NieR:Automata Ver1.1a 第16話を見る。
楽園は天に砕け、不可避なる死が二人に迫る。
運命に追い立ててられ、感情に急き立てられ、求める己が隻翼。
伸ばした手は届かぬままに、かくして比翼は折れ砕けた。
壮絶と悲愴が残酷を伴奏に激しく踊る、ニーアアニメ二期第4話である。
1クール2/3を残して主役が死んだが、まだまだ物語は続く。
続いてしまう。
死という必然が終わりになってくれない、機械生命体だからこその辛さをこの長い終局、丁寧に織り上げているのを感じる。
ヨルハが永遠の戦士である証を、バックアップしてくれていたバンカーはもはやない。
死んで殺してなお続く、感情を押し殺した罪の連鎖もまた、今回の死で終わる…ワケもなく。
9Sは最愛をもぎ取られた痛みで復讐鬼と化すだろうし、2Eの記憶を継いだA2は迫りくるその刃を、排除すべき”敵”と切り捨てることは出来ない気がする。
感情さえなかったら、ただの機械だったら、何も感じぬまま戦い終わっていけた人形たちの地獄は、バンカーにバックアップされた永遠が壊れてなお、絆を経糸に新たに編み上げられてしまう。
死んでなお消えない美しい思い出こそが、憎悪の薪となって消えない炎を燃やし続ける。
…その黒い熱は、イヴを奪われたアダムが己と世界を焼いた狂気に、悲しいほどそっくりだ。
2Eを介錯し、その意思をデジタルコピーして継いだ(からこそ、長い髪を切り捨て2Eと同じ顔になった)A2は、託された思い出から彼女たちの絆もまた、理解し共感してしまうだろう。
感情のない機械なら、デジタル化された魂の色なぞ気にもとめない。
実際9Sはハッキングして覗き込んだ、機械生命体の思い出を自分には関係ないものと、冷たく切り捨ててアンドロイドの定めと向き合ってきた。
2Bだけが世界の全てで、彼女と繋がる比翼の鳥であり続けるために、誰かの愛を切り捨てる。
そういう戦い方を、A2はヨルハの顔に戻ってなお続けられるのか。
次回明かされるだろう、彼女の地獄がそれを照らすのか。
壮絶な空中戦も、地上に落とされてからの死闘も、もはや血湧き肉躍るエンタテインメントではなく、戦いが本来そう在り、そう在るべき残酷と悲愴に満ちている。
帰る場所も、永遠の不死も、仲間との絆も、果たすべき使命も。
何もかも無くなってなお、戦うことしか知らない人形たちの哀しみと、誰かにプログラムされた赤い狂気で、地上は満ちている。
多分機械生命体とドンパチやってた時代からずっとそうで、狩り立てる勝者から倒れ伏す敗者へと主役が立場を変えたから、見ているこっちにも伝わりやすくなったモノが、物語を満たしている。
それは鉄錆た血の匂いと苦い涙の味に、微かに狂った愛が交じる、戦場のカクテルだ。
深い傷を負い、魂を侵されて、戦士としての役目を果たせなくなるほどに、2Eの地金が見えてくる。
そこには9Sへの想いばかりがあることは、思い返せば第1話から見え見えで、しかしそんなモノどこにもないのだと、強がりながらあの子は戦い続けてきた。
人形は感情を持たず、永遠に戦い続けるのだと、定めた誰かのプログラムに縛られて。
好きな男の子を特別な名前で呼べず、それどころか何度でも繰り返し殺し続けて、再び出会ってまた好きになる。
残酷な永遠から逃げられぬまま、もはや人間もエイリアンもどこにもいない、同じ人形しかいない牢獄にずっと閉じ込められてきた。
終わりが終わりにならない円環構造から、死によって魂と命を開放する。
バンカーが破壊されバックアップシステムが破綻したことで、ヨルハはようやく死神の慈悲…その真実を知ることになる。
それは既に終わり果てていた世界の様相が、ようやく戦士たちに追いついて必然の終局を手渡す展開でもあり、耐え難いほど哀しくも、どっかに安堵の色を宿す展開だったと思う。
施されたプログラムは改変されることなく永遠に続くし、心も体も修理可能な機械だからこそ、死が終わりになってくれない。
そういう人形兵士の業からヨルハは、何もかもが終わる瞬間しか開放されないのだろう。
…本当に、そうなのか?
