただけ。
 そううそぶいていても、身分違いの下女のために命を投げ出す行為が自然に出てくる所に、彼女生来の優しさがある。
 舌を抜かれた陰謀の犠牲者を身内に庇い、伏せられた真実を手に入れる正しさがある。
 母の悲鳴を遠くに聞き、耳をふさいで生き延びた後悔も、裏を返せばそんな優しさ故なのだろう。
 陛下も母君への後悔に支配されている以上、二人が見捨てたと思いこんでいる幽鬼を楽土に解き放ち、自分たちも解放される物語が今後用意されているのだと思う。
 それが哀しくも美しい物語として終わる予感を、翡翠の幽鬼を巡る成仏譚は上手く作ってくれたように思う。
 ベタと言えばベタなんだが、だからこその力強さで、哀しき恋の決着は胸を打った。

 

 宮廷のプロトコルからすれば、宦官を装い許嫁の無念を晴らそうとした男は当然死罪である(ここら辺の”公”の当たり前を、毎回律儀に担当してナァナァな感じを遠ざけている、衛青くんは偉いなぁ…)
 しかし陛下は個人の情を慮り、かつての自分に優しくしてくれた犠牲者への思いを噛み締めて、大逆を許す。
 同時にそんな男から届けられた”確たる証拠”を握って、母殺しの悪女を正しく処する。
 硬直し、時に人の命を無惨に貪る宮廷のプロトコルが真実、正しくあるよう己と国を律しながら、陛下は健気に”皇帝”をやっているわけだ。
 皇太后の悪逆があんまりにあんまりなので、『そらーぶっ殺すしかないよ!』と見ている側もなるが、しかし陛下はこらえる。
 国家の規範たる皇帝が、私人としての憎悪に押し流されて専横に流されれば、それは憎むべき仇と同じ、現世の鬼への堕落にほかならないからだ。
 そんな人間らしい葛藤を高潔に乗り越え、復讐を終えた皇帝であるが……死人は幽鬼となって、現世に残る世界観だからなぁ。
 あの妖怪ババアも、まだまだ災いを残しそうな気配がある。どうなることやら。

 その気苦労を、お互い秘密と痛みを抱えあった友として、肌を重ねる恋人として、烏妃は癒やしうるのか。
 『後宮で唯一、皇帝に抱かれない女』という烏妃の設定が、二人のロマンスの行く末をなかなかに盛り上げてくれる。
 性交成立という一応のゴールにたどり着かずとも、烏妃の術は優しい夢を皇帝に与え、己の寝所に男一人が滑り込むのを許す。
 寿雪の魔法は、綺麗で優しい魔法だ。

画像は”後宮の烏”第2話より引用

 術発動バンクがとても綺麗な映像で、出るたび『待ってました!』となるのは大変良いな、と思う。
 それは華やかな風であり、爽やかな花であり、皇帝の肩にのしかかる重圧を和らげ、宮廷の毒気を祓ってくれる。
 物言わぬ者の声をすくい上げ、不当な暴力から守り、因縁に囚われた幽鬼を楽土へと開放する。
 時に周囲に疎まれる寿雪の特別な力が、人間に普遍的な優しさと強さを形にしてくれる、とても良いものだとちゃんと書き続けているのは、良い演出だと思う。

 

 というわけで前後編、スマートでスムーズ、ロマンティックで華麗な話運びでもって、作品のスタンダードをしっかり教えてくれる仕上がりとなった。
 宮廷のおどろおどろしく華やかな表面で終わるのではなく、話の中心にある男女が後悔の傷、強い優しさ、穏やかな知性と気位を兼ね備えた、かなり好きになれるキャラだとちゃんと教えてくれたのは、話のスタートとして大変良い。
 陰謀のネットリした重たさ、それをはねのける風の爽やかさもしっかり描かれて、これから陛下と寿雪を襲う危機と、ふれあいの中で育まれる縁の暖かさ、両方に期待が持てた。
 ここからどんな物語が編まれ、どう運命が転がっていくか……次回がとても楽しみです。