イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

スキップとローファー:第4話『ピリピリ カツカツ』感想

 幸せ広がる春風少女の東京奮戦記、スキップとローファー第4話である。
 再びお話の主役は美津未ちゃんに戻ってきて頃合いはGW、学校生活に慣れてきた美津未ちゃんが、友達との距離感に悩んだり憧れの先輩に知らず影響を与えたりするお話となった。
 同時に将来設計を踏まえた普段の過ごし方とか、なにかに急き立てられるような重たい過去とか、高校生らしいお話もチラホラ。
 普段のんびり青春しているので分かりにくいが、モデル校を考えるとこの作品の登場人物軒、並み偏差値70超えのスーパー高校生だからな……そらー、そういう領分も顔を出す。
 その上で迷いつつ自分らしく進んでいくにはどうしたら良いか、小さな一歩を積み重ねていく様子が丁寧に、群像劇の面白さも宿してしっかり描かれていて、今回も大変楽しかった。

 

 

 

画像は”スキップとローファー”第4話から引用

 というわけでAパートはエキセントリックな兼近先輩にかき乱されて、志摩くんの過去に踏み込むべきか否か、どっしり悩む主人公を描く。
 兼近先輩かーなり良くない思考法の持ち主なんだけども、木村くんの声があんまりセクシーなので嫌いになれないという、かなりズルいポジションになってて面白い。
 最初はチョロいと侮られ、疑念の種を植え付けられて便利に使われそうになった所を、持ち前の人品で踏みとどまって正しい距離を保ち、志摩くんとの心地よい友情をさらに深める。
 美津未ちゃんの成長計測器として、先輩のエグみが生きてる感じはする。

 美津未ちゃんは自由なド天然なんで思考がとっ散らかりがちなんだけども、人間の根っこが大変豊かに育っているので、勝手に他人の顔を探ったり暴いたりするよろしくなさには、自力で気づく。
 モヤモヤフラフラしつつも、同じく察しが良くて気が回る志摩くんを前にすると正々堂々、自分を惑わしている悩みをちゃんと手渡して、相手の対応を待てる強さがある。
 それは受験戦争に追い込まれ、フラフラの所を親友に助けてもらったかけがえない経験があって、育った心根だ。
 美津未ちゃんが無邪気な天使ではなく、彼女なり色んな経験を経てちゃんと考えた上で、他人に良い影響を及ぼしうる人格を作ってきたのだと書いてくれると、高校一年生なりの個人史にしっかり敬意を払っている感じがあって、大変良い。

 

 ふみちゃんが餃子食べさせてくれる回想シーンはマジで素晴らしく、メシというものが腹を満たし栄養を取るただの物質ではなく、擦り切れた心を癒やす滋養なのだということが、よく伝わった。
 こういう経験がどれだけ得難いか、美津未ちゃんはよく分かっているのでそれを育んでくれは故郷に恩返ししたいし、ちょっと茶化そうとした仕草を志摩くんも止める。
 気恥ずかしくも立派な志を、ちゃんと立派だと受け止め言葉にできるのは、志摩くんの沢山有る美点の一つだ。
 それを間近で浴びちまったら……そら小指もピリピリするよ……。

 母が喜ぶために子役に勤しみ、燃え尽きてしまった志摩くんには、美津未ちゃんのような大望はない。
 その空っぽを自覚しつつ、しっかり誰かの夢を見守れる志摩くんに、美津未ちゃんはいつかふみちゃんから貰ったのと同じ、大事な約束をする。
 美津未ちゃんは色んな人に影響を与えていくけど、彼女自身他人から受け取った荷物の意味をよく考えて、必要とする人に手渡す努力を怠らない。
 人間が生きる辛さを知った上で、それを身勝手に他人に広げるのはためらい、しかし共感と助力は怠けないという、とてもいいバランスで生きている。
 素敵な二人が相互に影響されたって、もっと素敵になっていく様子が沢山摂取できるのは、お肌ツルツルになってマジでありがたい。

