イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

TNMスタイル別参考作品紹介ショートレビュー”Across the Nightmare”  特別編

・スタイルにこだわらず、ダスクエイジ全体を読み解く助けになる作品群

TNMスタイル別参考作品紹介ショートレビュー”Across the Nightmare”
特別編その1 『戦争請負会社』
(P・W・シンガー、NHK出版)

戦争という人類最大の事業計画は、いかに民間にアウトソースされるようになったか。
平易な表現、綿密な取材によって明らかになる新時代の戦争。

というわけで、スタイルの枠を離れてダスクエイジを見ていく特別編。
四月の終わりまで、4回に渡って書いていこうと思う。
初回ではPWシンガーの名著を紹介する。
この後に続く”子ども兵の戦争””ロボット兵士の戦争”と合わせて、変質しつつある現在の戦争を理解する、力強い足場になるルポタージュだ。

企業が国家を乗り越えたサイバーパンクとは違い、ダスクエイジは未だ現在の延長線上にある。
暴力は的確に管理され、軍事力は国家の枠内に収まる…という幻想は、イラクやアフガン(それ以外のあらゆる戦場)が明瞭に否定してくる。
戦争は(いつでもそうであったように)変質している。

戦争事業の民間委託。それがいかなる理由で起こり、どう活性化し、どう戦争(の延長線上にある政治と経済)を変質させるか。
丁寧に追いかけたこの作品は、しかし鋭い知性特有の硬い拒絶がない。
読みやすく、面白く、ページを捲ったその先に、なにか新しい発見がある。
読書の喜びが詰まった名著だ。

 

TNMスタイル別参考作品紹介ショートレビュー”Across the Nightmare”  
特別編その3 『ルパン三世 PART5
矢野雄一郎テレコム・アニメーションフィルム
かの怪盗の名前を継ぎ、世界中のお宝を颯爽と盗むルパン三世
デジタル世代の荒波も、華麗に乗りこなしてみせるか。

というわけで、スタイルに関係なくダスクエイジの参考作品を紹介するコラム。
今回は天下のポップアイコン、ご存知ルパン三世の最新作である。
カゲ、カブトワリ、カタナ、マネキン、イヌ。
信念とクセのあるプロがそれぞれの事情で事件に首を突っ込み、夜を疾走する様はまんまTNMのアクトだ。

ガジェットやカッコ良さにこだわった作品作りは、当然参考になる。
だが個人的には、作品ごと・エピソードごとにキャラの表情を変え、それでも強い芯のある『ルパン』というスタイルそれ自体が、TNMのプレイと親しい気がしている。
アクトごとに求められるものを把握し、それに応えつつ自分らしさを出す。

常に移り変わる『今』に、様々な方法で応じてきたからPART5であり、0/1世代対応のドライでズルいルパンである。
様々なペルソナ、様々なヒロイン、様々な物語。
しかしキーは変わらず、新しさも取り込んだ『ルパン』になる。
斬新と守旧の複雑なうねりがスタイルを生む。
新シリーズ楽しいから見よう!

 

TNMスタイル別参考作品紹介ショートレビュー”Across the Nightmare”
特別編その4 『マルドゥック・スクランブル
冲方丁早川書房

悪徳の街、マルドゥック市。
その悪意に殺され蘇った少女バロットは、万能道具ウフコックと共に夜を駆ける。
生きる意味を問うSFノワール

というわけで、ダスクエイジ全般の参考になる作品を紹介する特別編。
今回は冲方丁の名作を紹介する。
少女娼婦バロットは、巨大な悪意によって焼き尽くされ、法と正義を信じる金色鼠・ウフコックによって救われる。
巨大な街にすり潰されるだけだった少女が手に入れた、巨大な力。
その濫用と活用。

暴力、支配力、反発力、経済力。
様々なパワーが複雑な絡み合いを見せるマルドゥック市の、欲望の色。
その薄暗い泥の中で、かすかに、しかし力強く輝く良心の奇跡。
武器と武器を持つものの意味を、ハードなアクションと悪徳を積み重ねながら問うていく、非常に骨の太いSFである。

