フリップフラッパーズ 第13話『ピュアオーディオ』を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
暗黒の深奥、檻なる子宮。
ミミは凶暴な母性をむき出しに、娘の巣立ちを拒絶する。
ソルトは冬枯れを纏いて因果に向き合い、剥き出しの夢は覚めていく。
その先にある、モノトーンの現実を超えて。
プシケの翼でさぁ、飛び立とう。
というわけで、年始の”宿題”第一弾、五年越しのフリフラ最終回視聴&感想である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
『鉄は熱いうちに打て』というが、やはり年月が開くと視聴当時の熱量はどこかに逃げてしまい、二度と捕まらない感じがある。
俯瞰で見るしかない冷たさを惜しみつつも、やはりいいアニメ、いい終わりであった。
話としては第11話まででだいたい収まっていて、ココパピが(ヤヤカの献身を借りつつ)お互いの思いに気づき、己を縛り付けるミミに向き合うことを決めた後は、闘って勝って飛び立つだけの話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
むしろ最後の挑戦は、妻の死、父の責務、己の後悔に身一つ飛び込んだソルトにある気もする。
ミミは娘を永遠に子宮に閉じこめんと、木の虚に檻を作ってパピカを閉じ込め、時間を逆行させる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
それは自分の足で進む(母の死で進まざるを得なくなった)ココナが糧を差し出し、手を繋ぐことで否応なく破壊され、二人は共に未来へと進んでいく。
魂の伴侶を見つけ、手を繋ぐこと。それが力の源泉だ。
これは最終話で、幾度も繰り返されるモチーフだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
黒い魔法少女へと変身したミミを打ち破る時も、”現実”を突破して懐かしい人達の元へ帰還する時も、パピカとココナは常に二人で勝つ。
そう思える相手と出会い、出会い直すためにふたりの旅路、ピュアイリュージョンの冒険、ここまでの物語はあった。
髑髏を付けた触手、長く伸びる蛇の牙、母に備わった長いペニスを少女たちは跳ね除け、高く飛んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
それは地母神、死の女神としてのミミが纏う永遠の白詰草、静止した生の領域から自由になり、自分の蝶(=プシュケー=魂)の翼で空を舞う未来を掴みとる戦いだ。
ここまでの出会いと決断、様々な精神迷宮をさ迷い、その主の魂に自分(と、魂の伴侶)のあり方を反射してきた道が、もう答えを教えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
想像力を羽ばたかせ、愛の温もりを確かめながら、未来へと進んでいく。若き魂が瑞々しく見つめるものへと踏み出すことを、この作品は常に肯定する。
しかしそれは心の奥底に眠る薄暗い力、時を巻き戻し永遠に閉じこもろうとする誘惑と、常に癒着している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
娘の生誕と成長、旅立ちを寿ぐミミと、蛇神の地母神たるミミが同じ場所から来た二つのアヴァタールであるように、心の力は常に、輝きと暗い闇を両方持つ。
これも、ここまでの物語で描いた。
その上で過去に食われるのではなく、愛という名前のエゴで愛するものを捉えるのではなく、自由に飛んでいくためには決断と絆が必要になる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
物語の主役であり、自由に空を舞う少女たちはそれをここまでの物語で、既に確認している。
これに対し、ソルトはここでようやく幻影に潜る。過去に対峙し、殺す
サングラスを外し、大人としての装いを脱ぎ捨てて、苦しみながら夢に潜ること。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
過去を取り戻し、死せる妻への愛惜と後悔を乗り越えて、闇に潜ること。
だからこそ伝えられる『すまない』に『愛している』を混ぜて、娘たちが活きる世界へと帰還していくこと。
老いたるオルペウスはもはや少年ではなく、自分の羽で空を舞うことは出来ないが、しかしあの時言えなかった言葉を冥府に伝え、己の後悔に銃弾を叩き込むことは出来る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
そのことが、死を超え現実を停止しようとする悪霊を倒す、決定的な一撃となる。
少女たちだけでは、母なる暗黒は打ち払えないのだ。
