ヴィンランド・サガ SEASON2を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
季節は秋から冬へと移り変わり、労働を通じて何かが芽生えつつあるトルフィン。
満たされる資格など、怒る権利などないと、蔑する空虚に積み重なる生きる喜びと、湧き上がる怒り。
愛ゆえに縛られ、憎しみゆえに殺されるこの地上から、我らは何処かへ行けるのか。
そんな感じの元少年兵の土まみれ生き直し日記、実りと光の秋から寒々しい冬へ、景色が移り変わるヴィンサガアニメ第8話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
オッサンの濃い顔面をたっぷり堪能させる、このアニメの良いところを存分に味わいつつ、情景や描線に強い意図を込めた川尻コンテが良く冴えていた。
畑を耕し、屋根を拭く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
戦士時代は知ることもなかった、奪うのではなく作る側の苦労と充実を、トルフィンは知っていく。
その”人間らしさ”は、狭い了見で誰かを踏みつけにしなきゃ自分を支えられない、当たり前に卑しい小作人共を不安にさせる。
獣以下のカスがいなきゃ、俺がヒトだと確かめれない。
差別の本質が不安の解消にあると、非常に泥臭くイヤーな味付けで描く物語は、さんざん苦労して作り上げてきた麦を踏みにじって、湧き上がった怒りが他人の顎を砕く、最悪の連鎖にたどり着いていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
殺し殺されの”ヴァイキング”じゃなくても、人間性の底辺はあらゆる場所に踊っている。
あるいは今回の惨状が遊びにしか思えないような、もっと剥き出しの最悪が今後待ち構えているのかもしれないが、剣を握っていなければすぐさま平和に、正しく生きれるわけではないと、今回のお話は語る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
戦士には戦士、農夫には農夫なりの、クソのひり方というものがあるわけだ。
それが他人事じゃないことをトルフィン烈火の拳は証明したわけだが、怒り殴ることは彼を奈落に突き落とす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
悪夢の中、必死に堕ちないようにしがみついていた人間性の崖。
罪悪感と宿命が、強すぎる引力で彼を引く中で、今まさに何かを育て、掴みつつある手が光に近い場所に食い込む。
奪い奪われ、憎み憎まれ、殺し殺され。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
その真っ只中に飛び込み泥に汚れることでしか、繰り返す悪夢から抜け出すすべはないのだとクヌートが選んだ岐路に、トルフィンも実は立っている。
奪うのか、守るのか。
人生を選ぶ時が、必ず来るのだろう。
今はそのための修行時代…というには、あんまりキツい
他人と自分が放った拳に打ちのめされ、殺戮の奈落に墜ちたトルフィンが、目覚めて求めるものはなにか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
作品が描くべき夢の滑走路として、地道な現実…そこに宿る様々な予兆を豊かに描く、大変このアニメらしいエピソードでした。
血しぶきに汚れても土にまみれても、どっちもどっちの苦しさだわなぁ…
トルフィンは誰かの手に引きずられ、奈落の底に落ちる垂直方向の悪夢に捉えられている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
それを覚えていられないのは、自分を苦しめるものが何なのか、罪悪感の根源を見据えられていないからだ。
何に間違え、何に誓い、何を掴むべきか。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第8話より引用) pic.twitter.com/40Ef1F9zQn
麦の育て方も屋根の拭き方も知らねー人間一年生は、壮絶な体験にズタズタにされた心の置所も、涙の流し方も知らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
”落ちる”悪夢が何によって癒やされるべきか、穏やかな日々の始まりを告げるつるべの上昇で語っているのが、生活感のある良い描写だ。
それは、トルフィンの魂を高みへ押し上げる。
そこで汲まれた水に己を照らし、泣けない(つまりは泣きたい)心が雫と垂れる未来に、トルフィンはいまだたどり着けない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
しかし積み重なる時間、エイナルと紡ぐ絆は確かに希望へと続いていて、藁と一緒にトルフィンは心の重荷を、低い場所から高い場所へ、共に生きる仲間へと預ける。
