イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

正解するカド:第2話『ノヴォ』感想

鬼才・野崎まどをシリーズ構成に迎えて東映が送るファーストコンタクトSFポリティカルスリラー、謎が謎を呼ぶ第2話。
羽田を制圧した謎の立方体『カド』を外側から描いた第1話に続き、『カド』に囚われた外務省の切り札・真道幸路朗の視点から異質知性体・ヤハクィザシュニナとの接触を描くエピソードでした。
セルルック3Dによる『カド』の異質性と、異常な状況でも職務に忠実に事態を乗り越えていくプロフェッショナリズムが不思議な共鳴をして、『ワケのわからないことが起こっているのに、不思議と手応えがある』という、独特の楽しさが生まれていました。
ザシュニナも結構話のわかるSFゴッドで、誠実で野心的な人々がそれぞれの立場・価値観を抱え、状況を前に進めていく正調群像劇としての面白さを、今後も味わえそう。
ファーストコンタクトSFとしての描写にも切れ味があり、フラクタル3Dの映像圧力も十分。
なにか新しいものが見れそうな、そしてそこには非常にベーシックな面白さが宿っていそうな、期待がモリモリっと膨らむ第二話でした。

というわけで、空白の三十時間を公開していく今回のエピソード。
真道さんをはじめとするキャラクターが軒並み優秀で、スルスルと状況が進んでいきます。
が、起こっていることが常識を外れたスケールなので、進んでも進んでもまだまだやるべきことが残っているという、なかなか面白い作りになっていました。
ストレス感じずトントン拍子で進んでいくのに、見えないものが沢山有るってのは、なかなか幸福な視聴体験だと思います。

巨大な立方体の内部に飛行機ごと取り込まれ、外部との連絡が途絶する。
真道さんたちが追い込まれた状況は相当に見慣れぬものですが、機長もCAたちも観客も大きく慌てはせず、可能な限り状況に対処する。
手早く対応チームを作って状況を確認し、命綱を付けて外に出て、現れたザシュニナとの交渉を進めていく。
ここらへんの理性的、かつ自分にできることを精一杯やっている感じは、見ていて気持ちいいし信頼感を育んでくれます。

あんまりスマートすぎると、乗り越えるべき問題をするっと飛び越えてしまい、物語が広がっていく余白が少なくなっていくわけですが、そこら辺はSF的奇想がしっかり補う感じ。
『突如現れ、日常を占拠した巨大立方体』という発想のインパクトがとにかく大きいし、そこから異質知性体と人類との交渉、おそらく供与されるだろうオーバーテクノロジーの扱いと、やんなきゃいけない事象がたっぷり用意されていることが、キャラクターの優秀さが物語の足を止めない、良い噛み合わせを産んでいます。
人類史が激変することの大変化なんだから、そりゃ関係者は優秀な方が良いわな。


ザシュニナは異質知性体としてはかなり物分りの良い方で、コミュニケーション手段も人類側に寄せてくれるし、各種概念も自発的に学習してくれるし、食料と生存の意味も的確に理解してくれる。
コンタクトするまでのお話ではなく、ネゴシエーターを主役に据え、ザシュニナの利益と日本(そして世界と人類)の利益をすりあわせていく物語が展開する以上、そこでは手間取らない、ということなのでしょう。
まぁ物分りの良い神様のほうが、見てて感情を乗っけやすいからな。
ここら辺強化するために、情報を携帯電話から吸い上げるキューブデバイスが細かい芝居とかしているのは、なかなか面白かったです。

使用する数進法からパンの確保、会談に必要な準備時間から交渉のチャンネルまで、今回は細やかな交渉が行われていました。
今後も『交渉』がお話の中心になるだろうし、その行為がどのような要素で成り立っていて、何が重要なのかを手早く見せるのはとても大事だと思います。
自分の利益と相手の利害を明確化し、すり合わせ、相互に徳のある行動に導いていく今回の『交渉』の結果、真道さんたちはまともに会話可能なチャンネルや、餓死しない食料、外部に自分たちの状況を伝える窓を手に入れました。
それは多分、今後真道さんが間に立って行われる『交渉』、ザシュニナと人類の意思疎通と技術供与がどのようなものであるかを示す、一種のモデルケースでもあったように思います。

真道さんは相互理解のために色々細かいテクニックを使っていて、相手をニックネームで呼んだり、握手をしたり、情報共有のための素地を作っています。
そもそも飛行機の中に閉じこもらず外部へでてきたこと自体が、『交渉』に向けてチャンネルを開ける第一歩であり、タフ・ネゴシエーターの面目躍如といったところでしょうか。
ザシュニナを交渉可能な一個人として尊重しつつ、自分たちに必要な利益はしっかり伝える、それが伝わらないなら概念自体を教えようとする落ち着いた姿勢は、なかなか頼り甲斐のある主役でした。
対応自体はクールなんだけど、そこに『面白い』という個人的な感情の熱があるバランスが、結構好き。

