イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

チェンソーマン:第6話『デンジを殺せ』感想

 形のない不安と恐怖に彩られた、極彩色の退魔行、チェンソーマン第6話である。
 出口のない八階に囚われ、ドンドンおかしくなっていく特異4課の愉快な面々。
 それぞれの地金が顕にされつつ、恐怖を食ってデカくなる”悪魔”という存在、それが付け狙うチェンソーマンの特異性も見えてくるようなお話。
 アニメ全体に漂うモッタリとした出口のなさが、閉塞感の強いシチュエーションと上手く呼応して、いい塩梅の居心地の悪さがあったと思う。

 

画像は”チェンソーマン”第6話から引用

 前回ラストからしてコベニはテンパっていたが、『ホテルの八階に閉じ込められて、永遠に出れない』という現状が判明して、顔面から拭き出せる液体だいたい総動員である。
 ヒデー顔だなホント……でも爆笑は良くないと思うよパワーちゃん!
 パワーちゃんが『根は素直でいい子』とかそういう救済措置がない、極悪クソアマだってことが解ってくるのも、ホテルを極限状況にした副産物と言えよう。
 他の連中……特に姫野さんとアキくんの根っこも良く見えてくる回だけども、彼らの地金が複雑な人間色しているのに対し、パワーちゃんはシンプルな人格荒廃っぷりが判るというね……。

 アキくんが出口の見えない現状を告げる時、窓ガラス越しのミッチリした絵面で息苦しさを強調しつつ、デンジだけがベッドに潜り込んで永遠の牢獄から自由なのは、面白い絵作りだと思う。
 結果として彼の常識はずれな……悪魔的ですらある発想が押し付けられた永遠を打ち破る鍵になるが、そういう特権的な存在であることが、状況が加熱前から示されてるような絵面だ。
 義務教育すら受けられない地獄の幼年期を経て、デンジくんの頭のネジは何本か吹っ飛んでるわけだが、こと悪魔殺しに仕事を絞るとそれは利点でもある。
 どんな状況でも眠って食って生きていかなきゃいけない、動物としての自分に対し、デンジくんはとても素直だ。
 まぁ、空気読めない・常識知らない・欲望に素直過ぎるの、三拍子揃ったどチンピラだって話なんだが……。

 

 

画像は”チェンソーマン”第6話から引用

 荒井くんの暑苦しい鎧も異常な状況を前にみるみる引っ剥がされ、”まとも”な連中から順繰りにぶっ壊れていくこの状況。
 ベテランである姫野は飄々とした態度を崩さず、背中を窓枠に預けて依存について語る。
 それはタバコというエロティックな表象を仲立ちにしつつも、誰か……早川アキという存在への依存に強く絡みついて、姫野の思いの外まともな人間性を語っていく。
 誰かを信じて背中を預け、それが脆く崩壊してしまう痛みに耐えられない。
 そんな人間の”当たり前”はアキくんもおんなじで、『誰とも馴れ合わねぇ、復讐しか考えてねぇ』とかほざいていたくせに、銃の悪魔の話が出てくると心に風が吹き、バディがビンタされると目を見開く。
 眼の前の惨状に揺れ動き、なんとかしたいと思う気持ちがあるからこそ、それが傷付いて地など流さないのだと、自分を偽らなければ生きていけない人たち。
 彼らはお互いの存在を大切に思い、寄りかかり、瞳の中に特別な存在として刻み込み、まじないのように『タバコを吸う』という行為/好意を共有する。

 『これが俺の吸う、人生最後の一本だ』とニヒルにキメた回想から、即座にヤニ求めて部屋に転がり込む現状に繋げるテンポは、出口なき死のホテルに閉じ込められているのに妙に心地よく、面白かった。
 悪魔が恐怖を喰う以上、『自分は怖がっていない』と思い込める何かがデビルハンターには必要で、アキくんと先輩は幾度も、それを交換してここに立っている。
 その手付きは前回マキマがデンジに仕掛けた依存の罠に比べると、至極まっとうな相互依存……別の言い方をすれば”信頼”の香りが強くて、ずいぶんと真っ当である。
 空間と時間が歪み、人間らしい生き様の全てが否定されるような地獄が当たり前の退魔稼業に、この微笑ましい人間味が武器となるか、仇となるか。
 それは、これから先の物語を見てみなければわからない。

 

 

