遂に幕を開けた氷上格闘はルール無用…なんでもアリのハチャメチャだ!
顔が良いだけのドクズを相手に、主役カップルが意地と純情を示す…と思いきや、思わぬ方向にぶっ飛んでいく、令和らんま第9話である。
前フリが終わっていよいよ格闘ペアスケート本番なのだが、記憶より三千院がクズ過ぎて面白かった。
徹底的に他人の行動を、自分の都合の良いように解釈しまくる、顔が良いだけのエゴイストを鏡にすることで、乱馬くんの純情と可愛い意地っ張りが映える…という構図なのだが、単なる噛ませ犬で終わらない徹底したアクの強さが、作品独自の味わいを生んで面白い。
つーか令和に見ると、色んな意味でエグいなアイツラ…。
初のペアバトルということで、対戦相手がガンッガンに圧力をかけてきて、シャイな拳法少年が本当に大事にしたいものこそ、汚い手で蹂躙してくるこの展開。
前回に引き続き、乱馬くんが思いの外あかねにゾッコンであり、泥臭い意地を張って背中に許嫁をかばう様子が色濃く描かれていた。
自分の土俵で戦う三千院が洗練された美しい仕草なのに対し、アウェイな乱馬はややドタドタイモっぽくて、そこが嘘がつけない実直なピュアさ
を表していて、なかなか面白い。
ここら辺、ここまで乱馬らしさとして描かれていた軽妙さ≒軽薄さを、地面に足をつけて描き直す感じの筆致だと感じるね。
乱馬くんは誰に対してでも体を張るわけではなく、やっぱあかねが危機にさらされクソイヤなヤツの餌食になりそうだからこそ、地べたを這いずり意地を張って、許嫁を守ろうとしている。
アプローチかける相手の顔も不鮮明な、脳内ポンチ絵のプレイボーイとはちょっと違う男の子なのだ。
この熱量を受けてあかねも、格闘小町の本領発揮…と思いきや、良牙の思い込みが暴走した挙げ句にペアを入れ替えさせられて、ガラスで囲まれた安全圏に遠ざけられていく。
男のことも対等に張り合い、拳で守られるだけじゃない自分を証明するチャンスは、あかねから剥奪されていく。
現代的な感覚からすると、激化するバトルについていけないあかねの弱さ…それをカウンターウェイトにすることで成立する”守られるべきお姫様”としてのポジションは、やや男尊女卑の薫りもある。
ここら辺、極めてポップなやり方とはいえ男女の垣根を気軽に越えて、男らしさ/女らしさに翻弄される主人公が、それでもなお「俺は男だ!」という自認(と、そう叫ぶことで成立する、自分らしさを巡る青春コメディの味わい)を保つため、あかねが”女らしさ”の極に閉じ込められていく運動とも取れる。
後により加速していくハチャメチャバトルの中で、最前線に立ちきれないあかねの、闘技者としてのアイデンティティ。
その危うさは今回、喧嘩するほど仲が良いらん良コンビに押しのけられて、安全で優しいガラスの檻に追いやられた時点で、既に始まっていたのかなぁ…などとも感じる。
これも連載終わった”今”の感覚なんだが、時に一切の手加減なく本気で殴り合い、時に性別を取り替えて男女カップルとしての掛け合いもやれる、らんまと良牙の関係性って、エッジ立ってんなぁ…と思う。
あかね相手にはなかなか表に出来ない素直さが、良牙くん相手には(時に過激な暴力を交えて)暴れていて、”答え”にたどり着いてしまえば終わりなラブコメ青春迷走劇の中で、わざと迷わず間違えず、ずっと同じ調子で走れる強さを感じもする。
というわけで遂に火蓋を切った格闘ペアスケート、前半戦は堂々許嫁宣言をぶちかまし、体を張ってあかねを守る乱馬くんの泥臭い奮闘が、なかなかに熱い。
アクションシーンへの力の入れ方がいい仕事をしているのは令和らんまのとても良いところだが、華麗とはとてもいえないズッコケで入場してきて、バトルの方もそこまで流麗ではないらんまペアと、勝手知ったる自分の土俵、スイスイと淀みなくスケートと暴力を組み合わせて踊る三千院ペアの対比が、上手くキャラクターの性根を見せてくれる。
外見だけ良くて絆のないカスどもと、泥臭い衝突の奥に本当の真心を抱えた二人。
そういうバトルを通じて、乱馬くんが本当は何を大事にしているかが熱量込めて削り出されてくる、二度目の無差別格闘である。
あかねも足手まといとは言えないいい動きをしているのだが、乱馬くんが惚れた相手にとにかく過保護で、なおかつ弱みも見せたくない意地っ張りなため、対等に危機に立ち向かうというより、守られるべきお姫様的ポジションに収まってしまう。
