ヴィンランド・サガ SEASON2を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
そして三年の時が流れ、奴隷は明日を、王は過去を見据える。
晴れ渡る光と重たい曇り空、万色を飲み込んで世界は広く、果てない。
継いだ玉座に滲む泥、青雲の志を汚され、王道未だ遠し。
さらば兄よ、黎明の思い出よ。
我が手に、毒杯と王冠。
そして剣を。
そんな感じのイングランド=デンマーク王クヌート、罪の果ての戴冠を描くヴィンサガS2第10話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
ハラルド王の庇護の元、暴力と時代の本質から遠ざけられ”優しく”あれたケティル。
その庇護下で自分の運命を買い戻せる幸運な奴隷、トルフィンの未来が拓ける裏側で、王に長い影が伸びる。
親世代から何を継ぎ、何を変えていくかはこの一大サーガの重要時であり、繰り返す業に微かな爪痕を残し、無常で巨大な運命に押し流されても行く人間の在り方は、様々な親子関係に照射されている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
血みどろの悪夢から、トールズとアシェラッドに出会い直し目覚めたトルフィン。
果たせなかった夢を遥か彼方、ヴィンランドに見据えだした奴隷が良き縁を”父”と結ぶ中、クヌートは自分が斬り伏せたスヴェン王の幻を、楽土へ繋がる血塗られた覇道唯一の道連れとして、暗く深く刻んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
神が愛さぬこの地上で、永遠の愛を形にするならば、誰よりも強くなければいけない。
その厳しさに身を投げることを、ラグナルの遺骸に誓ったクヌートは、父を殺した刃をより陰湿な毒杯へと取り替えて、兄王を弑する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
二つの首があっては、国は覇を吠える獅子足り得ない。
そのシビアな現実感覚は兄王と一緒に、人間としてのクヌートをまた一つ殺していく。
大したことはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
そう嘯き、もはや誰もいなくなった思い出の裏庭に目を向ける覇王の姿は、いかにも小さく頼りない。
優しくあることが罪悪ですらあった時代に、誰よりも慈悲深くあるために、親を殺し兄を謀る王冠の獣。
それが、クヌートがあの時選んだ道の果てである。
スヴェン王も悪逆なる父を殺し、若き志で国を導かんと立ち上がって、現実に押し潰されるように老いさらばえた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
”殺す”という、現実的で即効性の高い手段を選ぶ以外に王権を掴む手立てはないが、しかしそこに進んだら後戻りは出来ず、奈落へと沈むばかり。
時に、手段は目的を蔑するのだ。
奴隷の立場から解き放たれつつあるトルフィンが、苦難を共にした兄弟と未来を見据える時、そこには目的だけがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
一足早く道を定め、謀略の泥と戦乱の血に汚れることを選んだクヌートの立脚点に、ようやく追いつきつつある…と言えるか。
そして目的のために手段を選ばなかった結果、王は闇に立つ。
そんな現状はトルフィンの未来でもあり、非暴力の誓いを立てた彼が手段を選びぬくことで何処にたどり着くのか、照らす鏡でもあるように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
誰もが正しさを求めて果たせず、弱さと過ちに引かれて墜ちていくしかないこの地上で、それでも壁にしがみつき殺さない道を進んでいく。
それだけが成し遂げうる強さと、それでは成し遂げられない弱さとを、未だ運命を交わらせない王と奴隷は共有している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
王は既に選び、孤独な闇の中で王冠とともに眠る。
解き放たれた奴隷は、クヌートが”そう”ならざるを得なかった厳しさを踏みしだき、なお正しさへ歩を進められるのか。
ハラルド王崩御、クヌート王即位に基づきデンマークの支配体制は大きく変化し、貢物によって保証されていた農場の安全も、否応なく揺らいでいくだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
まるで夢のように、努力が報われ理不尽から遠ざけられ続いてきた、トルフィン第二の生。
そこに経済と戦争のリアルが、怒涛の如く雪崩れ込む。
そんな運命が予見できるが、彼の運命を押し流す濁流が何処から来るのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
その只中で今、クヌートはどんな顔をしているのか。
寂しくも悍ましく、切実な王者のスケッチであった。
自分だけは違うのだと過去を引きちぎり、未来を求めて、しかし万人を捉える奈落の引力は例外を許さない。
軽蔑し憎悪した父のみを共に、美しい思い出を薪に燃やして突き進む道は、果たして楽土へと通じているのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
史書は彼が樹立する北海帝国の、あまりに短い命運を既に語っている。
”殺す”ことを選んだクヌートは、負けるのだ。
選ばないトルフィンもまた、ヴィンランド入職に負ける。
