イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うしおととら:第33話『獣の槍破壊』感想

希望と絶望の相転移が大忙しなアニメ、今週は白面主催! 前向きな中学生を極限まで追い込んでみよう大会~!!
ようやく封印を破ったラスボスが、24分間ずーっといい気になり続け、クソ邪悪な表情を崩さず、最悪にエゲツない身体能力と油断のなさと智謀の深みを見せつける回でした。
これを唯一破れるだろう主人公は母に拒絶され孤独に苛まれ、怒りにしがみついて最強の武器をおられる始末。
でもね……そんな潮を責める気にはとてもなれねぇんだ……あいつ、色々頑張ってきたけどただのガキだもんなぁ……。

これまでもさんざん悪辣な陰謀を企んできた白面ですが、今回遂に開放されたということでその直接的暴力を遺憾なく発揮する展開でした。
分身や部下を用いた間接的な戦いでも十分厄介な相手だったのに、開放された本体はデカい・強い・ヤバいの三拍子そろった大怪獣。
巨大妖怪はバラバラに引き裂くわ、島は一個消し飛ばすわの大立ち回りで、『コイツ……どうやって勝つんだろう……』という視聴者の絶望もどんどん深まっていきます。
やっぱラスボス張る奴は、超単純に戦闘が強いと説得力が違うわな。

白面がエグいポイントは沢山有るのですが、強さと悪辣さを見せつけて生まれる恐怖を餌とすることで、更に強くなるという永久機関っぷりがやっぱりエゲツない。
日本国民全てから負の元気玉を絞りとるかのようなサディスティックな行動も、『美味い飯をたっぷり食べたい』というシンプルな行動理念が伴うと、ただの勝者の余裕には見えなくなるのが恐ろしいところです。
こうして理由をつけることで、肉まえるべきラスボスが憎々しい行動を取り、ヘイトをたっぷり集める結果に繋がってんだから、良く出来たキャラクターだよね。

白面は圧倒的強者にありがちな油断を極力避けているのもエグいところで、今回発揮した圧倒的パワーがありつつも、封印された時代の知略を失いはしない。
むしろ自分の暴力をどう演出し、メディアを通して現代人をどれだけ絶望させるか、良く考えたショウアップを行っています。
暴力、知略、煽りに謀略に宣伝工作。
使える手段をすべて使って勝ちに来るからこそ、作中のキャラクターの絶望感は真に迫って伝わるし、それを乗り越えた時のカタルシスも大きくなるわけで、ここまで隙のないラスボスをしっかり運営できているのは、うしとらの大きな強みだよなぁ。


そんな白面最大の敵である獣の槍の使い手・蒼月潮ですが、3クールに入ってから丁寧に積み上げてきた謀略が結実し、憎しみで立ち向かった挙句槍を壊されてしまいました。
須磨子かーちゃんは『みんな死んじゃうしせっかく会えた母もすぐさま死にますが、冷静さを保ち怒りに囚われず愛の心で白面を倒すのですよ……』とか無茶言いますけども、まぁ無理ですよそれは……。
大切な人との記憶を奪われ、帰るべき居場所を失い、頼れる兄貴分はトチ狂って敵に回り、おまけに大変な思いをして会いに来たかーちゃんは自分をビンタする。
潮の心に溜まった暗い泥全てに白面が関わっているとなれば怒りもするし、ここまで追い込まれて耐えられるほど蒼月潮が感情のない子供だとは、見ている僕らも思いはしません。
むしろ常に熱い血潮とあふれる涙を流してきたからこそ、潮はこの辛い戦いを走ってこれたし、それに僕らも共感したわけで、今回彼が正しくない戦いをすることを、けして非難はできないわけです。

潮が血を吐くような声で言っていた『俺の普通の暮らしを返せよ!』という言葉を聞くと、彼はずっと槍の宿命から逃げたい気持ちがあったんだな、と思い知らされます。
流兄ちゃんがかつて言ったように、潮はただの中学生で、槍と白面にまつわる宿命には巻き込まれた立場です。
でも彼は、持ち前の義侠心と優しさ故にそこから逃げず、血まみれ涙まみれできつい戦いの最前線で踏みとどまり、時々救えない生命があったとしても。その何倍もの命や魂を救ってきた。
日常に未練を残しつつも、その日常を守るために傷つく彼の姿はやはりとても立派なものであり、だからこそその奥にあるやりきれない思いが吐露された今回は、見ていて辛い。
『かあちゃんは俺をぶったんだ!』という、戦場にはそぐわない子供めいた叫びはしかし、似合わないからこそあまりにも真実過ぎて痛いわけです。

そんな潮が戦う理由の一つだった母こそが、『戦士』としての潮を決定的に壊してしまう皮肉もまた、今回のお話にまつわる辛さの大きな原因でしょう。
潮との家族の時間をほとんど持てず、お役目様として生き続けた『戦士』である母には、一少年としての潮を極限状態でどう受け止めて良いのか分からない、不器用な部分があるのだと思います。
だからこそ正論を叩き付け、決死の戦いに引き戻すことしか出来ないわけですが、しかし潮がここにやってきたのは彼が『戦士』だからではない。
白面に全てを奪われ、それでも残った最後の縁として母を求める、小さくて弱いただの少年だからこそ、見も知らないウンディーネの乗組員は彼の瞳を信じたわけです。
そんな彼が母親に拒絶され、望んだわけでもない『戦士』の行き方を強要される流れは、須磨子の不器用な生き方にも理解が及べばこそ、非常に辛い。

