しっとりと初恋の終わりを描いた物語に、格闘新体操襲来す!
すんごい勢いで物語が大事なコーナーを曲がっていく、黒薔薇の小太刀御目見得回、らんま1/2第6話である。
前回あかねの初恋がどう終わり、姉であり母でもある存在との関係を維持していくための少女のけじめ、その成熟になんとか追いつこうとする少年の背伸びを、この作品は豊かに描いたわけだが。
こっから新キャラバンバン投入、”格闘”とマクラに付ければ何でもありのハチャメチャ路線へと舵を切る、その先駆けがこの話数である。
全体的に書き文字演出多め、コメディ色強めで明るく賑やか楽しく進む回で、大変楽しかった。
小太刀のキャラが良いんだな…。
前回描かれた物語は、乱馬が唐突に降って湧いた居候であり、あかね達が積み重ねてきた家族史に入り込めない部外者であることにも、複雑さの理由があった。
小さくやんちゃな”あかねちゃん”というイメージのまんま、過去から変わることのない/変えることが出来なかった関係をあかねは長い髪といっしょに断ち切って、初恋に終わりを告げる。
そこには敬愛する姉であり、不在なる母の代理人でもあるかすみへの思慕と、天道家という共同体にヒビを入れたくないある種の打算が入り混じってもいて、殴り合いは強いが人生経験は少ないやんちゃボーイは、同対処していいか分からない。
おまけにガサツで可愛くねぇ(からこそ格闘を共通言語に、性別を意識しないコミュニケーションも出来る)許嫁が、思わず見せた複雑な成熟にも気圧されて、乱馬は高い場所で立ち竦む。
しかし何しろ一目惚れなわけで、傷ついているあかねになにかしたいという思いを不器用に手渡すべく、彼は少女が足を置いている地平へ降り立って、なんとか対等であろうとする。
ここら辺の背伸びは、軽妙で軽薄に思える乱馬が実は極めて幼く、純情な少年であることを上手く照らしてくれて、この作品の主役がどんな男であるか、視聴者の理解を深めてくれる描写だ。
彼は見た目ほど…あるいは自分で思っているほど、器用な男ではないのだ。
あかねもまた乱馬が思うほど、そして彼女自身が認識するほど子どもではなく、複雑に拗れたものを自力で上手く解いて、サッパリ整理しようと頑張れる子である。
コミカルに戯画化され、それに影響されて生まれるイメージを時に裏切り、あるいはその奥にある真実を照らし直す、複雑な色合い。
それが前回Aパートには濃厚に匂っていて…小太刀登場でザッパリ、そこら辺の難しさは断ち切られた感じがある。
コクも奥行きもあるんだが、湿ってて重たいんだよなぁ、あかねの髪が長かった頃のらんま…そここそが良いんだと、アニメで書き直してもらって改めて感じたけども、あの調子で38巻続けられたかは怪しいと思う。
冒頭すぐさま、”格闘新体操”なる珍流派がこの世界に存在すること、濃い顔立ちのヤバ女が試合前対戦相手襲撃するのがそこまで問題にならないリアリティが、問答無用で叩きつけられる。
「こまけーことは良いんだよ!」と、フルスイングでぶっ叩いてくる強引さを、絵面の面白さとキャラの濃さで飲まされつつ、状況はあかねと小太刀の格闘新体操対決へと雪崩込んでいく。
この強引なギアチェンジに、乱馬を奪い合う恋の鞘当てが混じって、思春期の複雑さ、絡み合う感情の桎梏へ踏み込んでいく前回の筆致は、どっか遠くへぶっ飛んでいく。(時折思い出され、物語の勘所をキッチリ締める)
今まではワンポイント・リリーフ的に使われていた擬音演出が、今回はメインに躍り出て元気に暴れまわり、そのコミカルな味わいに引っ張られるようにキャラの仕草も大げさで戯画化された、「マンガみたいな」テイストを帯びてくる。
作品全体の方向性、リアリティラインの線引が変化するに従って、アニメもその画風を変えた…と、言っても良いだろう。
小太刀がぶん回すドデカハンマーと痺れ薬に、前回東風先生とあかねに漂っていたリアルな緊張感と悲しみはなく、留美子書き文字もファンシーにぶん回される(性)暴力は、的確にシャレになる範疇に収まって楽しい。
ここで小太刀という、恋に積極的(すぎる)な女性が登場することで、乱馬という男性だけが夜這いしたり風呂に迷い込んだり、性を一方的に簒奪する物語が変化するのは、結構面白い。
男も痺れ薬を盛られ被害者となりうる、思いの外ハードコアで平等な性の地平を、小太刀の大暴走はがっぽり”らんま”の中に拓いていく。
この奇妙で破天荒な風通しの良さが、”男女の物語”に基本なるしか無いラブコメとしての”らんま”に、不思議なバランスの良さを与えた…というと言い過ぎか。
しかしまぁ、あかねだけでなく乱馬もラブコメレースのトロフィーになるの、話の横幅としても良い作りよね。
小太刀がハンマーで殴りつけ、あかねが屋上から蹴り飛ばす。
女二人のせめぎあいは一切の遠慮がなく、ギャグ調で描かれる攻撃は後を引かない。
本番は来週の本試合とはいえ、小太刀が暴れさせる”面白い暴力”はらんまが扱う”格闘”がそこまでドシリアスではなく、かといって片手間にテキトーでもなく、笑いにもアクションにも真剣で/だからこそ笑える、程よい塩梅を的確に射抜いている。
「ここら辺のライン取りを路線変更直後、小太刀という良い画材を使ってしっかりやったのが、後々効いたんだなぁ…」と、原作完結後に立ってる自分などは思う視聴だった。
アタマに”格闘”付ければ何やっても良い、殴り合いギャグの基本線を引いてる。
