歌舞伎町シャーロックを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
迫る死の影、恋の影。名探偵と助手、謎の少年の三角形に入り込んだ、女という名の第四辺。
かき回され、かき乱され、正され拡大されていく歪み。
嘘の奥の嘘、真実の中に隠された真実を求めて、ナイフが腹を刺し貫く。
さらば、愛しき女よ。
というわけで、アイリーン・アドラー(多分)四部作、急展開の第三段である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
変人探偵の人間味にジワリと迫り、特別な顔を引き出す特別な女。そんな存在に居場所をはじき出された”ワトスン役”と、意味深な表情で蜘蛛の巣を貼る、犯罪王の名を持つ少年。
その、複雑な四角形の力学。
そこに緻密に踏み込みつつ、京極くんとマキちゃんのトンチキロマンスと、ジャックにまつわる謀略を絡めて展開する、謎多きエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
疑問、解決、疑問、解決。判ったと思えば遠ざかり、見えなくなると近づいてくる。キャラクターとミステリの押し引きが巧く、グッと読まされた。
いつものように、お話はいくつかのレイヤーに分かれ、相互に影響し合いつつ独立で進む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
謎の殺人鬼”ジャック”の事件、事務所の男女男男関係、京極くんの恋路。
複数の物語を同時進行することで、歌舞伎町の下世話な立体感を出しつつ、スルリと絡み合うスマートな面白さも演出していくスタイル。
前回えみりを通じて、アイリーンはシャーロックの人間味、推理装置としてではなくとも社会と、他者と繋がれる可能性を引っ張り出した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
その流れは今回も加速し、シャーロックは”マトモ”な性欲と食欲を獲得(あるいは快復)していく
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炊事洗濯、部屋の整理。ピンクのエプロンを着込み”女の仕事”を果たしていたワトソンくんは、『本物の女』の登場で役割と居場所を追われていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
なにしろ、探偵役が十分以上に務まるほどの頭脳だ。何もかも如才なくこなす彼女は、ヘテロセクシュアル規範から考えても『良いパートナー』である。
ワトスンくんは『ノーマル』な価値観(ウェストの流儀、と言っても良いかもしれない)を巧く内面化出来ていて、異性愛者であり元カタギ、イーストにおいてはある意味異物でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
そんな彼は、ホモセクシュアルの”あいかた”としてホームズに寄り添うことは、(基本、あるいは現状)出来ない。
パスティーシュなり同人誌なりでは、ねっとり性愛絡める展開もあるのだろうが、原典ではヴィクトリア規範に則りつつ、度が過ぎた依存を相棒に向けていたホームズ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
それがブロマンスなのか、ホモセクシュアルなのか。そもそも、その区分はどこにあって、どの程度確かなのか。
ここらへんを逆光で照らすために、異性装者や同性愛者が『当たり前』にいるイーストで、シャーロックの物語を紡ぎ直しているのかな、とも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
ワトソンくんは新しい同居人にも拒まれ、寄る辺なく街をさまよう。『ワトスン役』じゃなくなったワトソンなんて…。
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そんな彼の迷走は、同じく『名探偵の隣』に複雑な感情とアイデンティティを持ってるっぽい、悪役の姓を持つ少年に導かれていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
男三人、気兼ねのないいつもどおりの関係。自分のモヤモヤを吹き飛ばしてくれるチケットを前に、『行く』の即答。
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『存外、ワトソン君も尋常じゃあ無いな…』と思わされる、迷いのなさであった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
ジャックに追い立てられる形で西を追い出され、東に流れ着いて変人の相方。奇妙な人生だが、それは結構楽しかったのだと思う。
だから愛着もあるし、悩みもする。しかし、女を殺して居場所を作ろうとは(当然)思わない。
まぁ監視とストーキングはすんだけどね…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
ロマンスを完走した京極くんに勇気づけられ、『自分にできることを!』と瞳キラキラさせた直後にコレである。
