イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

大雪海のカイナ:第1話『天膜の少年』感想

 ポリゴン・ピクチュアズが40周年の記念に贈る、弐瓶勉原作の一大プロジェクト……そのアニメ版第1話。
 文明と人命を吸い込む白い雪の海、天を埋め尽くす生物的な膜、それらを繋ぐ絶海の大樹。
 ファンタジック限界集落の素朴な少年と、黒尽くめの邪悪な帝国に追い立てられた皇女が出逢う時、運命は動き出すッ!! という第一話。
 オレンジが”TRIGUN STAMPEDE”、サンジゲンが”D4DJ ALLMIX”、タツノコ3D部が”ポールプリンセス”と、3Dアニメ精鋭が集った23冬クール……俺がキングだッ! という気合声を(勝手に)聞き取れる、圧巻のスタートとなった。
 いやー凄い……期待してたスケール感を遥かに上回る、バリバリの異世界冒険譚が開始っちまったぜ。

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第1話から引用

 出だしがとにかく良くて、月面を思わせるアルベドの高さで謎の虫を追うモコモコ青年の息吹が、異様な”美”のなかで元気に踊っていた。
 下が白一色の雪海なので、反射光が異質な鋭さで差し込んできて、しかしそれがこの天上世界では当たり前である……っていう説得力、この強い光に取り囲まれながら青年は生きているのだという実感が、スタートから強い。
 少年と青年の中間期……運命に出会い旅出つベストタイミングにいるカイナくんの、賢明で素朴な人柄をどっしり描くことで、秘境であり絶景でもある天膜に確かに息づく”生活”がこっちに染み込んできて、良質なドキュメンタリーを見ているような気持ちになれた。
 ここらへんは細谷さん絶品の演技が最高の仕事をしてて、タフでありながらナイーブであり、生まれ育った場所に愛着を持ちつつ旅立ちの予感に浮足立ちもする年頃の風が、しっかり声に乗っていた。

 

画像は”大雪海のカイナ”第1話から引用

 Aパートのカイナくんはキモい虫を獲ってジジババと飯を食い、古き遺物たる日本語看板を学習するだけだ。
 派手なことは何も起きてない、世界の果てで繰り返されている彼の日常パートなんだけども、そこに積み重なっていく文化と自然はとても異質で、だからこそワクワクする。
 『何だこれはッ!?』という驚愕を、さらっと流して作り込んだ世界観で殴りつける腕力が大変高く、視聴者からすれば驚きの連続で、カイナくんからすれば毎日の当たり前な景色を、作品の中と外とギャップをしっかり生かしながら描いていく。

 この落ち着いた筆致は集落の空気、そこで育まれているカイナくんの性格を伝える助けにもなっていて、命の水が枯れ透明な大地が砕け、滅びが近づきつつある大地でそれでも生きなければいけない”善”の手触りが、ホッコリ伝わってくる。
 ジジババへの対応から見えてくるカイナくんの人格が大変いい感じで、点火スイッチすら押されていない段階で、この後の大冒険への期待が高まる。
 一見素朴で穏やかに見える暮らしが終わりに瀕しており、カイナくんは否応なく運命の旅立ちに漕ぎ出すのだッ! という予感が、色濃く出ているのもいい。
 圧倒的に作り込んだ世界観で、一切の説明なしでぶん殴りつつ、謎めいて興味深い色んな要素を的確にチラ見せし、今後の予兆を創る。
 自分たちの強みを把握した”絵に喋らせる作り”が、異世界に飛び込む最高の足場になってくれている。

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第1話から引用

 人の営みを丁寧に編み上げる手付きは、とんでもない想像力が奔放に踊る絶景たちと、見事な共犯を成し遂げている。
 生物学的なフォルムをもった天膜の世界、星に近い場所特有の強い光、その足下に広がる雪の海。
 Aパートで展開されていたほっこり異世界ローカル生活と、隔絶され繋がっている外界には死と闘争が満ち、純白の世界は容赦なく人命を飲み込んでいく。
 異様さで驚かせる部分と、描写で納得させる部分のバランスがかなり良く、『このふわふわの海、落ちたらどうなんの?』という視聴者の疑問に、手際よく答えてる所とか大変良い。

