イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

orange:第11話感想

精神的スペランカーをケアしながらデッドエンドを回避する青春やり直しアニメ、今週は真冬の核地雷。
運動会楽しかったし手紙は頼りになるし余裕! と油断したのか、菜穂が特大の核地雷をおもいっきり踏抜き、翔の死にたいゲージが一気に振り切れる回でした。
『手紙』の未来知識がおもいっきり仇になる展開は意外性があって面白かったけども、それにしたって一番やばい所を迷わず踏み込む菜穂は、ちょっと等身大の高校生すぎ。
まぁ須和くんに全部任せてノーミスでクリアしても、それ須和くんの話になっちゃうんで難しいがな……。

菜穂が人間関係不器用なヘタクソ高校生だってのは、これまで『不器用な恋愛』に仮託して描写されてきましたが、今回はそれが『生き死に』というシリアスでシビアな問題に炸裂しました。
僕らは神様の視点で見てるんで、翔がキラキラ青春してるよりとっとと腕の良いドクターにかかったほうが良い状態だってのも、菜穂たちとの青春よりむしろ家族のほうに足場を置いているのもしってるけども、ただの高校生である菜穂には見えなくはある。
人間の心にかかったモヤをどうにか背伸びして覗きこみ、そこだけは踏んじゃいけないって柔らかな場所を確認できるようになるのが『成長』であるのなら、まぁ菜穂は成長しきれていなかった、ということでしょう。

青春と恋愛が、時空改変SF、そしてグリーフケアと並ぶこの話の柱である以上、ある程度以上菜穂は恋に盲目になる必要があります。
時に周りが見えなくなるほど、メインテーマに熱心なキャラクターが真ん中にいることで、お話の軸はより太く、より強くなります。(翔が周囲の優しさではなく、自分の中の『死』ばかり見ているのと同じ)
須和くんのようにあまりにも正しく、あまりにも優しく自分の心を押し殺し、後悔のない道を選べるキャラクターを主役に置くと、波乱があまり発生せず、物語的盛り上がりに欠けるってのも判る。


なので今回の核地雷爆破は必然といえば必然……なんだけども、もうちっとだけ言葉選ばね? と思わなくもない。
お母さんを殺してしまったと思い込み、これ以上『家族』の喪失に耐えられないシャイボーイを相手に『ババァ? 死なねぇ死なねぇ大丈夫大丈夫、それよりキラキラ青春ラブストーリーしようぜ!(翔視点での意訳)』と投げつけるのは、控えめに言って言語による暴力だ。
『死』を身近に感じられず、『恋』や『青春』のキラキラのほうがリアリティを持って受け止めれる菜穂の認識限界もこれまで描かれてきたものであり、それが言葉のチョイスに反映されたとも言えるかな。
手紙でも注意してくれてたのにね……まぁこのお話は人間の完全性より不完全性を主眼においた『間違える』話であり、多分『間違えても取り返しがつく』話として終わるので、詰みではないとおもうが。

今回言葉を軽率に使い翔を死に近づけることで、菜穂は母を殺した翔の気持ちに、少し近づいた部分もある。
『手紙』に込められた祈りが他人事だったように、これまでの菜穂にとって翔が抱え込んでいる『死』というのは実際他人事であり、だからこそ今回のような言葉もウッカリ出てくる。
菜穂が自分が好きな人という、エゴの延長線上に立つ存在としての翔は見れても、その翔がどんな内面を持って何に傷ついているのかまで想像力を伸ばせない少女なのだということは、これまでの物語で描写を重ねてきたところだ。
高校生の段階でそういう人間力の離れ業が出来るんは、須和くんのような聖人だけなのだろう。

菜穂が軽率な『大丈夫』を口にしてしまったのは、『手紙』により未来の知識を持っていればこそでもある。
これまで菜穂を助け、導いてくれた『手紙』の知識が、その特殊性と危険性故に翔に共有されていなかったことが牙を向いてくる展開は、中々に面白かった。
『手紙』を万能の解決道具にせず、あくまで不器用な高校生の決断と成長だけが未来を切り開けると定めているのは、お話が始まってからずっと続く基本姿勢でもある。
まぁ死ななきゃ取り返しはつくだろうから、こっから『不器用でバカな、等身大の高校生』から半歩背伸びして、リカバリーするしかねぇなマジ……。


