イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

後宮の烏:第11話『布石』感想

 綺羅びやかな檻に閉じ込められた、寵姫という鳥達の絶唱
 そろそろアニメ最終章が見えてきた、後宮の烏第11話である。
 後宮の不可思議事件を解決しつつ、その隙間に埋め込まれてきた想夫香の女、謎めいた梟、先代烏妃を慕う冬官といった要素が、一つにまとまって事件の形をなす。
 それらを経糸とし、ここまでの物語で寿雪が手に入れてきたものを緯糸として編まれる編み物を飾って、”後宮の烏”アニメは一段落……となりそうだ。

 

 
 

画像は”後宮の烏”第11話から引用

 お話はあまり焦った所なく、宦官に変装して血なまぐさい事件を探る寿雪の周囲を、丁寧に彫り込んでいく。
 九九が髪を梳くのを許し、皇帝に食べかすを取られ、花娘に思わず差し出した手を逆に取られる、暖かな縁に満ちた日々。
 それは孤独を宿命付けられた烏妃としては”不正解”なのだと、望むほどに喪失の痛みは強く、黒衣の后は孤独と沈黙の中で異形の神を祀って死ぬものだと、老人は告げる。
 その忠告が旧き叡智というよりは、先代烏妃に捧げた純情の残り香……亡き兄への愛着に呪われた鵲妃の部屋に漂う反魂の薫りと、似通っている感じもある。
 宮廷に彷徨う幽鬼の無念を追いかけてきたこのお話も、最近は現世にしがみつく生者の執着、それが死者を解放しない業の深さに、焦点を変えてきている。

 おそらくアニメ最終章を飾るだろう、一連の事件。
 反魂は烏妃の権能ではないと跳ね除けられ、異形の梟に救済を願った鵲妃が一時の悪夢の代償に、何を捧げたのか。
 血なまぐさい犯行現場は、梟が『難しいことではない』と告げた生死の逆転が、重い代価を要求する事実を語っている。
 事の真相は来週見えてくるのだろうが、無惨に噛み殺された女官の霊が迷わぬよう、古式に則って鎮魂の儀礼を司る烏妃の姿は、これまでと同じく死者も生者も、皇帝も護衛も分け隔てなく幸せを祈る、慈悲と優しさに満ちていた。
 『姉と読んでくれまいか』とその手を取る花娘も、人間としての寿雪の美質と弱さを見て取り、神の依代としての宿命よりも、人としての真実に身をあずけるよう”妹”に伝える。
 そんな生き方が、なかなか許されぬがゆえに高峻も寿雪も悩んでいる。

 

 

画像は”後宮の烏”第11話から引用

 双魚の玉飾りを繋いだ心の証と帯に下げる皇帝と、それを望みつつ……星のように目を輝かせつ身に帯びれない、不自由な烏。
 たかだか護衛の宦官を探しに、貴妃が手ずから闇を駆け抜け迎えに行く姿は、どれだけそれが宿命なのだと言い含められようと……むしろ大きな宿めの檻に閉じ込められた過酷な立場だからこそ、身分や業やどす黒い感情に縛られ不自由な者たちを、見過ごすことを許さぬ性分を語っている。
 その優しさが弱さなのだと、涙する寿雪の両肩に手を置き、弱くて善い、頼れば善いと語りかける皇帝もまた、統治の機械であるにはあまりに優しすぎる。
 人生の伴侶を選ぶ自由はもちろんなく、愛妃を抱き子をなすのも政治の天秤次第という高峻の立場は、『お渡りがない』立場からこそ人間の営みから切り離され、生き方から死の宿命まで決められてしまう烏妃とは、また違った世知辛さに満ちている。
 この温もりを『同病相憐れむ』と言ってしまうのは、あまりに情のない応対であろう。

 愛こそが怪物を産むと冬宮はささやき、兄を慕う姫は現世の幽鬼となって、禁忌の儀式に手を染めた。
 思えば鴦に鵲、鶴に燕と、高峻の妃たちの呼称は皆見目麗しい鳥たちの名がついている。
 そこに”烏”は異質であるけども、しかし宮廷政治の粘ついた泥、悲嘆と妄執に呪われる人間の定めという檻からけして出れぬ、後宮の華やかな囚人たちは皆、どこにも飛び立てぬからこそ、鳥をその名に背負うのかも知れない。
 16の身空でもって、長者も乞食も、死者も生者も不自由に呪われ、安らぐ枝を知らぬ籠の鳥なのだと魂の奥底で理解しているからこそ、寿雪は正しき行いを迷わず、慈悲豊かに進む。
 その周囲に人が集うのは、むしろ当然なのだろう。
 その優しき重荷に、人間でしかないその魂が軋むとしても、むしろ軋んで良いのだと皇帝は告げる。
 その重さこそが、寿雪が行きてきた証なのだから、と。

 では夜を自在に飛ぶ異形の梟は、何を狙って後宮に潜り込み、烏姫を弑さんと画するのか。
 ついに正面対峙なった暗躍者の狙いも、次週見えてきそうである。
 烏姫を暗殺可能なポジションに立ってるってことは、つまり高峻の寝首もかける……ってことだからなぁ。
 皇太后とその呪いを祓ってなお、複雑怪奇な政情を思えば高枕とは行かない皇帝の立場と、謎めいた梟の目的は繋がるか、否か。
 どうも烏漣娘娘から面々と繋がる、古い秘史の方に縁深そうなキャラでもあるけど……ここは種明かしを楽しみに待つところか。

 凶刃にこそ、乙女の生き様……その輝きは星のごとく瞬くか。
 寿雪が重たい宿命を背負ってなお、人として生きる道標がどこにあるのか、梟との対峙、その悪なる爪に縋った妃の末路は、掘り下げてくれそうだ。
 次回も楽しみである。