画像は”チェンソーマン”第6話から引用

 閉塞した恐怖は悪魔に糧を与え、出口のない絶望の中でコベニの刃が踊る。
 ホテルは超常的な変化を果たし、人間であり続けて飢え殺されるか、デンジを捧げて生き延びるか……囚われ人達は、究極的な選択を迫られることになる。
 否応なく状況が動くこの瞬間、同じ場所で静止していた時計が地べたに引きずり下ろされぶっ壊れるのが、何かが動き出す予兆……永遠が壊れる前兆として印象的だ。
 最初からテンパリきってたコベニ、タフガイの外装の奥に存外脆い内面を抱えていた荒井くんを、見張り押さえつけていたのは姫野の余裕だ。
 しかしアキくんが寿命を代償に剣を抜いてカタをつけると言い出すと、その目と腹は大変良くない方向に据わる。
 失いたくないバディであり、折れそうな自分の背中を支えてくれる依存対象であり、人間のみずみずしい感情の源泉でもある青年と、出会ったばかりのクソガキ。
 何かを天秤にかけなきゃ生きられない最悪のルールを、バディの命で幾度か思い知らされてきたベテランは、この局面で遂に覚悟が決まる。
 装っていた余裕を投げ捨て、シャレにならない本気を表に出してくる。

 そのむき出しの刃を前に、身体を投げ出して他人を救ってしまうのが、早川アキという青年でもある。
 銃の悪魔を殺すめには、根性座った仲間がいる。
 甘ったるい理想論の代わりに復讐の我欲を持ち出す彼は、もちろんそんな道理(だけ)じゃ動いていない。
 デンジは殺させない。
 そんな本音を表に出さない、血みどろの強がりをアキくんはこの土壇場保てていて、それが姫野を人間型の悪魔に堕とす選択から、ギリギリ遠ざける。

 

 

画像は”チェンソーマン”第6話から引用

 そうして流れた無辜の血は、浄玻璃の鏡となって色んな人の素顔を……あるいは新しい可能性を照らしていく。
 命綱の食料をバクバク食い散らかしていたパワーちゃんは、血の悪魔としての力を誰かの命をつなぐために使い、姫野は無防備で弱い……アキくんが大好きな素顔を涙ながら晒す。
 それは非情のデビルハンターから生身の人間へと、過酷な運命に抗って自分を保つ再生でもあって……姫野自身がアキくんと過ごす中、タバコと一緒に手渡した歩みと重なる。
 アキくんの献身はデンジの命だけでなく、修羅に落ちかけていた姫野の心も救った……とまとめちゃうと、クソ以下なルールで回っているこのお話には噛み合わない感じもする。
 でもまぁ、そういう柔らかく湿って重たいものを存外、ちゃんと見ている作品だとは思っている。

 デンジはマジ痛くてまっぴらごめんなチェンソーマンへの転身を覚悟し、『殺してください』と相手が言い出すまでぶっ殺し続ける、永遠からの最悪な脱出法を思いつく。
 自分たちをハメたクソな敵が差し出してくる二択に、バカ正直に従う理由なんてどこにもなくて、恐怖を暴力で殴り倒して未来を切り開くメチャクチャこそが、悪魔に勝ちうる切り札となるか。
 野良犬めいた笑みを浮かべるチンピラの横顔は、恐怖だの愛着だの依存心だの、悪魔が好物にしそうな餌で縛られた凡人共を置き去りに、高く飛びそうな期待を煽ってくる。

 

画像は”チェンソーマン”第6話から引用

 底なしの奈落が口を開ける土壇場、デンジくんはチェンソーマンに変じる鍵を探して、自分の胸を探る。
 それはアキくんが自分を守るために血を流した事実を、常識はずれの自分がどう受け止めているか、心の中を確認する手付きでもある。
 家族の温もりだの優しくされた記憶だの、他の”まともな”連中が御大層に抱え込んでる宝物はないかもしれないが、それでもポチタから譲り受けた心臓が熱く、確かに脈を打っている。
 それを確かめて死地に飛び込む時、デンジくんの目がイカれきってるのは、恐怖を喰う永遠を相手取るこの状況で、何より頼もしい。
 出口のない不安を相手取る時、理由のない熱狂は確かな武器だ。

 それと同じくらい、誰かから手渡された、血と体温が滲む荷物も強さに変わるのか。
 それともそれが失われる恐怖に足を縛られ、魂を悪魔に変える理由になるのか。
 出口のないホテルを出ても、外にはクソみたいな世界が待ち構えていて、そんな問い掛けを幾度も投げるだろう。
 それは単なる形而上の難問で終わらず、血みどろベシャベシャな悲惨と残酷にまみれて、少年たちの魂を試す。
 その心臓をよこせと、不気味な姿で脅し殴りつけてくる。

 誰かに依存する脆さを、ベテランの仮面を剥がれた姫野の涙は良く語る。
 それでも背中を預けず立ってられるほど、強くも正しくもない人たちのお話は続く。
 常識はずれの狂犬は、血が出るほど切実に求めた”まとも”にはなれないからこそ、悪魔を殺しうるのか。
 それともイカれた血の池の奥で、確かに輝くものを掴み取って……それもまた、理不尽な暴力に奪い去られるのが世の常か。
 次回あるだろうデンジくんの狂乱大立ち回りと、その先に続いている景色をアニメがどう書くか……次回も楽しみですね。