イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

後宮の烏:第12話『兄妹』感想

 人は儚くなりし兄を思い、神は封じられし妹を案じる。
 微笑ましくすらあるはずの親愛が超常の理と混ざり合う時、生まれる人生の荒波。
 二組の兄妹、その末路が描かれる後宮の烏、第12話である。
後宮の不可思議事件簿を追いかけつつ、通奏低音のように鳴り響いていた鵲妃と梟のお話を通じて、覆すべきではない生き死にの境目、それを巡る人と神の有り様を描くエピソードとなった。
 人間である鵲妃は兄の死を受け入れられず、人食いの泥人形を兄と信じることで、幽鬼のごとくやせ衰え、姉妹には食われた。
 泥人形に宿った古き神である梟は、実は烏漣娘娘を現世に閉じ込める檻であった烏妃を壊すことで、条理に背き罪人となった狂える妹を、神の世界へ開放しようと願う。
 生への執着と死という解放、見据えているものは真逆なれども、描かれるのは兄妹の不可思議な情であり、それが尋常の世の中をかき乱す様だった。

 死の運命は、逆には回らない。
 すがりついた鵲妃に烏妃が告げた厳密なルールは、彼女の中に宿る烏漣娘娘を現世に追放し、兄・梟との長い決別のきっかけ伴った。
 死を受け入れられず、邪法によって泥人形を動かす代償は血の温もりであり、罪なき官女の命であり、自分自身の魂。
 人間にとっても神にとっても、死は厳しく重たい。

 だからこそ惑える幽鬼を本来あるべき場所に戻し、それに縛られる生者の業を解き放つ使命に、寿雪は勤しんできた。
 死そのものは覆らないとしても、そこに悲しみだけを見出す人の心は解き放てる。
 それは本来、烏漣娘娘の囚人であり、今回明らかになったように神を奸計で閉じ込めた看守でもあった烏妃の仕事ではない。
 生き死ににまつわる人の感情に絡め取られれば、使命は揺らぎ運命はねじ曲がっていく。
 それでもなお、寿雪は自力では彼岸に旅立てない幽鬼を憐れみ、正しく死と向き合えない人の業に手を差し伸べてきた。
 そういう立場からは『死者は蘇らない』というしかなく、しかしそれで鵲妃は救われず、まやかしに縋って他人と自分の命を捧げることになった。

 事件の顛末を受けて、『彼女の悲しみに、寄り添わなかった』という言葉を選ぶ所が、寿雪のストイックな優しさであろう。
 『寄り添えなかった』と、どこか人の手に余る運命に責任を預ける言い回しをしても良さそうなところを、人間・柳寿雪として出来ることはあったはずだと、責務と意思を込めて『寄り添わなかった』と言い切る。
 この気骨が、他者と触れ合うことを禁じられた烏妃に与えられていることが、難儀の源泉であり、色んな人の救いともなっている。
 寿雪が先代から受け継ぎ育んだ超常の術は、人の手には届かぬ真理を正しく見据え、死と向き合う理法を形にしていく。
 それで救われたもの達は自然寿雪を慕い、周囲に集うことになるが、そうして生まれた縁は烈火の怒りを伴って迸り、この世ならざる理を震撼させる。
 その震えに呼ばれ、海の遥か彼方からやってきたもう一人の兄が、梟である。

 

 

 

画像は”後宮の烏”第12話から引用

 世界の深奥を知る禁忌の一族と、人間一般の営みから遠ざけられながら、寿雪は神代の真実を知らぬままだ。
 遙かなる高御座から、人の子が呪いとともに閉じ込めた愛する妹を開放するべく地上に降り立った梟は、寿雪が立つ地べたから遠い場所にいる。
 神の理屈で動くモノにこちらの事情は通じぬし、殺すことも出来ない。
 しかし言葉をかわすうち、夏の王と冬の王にまつわる秘史の更に奥……初代烏妃が己の身体に烏漣娘娘を閉じ込め、牡丹の花に酔わせ狂わせていた事実を告げられる。
 神を捉え続ける無理は、囚人である烏漣娘娘だけでなく歴代の烏妃も狂わせ、その宿命は複雑怪奇で孤独なものに成り果てていた。
 第6話では運命の犠牲者、弱く哀れな”女”の代表と思われた初代烏妃が、梟が語る歴史の真実でその仮面を暴かれ、加害者にして現代まで伸びる災厄の源泉と表情を変えてくるのは、なかなかに面白い。

