イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ヤマノススメ Next Summit:第7話『初日の出、どこで見る?/クラスメイトと山登り!』感想

 一歩一歩の青春絵日記、年越し年明けにまばゆき初日を描くヤマノススメ四期、第7話である。
 ”ぼっち・ざ・ろっく”も大好評な斎藤圭一郎がAパート、超実力派ちながBパートをそれぞれ担当し、個性豊かなアンサンブルが今回も奏でられた。
 ”ヤマノススメのアニメ”という大きくて豊かなフレームを共有しつつ、各話ごとに異なったドラマや表現、個性が様々に踊っていて、見ていてとても楽しいアニメになっているのが嬉しい。
 吉成鋼のEDが一分半とは思えない物語的カロリーをぶん回し、実質Cパートとして機能しているおかげで、焦った感じなく夏の富士山リベンジまでの歩みをガシガシ勧めてくれて、独自のスピード感も宿っている。
 元々ショートアニメに似合わぬみっしり感でのし上がってきたシリーズなわけで、30分枠に拡大してもショート&シャープな構成と中身でこちらの予想を上回り、ゲップが出るほど期待を満たして突き進んでくれる感じ。
 毎回凄く楽しいし、手を変え品を変え『”ヤマノススメ”は……こんなに素敵なんだ!』と思わせてくれる作りなの、メチャクチャ贅沢だと思う。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第7話より引用

 さてAパートは三人娘+あおいダディの初日の出、ぷにぷに感を前面に出し大変可愛らしい。
 Bパートが原画陣のクリエイティビティを場面ごと暴れさせる感じの作りなのに対し、Aパートは均整の取れた統一感で落ち着いてカメラを回し、あおい達がどう年を越していくのか、ゆったり追いかけてくれる感じが濃かった。
 24分でこんだけ振り幅のある映像体験が出来るのは、二部構成の面白いところだと思う。両方最高。
 ここなちゃんを交えて賑やかに転がっていく年末の空気に、時折湿った視線がスッと混じって、あおいがひなたに向ける感情の質感が伝わってくるのも、”ヤマノススメ”らしくていい。
 幾度も見つめてきて、これからも視線で追うだろう親友のうなじに、色んなことがあった一年を、一緒に進んでくれた友を思う。
 この後のドッタンバッタン大騒ぎも含めて、すごく雪村あおいの一年を締めくくるのに相応しい、大晦日の描画だった。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第7話より引用

 人間を描く筆も大変堅調だが、もう一人の主役……”ヤマ”を見据える視線も力強く冴える。
 考えてみれば標高や植生、ルートや天候や登る時間帯に応じて山はその表情を変えて、同じ山は1つとしてない。
 木漏れ日差さぬ夜明け前の薄暗さ、和田山男坂の険しい山肌を自分の手で掴みながら身体を押し上げていく元旦には、今この瞬間にしか宿らない確かな力強さがある。
 そういう個別の顔を丁寧に、凄まじいクオリティで毎回しっかり描く筆からは、少女たちの青春が弾ける舞台としての”ヤマ”に敬意を持ち、そこから生まれる息吹を描き切ることが、自分たちの生み出すドラマを伝える術なのだという気合を感じる。
 山頂に至るまでの暗さが、ご来光の眩さ、それに照らされる少女たちのかんばせをより際立たせるメリハリも、大変良かった。
 登るほど太陽に近づき、また日も昇り、次第に夜闇の輪郭が明るく縁取られていく感覚を丁寧にアニメートさせたのは、臨場感ある力強き詩情。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第7話より引用

 眩い朝日の中笑みを交わす(ここなちゃんの菩薩顔ッ!)娘を見守り、静かに微笑む父の顔も、また良い。
 何かと内向的で、気づけば世界との接続を切るようになってしまった娘がどこに転がっていくか、あおいダディが静かに見守っている様子は第5話EDで既に語られているところだが……(こういう効かせ方を考えると、やっぱ吉成鋼EDはEDっていうより強烈過ぎる本編補足であり、お話の網目随所に生きてくる、豊かな表現だと理解らされる)。
 力強く山肌を駆け上がり、眩い陽射しの中友と笑う姿を見て、娘が山と出会えたことの意味、そこで繋がった友情のありがたさを、新年最初の贈り物と嬉しく受け取る雪村誠の思いも、静かに画面を滲ませていた。
 あくまで三人娘の喜ばしき元旦にフォーカスを当てて、ダディの心情は見る側に探らせる感じなのも、あえて言葉少なく後ろから娘を見守っている男一人の思いを大事にしててる見せ方で、凄く良かったと思う。
 こういう端っこへの目配せの強さと上手さ、”ヤマノススメ”のエンジンブン回ってるな……って思うね。
 それにしたって、みんな最高に可愛いな……最高に可愛い。素晴らしい。

 

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第7話より引用

 さてBパートはある種の緊張感を指先にたぎらせ、クールな印象を与えるかすみさんに焦点を合わせて始まっていく。
 雪村あおいの楽しい思い出が貼り付けられたコルクボードに、かすみの写真はない。
 そんな思い出に、決意の高尾山詣でお誘いで生まれた思い出を刻み込むまでの物語が、今回展開される。
 『デコ出しさせたい……あおいもひなたも、絶対可愛いから……』という欲望を強く感じるお風呂シーンとか、手間かかりそうなネタを山盛りぶん回して進んでいく、ハッピー極まる贅沢な山行の開始である。
 ……EDに刻まれていくかすみの”視線”も合わせて考えると、電話越しとはいえ無防備な裸身を余裕で共有できる二人の距離感を丁寧に積んでるの、ある意味残酷ですらあるよな。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第7話より引用