スタイルのバランスを保てる味方だけでなく、己のスタイルに焼き尽くされてしまった敵役の造形も、ダスクエイジの光と闇を色濃く照らす。
魂の意味を厳しく問う暴力の巡礼の果てに、バロットが最終的にたどり着いたスタイルは優しく強い。
圧倒的なドライブ感と熱量、精密な計算で読ませる傑作だ。

 

・シナリオ作成に役立つ作品

TNMスタイル別参考作品紹介ショートレビュー”Across the Nightmare”
特別編その2 『読者ハ読ムナ(笑)』
藤田和日郎小学館
漫画家・藤田和日郎と仮想のアシスタントの漫画修行対話の形式で、少年漫画家の創作メソッドを伝える本。
ジュビロ先生のアツい血潮が、たっぷり詰まった創作論。

というわけで、今回はシナリオ制作全般に役立つ参考作品を紹介する。
うしおととら””双亡亭壊すべし”…今なおバトル伝記漫画の最前線をひた走る藤田和日郎が、惜しげなく自分の創作術を公開しているのが、この作品だ。
熱量のある筆致、精神主義に落ちない明瞭なロジック。
理知と感情のバランスが良い

TRPGのシナリオは少年漫画とは違うが、参加者と共有する物語、感情の起伏、収まりの良い展開、そこを超えて生まれる共感という根っこは変わりがない。
『凹みを作れ!』
『自分の好きをぶち込め!』
明瞭かつ直接的に、アツくてノレる物語を作る重点を教えてくれるこの本は、必ずシナリオの助けになる。

『漫画家デビュー』という物語を擬しているので、技法紹介自体に起伏があって読みやすいのも、おすすめポイントだ。
藤田先生のキャラも立っているし、この本自体が一つの楽しい物語として、読者を引き込む引力を持っている。
タイトルではああ言ってるが、読者と作者はみんな読メ!!

 

※藤田先生の”うしおととら”アニメ版を、TRPGの視点から見た時どう優れているかを書いた記事はこちら。

lastbreath.hatenablog.com

 

TNMスタイル別参考作品紹介ショートレビュー”Across the Nightmare”
特別編 その5『UN-GO』(坂口安吾水島精二ボンズ
終戦”を迎えたばかりの東京。メディア王の隠微な影響力が漏れる世界。
そこで起こる怪事件に、”敗戦探偵”結城新十郎が挑む。

というわけで、ダスクエイジ全般の参考作品を紹介する特別編。
今回は2011年のアニメシリーズ、UN-GOを紹介する。
”敗戦”によって傷つき、見せかけの平和を取り戻した世界。
そこで渦を巻く矛盾と欲望は、事件となって吹き出す。
フェイトたる新十郎は、そんな事件に果敢に切り込んでいく。

生臭い世間の情痴と、不可思議なるオカルト、陰湿なる権力が絡み合う事件の構造は非常にTNMのアクトっぽい。
表向き社会が輪郭を保ち、しかしそこには沢山の悪徳と退廃がある世界も、そこに蟷螂の斧を振り回す主人公の立場も、非常に『らしい』。
作品に流れる風が、ダスクエイジとよく似ているのだ。

坂口安吾の諸作品に強いリスペクトを持ち、見事に現代風にアレンジしきった変奏の腕前も見逃せない。
キャラも状況も違う。
しかしそこにあるのは、確かに安吾の世界なのだ。
元ネタを咀嚼し、いかにエンタメに仕上げるか。
TRPGのシナリオ執筆にも繋がる技術と努力が詰まった、ピカレスクの傑作だ。

 

・作品をTRPGの参考にする上で、大事にしたいTIPS

TNMスタイル別参考作品紹介ショートレビュー”Across the Nightmare”  
特別編 創作物をTRPGに取り込む上でのTIPS その1
というわけで、TNMの参考になる作品を紹介してきたこの記事。
今回は具体的な作品を離れ、参考作品をTRPGに活用する上でのTIPSをザラッと書いていきます。
今回11,次回11、合計22で

