イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ヤマノススメ Next Summit:第2話『走れ!ヤマガール/2nd season夏 前編』感想

 IPリブートに伴う過去振り返り総集編と、緩んでた腹筋に『吉成鋼アート展、ED枠で毎週開催(ゆうかから楓の長いポニテに宿ってる感情、全部を一分半に閉じ込めてお届けするよ!)』を打ち込まれ悶絶する、ヤマノススメ四期第二話。不公平なパンチ打ちやがって……。
 主線なし水彩調の作画力も凄いが、新規エピと連動してそこで書いてない瑞々しい感情を、絵のパワーと透明感を最大限活かしてギュッと圧縮して殴りつけてくる物語力の高さが、何より凄いと思う。
 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第2話より引用

 女が女の髪に触れる、触れれる距離にいる意味ってのをあまりに捉えすぎた映像だったし、静止画としての美麗で収まらず、動きの気持ちよさ、疾走する心が宿った走りの作画と、”アニメ”ゆえの快楽満載なの最高。
 一分半の外伝として、あんまりにも強すぎる一撃であり、『オメーラ、『もう見たから』とかホザイて飛ばすんじゃねーぞ……』という、公式からの強い圧力を感じる。
 つうか吉成兄、こんなにヤマノススメ好きだったの!? って驚きあるな……。

 

 さておき新規エピソードは5月の体育祭、第1話では綺麗に歴史改変されていたあおいの根性悪い所が、モノローグからミリミリ漏れて、ひなたの眩さに手を引かれて風の中に飛び出していくお話。
 この構図は回想される富士登山でも大暴れするので、一見孤立したエピソード2つに見えて、根っこの部分で繋がっていると思う。
 一切の曇りがない太陽小町にみえて、あおいも相当湿って重たいものを内側に秘めた上で、久々再開した旧友をより暖かな場所に引っ張るべく、時に無神経すら装って強く手を引く。
 その強がりが軋む音を、サードシーズン後半はメチャクチャどっしり尺使って彫り込んだわけだが、そうして地ならしされた関係性と人格の後にどんな山道が続くか、富士登山リベンジを軸にするだろうNext Summitに期待は高まる。

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第2話より引用

 話と画作りはあおいが身を置く愚痴まみれの陰に、ひなたという光が強く射し込んで外に連れ出す様子を、ダイレクトかつ印象的に描いていく。
 後の総集編でも色濃く描かれるが、ダウナーでネガティブで世を呪いまくるヤバ人間がなんとか、新しく楽しいこと見つけて他人とのつながりを増やしていけるのは、どう考えてもあおいの手に引っ張ってもらっているからだ。
 そうしてもらえることはとても嬉しくて、でも手を引かれるだけの関係に腹も立ち、あおいはぷんすか理不尽な怒りを燃やして自分を突き動かし、ひなたに追いつけるよう頑張る。
 転んでもゴールまで一緒に走る、大事な友だち。
 一切の照れなくその手を取れるあたり、やはりひなたの人間力、人格は眩く強い。
 『この輝きの奥にある陰りを描かなきゃ、”倉上ひなた”書いてねぇよ……!』と、自分たちが描いた絵を気合い入れて書き直しに行くの、やっぱ作品に対して本気すぎたなサードシーズン。大好きよ。

 

 という二人に、去年の夏何があったかを思い出す総集編。
 数多ある素材から何を選び取り、何を描くかという選択はつまり『何を見せたいか』という作家の意図を、時に新規に書き下ろすよりも強烈に叩きつけてくる。
 富士登山に至るまで結構な側道もあるのだが、そこら辺全カットでどっしり死亡フラグの蓄積、仲間が大事だからこそ無理をしてしまう気持ち、崩れ落ちた後のあおいの惨めさと、その後ろで懸命に進むひなたの汗にまとめてきた。
 年長者、経験者、リーダーとして適切な判断をし、あおいの下山によりそう楓さんもいいが、ウザいくらいに騒いで親友を元気づけようとし、道が分かれた後も脳みそあおいでパンパンにしながら進むひなた……に割り込む、富士登山のリアリティが好きだ。
 どれだけあおいが心配でも、いま息を切らして富士の厳しさに挑んでいるのは自分で、隣で一緒に進んでいるのはここなちゃんだ。
 そういう身体的な現実感覚は、膜一枚隔てて山に没頭できず降りていくあおいの描き方と面白い対照を為し、登り切るものと降りるものの現実を残酷に、誠実に書き分けていく。
 同情で一緒に降りることも出来たはずなのに、ひなたは降りるあおいのためにも『今、富士に登っているわたし』をけして手放さず、その実感を噛み締めながら進んでいく。
 そういう湿り気のない強さがひなたにあることを、あおいのナイーブな哀しみと同じくらい大事に書いている所が、僕はとても好きである。
 そして第1話のふわふわっぷりに比べ、天狗の本性がむき出しになってきたここなちゃん様は最高。

 あきらかに美術のレベルが跳ね上がり、作品が現実を切り取る画角、トーンとクオリティが枠の拡張と一緒に、大きく変化していく第2期。
 この延長線上に、新規エピソードの異様な力こぶ、これから描かれるNext Summitがあるわけだ。
 ”ゆるふわガールズ山物語”つう看板とは、もはや噛み合わない思い入れと鋭い視座で、山と青春に切り込んでいくことを選び、約10年待望されるコンテンツに仕上げた製作者達の意地と意思。
 それがどういう形に結晶化したかを、思い出せる総集編だったとも思う。

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第2話より引用

 ところどころバリバリすぎる構図や色彩、撮影が暴れまくってて『あ、ここで殴られた……』と当時の熱い感触を思い出せる総集編なのは、個人的に面白かった。
 そういう驚きと感動があったからこそ、この四期までおれはヤマノススメのアニメが好きだったし、今放送されて嬉しいのだ。
 そういう感覚をちゃんと思い出して新たな峰に挑めるのは、結構親切なことだなと思う。
 次回も楽しみ。