 引っ込み思案とクール系、あおいとかすみの高雄山行はギクシャクと転がっていくが、かつての苦労、そうして生まれた”ヤマ”への自身が、あおいを前に進ませる。
 日の出前の歩みとはまた違った明暗の中で、あおいが登山経験者として、かつての自分に手を差し伸べるようにかすみに歩み寄った時、二人を包んでいた影は消え、強い光が世界を満たす。
 コミュニケーションの変遷と山歩きの明暗を重ね、お互いの視線が通う瞬間を鮮烈に切り取ってくるここの演出は、大変ナイーブながら颯爽と心地よくて、とても良かった。

 四期は富士山リベンジに向けて、あおいがヤマと出会ってどんだけ強くなったのか、他人や自分を大事にできる優しさを手に入れたのかを、執拗かつ丁寧に積み上げてる感じがある。
 Aパートで日和田山から美しき愛鷹を見つめ、その景色をひなたに訪ねたのも、このお話が目指すべき場所、そこにたどり着くために必要な荷物を描く、大事な一筆であろう。
 それは高山病に”負けた”体験を、より良いものとして受け止め直す意味でも大事なことだ。
 そしてヤマが生み出す体験全てを受け止められる雪村あおいは、誰かに優しく出来る雪村あおいでもある。
 焦っちゃうのが一番辛いな、ここでゴールの良さを言ってくれると嬉しいな。
 思いの外ハードコアだった自分の高雄山行を思い出しつつ、かすみの登山が楽しくなるよう導く横顔には、確かな成長が刻まれている。
 それを見つめるかすみの瞳に、去来するものが何か。
 吉成先生の補論を待とう!

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第7話より引用

 モブの動かし方、キャラの崩し方が印象的な展望台で、かすみは自分の瞳に写った雪村あおいについて語る。ここのギャグ顔、”きんぎょ注意報”リバイバル的な稚気があって楽しかったな。
 眼鏡のレンズに中学時代からずっと見つめていて、声をかけられぬまま気づけば孤独な檻を飛び出していた『かすみからみたあおい』を反射させる演出も、切れ味抜群。
 Bパート冒頭に漂っていた不思議な緊張感の意味合いが、ここで答え合わせされる(そしてEDで補足される)作りは、かすみのキャラクターを一気に立たせる剛腕だった。
 落ち着いた態度の奥に、マグマのように静かな炎を宿して女を見ている女……ヤマノススメはやっぱすげーわ。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第7話より引用



 カメラを通じて保存される彼女たちの”現実”は、他の場面とはちょっと違うリアリティで景色と人物を切り取っている。
 写真(特有の視線を、アニメーションの中で表現すること)に対する濃厚なフェティシズムは、写真家であるほのかを主役に時折顔を見せるが、友達とのかけがえない思い出を新たに刻んでいく今回、豊かな表現力で新しい一枚を刻む。
 そしてフォトフレームからはみ出した移ろう光の中で、誰が何を見つめ、何に祈り、何に微笑むのかも。
 Aパートではあおいの父が見つめていた変化と成長を、かすみが別の立ち位置から別の感情を宿して見守っている様子には、新年の爽やかな景色、念願叶う眩さに少しだけ湿り気が宿って、独自の手触りがある。
 正直こんだけ静かで強い筆致でかすみさんを彫り込んでくるとは思ってなかったので、大変嬉しい不意打ちであった。
 自分を陰気なハグレモノだと思い込みがちな雪村あおいが、その実こんだけ複雑な想いを寄せられる重力源なのだと描く今回は、第3期あおいとひなたの間を覆った重たい雲の答え合わせをしてる感じもあって、なかなか印象深かった。

 かすみ達がいなかった思い出のコルクボードに、確かに刻まれた新年の高雄山行。
 知らぬ間に少女の世界は広がり、山の中で育った身の丈が新たに伸ばした手が掴む、実は懐かしき友情。
 冬を抜けて桜が芽吹く頃、またあおいの世界は新たに変わっていくわけですが、そこもまた生き生きした明るさと、その裏に豊かな陰りと湿り気を宿した場所なのだということを、新年に予感させるエピソードでもありました。
 登山をこの物語の本道とするなら”寄り道”みたいな話が、クリスマス以来続いているわけだが、それがけして人生のオマケなんかじゃないことを、アニメとしてのクオリティ、豊かで奥行きのある語り口で証明しながら進んでくれるのは、大変ありがたい。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第7話より引用

 そうして千里同風、離れて見守り触れて味わう、密やかなる視線の年代記
 人が人を見据える視線に何が宿るのか、短くも鋭く描く”過去編”から、行動食の交換を通じて確かに生まれた縁を描く”未来編”まで、一分半で”時代”が生まれちまっているのは、いつもながら大変なことである。
 ていうかラストの情景があんまりにも美麗なる日本の秋すぎて、『マジでなんでも一人でやれるな……』という驚愕を新たにする。
 雪村あおいの隣に立ち人生を導く唯一絶対として、物語に選ばれることが出来た倉上ひなた……になれなかった少女が、たどり着いた今は優しく豊かで、少しだけ寂しい。
 その甘やかな苦味を噛みしめる様子すら、筆先から伝わってきそうで凄いです。
 つーか各EDごとに超可愛い衣装と髪型毎回惜しげもなく投入してて、ホントすげーよ……。

 

 というわけで年も豊かに開け、あおいの歩みは朗らかに豊かです。
 色んな人に見守られ、視線を引き付け、山と友情を通じてそれに報いられる自分になっていく少女の物語は、冬を超えて春へ。
 そして新たな夏へと続いていきます。
 次回も楽しみですね。