・パクれ
創作は模倣から始まる。
ガンガン他人の作り上げたものを摂取し、積極的にパクっていこう。
別にそれで商売するわけじゃない。
卓の上での楽しみこそがTRPGの本分だ。
貴方の好きをキャラシートに流し込み、ガンガンパクれ。

・混ぜろ
パクリは3つ混ぜればパクリではなくなる。
シナリオにしてもキャラにしても、単一のパクリならパクリ元読んだほうが早い。
しかし複数混ぜると、素材の選択と混ぜ方に個別の味わいが出てくる。
要素を抽出し、好きと好きを混色して、オリジナルの味を出そう。

・沢山食べろ
好きなジャンルだけバクバク食べてると、どうしても偏りと穴が出てくる。
メディア、作者、ジャンルに方向性。
色んな作品を横幅広く摂取していくと、作品への受容体が多様に成長し、見えなかったものも見えてくる。
食わず嫌いはやっぱり良くない!

・芯を持て
いろいろ食いすぎると、なんで自分が読んでいるか、何が好きだったかが分からなくなる。
そういうときは原点に戻って、自分の好きを再確認しろ。
キャラデザイン、物語の構造、関係性、シチュエーション。
原点を確認することで、新しいものを取り入れる効率も上がる。

・ルールブックを読み込め
参考作品をただ流し込んでも、TRPGにはならない。
データ化による単純化、システムによる他者との共有。
TRPGがメディアとして持っている特性を、ルールブックを解体して把握することが、より精密に他メディアの要素を取り込む足場になる。

・抽象化しろ
卓のメンツが必ずしも、貴方の大好きな元ネタを知っているとは限らない。
固有名詞をはがせ。性別を逆転させろ。
それでも残る要素の芯をつかめていれば、元ネタのムードは生き残る。
自分が何が好きか、この作品の心臓はどこか。そこを抑えて、コアだけを活かせ。

・リスペクトしろ
パクるにしても愛は大事だ。
流し込まれる参考作品への敬意がないまま、ただ形だけ弄ぶ時、バカにされるのは元ネタだけじゃない。
そういうパクり方をした貴方と、同卓する仲間、TRPGそれ自体もだ。
踏むなら敬意と愛情を持って、キッチリ踏もう。

・囚われるな
元ネタが大好きなのは判る。
だが目の前で起こっているのはTRPGであって、既に結論が出ている他の物語ではない。
同卓してる連中の目をしっかり見て、今生まれつつある唯一の物語の方を大事にしろ。
必要ならば、元ネタは蹴り飛ばして別の結論に飛べ。
それは意味のある飛翔だ。

・興奮しろ
結局創作と人間を熱くドライブさせるのは、燃え上がる感情しかない。
暴走を恐れず、興奮しながらアニメを見て本を読もう。
ガツガツ噛み付いて、ページを咀嚼していくエネルギーは、覚めた視線からは生まれない。
ハァハァしながら読め!

・醒めろ
過剰な思い入れは、時に共有の邪魔になる。
感情の熱量を抱え込んだまま、いかに冷静な腑分けを行い、必要なパーツを選び出すか。
ジャンルの解説書を読み、バックボーンを探り、その作品のポジションを見据えろ。
冷たく分解することが、アツい感情をより正確に理解し、届ける足場になる。

・パクるな
どんだけ共感できても、他人は他人で貴方ではない。
他人の言葉を浴びている内に、譲れない自分だけの何かが見つかる瞬間が、必ずやってくる。
それは貴方だけの宝物で、シナリオにしろキャラにしろ、それをゆるがせにしないことで光る。
それを大事にすると、面白いTRPGが広がっていくだろう

 

TNMスタイル別参考作品紹介ショートレビュー”Across the Nightmare”
 特別編 創作物をTRPGに取り込む上でのTIPSその2
今回は具体的な作品を離れ、参考作品をTRPGに活用する上でのTIPS後編をお送りします。
11個!

