イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

チェンソーマン:第12話『日本刀VSチェンソー』感想

 かくしてそれぞれの決着に辿り着き、青年たちの日々は続く。
 アニメ・チェンソーマン、最終話である。
 お話としてはアキくんとデンジくん、二人の青年がそれぞれの角度から敵と過去に向き合って、タマにケリ付けて汚い鎮魂歌を捧げ、夏への扉を開けるまでである。
 底なしな存在感を放つマキマの謎やら、デンジくんが記憶の底に封じたものやら、儚げ激ヤバ女職人こと上田麗奈の声帯が唸る謎の少女やら、ヒキを大量に残しつつ一旦の幕。
 どーなんだろうねぇ……元のコンテンツがデカい上に相当リキ入ったアニメ化なので、一回アニメ化してお仕舞たぁならないんだろうけども、どう繋いでどう作っていくか、当然未来は見えない。

 だから今目の前で幕を閉じたものの感想を、ちゃんと書いておこうと思う。
 正直な話、このアニメどう受け取ったもんかずっと自分は迷っていたし、終わってなお答えは出ない。
 アニメの感想書き続けてればそういう事はよくあるし、そうなったときの解決法は常に、とりあえず書くことだってのぐらいは、一応学習もしている。
 なので始めよう。

 

 

 

画像は”チェンソーマン”第12話から引用

 お話は前回を引き継いで、アキくんと沢渡……彼女が操る幽霊の悪魔と、その元の主である姫野先輩との対峙から始まる。
 最大戦力であるヘビの悪魔ではなく、幽霊の悪魔を沢渡がぶつけたのは、恐怖と動揺こそが悪魔の糧であり、”マトモ”なアキくんを揺さぶるにはバディの死と尊厳を踏みつけに出来る、盗んだ悪魔をぶつけるのが得手と考えたのかもしれない。
 たしかにアキくんは荒れ狂い、未来が見えてなお追い込まれ首を絞められ、敗死の直前まで持っていかれる。
 恐怖と不安は、人間を弱くし悪魔を強くする。

 それを沈静化させる魔法の道具は姫野先輩との思い出の中にあって、幽霊の悪魔が固く握りしめた掌(それは一度、アキくんを殺そうとし、必死に切り開いた掌でもある)を開けると、思い出のタバコに”Easy revenge(気楽に復讐を!)”との言葉が刻まれている。
 幽霊の閉ざされた目は、恐怖だけを見る。
 ならば一服するような足取りで青い花畑を抜けて、心乱さず決着を付けに行くアキくんの存在を、幽霊の悪魔は感知できない。

 

 そういう境地までアキくんを進めた(あるいは戻した)のは、タバコという嗜好品に込められた人の絆であり、火をつけてしがめば灰となって消えてしまう虚しさと、確かに心落ち着ける不思議な味わいが入り混じった、確かな思い出だ。
 それを掴み取るときの、アキくんの掌。
 あるいはそう遠くない死を見据えつつ平静な思考の中で、死んでなお微笑んでいる相棒の瞳。
 殺し合いの真っ最中だというのにカメラはとても透明で静かなものを、ゆったりと切り取ってきて、それはとてもこのアニメらしい視線だな、と思う。
 勿論この後ドッタンバッタン大騒ぎな、デンジくんの”赤”と対比させる意味合いも濃いのだろうけど。

 沢渡はアキくんから姫野先輩を殺して奪い、その悪魔を凶器に握りつきつけて、激情と恐怖を誘った。
 自分のことが見えていないし、見えていないからこそ進めると語っていたアキくんはそうして死にかけ、一服して気楽に殺すよう相棒からアドバイスを貰って、自分を見つめ直す。
 自分の中に残響している姫野先輩が、どんな顔をしていたかを思い出す。
 そんな風になかなか良く見えない自分の顔を反射し、悪魔を太らす恐怖を乗り越えて進む手助けが、自分以外の誰かの中にしかないのだとしたら。
 デンジくんに『まぁまぁ気に入ってる』暮らしと繋がりを手渡してるアキくんもまた、最悪な連中が押し付けてくるクソみたいな闘いに勝っていく手助けを、多分している。