やっぱマトモじゃねぇな…。あるいは、東の流儀に馴染んだか。
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アイリーンの『おねだり』を受けて、自分で車を運転し、買い物に出るホームズ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
その背中、その”マトモさ”から、ワトソンくんは弾き出されている。”女”が隣りにいて、社会規範に肯定された恋愛に探偵を引っ張り続ける限り、友情と言うには強すぎ、愛と言うには透明な感情は、居場所がなかなか無い。
そこに並走する形で描画され、リードされるモリアーティーの重たい感情。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
全員が事務所を空ける状況を狙って作ったり、殺人可能なアリバイを露骨に見せたり。
描写は犯罪王の本領発揮と視聴者を導いていくが、さて、真実やいかに。
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モリアーティーへの誘導が、その名前も含めて露骨なので裏を読みたくなる。アイリーンの死体も描写されていないしねぇ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
そこで本当にぶっ殺して、霊媒に証言させるトンチキも十分有り得る所が、このミステリの面白いところなのだが。
どんな暴投が来ても『まぁイーストだし』で澄む、芳醇たる混沌。
原典をシンプルになぞるわけではなく、むしろ味付けの一つとしてキッチュと、クィアと、日本趣味とごたまぜにしてお出しする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
そういう話を続けてきたからこそ、疑いの迷宮はどんどん拡大する。
モリアーティーはジャックなのか?
アイリーンは死んだのか?
色々考えられるけど、答えは解決編までお預けである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
モリアーティーが『アイリーン先生』って読んでるのが、かなり引っかかるんだよな…”先生”と言われるような関係性、今まで描写されてないでしょ?
その秘められた過去に、露骨に伸びる殺人容疑をひっくり返す”何か”がありそう…でもある。
この状況を生み出している最大の謎は、モリアーティーの感情である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
意味深に暗喩とほのめかしで、じっくりとあぶり出されてきた巨大不明感情。輪郭すら定かではない、男が男に向ける視線の出どころ。
それをこそ知りたいと思いながら、僕はこの話を見てきた。
ワトソンくんは読者の代弁者であり、作品世界とミステリに読者を誘う物語的乗り物でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
だから彼の複雑な感情、居場所のなさは明瞭に言語化され、演出される。信頼できる乗り物だと描く。
モリアーティーは乗るべき代理人ではなく、追うべき”謎”なので、そこらへんは(まだ)明言されない。
明らかならざる秘密こそが、人を惹きつけ前のめりに支える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
古典的とも言えるセックスの暗喩と膝カックンを、”将棋”で描くジャポニズム。そこに無垢な顔で割り込む少年と、見つめる探偵。
暗室の三角形、不穏な緊張感。
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寿限無寿限無と題目唱えて、なんとか見て見ぬ振りをしている己の感情よりも、犯罪現場に匂う不穏な空気のほうが、素直に向き合える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
壊れた推理装置としてのシャーロック、『いつものホームズ』は、アイリーンではなくモリアーティの前で冷えた表情を見せる。
シャーロック・ホームズにとって、アイリーン・アドラーはどんな存在なのか?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
様々なホームジアンの想像を掻き立てた永遠の命題に、この物語も挑む。
メモをひったくり、赤い天使に思いを馳せる。推理装置にそこまでさせる、心はどんな色なのか。
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そこに明瞭な答えが出るのは、孵らないUSBの中身が暴かれ、アイリーンの生死が確定し、ジャックの正体とモリアーティの感情が形になった時…この連作のクライマックスとなろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
それまでは、探偵の純情もまたミステリであり、真相は伏せられている。だからこそ、色々考えるのも面白い。
重苦しく血腥い四角関係を息抜きとして、またねじれた恋の鏡として、京極くんとマキちゃんの恋路も揺れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
