イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

あまんちゅ!:第4話『わくわくと諦める心のコト』感想

太陽と水が黒髪のアンダインを養うアニメ、今週は期待と失望と友情と。
自分をおいて海に行ってしまうぴかりを見ては曇り、楽しそうなダイビングを見ては晴れ、実際潜ったら『なんか……思ってたんと違う』となって曇り、ぴかりが寄り添ってくれて嬉しくて晴れ。
秋空よりも面倒くさい喜怒哀楽を行ったり来たりしつつ、くっそ面倒くさい黒髪女がぴかりにドシドシ依存度を深めていくお話でした。
くっそ面倒くさいクソアマが、コミュニケーション強者の友人の助けを借りて、一歩ずつ人生を歩いていく話なのだな。

今週はどっしりとてこの一人称で展開する話でして、上がったり下がったり忙しい高校一年生の気持ちがよく伝わるエピソードとなりました。
目の前に広がる海への期待感、『バディ』という魔法の言葉に高まる胸、楽しそうなダイバー達を見て『私もああなれたら……』と願う気持ち。
慣れ親しんだ孤独と恐怖、それを吐き出すことの出来ない臆病さ、暗い自意識の檻をぶっ壊してくれるぴかりのありがたさ。
てこは明闇様々な気持ちを今回感じて、浮き沈み行ったり来たりしながら、新しい経験に震えながら飛び込んでいきます。

このアニメ恥ずかしいキレイ事をポエムで垂れ流しにするだけと思わせておいて、案外人間の暗い部分に重点を置いて描いています。
あれだけ胸を高鳴らせていたダイビングも、自分がやってみたら機材は重いし、水は入ってくるし、怖いし、暗いし。
頭で思っていたことと現実の感覚は常にすれ違っていて、理想の自分に追いつけない苛立ちが暗い気持ちを加速させもする。
そういう怯えや震え、理不尽な『裏切られた』という気持ちも、このキラキラした世界にはちゃんとあります。

それを認めたうえで、放っておけば沈み込んでしまうてこの心に強引にわけいって、手を引いて寄り添ってくれるぴかりの姿と、その助けを借りて静かに浮かび上がっていくてこの表情を、このアニメはちゃんと切り取る。
薄暗くて勇気もトキメキもなかったてこの世界が輝きに満ちる様子は、光だけではなく薄暗い場所もしっかり描いていればこそ、輝きとして視聴者に届くのだと思います。
そういう『影』の使い方の巧さが、今回のエピソードは際立っていたなと思う。


んで。
このくっそめんどくさい青春行きつ戻りつ星人のパーソナルエリアにグイグイ踏み込み、厳しい正論を言って背筋を伸ばさせ、ないちゃったら近づいて優しく抱きしめてあげる小日向光さんの人間力が、今回唸りまくっていました。
黒髪のダメ女がどんどん沈む今回は、ぴかりも妖怪笛吹き女をやっている余裕が無いので、ギャグ顔少なめの超絶美少女顔大放出で、演技もシリアスなものが多かったですね。
いや、パンツ取り間違えて赤面したりもすんだけどさ……こういうコメディの中で、彼女が当たり前の恥じらいを持ってるって見せるのは、キャラを身近に感じる良い足場だなと思う。

てこはクソめんどくさいですが恥知らずというわけでもなく、ギャーギャー『助けて!!』と騒ぐくらいなら黙って下を向いてしまう変なプライドがあります。
事態をさらにこじらせているこの障壁を、ぴかりは持ち前の人の心に滑りこむ才能を活かしてよっこいしょと乗り越え、ホントは楽しいことに飛び込みたいのに勇気が出ない女の子の手を取って、海に誘ってあげる。
自分は『やれば出来る』で実際出来てきたから正論も言うけど、『やっても出来ない』『やるのが怖い』てこのダメっぷりもちゃんと共感して、上から目線ではなく同じ視点で寄り添う。
強さと優しさを兼ね備えて、伊豆半島最悪のこじらせ星人の相手をするのはこの子しかいねーなとつくづく思った。