既に青春の物語を決定的な失敗で終え、それでもなお諦めきれなかった大人だからこそ、その後悔に終止符を打つ物語が必要となる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
無垢なる青春を奔るココナでも、時を巻き戻して永遠の少女となったパピカでも描くことが不可能な物語を、ソルトはこの最終回で完結させる。
時の不可逆をソルトが認め、既に死に包まれてしまった冬の心象を連れて娘と妻の争いに介入することが、この物語を決着させるために…悪しき母を殺し、娘を伴侶を求める青年として開放するためには、絶対に必要だったのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
だから、最終回はソルトの話だと言える。
幾度も繰り返されたオフェリアのモチーフ通り、ミミとソルトの悲恋は約束された結末へと流され、死者は死者へと、取り返しのつかない過去は過去へと、それが静止しえい永遠となる幻想は幻想へと帰っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
ホメオスタシスは再獲得され、物語はあるべき座へと戻っていく。
しかしそれは幻想の終わりを意味するのではなく、父も娘も母の思い出を胸の中で活かしたまま、もっとたくさんの夢が広がりうる”現実”へと帰還していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
蝶=プシュケー=魂の翼が自由に羽ばたく物語は、その凶悪な側面とちゃんと闘ったからこそ、終わりを超えて続くのだ。
それが再度羽ばたく時、ひどくリアリティに満ちた”現実”を、最後のピュアイリュージョンとして描くのがとても好きだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
たしかリアルタイムの視聴では、ここの描写が上手く飲み込めず引っかかって、感想をまとめられなかった記憶がある。
ココナがいつも、ピュアイリュージョンから”帰還”していた現実には様々に色があり、僕らの現実の中にある沢山の夢…彩り温でとてもワクワクする建築や風景、魔法のような瞬間が散りばめられていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
それは恣意的に組み立てられた”絵”であり、アニメの中のリアルだ。それは、確かにそこにある。
アニメーションの中で何を描き、何を動かすかは造り手の自由であり、圧倒的に上質な作画アニメでもあったこの作品は、アニメの中にあるのが幻想でしかない原則を、非常にポジティブに描いてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
それはつまらないルールに縛られることなく、様々な色と動きで暴れまわる。
砂漠に雪が降っても良いし、穴を抜けたら別の景色でも構わない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
想像力をキャンバスにぶちまけ、とんでもない夢と冒険が暴れまわる物語を確かに紡げる、力強い物語。
それこそがアニメなのだと、様々な”純粋なる幻想”に挑む旅路は告げてきた。
ならば、ひどくつまらない現実もまた、夢の一欠片なのだ
夢に飛び込む手段は失われ、皆が諦めてしまった世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
ヒダカのエキセントリックは真実を見据える叡智ではなく、ありふれて凶暴な妄想になってしまい、世界は灰色の冷たさ、直線の頑なさで彩られている。
僕らがふとモニターから目線を外して、頭をめぐらせれば入ってくる、つまらない世界。
ココナはそこに迷い、ゴミまみれの森の奥であっけなく、自分の夢と出会い直す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
土管には不思議な少女が澄んでいて、それが大大大好きな自分の魂の片割れだということを、もう二度と離れないことをココナは取り戻す。
夢で手に入れたものは、灰色の現実程度では消えない。
そのあっけない再開が、打ち破られる”現実”というイリュージョンが、五年を経た今となっては製作者達のエールとも思える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
あなたを包むものもまた、私が作りあなたに届いたこのメッセージを通じて、蝶の翼を羽ばたかせることで飛び越えることが出来るものだから。
現実の裏に/ともにある色鮮焼きかな夢は灰色の世界と繋がっていて、それを超える力が嘘っぱちの物語にはあるから。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
ミミが体現した死の重さ、逆行する願い、永遠の檻を超えて進める力が、あなたの側に必ずいる大切な人と手を繋ぐことで、生まれてくるから。