東風先生への恋を通じて、そういう自分にはなれない事を思い知らされているあかねちゃんは、元気でパワフルな自分らしさをこの戦いでも発揮したいのだが、乱馬くんは(そういうところこそが好きなのに)それを認められない。
コミカルでパワフルな戦いの中、あるいは華麗なる汚濁を叩きつけてくるクズカススケートコンビを見ていると、そこら辺の捻れた関係性がじんわり伝わっても来る。
スケートしながら殴り合い、文字にすると完全にギャグなのに妙な熱が宿り、少年少女の心根も戦いの熱気の中で明らかになってくる、奇妙で魅力的な味わい。
作品の持つ”らんまらしさ”が結構出るよう、考えて組み立てられてるバトルだなーとも感じた。
そこら辺が最高潮に達するのが、異形の必殺技”別れのメリーゴーランド”がお目見えした時なのが、これまたらんまらしいわけだが。
いやー…三人分のリフトキメる三千院の力み顔含めて、メチャクチャ変な技だなアレ…。
今回は色んな縛りもあって、乱馬くんは今までの余裕が奪われダメージ受ける描写も多い。
あかねを背中に庇って窮地に立ってみると、彼の性根がピュアな熱血野郎であり、思いの外汗臭く泥臭い男であることが見えてくる。
重力から解き放たれ、フツーの歩き方をしない(出来ない)空中殺法な少年と思われていた彼の素顔が見えてくることで、意外なギャップが魅力的に立ち上がってきて、主人公により惹きつけられるエピソードでもある。
やっぱクール気取ってる乱馬が、イザという時は熱く真っ直ぐ生きようとする少年だってのが、彼を好きになる一番の足場だからなぁ…。
その熱量が、あかねへのLOVEから来ているのも好きだ。
こういう誠実な泥臭さを照らす鏡として、三千院の脳内ポンチ絵は極めて適切な表現であり、「やっぱ他人をこういう目線でしか見れねーヤツはダメだなッ!」となる。
表面薄皮一枚だけ自分と似てて、だからこそ真逆で許せないゴミに一番大事なものを奪われそうになってる状況は、乱馬くんの闘志をかき立て、あかねを安全な無菌室へと隔離する。
ここで肩を並べて対等に戦うのではなく、ショートヘアの格闘小町をお姫様の檻に閉じ込めるのが時代性かなー、という気もする。
(ここら辺、未履修の”犬夜叉”においてかごめがどういう位置に居たかで、見えてくるものがありそうではある)
過保護で意固地なきらいはあるけど、乱馬くんは生身のあかねちゃんを誰よりも大事に感じて、だからこそズタボロになっても彼女を守り切る。
こういう不器用な誠実さが三千院にはなく、良牙くんには響き合うおバカさがあるので、レギュラーキャラと使い捨て戦闘要員の命運も別れていく。
「全裸での豚バレ」という、考えられる限り最大のリスクを猛然と背負って、男女を入れ替え衣装も唐突に着替えてのバトル第二幕が、いよいよ幕を開けることになる。
ここら辺、小太刀戦で掘りきれなかった悪友コンビの温度感を、バトルの中に削り出していく展開でもあるんだな…。
こうして改めて、いい感じのクオリティでアニメになってみると…そしてペアバトルという形式を描かれてみると、日常シーンでは中々見えないキャラの性根が、バトルという非日常に顕になっていくという、格闘モノに大事な要素をしっかり踏まえた作品なのだなと感じた。
あかねと同じ戦場に放り込まれる、守るべきものがある戦いだからこそ、乱馬くんはここまでの余裕を投げ捨てて泥っぽく熱い本性を、むき出しにして傷ついていく。
その痛みを強がり隠す、チャーミングな男の子っぽさがあればこそ、一番大事なあかねちゃんを、自分たちの本当を顕にする戦いから遠ざけて、モヤモヤ不鮮明な距離感に遠ざかっていってもしまうわけだが。
まーバチバチ一緒に殴り合って、心の奥底まで分かりきってしまうと、絶妙なバランスと危うさで成立している格闘ラブコメ世界が、あっという間に決着してしまうんだけどね。
答えは既に見えているのに、すぐさま飛び込むわけには行かないお話の都合やら、なかなか素直になれない青い心に阻まれて、格闘ペアスケートは思わぬ方向へとぶっ飛んでいく。
流氷の戦場へと様相を変えたリンクで、良牙くんとらんまちゃんはどんなバトルを繰り広げるのか。
次回暴かれる二人の関係性に、自分でも予期してなかったワクワクを感じつつ次回を待ちます。