・偏見を自覚しろ
人間である以上、どんなに優れた言説でも必ず偏る。
片方の立場を強調すればするほど、それと対立する意見は弱まる。
完全に公正明大なフィクションもノンフィクションも、どこにもない。
偏りこそが情報に意味を与える以上、よく出来たものほど偏っている。
それを受け取る貴方もだ。

・公平さを目指せ
だが偏見の前提を開き直ってしまうと、集める情報、読む本は特定の傾向に引き寄せられ続ける。
自分の耳に心地よい趣味、主張を集め続けることになって、認識も興味も歪んでいく。
何かを10入れたら、その対極を1入れろ。
カウンターを当てて、歪みを是正しろ

・ヤバいネタはヤバい
政治、セックス、民俗、差別、疾患に障害。
社交的ゲームであるTRPGにおいて、扱いが難しいネタは沢山ある。
それがヤバいってことを認識した上で、ネタを食え。
ゲームに使うときは、やばくないよう濾過するか、フェアな注釈を事前に入れろ。
ナイーブなネタで、ヒトは簡単に傷つく

・ミーハーでいろ
流行るものには流行る理由がある。
アンテナを高く立てて、極力ミーハーでいたほうが、一般的にウケるものへのセンスは維持される。
別にそれに染まらなくてもいい。
ただ、流行りへのチャンネルを閉じると感性は簡単に腐敗し、面白いものを見つけるのも、掴むのも難しくなる。

・得意分野を作れ
なにか一点突破で縦に情報を集め続けていると、それが横幅に繋がる瞬間が来る。
特定ジャンルへの深い理解が、思わぬところで化学反応を起こし、理解を助けてくれることがある。
自分なりの武器を、一番の好きを自覚し、常時磨いておくのは強さに繋がる。

・置いてけぼりはやめろ
元ネタの話をみんなとするのは楽しい。
共通の話題、共通の笑い。
しかし知らない人にとってその笑いは、共有されるべき卓から弾き出される圧力になってしまうことがある。
相手が知らないなら、卓内全員に届くような料理法でキャラやシナリオを煮込め。

・楽しめ
最初から『この作品はどうせつまんねぇ面白くねぇ』と構えて入ると、本当に面白くなくなる。
作品を接待しながら見ろ、という話ではない。
極力素っ裸で見たほうが、作品に隠れている面白さは見つけやすい。
せっかく時間も使ってるわけだし、悪口より褒め言葉のほうがTRPG向きだ。

・マップを作れ
類似点、影響、関連性。
作品は作品単品で存在するわけではなく、様々な関係性の網の中にとらわれている。
それを解きほぐすと、シンプルな楽しみ以上の理解が生まれるときもある。
自分なりのマップに作品を配置するのは、次の作品をより楽しむ足場として使える行為だ。

wikiを信じすぎるな。
ウェッブベースの情報は便利だ。
手軽で、低コストで、更新が早い。
それだけに嘘や抜け、特定の偏見による捻じ曲げなども多数仕込まれている。
ときには『重い』メディアにアクセスして、色々確認するもの大事だ。

・作れ
モノを見るといろいろ感じる。
その感覚は貴方だけのもので、何らか意味がある大事なものだ。
別に立派な小説にしなくてもいい。
身内のシナリオ、一人のキャラ、一行の感想だって立派なアウトプットで、立派な作品だ。
食べた作品を己に焼き付ける意味でも、外には出したほうが良い。

・実プレイを大事にしろ
TRPGは同人誌作りでも知識自慢大会でもなく、卓を同じくした人と一緒に楽しむゲームだ。
相手の目を見て、自分の好きを言葉にしていく。
一瞬の物語を共有するその特性を大事に、通じ合えるようにネタを使いこなせ。
楽しいことが、一番大事だ。

・シンプルに行け
リアルタイムで多大な情報を処理するTRPGは、シンプルな方が安定する。
他メディアで人を引きつける複雑なプロット、一筋縄でいかないキャラ、利益の相反は出来ない…わけではないが、それ相応のコストをかけて、意識を共有する必要がある。
基本、わかり易さ重視で味付けしろ。