誰もが敗者となる定めに囚われ、『ここではない何処か』へ旅立つ自由など見えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
繰り返すニヒリズムをそれでも引きちぎって、前へ前へと己の魂を、人間という存在を光に近い側へと押し出していくものは、一体何か。
少しでも、人間は善い場所へと歩みを進めているのか。
そんな問い掛けを刻みつつ、運命は時の河に流されていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
農場に漂う穏やかさは、嵐の前の静けさか。
家族を殺し自分を殺す道の只中、その毒を『他愛無い』と強がる”ヴァイキング”が、次に殺し奪いものは何か。
ここからの新章を積み上げていく基石としても、強さのあるエピソードだった。
さて三年の時が過ぎ、果てしなく思えた森は若人の汗を吸って、見事な農地へと変わった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
そこから上がる地代が自由を買い戻し、自分の生き死にを自分で左右できる”当たり前”が、ようやくトルフィンたちに戻ってくる。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第10話より引用) pic.twitter.com/hJMrtxEdFV
土を耕し樹を切り、人が生きることに密接してきたトルフィンの手のひらは、戦士のときとはまた違った表情を宿している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
友の肩を借りて悪夢を超え、形なく見据える星雲の果て、遠きヴィンランド。
戦争も奴隷もなく、誰もが自由なまま人として活きられる場所。
一千年の時を経てなお遠く、未だ不完全な人間が日々追い求める夢を、トルフィンは遠くに見つめる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
殺し、殺され、辛いことがあまりに多すぎるこの地上で、なお罪を背負って前に進むことを望まれ、託され、己も望んだ男の顔は、真っ直ぐに眩しい場所を見据えている。
10話積み上がった物語が、生きていて何も良いことはなかったと、己の生を呪う虚無を確かに埋めた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
人間一人が背負うにはあまりに大きな、しかし背負わなければ人足りえない夢に進む時、トルフィンは孤独ではない。
そんな友を得られたのは、奴隷生活最大の実りだ。
このように奴隷の前に広がる世界は明るく眩しいが、今まさにデンマークを手にせんとする王者を包むのは、陰鬱な曇り空である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
眩い輝きは思い出の中にしかなく、死んだはずの父がゴロリと、己の罪を暴き立てる。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第10話より引用) pic.twitter.com/yxQKfVoDkr
スヴェンの首が亡霊なのか幻なのかはもはや問題ではなく、それが目の前に立ち現れる危うさを抱えたまま、クヌートは為すべき(と己が信じる)ことを、着々と形にしていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
そうするしかない一手なのだから簒奪者にして殺戮者の己を誇れば良いものを、過ちは暗く世界を染めている。
互いの喉笛を狙い合う蛇の巣の中で、確かに輝いていた思い出。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
幼く正しくあれた時代は遥か彼方にあり、生きるために、望むままの己であるためには殺す以外なかった。
その行き着く果てが、死体が喋るこの世の果てである。
心が栄達に腐らずとも、選んだ覇道は傷を生む。
戦乱の予防措置として兄を殺す王者の正しさは、万人の幸せを願ってここに進み出たクヌートの、人としての優しさを傷つけていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
己の悪辣を顧みず恥じない”ヴァイキング”に成り果てれるのなら、この痛みはクヌートを刺さないだろう。
あるいはトルケルのように、戦士の狂奔に身を任すのならば。
しかしラグナルに大事に抱えられたまま育んだ優しさは、それと真逆な策謀に身を投げつつも死んではくれず、罪悪感を抱えたまま、クヌートは地上の支配者に相応しい選択を重ねていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
富と栄光、他人を恣にできる権力を積み重ねるほど、その魂は薄暗い闇に一人、投げ出されていく。
自分が死人に追い込んだ兄の手を、包む掌に慈愛などなく…否、あればこそ軋む弱さを誰にも悟られないように、平然と冠を抱く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
その果てに待つ孤独と荒廃を、予言する首の幻影は正しく突きつける。
お前はこの地上で誰よりも強く…
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第10話より引用) pic.twitter.com/i9j3LlXCfC
誰よりも救われない存在になるだろう、と。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