乱馬を中心にあかねと小太刀が取り合う三角関係以外に、あかねを良牙と乱馬が狙い合う三角関係も、奇妙に再構築された友情と共に今回描かれる。
哀れなブタへと去勢されることで、復讐鬼の荒々しさが上手く取り除かれた良牙は、自分の人生メチャクチャにした仇にバチ切れるのを押さえて、悪友といっても良い距離感で向き合う。
あかねも自分の初恋切り裂いた通り魔に優しく微笑み、というか熱血コーチとして教えを請い、その微笑みに良牙は頬を染める。
このあと長く続く、”らんま”という物語のの基礎材ともいえる関係性も、このエピソードから改めて動き始める。
今見返すと良牙の振る舞いが、いかにも弱小部活のリベンジに手を貸す謎のコーチ過ぎて、「熱血のパロディをパロディする時代の、細かいクスグリだなぁ…」などと思うけど。
無害なブタという形を間に挟むことで、乱馬は横に背けた顔の奥で許嫁への思いを高ぶらせ、ライバルを拳以外でも意識するようになっていく。
少女に抱かれ同衾しても罪が無いPちゃん形態は、つまり良牙本人という”男”をあかねに認識されない、致命的な傷だったりもするのだが、そこら辺を表面化させないまま、愉快で奇妙な三角関係は格闘新体操決戦勝利に向けて、結構仲良く転がっている。
やっぱこの三人の間合い、暖かくて好きだな…。
ここに九能先輩の濃いキャラが乱入かまし、更に事態がややこしくなっていくことで、”らんま”らしい魅力的なカオスは加速していく。
思い込みの激しさと人の話聞かなさはそのまま、陰湿さと手段の選ばなさが加速している九能妹のヤバさは、獲物と付け狙われた乱馬があかねに近づき、彼からあかねを求める演技を引き出していく。
素直になれないシャイボーイが、許嫁にアプローチするための起爆剤としても、乱馬は格闘新体操決戦においてトロフィーになる必要があるんだなぁ…。
人の人生をたかが殴り合いの結果で決めるヤバさを、圧倒的な勢いと笑いで飲み込んでるのは、さすがの語り口。
九能兄妹の似た者同士感を、妄想の画風で示唆してるのめちゃくちゃ面白かったけども。
ポップなギャグ調で進んでいく今回は、”らんま”が持つ格闘コメディとしてのポテンシャルを、ややBPMを上げて元気に見せつけていく話数と言えるだろう。
今までどっしり、思春期の複雑さに踏み込んでいた作風は一気にペースを上げて、矢継ぎ早に騒々しいボケと濃いキャラ、溢れる暴力とそれをシャレにしてしまう面白さで、グイグイ畳み掛けてくる。
小太刀との対決だけでなく、良牙をコーチに据えて新たな三角関係がどういうものか、しっかりスケッチしてくる手際なども冴えている。
やっぱ、ここから”らんま”が変わるんだな…。
ぶつくさ文句たれつつ、なんだかんだあかねの特訓に付き合う乱馬の姿に、思わずニッコリなどもしてしまうが。
思わぬアクシデントにより、格闘新体操のトロフィーにされた男自身が、女の形で自分を賭けて戦う運びになっていく。
ここであかねから乱馬へと主役が移るの、ギャグとしてもシリアスとしても”格闘”を軸に回っていく今後の物語から、あかねをある意味パージする一手だったなぁ、と思う。
道場での組手でも、あかねは乱馬を本気にさせれていない。
許嫁に追いつけず、弱いままのお姫様として、主役たちが鎬を削る戦いの現場に入れない壁が、この瞬間あかねの前に置かれた。
それは素直になれないまま文句たらたら、彼だけのお姫様を体を張って守る王子様のポジションへと、乱馬くんを押し上げていく動きでもある。
ここで格闘でも恋でもライバルなはずの良牙が、コーチとして女らんまの隣に立つ展開が、変身SFでもあるこのお話の魅力的な混乱を象徴してて、なかなか楽しい。
女であり男であり、戦士でありトロフィーでもある乱馬は、ブタでもありコーチでもある良牙と二人三脚、己を賭けた奇妙なバトルへと実を投じることになる。
何もかもが複雑にネジレているのに、その複雑さを視聴者に意識しないまま、楽しく飲み干させてしまう、強引な勢いと不思議な面白さ。
凄く濃い”らんま”らしさがあるヒキでもって、次回の本番へ物語は続く!
というわけで、あかねの髪と一緒に序盤戦のしっとりした空気とペースを切り替え、新たな地平へと飛び込んでいく”らんま”の一発目、大変元気で面白かったです。
原作だと長い長い物語の序盤、ある種の気の迷いとも言えるあの空気を、クールの約半分使ってしっかりアニメが追いかけてくれたことで、その善さを改めて感じれてたんだなぁと、雰囲気ガラッと変わって思いました。
あの丁寧さで積み上げていった”らんま”がどうなるか、見てみたい気持ちもあるが、大長編連載になったのは今回のポップで元気な雰囲気あってこそだろうしなぁ…。
”バクテン!!”つう男子新体操アニメの傑作が世に出ている2024年からすると、「新体操は女の競技」つう話の前提が、既に揺らいでる感じもあって面白い小太刀編。
思わぬ角度から時の流れを感じたりしつつ、次回描かれる格闘新体操のせめぎあいが、どんな迫力で描かれるかが愉しみです。
今回あんまガッチリ殺陣を組まず、コミカルな調子を強調していたのは、次回マジで書いたのを深く刺すための伏線…とみているけども、さてはてどうなるか。
アニメスタッフが”らんま”を噛み砕き、新たに描き直す手腕も楽しみになってきているこのお話、次回もとっても楽しみです!