ファーストキスはゲロの味! 俺はノーベル殺戮賞!
むせ返るような愛しき地獄絵図、ビールだ刺し身だ唐揚げだ!!
チェンソーマン、最悪で最高な第7話である。
永遠の悪魔を地獄の永久機関で葬り、ぶっ飛んだ実力と思考を示したデンジに、姫野の視線は吸い寄せられる。
死人当然のドブラック組織の現状も気にせず、バクバク食って幸せなデンジくんは、マキマの視線を気にしつつ姫野の誘惑に、胸をとろかせる。
ゲロキス大惨事を(流石にモザイクはかけつつ)真正面から描いて、超ろくでもねぇデビルハンターの実像を彫り込みつつも、狂騒がハケた後のエロティックな実感を、しっかり伝えてくる落差。
死と絶望が隣り合わせでも人は恋をして、クソみたいな職場でも飲み会は楽しくて、今日心を繋げた人が明日には死んでるかもしれない場所で、交わる心と体。
そんな人生の現場が、鮮やかにスケッチされる回だったと思う。
相手が不死身なら、自分から死にたくなるまでぶっ殺してやる。
イカれた発想力で敵の只中に飛び込んだデンジは、野良犬のように相手に噛みつき、噛みちぎられ、傷ついては再生する修羅道に狂喜する。
そのハイテンションはネトネトドロドロした壁に包まれ、見通しが悪い。
はっきり言って爽快感がなく……それはおそらく意図的だ。
姫野が見下ろす奈落の底で、四方を壁と敵に囲まれて永遠の殺し合いに興じる、幼い狂犬。
デンジくんが頭のイカれた悪魔ではなく、普通を求め幸せを願う教育足りてねぇただのクソガキだと知ってる身からすると、チェンソーマンの覚醒はカッコいいより痛ましいが勝つ。
そういう印象を強めるべく、アクションは血みどろベチョベチョのグロテスクにどこか、濃厚な閉塞感を漂わせる作りになってると思う。
実際デンジくんの現状、ありえんくらい悲惨だからな……。
そういう状況でもド下らねぇなにかに人間は幸福を覚えてしまうし、それを支えにして体を前に引きずってしまうものだし、外野が幸せだの不幸せだの、とやかく憐れむものではないのかもしれない。
そういう清潔な距離感を保ちつつ、デンジくんが溺れる(溺れなきゃやってられない)殺戮の熱狂を主観で切り取りつつ、合間合間にはハタから見た客観が描かれる。
おぞましく凶暴で、哀れで出口がなくて、目を離せないチェンソー・カルナバル。
そこに、姫野の視線も吸い寄せられていく。
地平線まで幾何学的に、真っ直ぐマトモに墓が埋め尽くす場所。
そこは死ぬのが当たり前の悪魔狩りが、最後に行き着く場所だ。
ピタッとズレない墓の並びが、その下に埋もれた生命がどんだけ普通で、だからこそ悪魔に抗えずぶっ殺されたかを良く語っている。
こういう絵画的で静謐な絵面の強さは、やっぱこのアニメの強さだと思う。
マトモな人なら耐えられないその過酷さに、耐えかねて姫野は苦しみ、同じくマトモなアキくんを守りたいと祈り……叶わない。
マトモだからこそ誰かを愛し、守りたいと願い、マトモだから叶わない。
デンジくんが全くマトモじゃないごみ溜の中で死にたいほどに焦がれた”マトモ”の裏側を、飄々を演じて自分を守る普通の人の苦悩が良く伝えてくる。
どっちに行っても”死”が立ちふさがるどん詰まりを、ぶち抜いてしまうかもしれない期待を、血まみれに狂うデンジの勇姿は与え……
三日三晩、常識を遥かに超えた悪魔的闘争の現実は、その紅潮を奪い去る。
ここの落差が、凄く良かった。
ダークでヒロイックな覚醒に、血しぶき飛ばない観客席から大興奮する勝手さが即、作業化した殺しの現実感にすり潰され、うんざり顔が表に出る。
飲まず食わずで観戦続ければ殺戮ショーも破壊的希望もどっかに行ってしまって、ただただひもじくダルい”人生”のいちページに成ってしまうどうしようもなさ……再びの閉塞感。
常識はずれにぶっ飛んでいること、悪魔を殺して人間を助ける装置であることを求めたチェンソーマンは、これまで見てきたように、これから見届けるように、遠い”マトモ”に焦がれるただの少年でしかない。
盛り上がるところがあんまりない現実の感触に疲れ果て、姫野が行く先はアキくんの隣である。
セックスも、キスもない、清潔で安らいだ至近距離こそを、お軽いビッチの鎧でマトモな心を守っている女はいつでも求めていて、アキくんはそれに応えれる男だ。
二人が悪魔も戦いも死も遠い、マトモな世界に生きれていれば……と思わざるをえないが、ここは悪魔のいる現実、安楽な出口はない。
それでも、ここではない何処かに出たいと誰もが願うから、疲れ果てた身体を誰かに預けるのだろう。
姫アキ純愛だなぁ……。
今日も今日とて繰り返す悪魔殺しは、四方をビルに囲まれた狭い場所で行われ、自由に飛ぶ権利はどっか高い、遠い曇り空にこそある。
そんな現状を少しでも動かそうと企画される飲み会は、フツーの職場のフツーの宴席っぽい楽しさが上手く弾んでいて……死人の話で即座に醒める。
亜音速でドン引きするコベニ&荒井くんに対し、見たこともねぇウマそうなもん山盛りされて、経験したことのない先輩後輩に取り囲まれて、気にもしてねぇデンジくんである。
