イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

大雪海のカイナ:第4話『鎧の戦姫』感想

 とどまることを知らぬ運命の荒波は、天から降りた青年を新たな場所へと押し流していく。
 姫様さらわれてさぁ! 王子様と奪還作戦開始だ……の手前な、大雪海第4話である。
 大雪海の下やらアトランドやら、新しく背景世界の情景が広がって作品理解が広がりつつ、展開としては一旦タメ気味。
 実際に刃を突きつけ合う闘いが描かれたことで、カイナが身を置いてきた争いなき(争い合うほど人間が残ってない)天膜文化の異質性と、水を巡って殺し合う地上のやるせなさが良く見えた。
 眼の前で殺し合いが始まるとどうしても戸惑ってしまうカイナを、一瞬不甲斐なく感じてしまう自分自身が良くないルールに染まりきっているのを感じて、異文化と向き合う面白さをアニメの中から感じてもいる。
 殺し合ったら死んじゃう。
 素朴で当たり前の指摘だが全くその通りで、それでも殺し合うのだからなんとも人間は愚かしく、難しく、面倒くさい。
 さらわれたリリハを追って政治闘争の真ん中に飛び込んでいくカイナは、そこら辺の事情にどう対峙していくのだろうか?

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第4話から引用

 それは先の話として、まずは地上人が血しぶき舞い散らして”政治”する現場が描かれていく。
 雪海の下の風景は幻想的だが、なんか良くねーピンクのフジツボみたいのが軌道樹にびっしり張り付いてて、生活インフラが枯渇しつつある原因を教えてる……のか?
 似たようなのがアトランドでももっそり繁茂してたけど、住人は特に気にかけていなかったので、地上では半ば当たり前の光景なのかもしれない。
 どっちにしても夢のような風景は一瞬のことで、バルギアに確保された姫様は迷わず剣を取って、敵と闘い意思を通す道を選ぶ。
 天膜文化圏にはなかった状況にカイナは戸惑い、話し合いが通じない速度で煮立っていく暴力に即応できない。
  天幕での生活や軌道樹下りではあんなに頼りになったカイナが、人間が頭を寄せうあからこそ発生する問題には後手に回るの、興味深くも哀しい描写だな、と思う。

 ポリピク謹製の3Dチャンバラにはなかなか鋭い剣筋が宿り、アメロテとオノリガ、手練が打ち合う緊迫感が濃かった。
 目標発見してから両陣営の詰め方とか、カタパルトの死角に潜り込む軽便なアトランド兵と、地力と数に勝るバルギアの対応とか、軍事集団としての書き方がなかなか良かったと思う。
 敵も味方も血を流し、カイナも弓を構えて戦に参じようとするが、ひたりと機転を制されその弓は地面に虚しく刺さる。
 戦慣れしていない天膜人の無駄な抵抗と、殺してなお囚われた姫様の血濡れの刃が横並びに描かれるカットには、異世界でも変わらずカルマこねくり回してる、人間の救われなさが色濃く滲んでいた。
 アメロテ様剣戟するたびに謎の駆動音鳴ってたけど、バルギアでは旧世代の技術を駆使した、スチームパンク義肢が実用化されてんのかねぇ……。

 希望を懐いて天に登り、失望しつつも暖かく歓待されて降り、生活を共にして縁を深めていく。
 今までのエピソードに宿っていた冒険物語の味わいとは、また違った暴力的性急さ。
 話し合いなど必要ない、そんな余裕は欠片もないこの土壇場も、また人間のあり方の一つであって、地上に降りてしまった以上お話はこういう空気をカンバスに転がっていくのだろう。
 結果姫様は政治のコマとして敵国に囚われ、敗残の兵はおめおめ故国に帰っていく。
 さて、異文化から旅立った天人は血腥いこの場所で、どんな風に道を定めていくのか?

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第4話から引用

 その一歩目となるアトランドは世界規模の限界集落だった天膜に比べると賑やかで、カイナは思いっきり浮いている。
 王様はいなかったから偉い人にも友達感覚で、お土産と差し出すのはくっせぇサナギで、国としては当然の保安対応にも馴染みがなく、なんともケツの座りが悪かろう。
 姫様と二人きり、軌道樹降りてた時には”虹”まで見て親密な空気作れていたのに、国が絡むと途端に血飛沫色に染まって、一対一の体温ある対話が遠くにぶっ飛んでいく違和感は、カイナくんにとっちゃ収まりが悪かろう。
 それでもなんとか、『仲良くしましょう』で国家元首に手を差し出すのが彼のスタイルであり、それは地上の垢に揉まれたとしても失わてほしくないな、と思う。

 国と家族を天秤にかければ、国が重たい王家の定め。
 世界情勢と現在の状況をフレンドリーに分かりやすく説明しつつ、姫様救出に向けて差し伸べてくれられたヤオナくんの手を取って、カイナは自分を前に進めていく。
 高地順応のための酸素ボンベが、根を伝って海を征く新たなルート開拓に繋がっていくのは、カイナが(文字通り)背負う異文化が何かを成し遂げてくれるという、期待を高めてくれる良い展開だった。

 バルギアが一種のノマドであると分かったことで、地上の定住民とどうにも折り合いがつかない現状も噛み砕きやすくなったが、目減りしていく資源を巡る争いは本当に、お互いをすりつぶす戦争以外に解決手段がないのか?
 東亜重工由来のロステクで逆転環境改善、なんとかみんなハッピーになれる結末を看板読みの知恵を継いだカイナくんが、ドカンと一発打ち出してくれる未来に一点賭けしたい気持ちだなー今は。
 おウマさん(大事にされてて可愛い)も乗り手も、無情に使い潰していく簒奪戦はあんまり実りも救いもなくて、どっかにこー、このファンタスティックな世界を土台から救いうる都合のいい魔法を求めたくもなる。
 ここら辺はバルギア側の都合が描かれてくると、また見え方が違ってくる部分かもしれない。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第4話から引用

 王族だけに知らされた秘密の抜け道を、逃散のためではなく奪還のために使い、王子は異国の装束に身を包んで明日へ踏み出す。
 いまいちアトランド宮廷では浮いてたカイナくんの生活感に、当面の相棒になるヤオナくんがモコモコ衣装を身にまとい、同じ目線で寄り添ってくれる仕草が嬉しい。
 やっぱ俺はこのお話に漂う衣食住の質感が好きだからね……リリハが大事にしてくれたものを、彼女を助けようとする人も大事にしてくれていると、連続性を感じられる。
 姫様の方は暗黒国家の闇牢獄で不安な日々を過ごしているが、さて善意という蟷螂の斧を振りかざし、戦争という大きな獣に挑まんとする勇者たちの行方は!?

 ……というところで、今回はお終い。
 冒険活劇に血腥い戦争と政治の匂いが加わり、またお話の味わいが変わってくる回でした。
 カイナくんが出会い戸惑う地上の現状が、今後どう転がっていくのか。
 衝突待ったなしの厳しい現状を生み出している、枯れゆく世界を救う手立ては何処にあるのか。
 世界樹の根をたどり新たな旅路へ進み出すお話の、次回も大変楽しみです。