イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

NieR:Automata Ver1.1a:第8話『aji wo [K]utta ?』感想

 鋼鉄の修羅界に取られた盲目の天使達が、己の証を美しい廃墟に探していくアニメ……第8話は釣りだビキニだ海辺のデートだ! 肩の力が抜けたトホホギャグ……が、最後に一気に暗転するエピソードである。
 海辺で眼帯外してキャッキャウフフするヨルハの二人はあんまりにも天使で、何もかもいなくなった永遠の中でマジ平和に過ごして欲しいと祈ったが、それは微かな幻影でしかない。
 A2との接触が暴きつつある月の欺瞞に9Sは近接し、ハッキング特化の躯体として”識る”力をもっていることが、彼を窮地に追い込んでいる。
 月面の学級委員長みてーなお硬いことパなしつつ、9Sとの触れ合いに魂が震え、その熱が冷たい血液に満ちている2Bは、彼が飲み込まれている真実を前に、瞳を塞いだままなのか、それともA2のように覆いを投げ捨て群れを外れていくのだろうか。
 鯵がど~のこ~の、独自のトボけたユーモアが気持ちよく笑えるほどに、戦争やら死やらから遠い夢を願いたくなって、でもそこに体温が宿るほどにアンドロイドが本来いるべき場所の、残酷な冷たさを思い知る。
 笑っていいんだか泣いていいんだか、ひどく不安定で心地よいところに投げ出されてる視聴感が独特かつ面白くて、いいアニメだと思う。
 アニメ見始める前、Twitter受動喫煙でしか知らない時は『このイカスデザインのナオンが、バリバリ暴れてケツを見せつけてくるのか!!?』みたいな気持ちが心にあったんだけども、今は戦場に取り込まれた感受性豊かな熱血中学生戦士である2Bちゃんが少しでも幸せになってくれることしか考えてないので、やっぱ作品の原液をちゃんと飲むのは大事だな、と思う。

 

 

 

画像は”NieR:Automata Ver1.1a”第8話より引用

 脱走兵A2の追撃を命じる司令部は秘された真実を戦士に何も告げず、瞳を塞がれた少年少女は豊かな心を抱えたまま、命じられた未来へと進み出す。
 見た目ほど従順ではなく、自分だけの記憶をモノに刻みつけ感じ取りながら、しかし群れから逸れることもなく。
 9SがA2の遺した刃を触る手付きと、リリィが託された銃を撫でる指先が重なる演出は、禁じられているはずの感情が確かにアンドロイドに強くやどり、ヒトを模したものがどうしようもなくヒトであるという実感を、もう一つ強くしていく。
 延々と自動的に動き続ける戦争という機械の、ちっぽけなパーツの一つでしかない人形たちは、しかし目の前に押し寄せる体験に心を震わせ、何に手を寄せ抱きしめたいのか選ぶ心を、確かに持っている。
 ヒトなき世界はそれを大事にしてくれないし、それどころか禁止すらするけども、それでもそれはそこに在ってしまう。

 その軋みに突き動かされて、A2は群れをはぐれ追われる立場になったのだろうか?
 心豊かな2Bと9Sも、同じように無慈悲な月の都合より自分の心を……機械にたった1つ許された記憶を信じて、追い立てられる存在になっていくのだろうか?
 ……あるいは第1話で示されたように、死と記憶すら管理されて人形の生を繰り返している彼らなら、それは””なっていく”のではなく”既になっている”可能性すらある……のか?

 

 

画像は”NieR:Automata Ver1.1a”第8話より引用

 そんな陰りを真っ白に塗りつぶすように、世界の果てを歩く二人の青春は清潔で眩い。
 美しすぎる廃墟を進む二人があんまり綺麗で、この後ロクでもないことしか起きないんだろうなと確信しちゃたな……。
 ヤダな~~~~どうにかならないんスカ、本当に!
 狂った世界に宿命づけられた戦争が一瞬だけ凪ぐ海辺にて、自分の瞳で世界を見つめることを禁じる道具を外して、無駄だけどあまりに楽しい……”人間らしい”時間を過ごして。
 戦争の道具でしかない彼らが、こんな人間の真実に一番近い時間を過ごしてしまったのなら、もうそれは奪われるしかないじゃないの……。

 奴隷が奴隷であることに気づいていないことを幸福と呼ぶのなら、ヨルハはその瞳を塞ぐお仕着せを脱がないほうが絶対幸せなんだけども、9Sの誘いを受け取って2Bはその美しい瞳で世界に触れて、光と水の寒色を肌で味わう。
 そうして生の自分で世界で触れ合う自由がヨルハにはあって、しかし許されていない。
 人間であってしまう罪に、月がどんな罰を下すのか、見たくはないが見届けなければいけないのだろう。
 ほんとどうにかならんのですかッ!!

