イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

もういっぽん!:第11話『黄金時代』感想

 快進撃を続ける青西柔道部に立ちふさがる、優勝候補・立川学園!
 3回戦を前にしたそれぞれの表情を切り取る、このお話らしいテンポの第11話である。
 勝ち負けだけを前に押し出してるならここで1話使わないと思う。
 だけども、強豪の看板にビビって縮こまる青西と、思いの外フツーの高校生している強豪とを交互に映し、頭の中の虚像ではなく眼の前の実像を見据えて試合に挑むまでを、丁寧に重ねていく筆こそが、このお話の魅力だろう。
 勝ち取ったトロフィーの数や、名門として積み上げた評判が少女たちの輝きを決めるわけではなく、今まさに”柔道”に勤しむ魂のまばゆさが、全ての人に黄金時代を届ける。
 このお話が見据えている”強さ”がどんな形をしているのか、アニメが一区切り付く前にしっかり描いてくる、良いエピソードだったと思います。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第11話から引用

 一回戦は先鋒三タテ、二回戦はチーム力を発揮しての快勝。
 主人公チームに吹いていた順風は待ち構える三回戦、全国トップクラスの強豪に阻まれて逆風に変わっていく。
 そんなライバルの素顔は……これまで青西主役で描いていたように明るく仲良く、ブーブー文句を言いつつも柔道が好きで、仲間が大事で、全力で青春を謳歌している。
 顔の見えない怪物のままにしておけば、それに挑むサスペンスも際立つところを、まず柔らかな素顔とその奥にある熱と靭やかさを、公平に描いてしまう。
 霞ヶ丘、博多南、錦山。
 ここまで主人公チームが胸を借りた強敵たちが、どういう生き方をしているのかしっかり見据える瞳は、ここでも健在である。
 リラックスした表情でデカい夢想を語る後輩のバカを、まるごと抱きしめていい方向に引っ張っていく”先輩”の頼もしさは、主役に選ばれた青西と何ら変わることなく、みんなが主役でライバルだ。

 ブルブル震え続ける青葉西に対し、立川は実績出してる余裕で適切に相手を舐め、一息に飲み込む凄みを匂わせる。
 強者ゆえのおごりと緩みをピシっと締めて、強豪を強豪たらしめている戌威監督も、かつて憧れた学園の王子様の前ではハートマーク飛ばしまくり、甘い声出しまくりの乙女に戻る。
 ここをピシっと締めて、金鷲旗に恥じない真剣さを取り戻させるのが夏目先生の生真面目で、引率者であり指導者でもある”大人”が何をするべきか、決戦を前に新たに思い出す話運びである。
 こういう人たちが背筋を伸ばし直すからこそ、子どもらも縮こまることなくおバカに明け暮れ仲良く頑張り、楽しく実りある”柔道”やれとるわけで。
 この心地よい硬さが、最後にパキッと割れて奥にある真心が染み出してくる緩急も含めて、大人二人のやり取りは見ていて楽しい。

 

 

画像は”もういっぽん!”第11話から引用

 そして合わさる膚から、愛する女の変調を感じ取りほぐしていく智将・南雲杏奈。
 君は本当に未知の体を触るのが好きだし、未知も南雲に触ってもらうのが好きだねぇ……。
 未知自身が気づかず飲まれかけている緊張に試合前に気づき、その原因たる顔のない強豪のイメージを跳ね飛ばし、一人の人間として全力をぶつけて勝負できる状況まで持っていく手際は、賢さと愛が入り混じった、大変素晴らしいものだった。
 未知と仲間のこわばりを吹っ飛ばす以上に、これから戦う相手の顔をしっかり見て、道着をちゃんと掴んで”柔道”出来る心を整えることで、立川の子たちへの敬意を思い出せるのが、何より良いと思う。
 その足がかりとして、汗まみれの道場ではなく、自分たちが肩の力抜いて散々おバカに笑いあった放課後を取り出してくるのが、南雲杏奈の人格であり、この話特有の視線だと感じた。
 今までさんざん楽しませてもらったおバカ高校生の平和で真剣な日々が、これから立ち向かう桁外れの強敵にもちゃんとあって、みんな同じ土俵で青春してんだと解らせてくれるのは、大変風通しが良い。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第11話から引用

 子どもらは勝負を外れた柔らかさを思い出すことで勝負に挑む姿勢を取り戻すが、大人はその芯にある生真面目な硬さを見据え、どうにか勝たせてやりたいと願う。
 常勝・立川学園を褒めそやす『黄金世代』という言葉は、栄光に手が届く強者だけの専売特許ではなく、全力で可能性を研ぎ澄ませている全ての若人に向けられている。
 その輝きをより大きく、より強く、より楽しくしてあげたいから、戌威監督も夏目先生も、自分にできる限りの本気で子ども達に向き合ってきた。
 だからこそ、これから試合をする教え子が大好きで、勝たせてやりたい。
 ただカッチリしている形式主義ではなく、生身の人間から迸る思いが知らず溢れる、誠実な向き合い方が個々で感じられるのは、大変に良い。
 カタくて正しいこと言い続けてる夏目先生が、『なんでそんな事をするのか』という根っこに凄く人間らしい優しさと、個人的な喜びが満ちてるのが好きだ。
 『こうするべきだから』で教え導いてるわけじゃなくて、『こうしたいから、こうしたらもっと善いものが見れるから』って、情熱に突き動かされて正しい事しているの、見てて納得が強いよね。

 そんな恩師に見守られて、武者震いに燃える未知の視線は熱い。
 『勝たせてあげたい』がただの願いで終わらず、具体的な策をしっかり授けている所が、夏目先生への信頼感である。
 勝てないから腐りかけてた未知が色んな出会いを通じ、自分の強みをキツい練習の中でしっかり育んで、大きな舞台で勝ちを積み上げて、根拠のないポジティブを勝利への確信に変えていく様子も、このアニメしっかり追いかけてきた。
 こういう”勝ち”が人に与える変化、それが生み出す新たな”勝ち”をしっかり追いかけるからこそ、勝ち負けを越えた輝きもしっかり画面に焼き付く。
 いいバランスで青春の物語、スポーツのお話をやっているなぁ、と感じるね。

 一度きりの奇策で勝ち切れるほど、常勝軍団は甘くないだろう。
 気合十分仕掛けた技が、果たして緒戦の勝利に繋がるのか。
 決着が付いた後の道を、少女たちはどう進んでいくのか。
 アニメひとまずの幕を前に、たいへん良い感じに物語の体熱が上がってきました。
 次回も大変楽しみです。