イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ヤマノススメ Next Summit:第6話『ひかりのデート大作戦!/みんなでホワイトクリスマス!』感想

 錦秋から雪色へと、移り行く景色に花咲く笑顔たちの物語。
 ヤマノススメ四期、登山要素弱めの第6話である。
 何かにクローズアップしないということは別の景色が切り取れるということで、今回はあおいのバイト先”すすき”にカメラを向けて、普段と違った目線で主役の人間関係を描く回となった。
 仕事先の先輩に素敵な時間を手渡してもらうような関係を作り、時には寒風吹きすさぶ中、立派に責務を果たし。
 バイトを通じて育った雪村あおいを確認できる回でもあり、グルメにオシャレに楽しくはしゃぐ少女たちを堪能する回でもあり。
 豊かな華やぎに満ちたエピソードで、大変良かった。

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第6話より引用

 というわけで今週も美術バリバリ、レンズ効果全開でお送りするヤマノススメNS。
 クオリティでぶん殴り続けることで作中キャラが体験している”現実”にフルダイブ出来るのは、登山アニメであり青春アニメでもある”ヤマノススメ”には似合いの戦術だなぁ、と思う。
 二人で歩く錦の秋、そこで食べるお弁当の美味しさ……そこに秘められた静かな苦味を、胸いっぱいに味わえる感じはまこと贅沢で、そういう複雑な面白さに構えることなく入っていける人間関係が、雪村あおいを包んでいるのだと良く解る。
 この柔らかな温もりに包まれて、彼女は新たに山に挑む心身を育んでいくのだ。

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第6話より引用

  仕上がり最高な情景の中を、ちょい引き省略作画でゆら~っとキャラが動くことで、ひかりさんに釣れられてあおいが堪能した休日がどんなだったか、その空気を胸いっぱいに吸い込む事ができる。
 細めの主線で繊細に、ちょっと大人っぽい風情を漂わせて二人が進む、秋の休日。
 そこに宿る実在感が、彼女たちの人生をちょっと離れたところから見つめるカメラ、けして止まることのない動きから匂い立っているのは、なかなか好きな表現だ。
 ぐわんぐわん動かして迫力で殴るタイプの作画アニメではないが、自分たちが紡いでいる物語のトーンに合わせてどう絵を使うのが良いのか、考えた上で作っている感じはやはり、別格に良い。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第6話より引用

 錦秋、女二人。
 堂々”デート”と言い切るそれは悲しき代理行為でもあり、ネコ系先輩いつもの気まぐれかと思いきや、そこには結構切ない気持ちが混ざっている。
 最初はひかりさんが自分を誘った理由が飲み込めなかったあおいだが、ハートまみれのお弁当、楽しさを装いつつ滲む寂しさを間近に感じるうちに、なぜひなたが一緒に来ることを彼女が拒んだのか、じんわり理解していく。
 どうにもやりようのない傷心を美しい景色に溶かす時、隣りにいて欲しい相手として雪村あおい一人を選ぶ、小野塚ひかりの”感情”が、けして言葉にされないところがシャイで優しい。
 それは肌触りの中で感じ取り、ふれあいを秋の日差しに透かして見届けるものなのだ。

 唐突な誘いに戸惑いつつ、『ひかりさんとなら、悪いことにはならないだろう……』と積極的に前に出るあおい。
 強引に手を引かれてのカヌー体験、練習でオールを漕ぐ手付きが全く揃ってないのが、この段階での二人のすれ違いを優しくスケッチしていて良い。
 異様にデートを強調し、カップル座りにはしゃぐひかりさんを見ていると、失われた恋人のことが本当に好きだったのだろうな……と解ってくる。
 この感じは多分あおいも同じで、そういうナイーブな感覚に耳そばだてれる所まで、彼女の情緒も育ってきているのだ。
 あるいはひかりさんがあおいを信用し(あるいは愛し)て、人間の柔らかで難しいところを覗き込むチャンスを、可愛い後輩に許しているから、人間にとって大事な惻隠の情が育つのかもしれない。

 無法の飲酒が飛び出してきた時は緊張感走ったが、それは終わった恋の墓標に手向ける別れの酒であり、何も聞かず”デート”の時間を楽しく過ごさせてくれたあおいと、笑って日常に帰るための儀式でもあろう。
 酒で緩んだ心は年下の膝に癒やしを求め、小野塚ひかり、高校生美少女の膝枕にバブみを感じて力強くオギャる。
 人間生きてりゃ恋が壊れることも、それを癒やすべく可愛い後輩と傷心デートすることも、酒が入ってその柔らかさに甘えることもあるのだ。
 そんな人生の一幕に同席させてもらえる関係を、陰気で後ろ向きだった女の子がちゃんと創れているのだと解って、見ている側も心が暖かくなるエピソードだった。

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第6話より引用

 シャボン玉に炭酸……綺麗だけど儚いフラジャイルをモチーフに編み込むことで、ひかりさんの傷心が柔らかに語られていく映像詩学もかなり好き。
 気合い入れて準備したデートコースが無駄に終わり、ともすれば惨めで哀れな立場である彼女をしかし、憐れまず楽しく、美しく描く。
 そういう気合と思いやりが、秋のデートに何を添えるか、良く考えた映像づくりから感じられたのは良かった。
 やっぱこういう、静物の扱いが上手いアニメが好きだな俺は……。


