イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

私の百合はお仕事です!:第1話から第3話までの感想

 コミック百合姫から久々のアニメ化、建前と本音が意味乱れるエグみ強めヤバさ多めの女女コンカフェ絵巻を、三話まで見た。
 原作が持ってるポテンシャルを可能な限り絞り出し、かなり忠実にアニメにしている……がために、序盤の強引でキツい所とか、画面に映る連中誰一人素直に好きにはなれない感じとか、一応お話の舞台になる”カフェ・リーベ女学園”が全くいい仕事場に見えないとか、正直厳しい所もそのまんまアニメ化された感じがある。
 とはいえ思い返せば、そういう野趣あふれる人間性がゴリゴリ擦れてあふれる火花が好きだから原作も読んだわけで、ジビエ料理の名店がファミレスでコラボメニュー出したからって『大衆向けの味付けになっていなかった! 元々の獣臭さが強い!!』って言い出すのは、そらーお門違いである。
 自分は原作のヤバヤバ人間博覧会っぷりがすっかり染みているので、アニメ初見の人、『そういうモン』というジャンル(あるいは雑誌)コードを知らないヒトがどう感じたか、十全にはエミュレートできないわけだが。
 かーなりキツい部分もあるだろうし、頑張ってアニメ向けの味付けにしたり、開き直ってまんま叩きつけたり、色々工夫して食べれる形にまとめてもいるかなと、三話まで見て思った。(正しいかどうかは分からない)
 僕は原作単行本、一段落付くまで一気読みしちゃったんで序盤のこの感じを気にせずスキップできたわけだが、一週間ごとに付き合うアニメだとけっこうモタれるわな……。

 原作既読勢としては、ヤクザまがいの強引さで田村ゆかりの声帯した店長にハメられ、仕事として果たすべきヴィジョンも教えられぬままほっぽり出され、ちったぁ立ち回り方が理解ってきたと思ったらバコバコに地雷を踏み抜き、女と女……以前に人と人としてあんまりな人間関係ジャングルに飲み込まれていく序盤は、もうちょいテンポアップしてサラッと流すのかな、と思ってた。
 このお話、どういうノリで行くのか序盤色々探っていた感じがあり、『ドカベン』が柔道漫画と、『SLAM DUNK』が不良漫画と、どっちに転がってもなんとかなるよう道を探っていた頃のような違和感が、洒落になんないものをギリギリ洒落で収めようとする展開にはある。
 第3話で過去のトラウマが暴かれ、被害者っ面でハブりの原因をけなし倒していた(そしてそれを、当人に全力で投げつけていた)陽芽の棚上げっぷりとか、外面作りすぎてるヤバ主人公に反して、仕事以外で一切戯れが出来ない女藤木源之助の不機嫌顔の奥に、一体どんな真心が宿っているのか。
 これが顕になるのがかなり遅く、激ヤバ人間の限界職場コメディとして笑い飛ばすには、少々ストレスも強い。
 周りの人も意味深なことばっか言って助け舟は出さないギャル先輩と、主人公に湿った情欲を宿すヤバ眼鏡と、ゆかりん声のキューティヤクザだからな……地獄のゴレンジャーか、この職場。

 ガッキョンガッッキョンに尖った激ヤバ人間どもが、激ヤバなまんま心の奥をさらけ出し、全力でぶつかりあって生まれた荒野に、小さく芽生える花。
 それが芽を出すところまで一気に話を持っていくのではなく、結構どっしり取り回す姿勢は原作リスペクトの結果でもあるし、軽快で明朗で親切なシリーズ構成に慣らされた今の体だと、思いの外消化負荷が高かったりする。(なので、三話まで様子を見た)
 しかし先にも述べたように、そういうむき出しのエグミがガツガツ行く……ってだけでなく、そういう所に嘘なく煮出した強めの感情が深く浸透して、作品独自の答えを暴き立ててくれる所に面白さを感じている身からすると、角を取られていたら面白みも減っていたかな、とも思う。
 あんまりにも最悪な地雷踏み抜いて次回に続いた第3話から、コレ以上最悪はない状態で開き直って生身でぶつかり、すれ違いとイライラに満ちた嘘の花園にちったぁマシな人情が生まれる様子を、アニメがどう手びねりしてくるのか。
 それを楽しみにできる気合と質は、しっかり担保されてもいる。
 声優陣も最高だしね……ショートケーキにハチミツぶっかけたような、小倉唯の”原液”を浴びれるのは体に良い。

