無垢な殺人鬼を便利に使って、地獄島から脱出しよう!
物語のグランドクエストが見えてくる、ホタルの嫁入り第2話である。




つーわけでセクシーでホットな男たちの裸身と、性と暴力の只中でなお美しい情景と、程よく手加減して生っぽい簒奪から距離を取ったヤバ状況がワッと押し寄せてくる回である。
僕は性差の川向うから、むせ返るように都合よく尖った欲望を嗅ぐためにこのアニメを見ている(面もある)が、そこら辺の芳香がタップリ嗅げてとても良かった。
迫りくる暴力は無垢なる悪魔が跳ね除けるし、自己を否定する性の暴力は可憐に手玉に取れるし、素晴らしきかな天女島!
…って露悪をコスって悦に入るのが目的ではないので、感じたことを書いていく。
お話としては物語の舞台となる天女島の綺麗な表層を確認し、こっから何をやっていくのか…そのパートナーとなる進平がどういう人間か、大体の筋道をつける回だった。
女を食い物にする前近代的システムに乗っかり、どんぶらこと本土へ身請けされる以外脱出口がない腐れ売春島。
迫りくる刺客を撃退し、人殺してでも求められるだけの価値がある私を確かめつつ、唯一残った武器である異性への扇情が一線を越えぬよう気をつけながら、楽しい夜職ライフにレッツゴーだ!
…書き出してみると、なかなかファンタジー力高いな。
見知らぬ欲望のキャンパスに、見知らぬ人たちの顔を少しでも写し取ろうとしてお話見てんだから、都合の良さは大事な画材であり、そこに保護されているものにこそ色んなものが滲むと思う。
紗都子はイエの道具として役に立つ、前近代的婚礼&生殖のシステムを疑っておらず、現状島から出るのも便利な道具に戻るためだ。
それは天女島であらゆる自由を奪われ、華やかな牢獄に縛り付けられているセックスワーカーたちと、対局にあるようでいて通じ合っている。
犯され収益を奪われ、身体と精神を損なって何の保証も裁きもない、男たちの欲望にあまりにも都合の良すぎる楽園。
紗都子が流された天女島は、帰還を切望するお父様の懐と、真逆なようでいてそっくりである。
この同質性に気づき、システムから引き剥がされた近代的個人としての自分を確立するのが、紗都子のクエストであろう…というのは、泥に塗れた飯を貪り、艶やかな舞で群衆を魅了するシーンからも感じられる。
そこに在るのはイエに守られて貧弱だった自分を離れ、嘲りや支配に満ちた(けど、程よいピンチになるよう調整された、花魁テーマパークに反射する)世間に立ち向かい、真の自分を実現する物語だ。
唐突な誘拐と隔離は、そこら辺のスタンダードな骨格を、扇情的な筋立てと噛み合わせるための物語的機構…ともいえるか。
偉大なる父の庇護/支配を離れ、ヤベー殺人鬼を見せかけの愛で操り、取り返しがつかないほど婚礼商品としての勝ちを損壊する、ガチンコの性消費から上手く逃れつつ、逞しく糖蜜掛けの地獄を生き延びる。
そこは血みどろで過酷であると同時に、自己実現の可能性を秘めたワンダーランドであり、真の自分、真の世界がどんなものか教えてくれる「教室」でもある。
だからとても美しい景色が描かれ、未来へのキラキラした希望が瞬くのだと思う。
まぁ遊郭で展開しとった搾取、ガチンコでやったら抑圧からの自己実現ファンタジーとはジャンルが変わってしまうので、こういう角度から切り取るのは納得ではある。
紗都子が愛をチョロ見せして手玉に取り、性愛しか切り売りするものがない自分に変わって、暴力代行装置を努めてもらおうとする進平。
彼もまた、人殺ししかやらせてこなかった暴力のシステムの中、何も判んないまま異様な暴力を研ぎ澄ませてきた、無垢なる怪物である。
紗都子の美貌が無根拠かつ圧倒的に、フツーの女たちが粘膜差し出してギリギリ確保している立ち位置を、フワリと上から簒奪していくように。
進平の暴力もブサイクなぼんくら共が行使するヌルさを超越して、ある種の華麗さすら宿して圧倒的である。(この軽やかな残虐さを、結構気合い入れて作画してくれているのはありがたい)
盲信し、あるいは利用するだけの偽りの繋がりの中で、しかし二人は性と暴力…あるいは女と男に分離されつつも、圧倒的に優れたその才能をどう使い、何を得るべきか何も見えていない、システムの奴隷であることには変わりがない。
紗都子が便利に使っている進平のぶっ殺し力は、彼がシステムを制御する卓越したオスであることを保証せず、むしろ暴力に溺れるほどシステムにはまり込んでいく、無自覚な犠牲者でしかない。