 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第6話より引用

 こんだけ濃厚に”あおひか”ブッ込んだ後に、『忘れんじゃねぇぞ……このアニメの”基本”をよッ!』とばかり、倉上が電話かけてくるのマジビビる。
 このタイミングで連絡入れてくるってことは、あおいはこれから休日を誰とどう過ごすかひなたに報告入れた上で”デート”に勤しんだ……あるいはあらゆる休日の最後に、どんな日々だったかをお互い尋ねる生活を送っている、ということだ。
 この密度と距離……俺は戦慄(こわ)いよ、飯能の女子高校生が。
 大人の女の人が、砕けた心をどう秋に溶かしていくのか見届けて、ちょっと大人になった日。
 それを共有してくれる友だちがいればこそ、ひなたはヤマでもその外側でも、楽しく前に進んでいける。
 その要が誰なのか、思い知らせる〆だったと思う。
 エピソードの空気を反映して、Aパートのあおいはあんまぷにぷにしてないねぇ……。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第6話より引用

 『言ったなオメー……んじゃBパートは存分にぷにぷにさせるよ! 七人娘の可愛いところ全力でブン回すよ!!』とばかり、暴れ狂う少女たちのハッピー・メリー・クリスマス。
 食にオシャレに、気の置けないみんなで楽しい時間を過ごしていく喜びが画面に満ちて、大変幸せな気分になれるエピソードだった。
 山に登っても、山に登らなくても、日々は眩しく楽しい。
 そういう事を感じさせてくれるお話は、やっぱり見てて嬉しいもんだ。

 とにかく飯能大天使・青羽ここな中学二年生がチャーミングのキワミであり、『そらーお姉さんたちも、山盛り可愛がるわなぁ……』と納得の可憐さであった。
 ここなちゃんの良さは反応の素直さと、末っ子立場に甘えない気配りだよなぁ、やっぱ。
 メチャクチャ周り見て、不用意に周囲が気を使わないよう柔らかに、席がスムーズに進むよう手を尽くしている姿が良く描かれ、怪物的フィジカルだけが彼女の強みではないと思い出さえてくれた。
 おなじみメンバーに小春部長を加え、人数多いからこそ賑やかで楽しい時間が、しっかりと伝わっても来たね。

 寒空バイトをなんとか切り抜け、渾身のサンタ・サプライズをスカされガッカリ……と思ってたら、逆にサンタ・サプライズ返しを食らって最高のハッピークリスマス……という、今回の運び。
 この幸せな逆転劇は、先輩の気まぐれに楽しくお接待されてると思いきや、実はそれに付き合うことでひかりさんの傷ついた心を癒やしていたAパートとも呼応している。
 お互い心と人生の大事な部分を預けあっているからこそ、サプライズが不快な不意打ちにならず、逆転はお互い様のありがたさに変わっていく。
 雪村あおいがそういう関係を、凄く沢山の人と豊かに作り出せたのは、彼女に人生に勝手に乗り込んできた大事な友だちと、一緒に山に進んでいったからだ。
 そういう運命の面白さを、ダムに行ったりパーティーしたり、山に登らないエピソードにこそ感じ取れるのは、作品の奥行きかと思う。
 ここでも向日葵コンビの『結局、ここに落ち着いちまうんだよなぁ……』感を強調してきて、『おめーら、理解ってんだろうな……?』と静かに圧力ブッ込まれてる感じが凄い。
 ハイ、”ヤマノススメ”はいつだって”あおひな”です!

 

 

 画像は”ヤマノススメ Next Summit”第6話より引用

 それにしたって倉上家、キッチンから居間から風呂まで全てがデカすぎて、ひなたの人間的な”太さ”がどっから来るのか、圧倒的な説得力で殴りつけてきた。
 この圧倒的豪邸に特にビビることもなく、『お友達のお家』としてくつろぎはしゃいでる所に、少女たちの縁の深さが感じ取れもする。
 いやフツービビるだろこのレベルは……総檜やぞ!!

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第6話より引用

 そして鋼先生のヤマノススメ補習授業は、今週もバリバリだッ!
 マジでスゲーなケーキの作画ッ!!
 毎回本編と連動しつつ、絶妙に”ヤマノススメ”全体を広げる題材選びに戦慄させられてんだけども、今回はひかりさんがあおいを選んだ理由をより強く理解らせる、女達の帰路。
 お互いを被写体に特別な瞬間を積み重ね、眩い陽射しの中その微笑に心を揺らす。
 こういう輝きを共有してきたからこそ、今回の開陳と共有があるわけでね……。
 ひかりさんにとって、ひなたにとって、お互いがいてくれることの嬉しさは当たり前の日々を共有する中、静かに降り積もっている。
 一分半の新作アニメを、本編をより豊かに広げ『山本監督、あとしろ先生……俺が最強の”ヤマノススメのオタク”なんだよ!』と静かに吠える(吠えていません)一撃として生かしてくる剛腕、毎回震えるよ……。

 

 そんなわけで三編それぞれの良さを味わえる、良き秋と冬の物語でした。
 15分×2+デカすぎるαという構成で、作家の個性、作品が持つ豊かなバラエティを感じつつ楽しめるのは、大変贅沢なことだと思います。
 尺が短めなことでシャープな後味を残しつつ、リッチな作り込みでたっぷり堪能した感じもあって、良いアニメ見てるな~って感じ。
 日本一のヤマノススメオタクたちの、『これが俺の”ヤマノススメ”だッ!』博覧会としても、気合い充分だしな……鋼が特にやべーのよッ!!
 次回も大変楽しみです。