 

 

 

 

画像は”スキップとローファー”第4話から引用

 ほいでもってBパートは、超意識高い系カツカツ女が石川から来た黒猫にズブズブになっていくお話。
 また一人、岩倉美津未に人生メチャクチャにされていく女がひとり……。
 俺は引力強すぎる女に引き寄せられかき乱され、頑なに閉ざされていたものをこじ開けられてドロドロの中身が溢れ出していくお話が大好きなので、すっかり心の深い場所に美津未ちゃんが刺さった先輩、大変ありがたかったです。
 こういう引力に美津未ちゃんがまーったく無自覚で、むしろ出来る先輩マジ尊敬な表情な所が、心地よい不均衡で最高。

 中学受験に失敗したトラウマから、分刻みで自分を追い込んでいた高峰先輩は、自分を慕う可愛い後輩を引き連れ、そのペースに振り回されることで視野を広げていく。
 高峰先輩がバスの外側に目を向けて、黄金の夕焼けに心を動かす場面は背景頑張んなきゃ説得力が飛ぶシーンだったので、このアニメの美術力の高さが最大限に生きていた。
 15分の時間つぶしのはずが人助けになり、お返しにもらったゼリーで一息つきながら見つめたものが、自分を許すきっかけにもなる。
 何が正解で役に立つのか、解りはしない世界の中で焦ることなく自分らしく、前に進んでいく大切さ。
 豊かな回り道が美津未ちゃんの前には自然と開けていて、それに付き合うことで高峰先輩が、より魅力的になるお話だ。

 

 Bパートは『重荷を投げ捨ててダラけろ』という話ではなく、努力と修練は当たり前な環境に身を置けばこそ、それに追い立てられすぎず道を見据えていく意味を、優しく描いている。
 美津未ちゃんは目的意識めっちゃ高いし、それが背伸びもしておらず地に足付いているし、効率よく努力して結果をもぎ取る意味合いを、かなり自然に自分に引き寄せられている。
 先輩も努力の空回りというよりは、努力した結果何を得れるか挫折から学び取った上で、自分を急き立てていた。
 それはとても立派なことで、でもそれだけでは人間はどっかで折れてしまう。

 無意識下では夢にうなされるほど、何かに乗り遅れることに脅えていた少女が、三白眼の黒猫と一緒に星を見て、心を踊らせれるようになったこと。
 思わず少年を恋に惑わせる、柔らかな笑顔がもう一度、顔に浮かぶようになったこと。
 それは間違いなくとても良いことで、善いことでもあろう。
 こういう小さくて決定的な人生の変化を、厳しく優しい青春に立ってる当事者への愛を込めて豊かに描いていく筆は、このお話の大きな武器だ。

 自分の理想となりうる素敵な先輩が、もっと素敵になりそうあり続けれるきっかけを手渡したと、美津未ちゃんが気づいていないのはやっぱり可愛い。
 故郷の暖かな日々が育み、世界をより善く変えていける自分の力に自覚的になった時、美津未ちゃんはどんだけ高く飛んでいくのだろうか。
 こういうスケールのデカい夢想を、主人公に抱けるのは強い物語だなぁ、と思う。

 

 というわけで、美津未ちゃんはやっぱり凄くて可愛いな、というお話でした。
 主人公の強みが凄く透明度高くて、周囲の幸福度をガンガンにあげる推進力に満ちている強みが、”影響”を真ん中に据えてお話を取り回す手付きと、しっかり噛み合ってる感じ。
 それは影響を受ける誰かを書かなければ成立しないお話だから、十人十色の性格と資質を持ったそれぞれの人間、それぞれの物語をしっかり削り出す必要がある。
 ふんわり柔らかな質感を保ったままで、青春群像劇に必要な手際と深さを確保していればこそ、スルッと楽しめるアニメになっていると思います。
 この語り口で次回、何が見れるか。
 とても楽しみですね!!