菜穂の地雷原大爆破と並列して、須和くんと友人たち、それぞれの決断も描かれていました。
なまじっか未練を見せた分、いつもよりさらに輝く須和くんの聖人力には相変わらず圧倒されますが、須和くんの恋心も大事にしたい女子勢とか、未来改変自体の危うさを主張する萩田くんとか、『翔を助けたい』という気持ちでまとまってた人々、それぞれの表情がよく見えた。
家族の写真を送ってくる未来須和の残酷さと自分への信頼が、マジ高校生に背負わせるには重すぎるのに、きっちり背負ってきっちり悩んできっちり最善手を指す辺り、ホント須和くん……須和くんって感じ。

萩田くんが指摘していた未来改変=可能性の刈り取りの危うさは、確かにちょっと気になっていた所で。
orangeはパラレルワールド説を採用し、『翔が死なない未来』が確定したとしても、『翔が死んで、須和くんと菜穂が結婚する未来』が消滅するわけではないと位置づけています。
しかし蝶の羽ばたきが嵐を引き起こすように、人間の行動は思わぬ所で運命に繋がっているわけで、『手紙』に選ばれたからといって未来を書き換える神の権利が自分たちにあるのか、確かに悩ましいところでした。
こういう疑問をしっかり口にできるキャラがいると、お話への引っ掛かりが少なくなって素晴らしい。
あずちゃんともイイ感じになってきて、萩田くんは終盤でグンッと存在感増して来たなぁ。

萩田くんが言葉にした未来改変の危うさと高慢を理解し、己自身の慕情も、貴ちゃんが須和の想いを大事にしたい願いも噛み締めた上で、須和くんは翔と菜穂の恋を応援する言葉を選ぶ。
それは無条件に『正しい』選択肢を選べる感情のない天使よりも、痛みや苦悩や人の限界に苛まれつつ、自分の意志で『正しい』答えを選び取れる聖人の行動であり、あまりに人間的な崇高さがある。
菜穂と翔が『間違える話』としてのヒューマンドラマを展開する中、須和くんは『間違えない話』としてのヒューマンドラマを演じ、この2つの視点により人間性が立体的に描けているのは、この話独特の面白い構図だ。

まぁ俺は心が弱くて狭い人間なので、翔や菜穂があまりに人間らしい弱さに押し流されて間違えるシーンより、須和くんがぜってー間違えない最高に頼れる高校生なシーンのほうが、見てて安心できちゃうのよね。
時空改変SFであり行ったり来たり恋愛劇であり、生きるか死ぬかのデス綱引きでもあるという、サスペンス要素満載なお話見ておいて何言ってんだって話だけど、視聴者としては安心感がほしいというか。
翔と菜穂という主人公が犯した『間違い』を訂正し『正しい』方向に話を引っ張る意味でも、須和くんには『悩む』ことは許されても『間違える』ことは許されていないのかもしれん。
でもそれを可能にする人間力と、煩悶を飲み込んで行動できる決断力は、やっぱ圧倒的にすげーと思うよ……マジ聖人(エル・サント)だよ……。
恋愛じゃなくてもいいから、須和くんが最高に報われる終わり方にしてくんねぇかなマジっ、て感じだ。


つーわけで、イヤーな予感の通り最大級の地雷を『等身大の女子高生』がおもいっきり踏抜き、翔が自閉モードに入る話でした。
『死』を見つめすぎる翔も、恋愛含めた『生』しか目に入らない菜穂も、どっちも未熟でどっちにも納得がいく、なかなか難しく面白い運びになってきました。
そして『生/死』『自分/他人』の難しい線引を主人公たちより先に済まし、不幸せになる人がより少ない『正解』を選べる須和くん、マジ聖人。

『正解』に至るまでの須和くんの悩みや苦味をじっくり追いかけたことで、彼もまた『等身大の高校生』であり、それでも人としてなすべき事を選びとる勇気を振り絞ったのだとも、しっかり伝わりました。
そういうことを怠けず描くことで、須和くんを『天使』ではなく『頑張りきってる高校生』として受け止められるのは、なかなか良いなと思います。
菜穂も『等身大の女子高生』の限界に閉じこもらず、須和くん渾身のエールをしっかり受け取り、翔を『生』の岸に引っ張りあげるべく最後の奮闘を見せて欲しいもんです。
相手は死の誘惑に喉まで使った繊細マザコン野郎だが、この勝負勝つしかないんだ!
頑張れ菜穂!!