 そしてその確かな、人間らしい手触りが必ずしも絶対の正解なんぞじゃなく、死だの暴力だの理不尽だので簡単にひっくり返ること……その時、強く強く誰かと繋がればこそ思い出が呪いになっていくことも、この世界の事実だ。
 色んな人と共に生きたり、心地よくてずっと続いて欲しいなと思ったり、そんな願いをぶった切って残酷な運命が襲いかかってきたり、色んなことが起こる世界。
 そこを進んでいく以上、この静かな決着もアキくんの終着点ではない。
 姫野先輩がいる場所にはアキくん『すぐに行く』が、『今行く』わけではないのだ。

 それでもアキくんは、色んなものを奪われてなお捧げ、終わらない復讐にしがみつきながら、不思議な静けさと寂しさと爽やかさをずっと身にまとったまま、人生を転がっていく。
 後ろ向きではなく、前の方へ。
 青い血を撒き散らしながら汚れることもなく、大事なものを確かに受け取り重荷を増やしながら。
 そんな彼が僕は誇らしく大好きで、やっぱり寂しく悲しい。

 

 

画像は”チェンソーマン”第12話から引用

 そんな家主に口うるさいこと言われ続けてる悪童達は、地獄の修行で絆も深まり、二人タッグで最終決戦! ……と思いきや、パワーちゃんは勝手に吹き上がって勝手に暴れて戦線離脱した。
 大人の事情、世の中の常識、みんなまとめてクソ喰らえ。
 極めて自分に素直な二人が、お行儀よく背筋を真っ直ぐになんぞしないまんま進む道はデコボコ荒れていて、不思議にまっすぐでもある。
 アキくんやら岸辺やら姫野先輩やら、脳髄のマトモ中枢が元気な人達が必ず引っかかって、復讐鬼気取ったり酒でぶっ壊したりぶっ壊しそこねて死んだりしてる厄介な荷持を、持っていない野生児達のイノセンス
 それが野良猫の兄妹のように無邪気に睦み合っている姿と、バカだから大事なこと見落として大ポカするところは、血なまぐさいお話の貴重な清涼剤だ。
 それもまた、死地と日常の先に続く物語の中でいつか、なにか大事な思い出を手渡してくるのか。
 その決算は、まだまだ先の話ではある。
 今はパワーちゃん、血みどろに華麗におバカにひたすら、踊るのだ。

 

 

画像は”チェンソーマン”第12話から引用

 かくしてデンジ少年、クソみてーな過去からの刺客と決着をつけるギリギリ限界バトルに、一人で挑むことになる。
 もみあげ野郎がほざく身勝手な寝言は、身勝手な寝言なので聞く必要がないとして、姫野先輩の死に……誰の死にも泣けない自分の冷たさに思い悩んでるデンジくんは、やつの指摘するように人間やめちゃっているのだろうか?
 色んな奴らが付け狙う、チェンソーの心臓を手に入れてしまった宿命は、彼自身よく分かってない”人であること”を壊して、結構マジに憧れてる”マトモ”から遠ざけていくのだろうか?
 その答えを知るためにも、目の前のクズをぶっ飛ばして仕事を終える必要がある。
 いつだって、足を止めて自分に目を向ける時間なんてありゃしないのだ。

 アキくんと沢渡の闘いが静謐な内省を巡る蒼い闘いだったのに対し、サムライソードとの決戦はバキバキ動きまくり色々壊しまくりの血みどろクリムゾンバトルである。
 デンジくんはゾンビになってぶっ殺したヤクザの事を思い出さないし、クソヤクザも思い出のアイテムを奇跡のように手渡してくれるわけではない。
 それは引き裂いて振り千切り、とっとと終わらせるに限るクソみたいな因縁であり、そういうヤツほどしつこくて手強かったりもする。
 十字の構図が鮮烈に、幾度も顔を出すスーパーバトルは徹底的に現在進行系であり、その決着は岸辺との修行で得た、狩人の奸智で付くことになる。