もう少し時間があれば、母と子が分かり合う余裕のある状況だったら。
二人が再開するまでの長い戦いを知っている視聴者からすれば、そう望まざるをえない状況なんですが、彼らが『親子』であると同時に『戦士』であるのもまた事実であり、二人が出会える場所が白面との決戦という極限状態しかなかったことも、良く理解できます。
潮と須磨子を引き裂いた戦場のジレンマが強いほど、この戦いが落ち着いて『戦士』から『親子』に戻った二人を見たくなる気持ちも強くなるわけで、せり上がる感情に押し流されると同時に、作劇の巧さに唸らされたりもしますね。


母以外にももう一人、潮を引き戻すことが出来る存在が最高の相棒・とらです。
今回彼は白面に『流を殺した』という事実を突きつけられるわけですが、とらは潮が望む嘘をつけない。
『流は俺が手加減して、なんとか生きてる』『アイツは本当は良い奴だった。改心した』
そんな器用な嘘をついて、一瞬の幻に縋れさせ潮との関係は維持できるかもしれないけど、おそらくそれは何の解決にもならない。
己のあり方に嘘をつくことが許されない究極の戦いの中で、見せかけの希望にすがって逃げ出すことが許されないという意味では、須磨子もとらも同じような不器用さを抱えているのでしょう。
全てを否定して逃げ出すのではなく、『ぶっ殺す』と叫んで白面に向かっていった潮も、多分また。
……あんだけ殺さないで仲良くなることを傷だらけで追い求めていた潮が、『ぶっ殺す』って本気で言うのがね、ほんとにね……。

とらもまた『戦士』であればこそ、流と全てをぶつけ合った戦いを否定出来ないし、そこにあった共感と死を嘘にしてまで、潮にとって都合のいい言葉を伝える訳にはいかない。
それは多分、戦いの中で潮と背中を預け合い、たくさんのものを受け取ってきたこれまでの物語もまた、否定することになる。
そんなとらの不器用な真っ直ぐさは、白面の狡猾なる知略で限界に追い込まれてしまった潮には、悲しいかな届かないわけですが。
いつもは感情を暴走させ潮に止められているとらが、今回は潮を止める役に回っている所は、この状況の異常さをよく教えてくれていました。

かくして潮は憎しみに囚われ、憎しみの権化である白面と同じやり方で白面に立ち向かい、正面から槍を砕かれます。
これまで人間とバケモノの間に立ち、必死にその中立ちであろうとし続け、実際に沢山の人やバケモノを変えてきた少年、蒼月潮。
様々な良き変化を導いてきた彼が、白面への憎悪と一体化するこの流れは、『ああ……そりゃ勝てねぇわ』という説得力に満ちています。
獣の槍よりも、不屈の魂よりも強い潮の武器を、最悪の形で手玉に取られている状況は、とらを『あばよ、バケモノ』と引き剥がしてしまう行動からも見て取れます。
潮の強さは自分と違う存在を『バケモノ』と切り捨てず、血まみれになっても自分から手を伸ばして分かり合おうとする心にこそあったのですから。

分かり合う力とは対極にある『憎み、殺す力』としての獣の槍と、そこに封じ込められたギリョウさんの憎悪とも、今回潮は一体化していきます。
これまで潮は時々槍の力に飲み込まれかけつつも、槍の憎悪を上手く制御し、『使い手』としてより良い方向に導いてきました。
しかし今回、全てを奪われ『戦士』たちの不器用さがぶつかり合った結果、彼は槍の憎悪を制御するのではなく、槍の制御に飲み込まれてしまう。
力を使いこなし良い結果を導く『使い手』ではなく、力に使われるただの獣となってしまった以上、やはり白面には勝てないわけです。


こうして見てみると今回の暴走は、『戦士』としての決意、『使い手』としての穏やかさ、分かり合おうとする気持ちという、潮がこの物語の主人公である理由を全て略奪することで成り立っています。
力を制御すること、傷ついた人に手を差し伸べること、他人の事情を斟酌すること、怯えればこそ一歩踏み出すこと。
これまで沢山のエピソードの中で僕らの心を打った潮の美しさが、白面の巧妙な知略によって全て奪われるこの戦いの衝撃的な結末は、強烈な必然性があるわけです。

それは各キャラクターの行動にしてもそうで、都合のいい嘘をつけないとらにしても、母親として器用には振る舞えない須磨子にしても、それが正しい行動ではないとしても、そう行動せざるを得ない切迫した理由がしっかり描写されている。
それは多分、仮想のキャラクターを一人格として徹底的に考え抜き、血の通った存在に変える劇作の奇跡があればこそ可能な、不思議な熱なのでしょう。
その体温があって始めて、僕達は絵空事であるフィクションに本気で感動できるし、キャラクターの行動に疑念を挟むのではなく、『まぁ……しょうがねぇな……』と痛みを込めて納得せざるを得なくなる。
キャラクターの行動と、それを生み出す人格の構成と描写に嘘がないからこそ、この辛い展開も『まぁ……そうなるな……』と受け入れ、一体どうなるのかと次を待ちたくもなるわけです。

圧倒的な実力と智謀を見せつけた白面は、逆転の希望である蒼月潮と獣の槍を打ち砕いてしまいました。
絶望を弄ぶのではなくその先にある希望をこそ、血の混じった筆致で描いてきたこの物語なので、潮はかならず立ち上がり、逆転の秘策を持ってくる。
しかしその前に立ちふさがる絶望はあまりにも大きく、情けも容赦もない。
すべての状況に妥協せず、本気で希望と絶望を描いてきた物語の速度は、更に加速していきます。
楽しみです、本当に。