 おまけに優しい優しい2Bちゃんは同僚が見たがっていたお花をちゃんと見せてあげて、鋼鉄の心臓の上に美しく飾る。
 美しい喪服のようなお仕着せに閉じ込められ、表情が固く動かないほどに、その檻が揺らいで彼らの素顔が見える瞬間は、ショッキングに僕に突き刺さる。
 異様ながら美しい拘束具の奥、柔らかく息をしているものがこんなにも綺麗なのだと思えるのは、普段は秘されているからだ。
 そしてそうやって表に出てくるものが、残酷に狂いきった世界の中で儚く長続きしない予感も、正しく伝わる。
 あまりにも”人間”であったひと時を終え、ニ叉路に分かれていく二人の運命がもう交わらないかもしれないと思うのは、考え過ぎでも心配性でもないと思う。

 

 

 

 

画像は”NieR:Automata Ver1.1a”第8話より引用

 とか思ってたらイカレ女が赤ビキニで鯵押し付けてきて意味わかんないし、急に『シリアス担当主役に大事な問いかけを投げます!』みたいな顔してくるし、予感大的中で9Sくんは電脳牢獄にとらわれていくしで、こっちの情緒はメッタメタだよ!
 狂いきった戦場でも”人間”は笑いを求め生み出してしまうモノだし、どこか真芯からズレた奇妙なセンスで作られるユーモアが、背景世界とマッチしてて大変良かった。
 自分たちが作った美しい戦場に生真面目だからこそ、自然と生まれてしまう身じろぎがスポッと間隙をついてきて、生まれる笑いがチャーミングなのは大変いいな、と思う。
 そうやって緩めた腹筋を、全力でぶん殴ってくる手際もいいしなッ!

 第6話でリリィが2Bにだけ語ってくれた記憶の意味を、彼女はもちろん知っている。
 そういう優しさは闘いに取っては夾雑物でしかなく、釣りだのビキニだの人生エンジョイしまくってる(素振りを隠さず、そういう自分を対外的にプロデュースしている)ジャッカスは、そんなノイズこそが大事なのだと鋭く問う。
 心を揺らす眼の前の現実から目を塞ぎ、命令に従順な機械であることを自分に命じても、それに抗う己がいる。
 世界と心の狭間で揺れる花に、どんな願いをかけるのか。
 鋼鉄アンドロイドヒロイン2Bちゃんが、その鉄面皮に熱い血潮をたぎらせていると十分知っている視聴者としては、彼女が彼女だけの真実に素直に生きて欲しいと願う気持ちと、それを誰も許してはくれないのだろうというハラハラで、心が揺さぶられる。
 こういう揺さぶりをハードなアクションとドラマの激動だけでなく、むしろ静謐で美しい”日常”をエンジンに駆動させてくるのは、好みの語り口だし上手いとも思う。

 

 

 

画像は”NieR:Automata Ver1.1a”第8話より引用

 そして9Sくんに伸びる、正体不明の長い影。
 ハッキング担当として電子の心に触れ続けてきた彼が、逆に心を囚われる側に回るのは納得もあるし、段々と現実が侵食されていくモダンホラーの味わいは、白い平和と鯵まみれのコメディが結局”寄り道”なのだと、見てる側に思い出させてくれた。
 現実認識それ自体がハッキングされているので、異様な状況に飲み込まれていることに9Sが気づけないまま世界が書き換わっている感じ、大変良いですね。
 奇っ怪なアトリエが姿なきハッカーの押し付けたものなのか、9S自身の心の繁栄なのかはまだ分からないけども、普段は機械生命体への容赦なき殺意を反射してバカでかく描かれる剣が、頼りのない存在感に縮小しているところとか、凄く良い表現だった。
 あと飾られてる絵が2Bちゃんばっかなの、9Sくんの純情LOVEをこれでもかと叩きつけてきて、嬉しいと同時に辛い。
 こんな心もあっけなく引きちぎられて、月面サーバーに保存されたデータとしてまた再生されて、何度もリセットされながら恋をして世界に興味を持ってまたぶっ壊して……してきたんじゃないの月面の連中はッ!!!
 何の説明もなく鋼のエインヘリャルの行き方を叩きつけてきた第1話が、キャラへの親しみと世界観への理解を深めたこのタイミングで生きて、お話の構造をなんとはなしなぞらせていくの、うまい構成だよなぁ……。
 与えられた材料で判断するに、ループものの要素がかなり強く入ってる感じなんだが……ここら辺は心と世界の真実に深く迫りそうな、このハッキングの顛末を見てからか。

 

 

 

画像は”NieR:Automata Ver1.1a”第8話より引用

 っていう重さを引き継いで、主役サイドと離れて独自のロマンスを展開してるアダムとイブにも不穏な空気……ってのを、ギャグに引き戻して独特の空気出してくるのが、本当に凄いねぇ……。
 こんだけ重たくシリアスな方向に話を引っ張ったら、その引力で一気に突き抜けていってしまいそうなものなんだけど、サブタイトル一個で『え、兄さんが死んだのは”鯵”????』ってハズシブッ込んで笑わせた後、『いや笑ってる場合じゃねぇな……』と真顔になる揺さぶり、気持ちが良すぎる。
 この重たさの中の笑いって、2Bと9Sがたどり着いた美しすぎる平和の幻と同じ、世界や物語がどう動こうと、どう宿命づけられたとしても生まれてしまう”人間味”だと僕は思っていて。
 人間に似た機械を描くこの物語が、そういう生き生きとした息吹を色んな場面で、色んなキャラクターに色んな味わいで宿せているのは、凄く良いなと思います。

 笑い、愛し、憎み……あまりに”人間らしい”機械達が囚われた、それぞれの檻と楽園。
 世界の秘密を暴く奥に、その個別の色彩が眩く光っている物語が、これから何を描いていくのか。
 続きが大変楽しみです。