 両腕を落とされ、頭のチェンソーに意識を居着かせて、必殺技に困ってる様子を見せて攻撃手段を限定。
 『騙し討ちでカウンターしてください』と言わんばかりの状況に、まんまと首を突っ込んでサムライソードは両断される。
 それは最初の接触の時、不意打ちに殺された意趣返しのようでもあり、自分を幾度も騙して殺した岸辺先生への、殺しの解答書のようでもある。
 とにかく真っ赤で血みどろで、後ろは振り返らず難しいことは考えない。
 赤と青の決戦を最終話にまとめて入れ込み、早川アキとデンジのキャラクターの差異を際立たせる構成になっているのは、結構好きである。
 ……思い出に縛られて復讐に呪われてるアキくんには”早川”という姓、そこに紐づいた過去があり、記憶を夢の奥の暗い箱に封じ込めてるデンジには”それ”がないの、今気づいたけど、まーエグいわな。

 

 

 

画像は”チェンソーマン”第12話から引用

 かくして法と正義が少年たちに追いつくまでの一瞬の間に、デンジとアキくんはスッとするわけがねぇ結末を少しでもスッとさせるべく、全力で睾丸蹴り上げ祭りに興じる。
 印象最悪のファーストコンタクトから、顔面殴られ金玉蹴られで始まった二人の関係は、小学生が下校時間、益体もない遊びに興じるようなド下らなさに行き着いて、なんかいい感じに美しい風景を映して終わる。ハンタ好きすぎだよなーどう考えても……。
 大事なボールをボールにされたモミアゲ野郎は災難であるが、まぁお前逆恨みで人殺しのクズだしな……こういう形で人様の役にも立てて、功徳なことだよッ!

 金玉蹴り上げ祭りはまーまー最悪の絵面なのだが、しかしデンジくん的には訃報を聞いても泣けなかった先輩の死に自分なり決着と理屈を付けて、人間らしく悼む……フリをしてみる営みとして、大事な儀式なんだと思う。
 人間として大事なことが何か、義務教育ごとすっ飛ばした少年はこういう形で”Easy revenge”を果たして、死んじゃった人、その人と確かに一緒に生きていた思い出にケリを付けていく。
 後生大事に抱え込んで腐らせるでもなく、ケロッと忘れて禽獣のように生きていくのでもなく、自分なり自分らしく。
 そこに乗っかるアキくんの殯が、この狂騒で終わらなかったことは、EDカットが雄弁に語ってもいく。
 マトモを知らねぇぶっ壊れクソガキも、マトモだからこそややこしい復讐の鬼も、それぞれ色々大変なのだ。

 

 

 

画像は”チェンソーマン”第12話から引用

 あまりに唐突に決着する事件と、ぶっちぎられる沢渡の首。
 それを語るマキマの目は、今までずっと描かれたように揺れずに静かに燃え続けていて、良い存在感だ。
 その奥に何が隠れているかを照らさないまま、早川家に日常は戻り、ご馳走に舌鼓をうってクソガキ共が騒ぐのを、アキくんは満更でもなさそうに見つめている。
 そこはメシのかわりにタバコ食わされていたデンジくんや、ニャーコ以外全てどうでも良かったパワーちゃんが見つけた『まぁまぁ気に入ってる』場所であり、沢山人が死のうが、真相が闇の中に沈もうが、決着の先にさらなる最悪が待っていようが、日常ってのはいつでもありがたい。
 デンジくんの悲惨な幼年期を象徴する”タバコ”が、ここで荼毘の火として終幕を飾っていく構成自体が、アキくんが家長として何を作り、何を包み、何を与えたかを、鮮烈に語っている感じもある。

