イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アークナイツ 黎明前奏/PRELUDE TO DAWN:第6話『急襲 Farewell 』感想

 龍門未だ燃えず、荒野何処に通ず。
 ミーシャという大駒の価値も見えぬまま、必死に手を伸ばし奪い合うロドス、レユニオン、近衛局……それぞれの顔を追うアークナイツ第6話である。
 器も身体もデカい鬼の姐さんが間に入って、ツンツン嫌な感じだったチェンさんも膝を崩して共同戦線、しかし龍門に浸透したレユニオンとその魔人達の手は長く……という感じのお話。
 本丸がお互い見えない中、差し合いを続けるジリジリした感じが画面に滲み、そんな暗闘の隣に末期鉱石病患者であるミーシャの荒い息が、静かに存在感を増す作りだった。

 

 

画像は”アークナイツ 黎明前奏/PRELUDE TO DAWN”第6話から引用

 Farewell……離別を意味するサブタイトルが示すように、アーミヤと先週確かに心を繋げたミーシャはレユニオンの襲撃を受け、深い深淵に沈んでいく。
 レユニオンの首魁たるタルラはその掌中に龍門を収め、すり寄ってきた蝶を苛烈なる炎で焼き尽くす。
 クラウンスレイヤーが問うていたその真意は、自身に『タルラ』と呼びかける態度が何を意味しているかは、『わりぃがアニメでは書ききれねぇんだ本編やってくれッ! 』ていう作りになるよねそりゃ……。
 少女アーミヤを中心軸に据え、ミーシャと龍門を巡る物語として過不足無いパッケージにまとめつつ、ゲームを現在進行系で走っている者たちへのクスグリに満ちた作りはなかなか制御が難しいと思うけど、現状結構上手くやれてる印象。
 意味がわかると刺さるけど、わかんないならそれなりに無視できる要素を上手く配置して、アークナイツ経験値に応じて反応が変わる塩梅にしてあると思う。

 罠を仕掛けての待ち伏せ……W得意の領域に突っ込むことで、龍門近衛局に保護されるはずだったミーシャは、まんまと強奪される。
 『感染者問題は既に龍門を蝕む内政喫緊の課題であり、チェルノボーグから押し寄せる外患で終わらない』という認識が足りなかった結果、防衛戦力と危機意識が薄くて、しっかり現地協力者を得て襲撃準備を整えたレユニオンにしてやられた……という局面。
 前回濃厚に描写されたように、この大地にありふれた不平等……それを前提とした繁栄と荒廃の分断は、虐げられるものから居場所と平和を奪っている。
 甘やかな幻想(その奥に全てを焼き尽くす炎が秘められていることを、今回のアバンは良く示した)は貧者の不平を飲み込み、感染者はレユニオンの旗のもと、同じ服を着て同じ仮面を被り、個を捨てて”レユニオン”になっていく。
 特定国家の臣民であることより、死にかけの感染者である事を選ぶしかない、やけっぱちのコスモポリタン達。
 その浸透力、訴求力、団結力は治安当局の想定を遥かに超えており、この認識ギャップを付いて国際感染者暴動は加速と加熱を続ける。

 ミーシャはそんな大きな状況の要……らしい。
 彼女を保護したチェンですら、”らしい”で認識しているその背景を置き去りに、少女は荒い息をつきながら運命に翻弄され、寄る辺なく彷徨う。
 車中に反響する喘鳴が彼女が生きていること、その終わりがひたひたと迫っていることを上手く示してて、このアニメらしいストイックな味わいだった。
 鼓膜を撫でるその質感は、巨大すぎる運命を前に一個人が空転する様子と、巨大な牙が情け容赦なくかぶりつく前兆を、上手く描く。
 

 

 

画像は”アークナイツ 黎明前奏/PRELUDE TO DAWN”第6話から引用

 状況の把握、利害の一致、意志の統一。
 ロドスと近衛局が繋がれぬまま情勢に向き合った結果、ミーシャ強奪作戦を阻むことは出来ず、再奪還に挑む前に溝を埋めていく。
 この段階ではレユニオン……謎めいた怒りを撒き散らすスカルシュレッダーの方が、『眼の前のコマを潰すことより、他のチームがミーシャを獲るのが大事』と把握していて、戦術ユニットとしての練度が高い。
 状況を分析し、目的を設定し、それを成し遂げるための指揮を担当するのはドクターの仕事なわけで、プレイヤーが盤面に触れず勝手に転がった結果、大駒を取られた……とも言えるか。

 ”再統合”を名前に背負うレユニオンと対峙するためには、所属国家や組織の目的、情勢への馴染み不馴染みやらそれ故のメンツやらを超えて、ロドスと近衛局は”統合”される必要がある。
 私人としての情と公人としての責務に挟まれ、なかなか立ち回りが硬いチェン隊長の脇をホシグマさんが埋めてくれるおかげで、2つの組織は腹蔵のない協力関係へと進んでいく。
 あの大怪獣タルラを前にして殺されずに生き延び、湿原の体を取り繕って上司の点数上げるあたり、良く出来た副官である。
 それを受け取ったフランカのリアクションは、狐系キレイなお姉さんとして2億兆点。

 ミーシャを奪い合うこの局面は、レユニオンとロドス、それぞれが象徴する激情と理性どちらがより深く、龍門に浸透して統合を成し遂げるかという、理念と共感の闘争でもある。
 手を取り合うことだけが望む未来を掴む術であるが、それは必ずしも”みんなの幸せ”を望む甘っちょろい……時に非現実的な連中にだけ、味方するわけではない。
 何が正しいのか頭では解っていても、殴りつけられ踏みにじられた痛みは暴力的復讐と、それによる社会との”再統合”を望む。
 レユニオンのスムーズな作戦行動、それを下支えする現地の協力は、どれだけこの街が引き裂かれていて、上でふんぞり返る連中がその事実に気づいていないかを物語る。
 そんな生っぽい分断を超えて、少女と博士は望む未来をつかめるのか。
 未来は未だ、暗雲の中だ。

 

 そんな薄暗さが、全勢力に狙われるメインヒロインにも覆いかぶさってるのは、なかなか陰鬱な作りである。
 なぜ皆が、ミーシャを欲しがるのか。
 『誰かがミーシャを欲しがるので、先んじて手元に置く』以外の盤面が見えないこの状況は、複数勢力が激しくうねる見た目の激しさに反して、先行きが暗い。
 運命が否応なく局面を進めた時、経ち現れてくる真実はミーシャ個人でとどまらず、アーミヤがロドスCEOとして、か弱い少女として、ひとりの人間として向き合うべき大きな矛盾を、猛烈に叩きつける。
 隠されたものが暴かれる時、生まれる真実なるものの暴力性と、向き合う準備が少女たちには出来ているのか。
 そんな疑問を取りこぼさぬよう、ミーシャとアーミヤは共に、少女としての、感染者としての生身の質感を大事に描かれ続けていると思う。

 残酷なチェスゲームは、局面と指し手を取り替えながら続く。
 残り二話、どんな残酷を画面に刻み、それでもなお終わってはくれない道を描くのか。
 次回も楽しみです。