それは真に男女が愛し合うことも、人間が生きることも、人を殺しちゃいけない理由も、何も知らない幼さが生み出す、残酷なる無垢だ。
それと同じモノに脳髄染められている家制度の奴隷は、現状自分の立ち位置を疑わず、同じ奴隷を便利に使って、より大きな奴隷牧場に帰還しようとしている。
そらまー、不健全な状態だ。
こっから話を回転させて、ホタルの花嫁達にちったぁ人間らしい繋がりを取り戻すためには、紗都子が父を中心とする故郷のシステムを疑わなければいけないだろう。
進平は自分自身で迷妄を切り開き、見せかけの強さを投げ捨て自分が奴隷であるという現状を認識する能力を、おそらく持っていない。
そこで道筋を立て、図体だけデカいセクシーな殺人鬼に在るべき倫理を指し示してあげる特権は、暴力も意思決定権も持たない、手弱女にこそあるべきなのだ。
性と暴力をハンドリングする権限から遠ざけられているからこそ、そういう物理現象を操作する根本的な倫理で、「男」への優越を掴み取る。
無辜なる乙女たちがくっそめんどくせー男どもの面倒を見続け、メンタルケアしてヤバ状況を乗り越えていくアニメをまぁまぁ見てきた視聴者としては、やっぱこの構造って「女性向け」フィクションの基本なんだな、と思った。
自分殺しに来るクズをダイレクトに叩き潰す権利も能力もないが、それを代行してもらえる優しい殺し屋に、真実人間が在るべき形を提示し、物理的現象を超越した真の価値を差し出せる優位性は、常に視点担当人物たる「女」にある。
それはこの都合の良い夢を逃避先にせざるを得ない、現実というクソゲーにおいて真逆の構造が、メイン消費者層を縛り付けている、クソみたいな状況の裏焼きなんだとは思うけど。
ともあれ紗都子はひたすら彼女との恋の幻に溺れ、そのためならどんな存在もぶった斬って罪にまみれてくれる進平より先に、今どこにいてこれからどこに行くべきか、見つめれる立場にある。
まぁ主人公なんだからそういう優越性を確保しているのは、必須だし大事なんだけども、そこにセックスとバイオレンスを自力で跳ね除けるパワーがなく、「男」に外部委託してんのが歪で面白いなぁ、と感じた。
物わかりの良い庇護者っツラしたお父様も、迫りくる荒くれ者どもも、紗都子に嫌なこと押し付けてくるのは皆「男」である。
そんなむくつけきカス異物の中で、真実あるがままの自分を大事にし、自分が何者であるかを血と欲望の中で見つけるパートナーになってくれる、真実の殿方。
それが一方的に真実を押し付けてくるプリンス・チャーミングではなく、むしろ自分が人の道を指し示してやらなければいけない、刀を握った幼子であるのが、この話の特殊性かもしれない。
やっぱ母にして恋人にして倫理的支配者であるという、ハイブリッドな「女」の造形、めっちゃエルロイ味がすんだよな…。
そこは大変良い。
もっと混濁して濁れ。
無邪気で幼い進平は、恋人であり母である紗都子に捨てられることに怯え、ガキみてーな結婚の約束にすがりつく。
その欠乏と恐怖は、彼が今置かれている無邪気な殺戮装置に満足などせず、もっと人間らしい、もっとより善い生き方を、無自覚に求めている証拠に感じる。
その一番でかくて根源的な願いに、道を示し答えを与えてあげられる特権は、おそらく紗都子にある。
こんだけ主人公に都合のいい舞台が整っているお話で、展開の心臓部といえるこの特権を誰かに譲るなんてことは、まーないだろ。
それは人を殺したりセックスを自由に行う力がなくても…ないからこそ、無力な女に許された最後の権利なのだ。
運命に翻弄されシステムの奴隷となる被害者に見えて、紗都子は自分から唯一の価値を絞り出すセックス商売を乗りこなし、迫りくる暴力を跳ね除ける超暴力装置を愛の鎖で繋ぎ、その未来を優先的に示せる特権を持つ。
ハードコアな試練はそういう「強さ」を心地よく覆い隠し、可哀想な弱者として紗都子と物語を甘くコーティングしていく。
その転倒に陶酔できるからこそ、ファンタジーは欲望充足装置としての仕事を果たすのだろうし、酔えるだけの甘さと面白さをどう創り上げ駆動させるかが、腕の見せ所でもあろう。
だから今後、紗都子がどう弱く、弱いがゆえに強いのかを様々なイベントの中描いていくかは、自分的に大事なポイントだ。
紗都子以外の「女」を捉え嬲りものにする、暴力とセックスを歯車とする「男」のシステム。
紗都子は自身の舞で…あるいは進平を縛る愛の行使で、これを乗りこなすタフさを静かに示した。