今回人格のクソめんどくさい部分をぴかりに抱きしめられてもらったおかげで、てこのぴかり依存はかなり決定的になりました。
お互いその関係を認め合い抱きしめているのならそれはそれで良いんですが、、バディというのは片方が一方的に引っ張るのではなく、お互い支え合うもの。
ぴかりと一緒に日々を過ごす中でもうちょっとタフになったら、てこもまたぴかりの手を引っ張ってあげるシーンが描かれると、より平等でより善いかなぁと思ったりもする。

まーでもなー、本当に必要なタイミングで必要な言葉を投げつけられちゃった以上、もう離れられねぇよなぁ……。
今回のBパートはほんとに、傷ついたところにズドンと刺さる運命力が巧く描けていて、てこがぴかりを求めまくる気持ちにも納得がいく絵だった。
てこぴかはてこの面倒くさい部分を徹底的に掘り下げているので、『この瞬間、この人、この出会い』でなければいけなかった運命の力が、より強力に表現できていると思う。
人間が出会って生まれる関係に正解はあっても不正解はないと思うとので、気の済むまでイチャコラ依存して、さんざんこじらせまくれば良いんでしょうね。
そっからどう抜けだして豊かな場所に踏み込んでいくのかは、それこそ今回のメインテーマとしてどっしり描かれているし。
特別で閉じた関係の強さと、ありきたりで開けた関係の正しさ、両方描けているのは強いよね、やっぱ。


心理的・人格的な浮上/沈降運動こそがこのアニメのコアであり、それを表現する上で、綺麗な水と光と闇が効果的に効いているのは、モチーフの良い使い方だなぁと思う。
自分を取り巻く音も景色も完全に切り替わり、新しい体験へのワクワクと、見知らぬ出来事への恐怖に満ちた水。
深く深く沈み込んで闇に包まれることもあれば、目を見開いて顔を上げれば、綺麗なものが見えもする水。
気合を入れて描かれた水の表情が上手いことてこの心理と噛み合うことで、彼女が目にしているものがしっかり伝わるのは、やっぱ良いなぁ。

今回はてこの顔にかかる水滴が、徹底して『涙』として描かれていたのも、具象と心象が重なりあう面白い演出でした。
マスクに溜まった水はてこに恐怖をもたらす『新しくて嫌なもの』であると同時に、てこの目の下に位置して溜まっていく、彼女の恐れや恐怖それ自体の表現でもある。
マスクを外して本当の涙を見せた後、クリーニングが巧く行って『涙』がなくなっていく流れも含めて、なかなか鋭い演出だったと思います。

Aパートの『海に入れないてこ』の描写もとても良くて、一足先にダイビングの楽しみ、新しいことに飛び込み楽しむ勇気を手に入れているてことの間に空いた距離を、ちょっと大胆なパースで表現してました。
自分の気持を伝えるために意を決して前に出るんだけど、結局ぴかりはウェットスーツを着ていないてこを置いて、四人で海の中に飛び込んでいってしまう。
そこはどれだけてこが勇気を出しても追いかけることが出来ない(と思い込んでいる)断絶で、一回追いつかせておいて切り離す残酷さが、中々に鮮烈でした。
Aパートで二人を分割している『水』が、Bパートでは二人をつなぐ触媒になっているところも、エピソード内部で起伏がついていて素晴らしい。


そんなわけで、クソめんどくさ黒髪の浮き沈みを丁寧に追いかけるお話でした。
ほんとクソこじらせたクソアマ過ぎて、マジ最高だと思いますてこさんは。
人間大の漬物石みたいに重たいてこを、人間力のあるぴかりが背負っていく意味も、先生のバディ解説で非常に綺麗にまとめ上げられていて、『てこぴか出会い編』を収めるのにふさわしいエピソードでした。

そしてその先に続く物語へのレールも、ちゃんと敷いてあるのがこのアニメ。
てこがぴかりと一緒に見上げた光は、とりあえずAパートで出会った河童とお猿として来週出会うわけですが、どういう見せ方してくれるかなぁ。
てこの新しい世界がさらに広がっていくだろう来週を、楽しみに待ちたいと思います。