父を殺し、自分を育んだ男の名前と、それに連なる自分の過去を言葉にし、預けれるようになったこと。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
それをエイナルがしっかりと受け止め、縄でつなぎとめて行くこと。
屋根ふきはありふれた日常の仕草であり、奈落から現実へ自分を引き上げようとする、トルフィンの心の動きを反射する。
エイナルは相棒が訥々と語る己の空疎さを、同情するでなしガッチリ隣り合い、絶望の先にあるものへ一緒に進んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
日々を生き、何かを作り、己を満たす。
スヴェルケルが告げる知足の暮らしにこそ、眩い救いはあるのか。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第8話より引用) pic.twitter.com/TDBiFbq3MO
屋根ふきから投網漁へ、垂直から水平へ暮らしの描線が移り変わる中で、水面に写った陽光が金の十字架に思える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
復活祭の斎を己に課すキリスト者が、言葉だけでなく助力と保護と一緒に差し出してくれる、人間の証明。
美しい秋の景色は薄暗い灰色に覆われても、確かにそこにあるはずの希望。
その手触りを一つ一つ確かめながら、トルフィンは帰り道を一緒に進んでくれる相棒と、既に死んでいないはずの戦鬼を同じ場所に見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
未来に何かを育むべきか、後悔と思い出に引きずられるべきか。
何もない男は悩みながら、己を探して彷徨っている。
それが孤独でも無意味でもないと、告げる筆が良い
己が何者であるか深く悩みつつ、トルフィンは誰かを踏みつけにして自分を立てることをしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
それをやる一番手っ取り早い道具で切りつけたものが、他人の命だけで終わらず自分の心も引き裂いたからこそ、トルフィンは空っぽの自分に苦しんでいるのだ。
それを知るだけ、彼は賢い。
トルフィンの悩みには罪悪感の足かせがハマっていて、憎悪に突き動かされて自分がしでかした悪行の重さを、理解しているからこそ前には進めない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
そこら辺があらわになる中、世界は冷たい冬の色に染まっていく。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第8話より引用) pic.twitter.com/u5BOTMbq0n
エイナルが”ヴァイキング”の顔をするほど怒り、絶望するのは、家族と故郷を奪った連中とは違う、土の重たさを知るはずの小作人共が麦を荒らしたのが、大きいと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
麦にどれだけ汗と血が染み込むか、農夫なら当然分かっているはずなのに、だからこそ踏みにじる。
それが激情と憎悪ではなく、酷くべとついた嘲弄と不安から染み出していることも、灰色の質感をより強くする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
奴隷が小作人と一緒に扱われるのは、あってはならないこと。
血のインクで人権宣言が書かれた後の世界に住む自分には、受け入れがたい差別意識こそが、この時代の当然だ。
生きて然るべき”俺たち”と、世の中の理不尽全部を背負わされて死ぬべき”奴ら”。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
これを切り分けることで群れは群れとして成立し、人間は社会的・文化的諸制度によってこの分断を強化する能力が、極端に強い。
踏みにじっていい誰かがいることで、自分の足場は安心だと確認するための、様々なシステム。
奴隷制度が労役を押し付け生活を守るためだけでなく、精神的安定の保護装置としても機能している事を、小作人の暴虐は良く語る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
生き死にを自分で決められない立場に押し流されてなお、エイナルは『俺は人間だ!』という魂を持ち続け、強く誇り高く生き続けている。
トルフィンの乾き凍った心も、その熱故に溶け出してきている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
だからこそ、”人間”として農夫として当然湧き上がるエイナルの怒りに、トルフィンは同調できない。
そんな資格は、俺にはないから。
人殺し以外何も知らない、罪人だから。