 

 個人的にこのお話で面白いなと感じるのは、アクが強くて顔面が良い限界人間どもがバチバチやり合う時特有の発熱……だけでなく、”百合”なるものへのメタな視点だ。
 モロ『マリア様がみてる』をパロった女学院百合はフィクションの中のフィクションであり、同時に銭金をもらって演じられるプロのビジネスでもある。
 本気で嘘を演じきらないと仕事にならないのに、陽芽を魔境に引きずり込んだ人たちはそこでの文化コードも、商売のノウハウも教えないまま、素顔と仮面を器用に(あるいは不器用に)使い分ける”お仕事”に巻き込んでいく。
 ショボい雑居ビルに張られた不可視の結界の中、演目である”百合”は仮想の学園で演じられる少女と少女の物語を、プロトコル化された恋のお約束を、透明な観客によってなって楽しまれる。
 バックヤードではキラキラガールズライフとは程遠い、煮詰まった限界人間のバチバチが生っぽく炸裂し、それでも”お仕事”である以上顧客の求める綺麗な夢として、嘘っぱちの”百合”は演じられなければいけない。

 『マリア様がみてる』自体が発表当時既に一種のパロディであり、同時に少女と人間の真芯に迫った独自のドラマを描きたからこそ古典となり得たように、幾重にも括弧付きの”『百合”なるもの』はコンカフェの演目、フィクションであることを知りながらフィクションとして消費される、清潔で平和な嘘であり商品として、まず作品の真ん中に立つ。
 その上で、括弧を外した百合……女がいて、その眼前に女がたち、それぞれむき出しのコンプレックスやこだわりや過去や傷をぶつけ合いながら、時に反発し求め合う奇妙な旅路もまた、じわじわグツグツと煮込まれていく。
 演目であり嘘であるはずの”百合”が、気づけばバックヤードの汚れた現実を侵食し、そこに宿る清らかで真っ直ぐな思いを、メチャクチャねじ曲がった(だからこそ嘘のない)形で鍛造していく。
 白木陽芽であり白鷺陽芽でもある(自覚が明らかに欠けている)少女が、綾小路美月……ですらない”自分を好きになってくれないお姉さん”が実は自分の人生メチャクチャにした矢野美月の、嘘で飾っていない生身を見て、何を感じ何を変えていくのか。
 そこに強引に巻き込まれた嘘でしかないはずのコンカフェの仕事は、どんな影響を及ぼすのか。
 そういう虚実のうねりが、今回思わぬウッカリで炸裂し、キレイな制服を引っ剥がして少女たちを裸にしていく(あるいは、新たな衣装をまとわせていく)物語が、本格的に動き出すのはこっからである。
 ……うん、やっぱ現代アニメとしては明らかに”かかり”が悪いな……。

 陽芽は外面を整え嘘で愛を簒奪することに慣れすぎていて、美月は”お仕事”以外で嘘をつく事、嘘をつかなければ生きていけない人間と向き合うことに、あまりに慣れていない。
 この嘘と本当のすれ違いは、お互いのことを語らなすぎる現状と、そうやって外面を(真逆の方法で)整えないと生きていけない、陽芽と美月の生きづらさに重なっていく。
 嘘つき続けて現実を賢くやり過ごしてきた少女が、夢を売る”お仕事”を、最悪の思い出が目の前にもう一度現れてガツガツ人格殴ってくる体験を通して、自分なりの本当をどうに見つけていくのか。
 そこに女が女を想う気持ちがどう絡んでくるかは、『これさえやっときゃ”百合”なんでしょ?』と、綺羅びやかに粗雑に飾られたコンカフェの中の夢をフィルターにする形で、”百合”なるものをこのお話がどう削り出すか、独自の魅力にも深く関わってくる。
 そしてまぁ原作を既に読んでいる僕は、そういうものがゴリゴリと不器用に、実直に削り出されていく作品であると、知ってアニメの先を期待もしている。