真道さんの優秀さを強調するためのワトソン役が、後輩の花森くんです。
真道さんが一発で覚えた『ヤハクィザシュニナ』という名前を言いよどんだり、良い壁役をやってくれているわけですが、真道さんが脳スキャンくらって悶え苦しんでいる時に言った言葉が、結構大事化名、と思いました。
『苦しんでいるだろ、やめろよ!』という発言は、不必要な苦痛は与えられるべきではないし、それに共感(もしくは想像)して苦痛をもたらす行為を止めることを期待して発せられています。
食事が供与されるシーンや先週の総理の決断もそうなんだけども、この話は結構人類全体の大きな変化を扱うと同時に、一個人の苦痛や生存をかなり大事にしている感じがあって、信頼が置けます。
『大義の前には一個人の事情は無視!』っていうのも一つの真理かと思いますが、そことは別の切り口があることは、一種の豊かさを作品に連れてくると思うわけです。

ザシュニナは幸運にも人間の苦痛を理解(もしくは想像、推論)してくれる『優しい神様』だったわけですが、もし仮にそうでなくても、花森くんは『苦しんでいるだろ、やめろよ!』と言ったでしょう。
命が崖っぷちに追いつめられた時、問答無用の実力で障害を排除するよりも、言葉で意思を伝える選択肢を、花森くんは選んでいるわけです。
『届くかわからないけども、とりあえず言葉を投げかけてみる』という行動は、ネゴシエーターを主役においている以上当然とも言えますが、異質だからこそ対話を模索しなければならない人間性に目が合いていて、面白いなと思います。


ザシュニナ(というより『カド』それ自体と、謎めいたバックグラウンド『ノヴォ』)もまた、交渉のための歩み寄りを色々してくれています。
花森さんがカドの地面に接触=コンタクトすると実相が見え、人形コミュニケーションデバイスであるザシュニナが生成され、様々な手段で人類のコミュニケーションを学習しようとする。
人類代表である真道さんが飛行機から出てきたように、神たるザシュニナも人間サイドに歩み寄り、交渉のテーブルに自発的に付いてくれています。

しかし知能レベルも存在の有り様も異質なのは間違いなく、そのギャップを埋めていく努力だけでも、結構な時間がかかる。
発声を学んだり、名前による個体識別を学習したり、SFテイスト溢れる細かい描写が、お話の食べごたえを作ってくれました。
一手ずつ模索して、それが形になって、状況が進んでいく積み重ねは、やっぱり見ていて楽しい。

最初の対話のときの半跏趺坐や、パンを無から増殖させる奇跡などを見ても、ザシュニカが神や神に類する超人として描かれているのは、間違いなさそうです。
しかし彼は、無条件に自分を信仰し信頼する思考停止をきつく諌め、対等の交渉を要求してくる『優しくない神』でもあります。
人間に近づきつつも、人間を背負いはしないそのスタンスは、ストイックで自律的という最も洗練された意味合いで『人間的』でもある気がします。
イデア化された理想の人類というか……衣装をリニューアルする時に、『王様と犬』の童話が参照されているのも、そういう繋がりかなぁ。
総理大臣の名字、『犬束』なんですよね……犬を束ねるもの。

真道さんとザシュニカがカドの『中』で行った信頼関係構築と交渉は、スムーズかつ実りのある形で進みましたが、『外』との交渉になる次回以降がどうなるかは、未だ未知数です。
異質な知性と技術、価値観を持つザシュニカの代弁者として、真道さんが人類社会との間に立つ形になるのかなぁ。
日本政府、ひいては人類代表の公証人になる徭さんのキャラがまだ見えないのでなんとも言えませんが、全体的に理性的なトーンで進んでいるので、いきなりグチャグチャになるということはあまりなさそうです。
ザシュニカが提示してくる超技術も、まだ見えないしね……あの時コックピットにいた人たちは、ノヴォの真相とか、ザシュニカが持つテクノロジーとかは既に知ってるんだろうなぁ。

ここら辺のカードが明らかになりつつ、各キャラクターが各々の思惑で行動し、状況が変化し、その変化がまた各々の手札に影響を及ぼしていく……というのが、今後の展開でしょうかね。
野崎まどらしく、名前に色々暗号が隠されていそうなのも、今後話しがどう転がるかを考える、面白い素材だと思います。
『真道 幸路朗』は真実の道・皆が幸福になれる路を朗らかにし、歩いて行くのだろうなとか、公共賦役を意味する『徭』を名字に持っている沙羅花さんは、政府サイドの権益から離れることはないんだろうな、とか。
名前が『沙羅双樹の花の色』だし、人間の儚い部分担当なのかなぁ、とかね。
ここら辺は妄想として外れることも多いところなんでしょうが、せっかく色々と想像力を掻き立てられるお話なので、無責任かつ楽しく想像力を広げて遊んでみたい気持ちにもさせられます。


というわけで、2kmの立方体がこちらの脳髄を殴りつけてきた第1話の裏っかわ、立方体の内側で展開したネゴシエーションのドラマを追いかけた第1話でした。
交渉相手である神様含めて、やっぱり登場するキャラクターは理性的で誠実なプロフェッショナルばかりで、非常にスッキリした印象を受けます。
そんな彼らが各々の職分と情熱に従い、SF的想像力と驚きに満ちた状況を一歩ずつ踏破し、状況が変化していくことが、とても面白い。

真道さんの柔軟で的確な対応で、神と人間の交渉テーブルが用意されましたが、そこで交わされる最初の契約とは、一体どのようなものになるのか。
新世代の方舟が隠している真実とは、そこから人類に遣わされる福音とはいかなるものか。
まだまだ謎を残すSFポリティカルスリラー、今後の展開が非常に楽しみです。