その必死の呻きが、エイナルの殺意を一旦抑える。
復讐を奪われ剣を捨て、一旦どん底に落ちたトルフィンが奈落から這い上がる相棒が、めちゃくちゃキレる普通のアンちゃんなのが、俺は凄く良いと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
エイナルは聖人ではない。
女に鼻の下も伸ばすし、人並みの幸せは欲しいし、憎悪に押し流され誰かを殺し、安心を得たい気持ちだってある。
しかしあの月夜にトルフィンの首を諦め、今相棒が自分の過去から、傷ついた魂から絞り出す言葉を受け取って、一旦憎しみを納める決断を、このアンちゃんは果たしている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
それが出来るのが人間だし、それが出来ないから大半が、人間以下の畜生に墜ちていく。
”ヴァイキング”になっていく。
めちゃくちゃずっしり、土地を拓き麦を育てるのがどんだけ大変か描き続けたことで、エイナルの怒りも、それを諫めるトルフィンの冷製も、生々しい重たさをもってこちらに伝わる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
それは時代を越えて描かれた当たり前の日々で、生々しい苦しさと喜びを込めて人は生きていて、こんなに簡単に壊れる。
その重さを、土に手を汚して自ら知ったからこそ、トルフィンは己に怒る資格が無いと絞り出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
自分が何を奪ったのか、骨身にしみて解ってきたことで、思い出せない悪夢の中へ…その先へ進む出す準備が、からっぽの男に確かに整いつつあるのだ。
そしてそれは、暴力的に激発する。
頭ではああ言ってても、下卑た口を黙らせる一番手っ取り早い手段を、怒りに任せて手に取る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
結局殴り殴られ、殺し殺されに戻ってきちまう自分が、どう転がっても消えてくれない事実に引っ張られて、トルフィンは奈落に落ちていく。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第8話より引用) pic.twitter.com/IbAw2pr8xy
自分が”上”なのだと確信した小作人の唇は、いかさま”ヴァイキング”的な野卑に満ちている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
奴らが肉を食らう時、女を犯す時、人を殺す時に浮かべていた表情は、別に剣を握っていなくても滲むのだ。
それをぶっ壊したいと思わず体が動いた時、トルフィンも同じ顔をしている。
落ち着けひとまず沙汰を待てと、一端の理性人めいたことほざいていても、畢竟人間と世の中は『こんなもの』なのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
そのニヒリズムこそが、トルフィンを奈落に引き込む絶望の根っこだ。
愛されて繋がれ、憎まれて殺される。
出口なき現世の息苦しさが、かすかに見えた光を奪って少年を落とす。
何も考えずに殺して奪って、それが当たり前の”ヴァイキング”の物語が終わって、何も考えずに奴隷をあざけって、また殴り殴られの農夫の物語が続いていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
舞台と職業を変えても人間の救われなさはおんなじで、どこに行っても強くも自由にもなれず、おんなじ場所をぐーるぐる。
世の中そんなもんだよと、耶蘇も釈迦も垂訓垂れているわけだが、同時にそこから抜け出す微かで細い道が確かにあると、体と魂張って吠えたから彼らは聖人なわけで。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
出口なき奈落に叩き落されたトルフィンは、何を手がかりに這い上がっていくのか。
答えは既に、屋根葺きと投網漁の日々に刻まれている。
人間の物語である以上『生きる』が答えになるのは必然なんだが、喜びも愚かさも丁寧に積み上げていく身体性があることで、観念が上滑りしないのは良い語り口だと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
より良い答えは、誰もが知っている。
誰もがそれを形にできないやるせなさの中で、それでも善く『生きる』とはなんなのか。
屈辱ん中這いずり回って、崖に齧りついて高みを目指す連中と、低劣な生き様を恥じない凡俗を分けるものは何か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月2日
このお話は血と土の質感を大事にしながら、まだまだ書いていくだろう。
だからこそ、特別面白い。
次回も大変楽しみですね。