先輩との温度差、それもアルコールと宴会の雰囲気が埋めてくれる肌感覚がどっしり描かれていて、やっぱ生活系アニメだなぁ……という感覚を強くする。
こういう生身の手触りをずっしり積み上げて、イカレきった激ヤバ世界を他人事と感じない足場にしてるのは、結構好きな作りだ。
表面だけなぞると良くあるブラック企業の愚痴飲み会なんだが、マジのガチで簡単に人が死んでる楽しい職場なので、ブラックユーモアで片付けられない重たさあるの、良い質感よね。
そんな生っぽい空間の中で、デンジくんは唇の行方を追う。レントンみてぇなタコ口しやがって……。
命がけの約束でこっちを振り向いて欲しい、憧れのおねーさんは確かにいつつ、しかし目の前でプリプリ輝く魅惑のリップからは目が離せない。
デンジくんの幼い純情が元気に描かれているのは、姫野の牽引力でそれがグイッと加速し、エロティックな土壇場まで駆け込んでいく前段階として、とても大事だろう。
読めねー感じも沢山ある(いちいち泣けるぜ……)少年が、性に向き合う現場はあくまで”ここ”なのだ。
世のマトモな人たちがすなる恋愛とかセックスとか、良くわかんねーけどなんかすっごい良い感じに思えるものの、不確かな感触を自分で確かめたいと、遠巻きにチラチラ視線をやり、思わず唇を尖らす。
その仕草はおもちゃに手を伸ばす幼児のそれであり……そういう子供の唇に、ゲロねじ込むんだよこのアニメはッ!
本当にヒドいよ……最悪だよ!
ゴミ箱から残飯漁って飢えを満たす(いちいち泣けるぜ……)浮浪児でも、持っていたなけなしのプライド。
他人のゲロ啜るやつは、哺乳類の資格がねぇカスッ!
ポチタと蔑んだ”そういう存在”になってしまった惨めさが、デンジくんの眦に透明な涙を浮かべる。泣かないでデンジくん……。
こういう悲しみを便器に吐き出してる少年が、頭のネジが外れきって悪魔に怯えない殺戮の機械ではないことを、荒井くんも背中を擦りながら理解していく。
年上の同僚と便所の中、自分の過去とか戦えない情けなさとかゲロしつつ共有する場面は、デンジくんが求めてた”マトモ”に何より近くて、ゲロくせぇクソくせぇはずなのにほっこりと、涙が出てくる。
デンジくんが飯食って涙流してゲロ吐く人間なのだと、その手のひらで確かめることで荒井くんは、イカれた職場に残る。
デンジくんが獲得できなかった(だからこそ、マキマに求めてる)母との思い出を語り、弱さを晒して、同じ便器を見つめる。
戦えなくて情けない、仲間を殺そうとする弱い自分を、ゲロ吐くデンジくんに重ねながら共感する。
そのマトモさは、多分他人に背中を擦ってもいながらゲロ吐くのは初めてだろうデンジくんにとっても、思いの外大事な物なのだ。
そういうものは(例えば最早戻れない、ポチタとの日々のように)いつでも近くにあって、既に手に入れていて、でもそれに気付くより早く簡単に消えてしまう。
ドッタンバッタン大騒ぎでなかなか楽しそうな飲み会の景色は、作品に漂う寂寥なる真理を、静かに睨みつけてもいる。
そんな幸福の行方は先の話として、開始(はじま)っちまうよ真夜中の青春真剣勝負がッ!!
アキくんに操を立ててるはずなのに、デンジくんにゲロの味がしないチューブッ込んで猛烈エロティック叩きつけてくる姫野さんは、酒の勢いに押し流されているだけなのか。
それとも出口のない永遠の出口を、イカれたチェンソーマンに見つめた火照りが、心と体に残っているのか。
愛しのアキくんの視線を奪う、マキマさんが夢中な子犬ちゃんのチェリーを盗んじゃうあてつけの火花なのか。
一触即発真剣勝負、一体どうなってしまうのかッ! ……という感じである。
『そらードキドキもするし、正気も失うわ……』と納得の扇情作画をブン回し、夜は危険な領域へと加速していく。
夜の街へとデンジくんをさらっていく姫野さんの背中、”鬼”住んでて死ぬほど面白い。
姫野さんと触れ合うことで高鳴る心臓は、マキマが施し縛ったものだけが生の実感ではないし、色んな人が自分を興奮させ、大事なものを教え、あるいは残酷に奪っていく事実を、デンジくんに教えていく。
三日三晩悪魔を殺し続けたり、飲み会に参加したり、他人のゲロを飲んだり、他人にゲロの始末をしてもらったり、人生を語り合ったり、セックスの実感に近づいてみたり。
色んな可能性がデンジくんの前には広がっていて……悪魔に満ちたこの世界では、それらは簡単に吹き飛ばされる。
それでも高鳴る鼓動と絡み合う視線に嘘がないなら、確かな何かがそこにはあるはずで、さて寝床の二人は何を交わらせ何を生み出すか。
次週も楽しみです。
慣れない性の薫りにキョドりまくるデンジくんの視線、姫野さんが差し出す生々しい悦楽がよく作画されてて、彼が感じ取ってる体温と心音が見てる側にも伝わる感じだったのは、凄く良かった。
殺戮と同じくらい、セックス(未遂)に重さがあるべき作品だと思っているので。