このタイミングで暗示さされた構造は、物語全体を差配する極めて大事なものになると思うから、今後も紗都子は「弱くて強い/弱いからこそ強い」存在であり続けるだろう。
では彼女の欠けた部分を補う、彼女を害せず愛し守る理想の「男」たる進平の、「強くて弱い/強いから弱い」部分は、どんな風に描かれていくのか。
その弱さにいつ紗都子が目を向け、殺戮奴隷として便利に行使している相手が、自分と同じシステムの奴隷であると気づくか。
そこが自分的に一番の眼目かなぁ、と思う。
極めて古典的なロマンスの構造を引き継ぐ物語において、そういう覚醒の火種になるのは勿論「真実の愛」なんだろうけど、過剰に暴力的なセッティングによって、愛を便利に使って暴力に対抗しているネジレもまた、話が進むほどに加熱していく。
自分の同類に人殺しを代行させ、罪の肩代わりをさせている状況に紗都子が気づくか…気づいたとして、どうその贖罪に挑むかは、天女島大脱出に忙しくなるだろう今後の展開の中、とても気になるポイントだ。
いやまぁ気づかないまま便利に使い倒してもいいんだが…求められる式次第は、そういう矛盾の自覚と否応なく衝突するだろ。
解った上で現状紗都子真実の「男」であるお父様のもとに帰り、家制度の奴隷として別の鎖に繋がれるために進平便利に使い倒す、歪なタフさで突き進んでくれても、それはそれで面白そうである。
鏡合わせの奴隷たちが、お互いに勝手な幻想貼り付け便利に使ってるクソみてーな構図に気づいて、そこからどうにか魂を自由にするべくもがく戦いに、舵を切っても良いだろう。
どっちに転がっていくかは世間的な正しさでも俺の好みでもなく、血肉削って作品を創り上げている存在の舵取りにかかっているわけで、そこにこそ作品独自の熱も宿る。
欲望充足のために整えられた舞台に、否応なく噴出する歪みとどう取っ組み合っていくか…楽しみだ。
そこで苛烈な責めにも屈せず、セクシーな半裸で紗都子への忠愛を吠えてくれる二人目の男が登場して、物語は次回に続く。
ここで新たな燃料をボンボン投げ込んでくる所に、欲望充足装置としての真摯さを感じ取れて大変嬉しいが、この忠犬系男子がどう効いてくるのか…なかなか楽しみだ。
迫りくる男たちがのきなみ紗都子の容色を褒め、彼女をモノにしようとする欲望故に効率良く目的を果たす道から外れて、都合よく物語が転がっていくように。
常識や倫理から外れるほどに強い願望を、生み出すほどの特別な魅力が紗都子にはある。
渦巻く暴力は、そんな特権の証明でもある。
それが生み出す火花の処理を、自分とは無縁の暴力委託機構に任せて、他人に侵されない自由と権利…それに付随する責任から軽やかに逃げているのが、逞しいアマだなって感じではあるが。
こういう「弱い強さ」を今後どう扱い、自分にはかなり濃度強いヤダ味生み出す特権化と対峙していくか…とても楽しみだ。
ここで紗都子が秘められた剣才に覚醒し、真っ向から敵ぶち殺す「強い強さ」に目覚めても面白いけど、そういう話じゃねーし、そういうルートを塞ぐための心臓の爆弾だろうしね…。
宿病も弱くあるためのスティグマとして活用する、ストーリーテリングの逞しさを心地よく感じつつ、次回も楽しみ!
・追記:色んな話が色んな角度から、自分だけに紡げる手つきで何かを語っていて、それが編み合うことで自分だけの「感想」が生まれていく現象を、俺は好きだし慈しんでいる。
こういう感想を書いていると、暴力による強制、性決定権の簒奪の当事者として、暴力を外部委託せず自分も血まみれになりながら「男」ぶっ殺し、運命切り開く方向性に猛烈に突っ走っていった”おまごと”を思い出す。
「オメーラに私の肉を引き裂く権利も、呪いをかけて存在を規定する自由もねぇ! ぶっ殺してやる!」と、濃厚な殺意込めて主役が殴り殴られする展開は、二話までで俺が勝手に造ってる、このお話がこういうコースで進んでいくんだろうなぁ…という幻と、気持ちがいいくらいに真逆だ。
あのトンチキでアバンギャルドな血みどろ復讐譚が、ガチガチにウーマンリブなレズビアン作品だったことと、このお話がお行儀良くヘテロロマンスに収まってる(ように見える)お話なのが、両方結構好感してる自分の中、どういう化学反応を生み出していくか。
そういうのを観測するのも、自分の中に作品を摂取し蓄積していく面白さであろう。