 イヌイット腐海の民が合わさったような……と、無理くり既存の在りものを持ってくると逆に心を捉えそこねる、オリジナリティの濃い異界の描写。
 何しろ(文字通り)文明の足場からして普通じゃないから、そんな環境で育まれる社会や常識にも沢山異質なものがあって、しかしそれは異世界の只中で生きる者にとっては”当たり前”である。
 だからこの美しすぎる情景に人々は感動しないし、むしろ残酷で厳しい彼らなりの当たり前として、狩りをして命をつなぎ闘争に血を流していく。
 いい意味で視聴者の方を向いてない心地よい置いてけぼりと、しかし当たり前の歩幅で突き進む物語に置いていかれない……むしろ積極的に付いていきたくなる牽引力の同居が、脳髄を揺さぶる新しい情景体験としっかり噛み合っている感じだ。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第1話から引用

 滅びの気配をまとわせつつも素朴で穏やかな天上のAパートから一転、死の雪海に包囲されたBパートは血生臭く運命を踊らせる。
 カイナくんパートでは『人がいない』ヤバさを語りつつ、姫様パートでは『人がいるからこそ』の争いが発火してるの、物理的に大きく隔てられた二つの舞台が価値観的・社会的にも別の場所であると理解らせてくれて、かなり好きな作りだ。
 『邪悪な帝国の尖兵』と額に刻まれてる漆黒兵団(武器は骨で出来た手斧ッ!)の邪悪さも良いし、姫様を最後の希望と文字通り体を張って、空に送り出していく臣下の生き様も映える。
 敵の邪悪船が攻撃兵器として、投石機積んでるのも最高なんだよな……生々しくロクでもない。
 どうやらドンパチに忙しい(くらい、まだまだ人間がいる)地上から空に上っていくために、なんかキモい生体風船をハーハーいいながらとっ捕まえるシーケンスがどっしり長いの、『俺たちは俺たちが作り出した嘘っぱちの世界で、マジで生きてる連中を書くからよー!』って気合が感じられ、大変良かった。

 人間が織りなす各種の仕事(血なまぐさい殺戮も含む)への細やかな意識は、カイナくんが存在するはずのない地上人と出会い、それを自分の物語へと引き寄せていく手際にも強く反射している。
 キモい生体風船の浮遊力に抗するべく、ワイヤーフックを地面に突き刺す時、カイナくんは一瞬どうしたら良いのか戸惑う。
 そのワタワタした手付きが、彼が未だ未完成の少年であり、しかし無力なまま眼の前の命を潰えさせてしまう存在でもないことを、上手く教えてくれる。

 頼りないところはあれど、性根が優しく地力があって、未知の運命に心が燃えている。
 そういう男のもとに、国と臣民の運命を背負って天を目指した皇女が迷い込んでくるって……ワクワクしかしねーだろッ!
 話の大筋や各キャラの属性は大変オーソドックスな冒険物語ながら、世界構築と道具立てが奇妙かつ魅力的なので、ありきたりな感じ一切なし。
 むしろベーシックな造形を丁寧に見せてくれる手付きが、今後展開していく物語の果てしないスケールを予感させて、そういうの大好き人間としては期待袋がマジパンパンです。

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第1話から引用


 異世界のワケわからねぇ面白さをたっぷり食わせた上で、お話の輪郭と行く先は的確に示されてもいて、戸惑い少なく新鮮味にかぶりつける、大変良いスタートとなりました。
 ここから広大な世界に飛び込み物語を牽引する主役が、ツラも内面も声帯も最高に可愛いの、マジ今後も前のめりに見続ける最高の足場。
 高貴と悲愴の片鱗を導入から見せつけてる姫様と、どういう関係を作りどんな冒険に飛び込んでいくのか。
 来週から紐解かれるカイナくんの物語が、とても楽しみです!!