 かくして真実を知った烏妃と梟は、対等な地面に立つ。
 なぜ自分が狙われ、烏妃の宿命にとらわれているのか。
 真実は無明の闇を照らし、対決(あるいは対話)が始まった段階では見通せなかった梟には、月明かりが伸びている
 それは神殺しの矢が届く距離であり、梟がうっかり漏らした神代の知恵を耳ざとく聞き逃さないことで、烏妃は現世の武器が通用しない神の人形を、祓う手段を見つける。
 ここら辺の展開はレイアウトを生かした状況の暗喩と、異能探偵である寿雪の推理力が突破の緒になる感じで、大変良かった。
 知恵の光こそが、無明を拓いて活路を見つけ、閉ざされていた真実、自分の立ち位置を明らかにする唯一の武器である。
 二重構造になっていた歴史の真実を知らぬまま、現世の頂点に君臨していた王とその臣下の刃が、神に地名だとならないのは、その逆理だと言えよう。

 

 梟と対等な立場で対峙し、必殺の烏妃ちゃんアローで退けさえした烏妃は、その務めだと教えられてきた牡丹の儀礼が、烏漣娘娘を狂わせる呪いの継承でしかなかった事実を知った。
 烏妃を呪い、人としての幸せを掴ませぬ残酷な神だと思われていた烏漣娘娘は、合われ極まる犠牲者だったわけだ。
 それを開放せんと、天地開闢より処刑人の任に殉じてきた烏が構える刃には、使命も禁忌も越えて哀れな妹を思う、神なりの熱量が宿る。
 これは哀れな結末に終われども、狂うほどの情念で兄を慕った鵲妃の思いと、確かに呼応しているだろう。

 現代に生きる一人の人間として、むざむざ殺されるわけに行かず神の刃を退けた烏妃であるが、人の哀れな情念と秘されていた神達の歴史を知った今、見て見ぬふりは出来ないだろう。
 しかし古き呪いによって縛られた烏漣娘娘、『出ていってください』で決着するなら話は終わっているわけで、烏妃という檻から神を解放し、その定めを終わらせる旅にはさらなる困難と秘密が、眠っていそうである。
 烏姫は歴史に秘された冬の王でもあるわけで、高峻がその頂点を演じる人の世は、複雑にねじれた野望と執着の檻に捕らわれてもいる。

 誘拐と現世の真実を追い続ける霊能探偵として、正しき世の中に責任を持つ皇帝として、梟が告げた事実に向き合い、神を烏妃という檻から、烏姫を神の犠牲から解き放つ試みは、必ず完遂されなければいけない。
 それが優しき己の望むままに生きるという寿雪の願いを妨げ、その振る舞いに救われてきた人の祈りを阻むのならば、なおさらである。
 鵲妃と梟の事件は悲しくも落着したが、それが暴いた真実はより強く、深く物語の行く末を照らし……アニメにはもう話数がない。

 こっから寿雪と高峻が進んでいく未来は、秘史のさらなる奥に突き進み改める歴史ロマンの味わいすら宿してマジ面白そうなので、是非に見たかった気持ちは強いが……まぁしょうがねぇ。
 残り一話、烏妃の宿命も現在の歴史も、全霊を賭して改める必要のある歪みだと知った二人が、どんな決断を未来への道標へとしていくのか。
 その結末を見届けることは難しそうだが、しっかりと示して終わって欲しいと思う。
 次回も楽しみだ。