A2は群れからはぐれた異常個体として、譲れぬ何かを抱えて追手を斬り伏せ、修繕の効かぬ身体を地上に永らえさせてきた。
一度死んだらそれきり。
2Eが最後の最後に獲得した”人間らしい”一回性を、一匹狼だからこそずっと背負ってきた彼女は、何を思い何を背負って、戦い続けてきたのか。
2Eを介錯し、その思いを継いだ時、何を考えてきたのか。
これが明かされるのも、また全てが終わるときだけなのかもしれない。
…バレバレだった内心をモノローグし、禁じられた感情を顕にする(”人間”なら当たり前で、いちばん大事な)権限がヨルハに与えられるのが、末期以外ないのあんまりに辛いな…。
このお話は手遅れの過ちと、必然の終末と、愛ゆえの狂気に満ちた”人間”の戯画だ。
巨大なシステムに縛られる不自由と、それが生み出す軋みと、そこから抜け出し壊れていく運命に、ずっと満たされてきたし、2Eの死を以て今回、より色濃くそれが示された感じもある。
愛し、戦い、倒れ、受け継ぐ。
主がとうに消え失せた地上で、永遠に戦い続けてきた機械人形が演じるドラマは、異質で歪で…全く人間らしくないからこそ、極めて切実に”人間”の在り方を照らす。
眼帯の奥に秘めた愛のままに、世界と己を真っ直ぐ見つめ、何物にも縛られず生きていくことの、なんたる困難。
定めと業の鎖の、耐え難い重さと硬さ。
生まれついてそれに縛られ、機械で構築された身体は人間いうところの”命”とは形を違えていても、ブラックボックスに刻まれた色は、極めて我々とよく似る。
始まったときから終わりきっていた物語が、ようやく必然の終局にたどり着いて今、散りゆく命はあまりに哀しく、寂しい。
こうなるしかなかったと深く納得しつつも、こうなって欲しくはなかった。
悲恋以上の結末が2Bと9Sにはあって欲しかった。
狂って歪んだ世界をひっくり返せる特別が、エリート部隊に見えて永遠の欺瞞を演じ続けるヨルハには、あって欲しかった。
しかし、それは叶わない。
比翼は折れたのだ(副題、Wingsと複数形なの最悪で最高)
俺はツンツン素直になれないのに、命捨ててもいいくらい好きなのがバレバレな2Bと、飄々とした風を装いながらメチャクチャ感情の鎖を重たく、大好きな女の子に投げかけてる9Sが好きだった。
永遠に囚われた戦場の外側に出て、”人間らしく”幸せになって欲しかった。
ブラックスボックスの中で律動する己の心を、全て曝け出して受け止め合い、戦うよりも自分らしい未来を、切り開き掴み取って欲しかった。
でもそういう世界ではなく、そういう話でもなく、だからこそ魅力的に魅かれて、ここまで見てきた。
必然への納得と、理不尽への悲憤に引き裂かれて、今最悪に良い気分だ…このアニメ、見てきて良かったな!
不可避の狂気に侵されていた2Eの赤い目が、”ナインズ”と最後に視線を交わした時は正気の、美しい色合いに戻っているのがとても悲しい。
A2が断ち切ることでしか、この一瞬の正気は掴み取れなかったし、それを姉妹に手渡すために、彼女は慈悲の剣を取ったのだと思う。
だがその誉れ高い優しさを、唾さをもぎ取られた9Sに理解しろとは言えないし、出来ないだろう。
アイツずーっと、2B以外超どうでもいい愛のエゴイストだったからな…こっからはアダムと同じ、地獄の狂愛大暴走ルートだッ!
A2の長く伸びた髪は、彼女がシステムから切り離された一匹狼であり、地上の野生に身を投じた異端者である証だったと思う。
それを手向けと切り飛ばして、自分が殺した姉妹と同じ形相になるのは、自分のことを語ってくれない彼女が多分、2Bと同じヨルハの誇りを保っている証なんだと、僕は信じたい。
さんざん終わりきった地獄絵図を描かれてなお、甘っちょろいヒューマニズムの残滓を求めてしまうのが、なんとも弱々しい視聴態度だが、そういう傷つきやすい柔らかさを投げ捨てては、このお話の一番美味しいところを味わい尽くすのは難しい感じもあるんだよな…。
でもキツいよー、感受性残したままこのお話見届けるのー!
2Bという翼をもぎ取られてなお、憎悪に狂う地上の業から飛び立てるほど、9Sは人間出来ちゃあいない。
OPでバチ切れしながらA2に切りかかっていた意味、歌詞に”フラッシュバック”と”ブラックボックス”が盛り込まれている意味を、今更ながら噛み締めつつ、愚かしい復讐譚を見届けることにもなるのだろう。
A2ぶっ殺そうが彼が愛した人は戻ってこないし、末期に思い出を見届けた彼女と並び立つことが、死を超えて愛を永遠にする唯一の手段なんだが…そういう”許し”と縁遠い、クソカス凡愚だってのはずっと描かれてきた。
だからこそ、俺はあの子が好きなわけだしなぁ…。
まー秩序や使命を与えてくれる天の棺は、取り返しがつかない形でぶっ壊されてしまったわけだし、別に9Sがバンカーの求める優等生でいる理由もない。
本来反秩序傾向が強い彼が、軽口叩きつつ命令に従っていたの、九割方『2Bといっしょにいるため』だったろうしな…。
優等生気取っている理由ももうなくなっちゃって、憎悪と復讐くらいしか生きる理由も死ぬ理由もないなら、楽園を遠く離れた奈落から手を伸ばして、仇の命をもぎ取ることだけが、彼のアイデンティティにもなるだろう。
…ホントなー、このどす黒いやけっぱち、愛の焦げ付きがアダムそっくりなの、鏡合わせの自分自身と戦い続けてきた話なんだな。
”人間”なら敵を鏡にして己を見つけ、殺戮の定めを乗り越えて進むべき真実を見いだせる部分を、魂無き機械たちは乗り越えられない。
より善い変化は人間様の特権であって、永遠に定められたことを繰り返し続ける永続性こそが、物品として製造され闘争をプログラミされた存在の宿痾なのだろう。
”だから、彼には譬えで語のである。それは彼が、見ても見ず、聞ても聞かず、また悟らないからである”(マタイ13-13)
す、救われね~~~。
剣を翳して切り合い、お互いを終わらせる以外に道を知らないどん詰まり。
その末期に思いを託し受け取った二人の戦乙女と、置き去りにされた一人の少年。
物語はまだまだ続く。
続いてしまう。
つーか残り8話くらい、これと同等かこれ以上の地獄絵図が襲いかかってくんのか…耐えられんのかな、俺。
でもここで諦めたら、2Bが夢見た愛の行く末を見届けられないので、彼女がとても好きだった視聴者として、加速する地獄に付き合っていこうと思う。
1クールラストの大勝利ムードを、たった四話にズタボロにしてきて、なかなかいい感じに最悪ですよホント…。
まぁずっとそういう話だ!
次回も楽しみッ!!