スヴェン王の首が幻だとすれば、それが告げる呪いはクヌートの内心であり、覇王として突き進む己が取りこぼす可能性や罪過を、己に告げる真実の鏡といえる。
クヌートは罪に汚れ悪に疲れた己を、かなり冷静に見ている。
しかし、だからなんだというのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
既に自分は選び、数多の死体を足蹴にしながら突き進んでしまった。
戻る道はない。
個人としての魂の平安を投げ捨て、より善き未来を人民に届けるためには、己が汚れきり、間違えきり、殺し切り、奪いきり…誰よりも”ヴァイキング”になるしかない。
そう覚悟したからこそ、クヌートは北海の覇者として版図を広げ、数多の人から奪い、また養い、恐怖と平和を司る地上の支配者として、不帰の道を突き進んでいくことになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
それは英雄のサーガであり、あまりにも切なく寂しい、罪深く愚かしい道のりでもある。
奪い去り、託された王冠の重たさは、首をへし折るほど。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
それでも『他愛無い』とうそぶいて、もはや何もない空疎と化した輝く思い出を、手の届かない夢を睨みつける。
ここが、クヌートの辿り着いた玉座だ。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第10話より引用) pic.twitter.com/7S6oYwaDXW
おそらくは若きスヴェンも同じ場所に立ち、慄きながら王冠を外せず、引き返すことも出来ず、我が子に首を絶たれる未来へと墜ちていった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
男子ならば皆が求めんとす栄達なるものが、足元に敷く死体の重たさ、与える金烏帽子の重たさ。
兄を殺した感慨を、知っていたと傷つかぬふり、苦く噛みしめる夜。
強さを装う以外に生きる道も、夢を叶える方法もないこの地上で、王であるための代償。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
暗い闇の中の孤独は、数ある呪いの一つでしかないのだろう。
しかし凡人たる僕らが見届けるそれはあまりにも重く、その重たさを当然のように背負って、クヌートは簒奪の玉座に堂々座る。
その強がりが、覇王であることを選んだ少年に唯一許された喪礼であり、哀しみや後悔や苦しさを…”人間らしさ”を見せた瞬間に、何もかもが終わってしまうのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
強く、強く、ただ強く。
奪われるのではなく奪い、殺されるのではなく殺し、誰よりも高値で死をひさぐ裁定者として、地上に君臨し続ける。
それが行き着く先の虚しさを、既に魂の奥底でよく知っているからこそ、クヌートはスヴェンの首のみを友とする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
人は死に勝てない。
理不尽な運命にも、覆せない愚かさにも、繰り返す宿命にも、何にも勝てない。
そんなニヒリズムに喰われないために、クヌートは王冠を蔑しながら着こなす。
この理不尽で残酷な世界で、愚かで罪深い人間の只中で、何かを成し遂げうるのだと、何処かにたどり着けるのだと、証明するべく剣を取った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
ラグナルとアシェラッドの遺骸に誓いを既に立てた以上、引き返すことは出来ないのだ。
だから進む。
強く、哀しい道のりである。
己が切った父の首以外、隣り合うもののない孤独な道行を憐れむのは簡単であるが、男一人…人間一個が選び取った茨道、下に見るのはあまりに傲慢であろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
であるなら、見守る側に出来るのは祈ることだけかもしれない。
罪深きクヌートに、神のお慈悲があらんことを。
そんな切実が何も生み出さないと思い知ったからこそ、クヌートはこの闇に一人立ち続けるわけだが、それでも。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
誰よりも”ヴァイキング”を憎み、だからこそ最強の”ヴァイキング”であり続けようとする青年暗黒の未来に、微かな灯火を願いたい。
はー…どっちに転んでもしんどいなぁ、生きるのは。
かくしてデンマーク王冠を手に入れたクヌートが、為政者として鉄鞭を振るう先は、果たしてどこか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
これまで絡み合うことのなかった奴隷と王者の運命が、再びぶつかり合うタイミングも近づいてきた。
金で平和を購う危うさを、さんざん描いてきたので、まード酷い事が起こるだろう。
死ぬものと生きるものを他人が決定づける高慢さと、暴力の揺るがない確かさに、クヌートはもはや迷わないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月19日
既に引き返せぬ道に立つかつての同志に、遥か彼方を見据えるトルフィンが行きあった時、何が起こり、誰が死ぬのか。
青い空に長く伸びる影が、行末を見届けたい。
次回も楽しみです。