 

 目の前の百合っぽい寸劇給仕を、嘘と知りつつ本気で入れ込み、何かを癒やされ金を払う。
 リーベ女学院は現状職場として商売として、相当にいびつで不自然で、何が魅力なのか全く解らない。(ここらへん、コンカフェって業態に顧客が何を求め、何が魅力で注意点なのかという、お仕事モノとして描写すべき足がかりがさっぱり薄いまま、状況が転がっているのが一つの要因だが。)
 しかし嘘に呪われ本当に縛られ、真実自分がどうなりたいのか、自分はどんな存在なのか分からなくなっている女達が、嘘が嘘だからこそ、あるいはそこに微かな本当が滲まざるをえないからこそ生まれるうねりと癒やしと出会う、前だからこその不鮮明でもある。
 陽芽が美月を知る足取りと、女学院コンカフェという”お仕事”に入り込む歩みがシンクロしている作りゆえに、常時不機嫌ガミガミ女の柔けぇ部分に体当りするまで、話のメイン舞台がどう素敵なのか、主役を通じて視聴者に開示されないのは……まぁ構造的問題ではあるか。

 とはいえこのエンジンのかかりの遅さ、『コイツらの何処が見てていい感じなのか、とっとと教えてくれよなマジー』な感じは、『キラキラ物分かりの良い、快適度の高い人間ばっか揃えてネトついた物語やるつもりはねぇんだ!』という、コミック百合姫つー老舗ジビエ料理店ゆえの、こだわりポイントの反映でもあろう。
 見てて『こいっっっつマジ……』と思わされる瞬間の多い、イラガっぽい作劇とキャラ造形がそのアクの強さゆえに、人間の面倒くさい部分をガンガンぶっ叩きながら、静かに熱く燃えて何かを暴き立てる瞬間が、まぁまぁ遠くないうちにやってくる……はずだ。
 嘘と本当が入り交じる世界のヤバさと嘘くささ、微かに匂う真実味を、現状なかなかないいバランスでアニメにしてくれている筆が、感情の炸裂点でどういう色を自分に乗せるか。
 勝負どころの演出力を、今から楽しみにしている。

 この独自の悪路を”味”として噛みしめる腹が仕上がるまでに、三話かかってしまったわけだが、三話かかってまだまだガッタガタな噛みごたえを飲み下して、ようやく視聴姿勢が定まった感じはある。
 しばらくずーっと、『コイツら好きになれねぇなぁ……』とブツクサ文句をたれつつ、丸く角を取った人当たりの良さからゴツゴツはみ出すヤバっぷりを慈しみつつ、アニメを見ていこうと思う。
 被害者っ面で他人に嘘つくまくってる割に、被害者意識バリバリで自分を疑わない主人公が、一生小言言い続けて自分を開示しないムッツリ女と同等に好感持てないの、やっぱ凄いよなー……名前の通りお姫様めいて作り上げた外装が、クズな中身を綺羅びやかにライトアップしてるので、最悪感がより強い。
 そして小倉唯がまーた、キンキンやかましい人生舐め腐り間違えまくり小娘にキッチリ、”魂”入れてくれとるのだわ……。

 そんなコンカフェの懲りない面々が突き進む、お花だらけの地獄道
 口からクソ投げつけちゃった以上、行き着くところまで行くしかねぇ状況で次回第四話、一体どうなってしまうのか!
 ガチンコ女女道場、来週もお楽しみに!!