清純そうな見た目で、存外バックリ貪欲系。マキちゃんのキャラ付けは、やっぱり良いなぁ、と思う。
例の自販機に恋の問題集。京極くん、アホやなぁ…(好き)
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吹き上がったクソ童貞がたっぷり煮詰めたリアルシャドーは、百戦錬磨のドラァグ・クイーンにはキモいだけだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
お金をたっぷり吸い上げて、後はポイ。
そういう立ち回りに、彼女が”彼”であるという認識がないまま、ヘテロ文脈で恋に落ちた京極の浅はかさは、関係しているのか。
”女を装う男”というねじれを、例えばハドソン婦人のようにはカムアウトしていない(してるかもしれないけど、京極くんはバカだから気づいていない)マキちゃんにとって、京極くんのアプローチはシリアスなものには為らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
『ウェストに飛び出す!』と言いつつも、見当違いな努力しているのと同じだ
ソッチコッチと、曖昧な形容詞でボカされる性自認。それは存外、外野で見ているよりもシャレにならんのかもな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
世界のリアルを知らぬまま、勝手に踊る童貞ピエロ。それを遠目で見るのが、『女、男を装う女、女を装う男』という複雑。
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これに『倒錯』という名前を僕は付けたくないし、多分作品もそういうつもりで描いてはいないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
キッチュに、笑いになるようにエグく濃く煮出しつつも、ウェストの多彩な性は手触りをしっかり持って、そこにあるものとして切り取られている気がする。
なかなか難しいところではあるけどなぁ…。
『オメーどこでその服買ったんだ』と聞きたくなるような、勘違い王子様服。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
京極くんはマキちゃんの真実は知らないまま、ただただピュアな(あるいはバカな)リアル恋心一本で、欲を乗り越え愛にたどり着く。
ダイヤを受け取るのではなく、返して恋が始まるのは綺麗…
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なんだけども、ソッコー性交渉まで突っ込むスピード感と、露骨すぎる射精の暗喩がこのアニメ、って感じ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
まぁマキちゃんの生き方を考えると、この”速度”こそが愛の証明なんだろうけども。
素裸のマキちゃんを見てなお、多分京極くんの事実誤認は解けていないだろうなぁ…そこら辺誤魔化すの上手そう。
この二人の恋がどういう形にまとまっていくかも、歌舞伎町八百夜景の一つとして大事に楽しみたいところだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
なんだかんだ、『男はすすってポイ』っていう歌舞伎町のスタンダードから、バカの一念でマキちゃん引っ張り上げて、銭の絡まない恋を始めたのは京極くん、偉いと思うよ。バカだけど(好き)。
肝心なところをぼやかしたままでも、決定的な状況は進み、そんな断絶とズレの中で人の生き死には踊る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
アイリーンという異物を混ぜ込んだ、男たちの探偵事務所に散る火花。
それがどんな顔をしているかは、おぼろげな輪郭を掴みつつも、鮮明ではない。
さて、次顕になる伏せ札は…。
というところで、次回霊媒登場なるか、である。いやー、ヒロイン死亡の衝撃を、次回予告15秒で笑劇に変えるのはスゴイなぁ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
この『え、マジ?』って疑いを、上手く起爆剤に変えれそうな期待感があるのは、ここ迄誠実に、堅実に話作ってきた結果だなー、と思う。俺はこのアニメを信じるッ…!
ロマンスの被害者っ面で弾き出されたワトソンくんも、シャーロックとモリアーティの二人だけ空間に入り込んだ異物であった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
居場所ってのはどこにあるのか、どう定めるべきか。
なぜ、誰かの隣りにいたいと思うのか。
ここらへんを掘るのが、1クール目のクライマックスに…なると良いなぁ。
あの時八葉のクローバーを慈しんでいた指先が、どんな気持ちで震えているのか。やっぱり気になるのはそこである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月8日
もう一つ気になっていたシャーロックの人間性(と非人間性)を掘り下げてくれたアイリーンは、血塗れで退場。
その始末、名探偵どう付ける。次の高座が楽しみです。