 たらふく食ったガキどもを部屋において、アキくんはベランダで最後の一服を燃やしていく。
 復讐も煙に消えて、なにもかもいい感じにまとまって、何を恐れることもない境涯で進めるほど、アキくんの抱え込んだ荷物は軽くないし、ここにたどり着くために捧げたものも多すぎる。
 それでもアキくんは、自分を救ってくれた思い出のタバコを燃やして、煙にしてしまうことを選ぶ。
 死体すら残らず、マトモな葬式も挙げられなかった姫野先輩に、たった一人で捧げる葬礼の火。
 そっちを早川アキなりの決着としてクローズアップして終わるのは、まーこのアニメらしい視線だな、と思う。

 

 デンジくんの汚ったならしい食い方と、ススーッと寿司を口に運ぶ早川アキの所作……そこに宿る”育ちの良さ

”を、丁寧に切り取って重ねていくアニメの描線。
 それは原作の粗雑でパワフルな……そうなるよう才気と計算を全力で叩き込まれた筆致とはやはり異なっていて、しかし根っこは同じな気がしている。
 僕はアニメが見せた、青を下塗りにまとめあげた繊細な色合いが肌に合うし好きだから、お話の根っこに静かな内省が色国宿っているこのアニメの作り方は結構いい感じだった。
 同時に原作が生み出し得たものを結構な量スポイルして、特定の角度に力点を置きすぎてるきらいがあるのも、確かなことだと思う。
 そんな”アニメ化”をどう評価するかは人によるだろうし、もっと微細にいらん言葉遣いをすれば、その人の中の”チェンソーマン”と、それを好きなその人がどんな塩梅なのかが複雑に絡み合った、結構面倒くさい領分だと思う。

 僕は他人の評価てのが強めのノイズになってしまうタイプなのに、そういう声を遮断して自分だけを信じて何かを編んでいくことも難しい、なんとも惰弱で厄介な人間だ。
 この”アニメ化”を巡る諸評価も勝手に拾い上げて揺れて、『俺、結構好きなんだけどな……』をどこに置いたもんか途中で悩み、筆が迷ったりもした。
 しかし最終話、監督がコンテ演出に戻って紡がれた絵にはやっぱ統一感と意思があって、彼なりの”チェンソーマン”は結構良いもんだなと、想う自分を掴み直せた感触があった。
 最後の最後、すげー『”チェンソーマンのアニメ”』らしい話数が来たのはこのアニメなりの総決算な感触があって、嬉しいもんだったのよ。

 このアニメ化になんらか軋みを感じるとすれば、それはこの青く静謐でナイーブな内省が基調としてあまりに強すぎて、やや一本調子な印象を受ける所なのだろう。
 もうすこし猥雑な……それこそ原作の粗い描線に魅力的に跳ねていたような野放図を、思弁の檻をぶち破って混ぜ合わせて活かすことが出来ると、また新しい面白さが生まれてくる感じもする。
 しかし再三言っているように、このアニメの基調になっていた静けさと寂しさは僕の肌にあって、とても好きだ。

 

 

画像は”チェンソーマン”第12話から引用

 そんなお話のエピローグは、いつもみていつも忘れる夢に封じられた影と、意味深に描かれる夏と少女……そして同じく閉ざされる喫茶店の扉で終わる。
 閉じるということはいつか開けるということであり、ここに刻まれたものの封を開け放って、中にみっしりと詰まってるロクでもなさとやるせなさと切なさを再び、透明な絵の具でアニメにしていく時を、少なくとも望んでいる終わり方であろう。
 最初に書いたように、この先『チェンソーマンのアニメ』がどうなってるか、外野からの勝手な推測はできても未来は分からない。

 しかし新たに紡がれるだろう、この2つの扉の向こう側の物語が面白く、時に過剰なほどに静謐な雄弁さに満ちていることを、僕はやっぱり願っている。
 面白いアニメであり、面白いアニメ化だと思いました。
 お疲れ様でした、ありがとう!!