イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Go! プリンセスプリキュア:第36話『波立つ心…!みなみの守りたいもの!』感想


そろそろゴールも見えてきたプリプリ、久々のみなみ個別回は、素敵な大人の女性との出会いと別れのストーリーでした。
学校でも家庭でも、『自力で見つけた自分の夢』というものを持たなかったみなみに、自分の生きざまを以って楔を打ち込むあすかさんの男前力がヤベェ。
これまでのみなみの歩みを否定せず、揺らすだけ揺らして去っていくところに、歴戦のドンファン女を感じました。

みなみパイセンは何と言っても『ドンガメはるかのお姉様』として劇中に存在していて、初手から完成度の高い人格者でした。
しかし完璧に見えても完璧ではなく、立場を乗り越えて自分を出すのが苦手だったり、心の底から楽しむという経験をしていなかったりと、ちゃんと隙間があるキャラクター。
その隙間を埋めたり足したりするのが、長いシリーズの中で海藤みなみが持つ個人的物語だといえます。
はるかが象徴する『低いところから這い上がっていく』物語的運動だけではなく、一見完璧に見えるはるかの欠損や不足をちゃんと指摘し、『高いところから降りていく』物語的運動もまた、魅力的に描いているのがプリプリの良いところですね。
安易にポンコツにせず、完璧な部分を維持したまま物語を回してくれてる所とか、彼女のファンとしてはほんとありがたい。

前回の個別エピソードであるフィアンセ回が、『高いところから降りていく』運動の結果、卑近で卑俗になってしまった(とキヨマロには見えた)みなみの現在を描く回だとすれば、今回は高く見える彼女の足場が実はそんなにしっかりしていないという、みなみの未来を見据えた回だといえます。
幼少期から海藤グループを支えるべく、ノブレスな存在として自分を定義し、それに相応しく鍛え上げてきたみなみさん。
しかしどんなに立派でも、海藤グループ以外の生き方というのは存在しているし、グループに縛られない生き方には価値がある。
颯爽としたあすかさんの姿は、その象徴といえるわけです。
ここで安易に『金持ちの家に尽くすなんて、ダメダメな生き方だよ!』と否定せず、しっかり肯定的な描写を積んでいくのが今回のお話の良いところです。

今回水族館で行われたプリキュア社会見学は、のどかにはしゃぐ中1チームと、真剣に招来を見据えるみなみとの対比が鮮烈な見せ方でした。
無論今回の主役だから、物語の骨格に近い場所で動けるっていうメタ的な見方も出来るわけですが、海藤みなみが一学年年上で、社会的な自分というものを大真面目に見据え続けてここまで来たキャラクターなのだという、人物描写に寄り添った描き方でもあると思う。
家族の期待のまま海藤グループに入るという夢を『これで良いんだ』と無批判に納得しつつも、心の何処かで新しい可能性-それを象徴するのがはるかであり、あすかなのでしょうが-を求めている、まだ14歳の女の子。
『しっかり者のスーパーセレブ』という表面的な記号の奥にある、海藤みなみの思春期をよく捉えた話だと思うのですよね、今回。

自分の心の赴くままに、家柄や金の縛りを受けずに走り抜けていくあすかの姿は、パーティーの主賓として立派に挨拶を務めるみなみとは正反対です。
しかしあすかはそんなみなみを否定せず、自分の気持をまっすぐに伝えた上で選択の余地を与えた。
恵まれているがゆえの悩みではあるんですが、あくまで両義的な価値双方をちゃんと称揚して引き上げるところに、みなみの決断を大事にしようという製作者側の優しさと決意を感じました。
後三ヶ月ほどの猶予ですが、なんとか後一話みなみに回して、今回のゆらぎの落とし所を見てみたい。
強くそう思えるような、立派なエピソードだったと思います。


ゲストヒロインと言うには存在感も物語的意義も強かった、北風博士。
どんだけ天才だと見積もっても三十代の大人の女性が、運命を感じて中学二年生にガチ告白という絵面もそれほどインモラルに感じられない辺り、なかなかの人間力だ。
みなみがはるかに運命を感じたように、あすかさんも水族館でピピっときちゃったんやな……。

みなみは完成度の高いキャラなので、はるかにしてもトワにしても『導く役』といいますか、どうしても上に乗っかるポジションが多かった。
しかし年齢も社会経験も上で海洋属性が共通するあすかが出てきたことで、ようやく誰かに手を惹かれ『導かれる役』になることが出来た印象があります。
これは弟子であるはるかが成長し、手がかからなくなってきた、という理由もあるんでしょうが。
エピソードの積み重ねを経て、物語的役割が変化するのは、お話のダイナミズムが機能していてとても良いですね。

あすかが鏡になることで、みなみの子供らしさや揺れる気持ち、鮮烈なあこがれなどなど、これまであまり光が当たらなかった領域が巧く描写されていました。
やっぱりラストシーン、夕映えの船上での告白と別れがとっても良いシーンで、台詞でも心情や状況をまとめていたし、画面にも説得力があった。
キメ所で圧倒的にロマンチックにキメれるパンチ力は、プリプリ最大の強みだと思います。
恥ずかしいシーンを恥ずかしがらずにやり切るってのは、やっぱ大事だ。

大人びて見える二人目のプリキュアがまだ子供であり、無限の可能性に向かって開かれた存在であることをしっかりと印象づけた、良いエピソードでした。
シーンごと、エピソードごとの目的がハッキリしていて、スマートな構成で物語が進んでいくという、プリプリの強みが最大限に発揮されていたなぁ。
こういうお話が個別エピとしてあると、キャラクターの物語がボヤケることはないし、キャラクターの人生に向ける製作者の愛情も、強く感じ取ることが出来る。
ここで生まれた『完璧な海藤みなみ』へのゆらぎを、巧く活かしてラストエピソードに繋げて欲しいと、強く思いました。
プリプリ、やっぱおもしれぇなぁ。