だから貴方も、”現実”を超えて飛び立って欲しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
母の船に流されるままではなく、決断を翼と変えて灰色の世界を超えていって欲しい。
冒険の鍵は必ず、純粋な幻想の舞台となった心の中にあるから。
そんな、真摯にファンタジーを描いたからこそのメッセージが、最後のイリュージョンにはあると思う。
そんな作品のエッセンスを掴んだココナとパピカは、皆が待つ場所へと還る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
空を微笑んで見上げられるのは、大事な人の帰還を素直に喜べるのは、ここまでの戦いや冒険や苦しみがあったから。
幻想は、現実に踏み潰される脆い剣ではないのだ。現実を切り裂き、心を自由にする刃なのだ。
それをヤヤカも掴めたからこそ、ココナが自分を選ばない現実を飲み込んで、時をさかしまに戻すのではなく新たに進めるのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
その敗北と再起は、何度見ても気高くて力強い。やっぱりアニメ史上に残る、最高の負け犬幼馴染だと思う。
恋敵はこのぐらい無惨に負けて、誇り高く勝って欲しいもんだ。
11話ラストを飾った名曲、”Find the wind”はこう歌う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
”♪鮮やかな風に乗り込み
君の音が聞こえる方へ
カケラ光れ 夜に飲み込まれないように
想いひとつで 届けに行くよ”
母なる暗黒を振りちぎり、出会った運命の声を聴いて、決断の翼で船から飛び出す。
ココナの青春は、無限の未来へ巣立っていく
それを導いたのは、かつて出会い再び出会い直した運命の少女の音。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
音に世界に満ちたを読み解き、様々な幻想の意味を知る冒険の最後に”純粋な音”へと突き進んでいくから、この最終話は『ピュアオーディオ』なのだろう。ピュタゴラス教団的な世界観だな…。
物分りの良い現実と、荒れ狂う凶暴な幻想。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
その間で揺れる少女が冒険へと進み、愛を知り、母の死と支配を超えて未来に進む。
上質のファンタジーがおしなべてそうであるように、非常に普遍的な青春の物語であり、この作品だけの幻想が全話で暴れる、見事なアニメでした。
毎回趣向を凝らし、様々な夢に潜るバラエティの豊かさ。そこに込められた詩情の豊かさと、十重二十重の隠喩の織物。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
むせ返るようなイマジネーションをたっぷり吸い込みつつ、子供とかつて子供であった全ての人たちが必死に迷い、戦い、答えを見つける物語を楽しみました。
凶暴な幻想を自在に暴れさせつつも、作品の手中には凄く普遍的で純粋な迷いや激情や願いが生きていて、作品の赤い血がしっかり透けて見える作りだったのが、とても良かったです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
無茶苦茶なことが押し寄せてくんだけど、ココナやパピカやヤヤカが感じる想いが、すごく真っ直ぐ胸に入るんよね。
そこに嘘のなかったことが、やはり根源的な作品の強さであり見事さであったと思います。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
同時にそれがありふれた灰色のものにならないよう、オリジナリティ溢れる夢を徹底的にアニメートさせ、アニメにしかない気持ちよさを堪能させてくれたのも、控えめに言って最高でした。
その強さに当てられて記すタイミングを見失ってしまっていましたが、五年越しの”宿題”を終えて今、ようやく断言できます。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
最高のアニメでした。何度見ても、やっぱり面白かった。
五年経ってもこの作品と同じ酩酊と幻惑、胸に湧き上がる情感の同居は、やっぱりないです。唯一無二のアニメだと思う。
今更ながらの言葉になりますが、とても面白かったです。ありがとう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年1月2日
この物語が魅せてくれた夢は、確かに蝶の翼となってこの五年間僕を飛ばしてくれたし、今後も飛ばせてくれるのだと思います。
美しきプシュケーの飛翔に感謝しつつ、惜しみない賞賛を。
最高のアニメだ。みんな見ろ。