BANANA FISHを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
暴力によって手に入れた自由は、より強い暴力によりあっけなく崩れた。籠の中の鳥として、命を天秤にかけるビジネスに、その頭脳を利用されるアッシュ。人の手から餌を取らぬ狼のように、衰弱していくリンクス。
そんな彼を檻から出すべく、英二は覚悟を決める。全ては、愛のため
そんな感じのBANANA FISH終盤戦、静かに状況が流れていくエピソードである。派手な衝突は次回以降に回し、そのための準備を整える回ではあるのだが、このアニメらしいバキッと大胆な色彩が随所で顔を出し、緊張感を維持していていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
氷の宮殿のように、静かにヒリついた寂たる気配。
英二とアッシュが再開するわけではないし、派手な殺し合いが起きるわけでもない。しかし確かに、分かたれたものがお互い求め合い、望まぬ未来を押し付けられた魂が死んでいく様子は、しっかり脈動しながら描かれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
このアニメらしい静かな雄弁さが、どっしりと画面に根を張るエピソードとなった
今回は画面を単色で塗る、印象の強いカラーリングが目立つ。前回決戦の倉庫で目立った青は後ろに引き、今回のメインは赤だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
マックスと伊部さんが不屈を飲み交わす酒場。ブランカが悪魔と、竜と会話する部屋。鮮明な血、あるいは激情の色彩。
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH pic.twitter.com/egG6cQKnps
そこに描かれたものがどのような爆発を見せるかは、今後の展開を待たなければいけないが、凍りついて動かない、というものではないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
月龍は見捨てられた子供のようにブランカにしがみつき、過去を引き合いに出して自分の味方とする。赤…共産主義の象徴色。元・スペツナズの経歴。
とは言え、"ブランカ"の由来は白ロシア…赤軍に対抗した旧貴族勢力も白軍(両者に直接のつながりはなく、むしろ中国由来の『西=白』で西部ルーシ=ベラルーシ=白ロシアなわけだが)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
いくら白く自由な立場を気取っても、消せない過去は赤く臭う。結婚によって血をつないだ女の名を、身に刻む男の執念
それを掘り返すことで、月龍はブランカを手に入れる。李家の血を根絶やしにするべく悪魔と契約した少年は、自分を庇護し守ってくれる"親父"を求めた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
冷たい血を憎悪しつつ、暖かな血縁に拠り所を見つける。アッシュとは別の形で、血に呪われた男である。
そんなアッシュはゴルツィネの後継者…"息子"であることを強要され、どんどん衰弱していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
人の命をそろばんに乗せて、利益を計算する悪魔の商売。それが名士ディノ・ゴルツィネの稼業だ。期待通り持ち前の(そしてゴルツィネが鍛え上げた)頭脳で、アッシュは高いスコアをはじき出す。
しかしそれは、キリマンジェロの雪を求める野生の獣を、檻に閉じ込めるような所業だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
アッシュは人の命が簡単に消えて、優しくされない世界がマジでウンザリで、そこから少しでも出たいと願って、ゴルツィネの檻から出た。スキッパーやショーターや英二がいる、青い世界を求めた。
暴力で全てを剥奪し、自分の色に染め上げても、そんな魂は腐るだけだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
これまでもゴルツィネの象徴色だった緑を、死の商人見習いとしてのアッシュは着込む。その後二人きり、地獄みたいな会話をする部屋も、基調は緑だ。
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH pic.twitter.com/2He9bklVZL
ゴルツィネの継承者として政府高官を相手取る時着込んでいたジャケットを、ゴルツィネを否定し噛み付く(そして赤い血が流れる)シーンでは脱いでいるのは、なかなか面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
形の上じゃ"息子"の立場にハメられちまってるけども、そんな最悪の冗談、着込むつもりはねぇんだぜ。そんな感じだ。
ディノが作り出した偽物の緑は、良心を殺して計算を続けるうちに枯れ果て、場面は白と黒…絶望と死の色に塗られていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
まさに氷の宮殿であるが、衰弱し狂気に囚われかけたアッシュは、狂えるお姫様のように悲壮だ。
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH pic.twitter.com/cfXouy36JG
ゴルツィネは脱出口としての死(第18話で囚われかけたもの)に、アッシュが逃げることを許さない。あくまで生きて生きて生き抜いて、自分の望む野生の獣の美しさを最大限発揮した上で、息子として妻として、望む形で生きることを望む。叶わぬなら、この手で殺す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
マジ最悪のツンデレなんですけど…。
"親父"の喝をぶち込まれることで、アッシュは赤い血…まだ死んではいない証明を吐き出して、狂気から少し距離を取る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
ゴルツィネの歪みきった愛は、時に困難を乗り越える能力を、時に発奮し生を掴む気力を、アッシュに明け渡す。セーターも真っ赤だな、オイ。
親子であり、強姦の加害者・被害者であり、王権の継承者であり、夫と妻であるような、あまりに拗れた二人の関係。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
それがゴルツィネの勝利で終わる日、アッシュの魂に死刑が言い渡される瞬間は、かなり近い。英二が担当していた囚われお姫様属性を、アッシュが引き受けた形か。
その英二は、遂に傍観者であること、自己嫌悪に苛まれて一歩も動けない卑怯者であることを止める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
月龍の前に堂々と立ち、アッシュの現状を把握して、人種…血を超えた同盟の中心に立つ。
ヒロイン稼業はもうやめだ! こっからは男の世界だッ!! ビバ・マッチョ!!
えーちゃんがそう叫んだかどうかは分からんけども、遂に英二なりの力を振り絞り、前に進もうとする姿は勇ましく、頼もしかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
かつて魂をつないだブラッドも合流し、バッドボーイ同盟はいちばん大事なボスを、自分の手で掴み取ろうとあがいている。それが実を結ぶと良いなと、本当に思う。
新しい性根を見せたと言えば、ブランカは月龍のすがりつきを無下には出来ず、脅されつつ流されつつではあるが、彼の魂を受け止めることにした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
『僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、その子をつかまえることなんだ』
このアニメが引用する文脈とはズレるが、これがしっくり来る
サリンジャーの"ライ麦畑でつかまえて"の文言だけども、ブランカは"大人"の責務を果たして、あまりにも危なっかしい月龍に寄り添う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
触れてはいけない過去に触れられた。強制された。そういう側面もあるのだろうが、やっぱりあのデカい体と余裕の表情には、他人の危険を見過ごせない優しさがあると。
信じたかったものを見れた感じもあり、まだまだヤバそうな感じもあり、なかなかに複雑だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
ブランカはアッシュから依頼された、『英二が崖から落ちそうなら、助けてやってくれ』という祈りを、誰にも言わない。その嘘に込められているのが利なのか仁なのか、衝突が起きた時に判るのだろう。
アッシュはオペラを見る時、薬物を投与され視界を奪われる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
ダチュラに含まれるスコポラミンには瞳孔散大作用があり、不用意に投与すると視力が喪われる。華岡青洲の妻が失明したのも、この作用による。
そしてBANANA FISHは、ダチュラ=エンジェルストランペット系列の薬物である。
兄やショーターと同じように、魔薬で意志を剥奪される。見るべきものを見る目、言うべきことを言う口を塞がれて、檻に閉じ込められる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
数多の犠牲を生んできた悪意の歯車に、とうとうアッシュも本格的に巻き込まれたことを示す描写だと言える。説明が少ないんで、結構判りにくいけども。
そんなアッシュをゴルツィネが例えた"孔雀"は、第16話のサブタイトル(『哀しみの孔雀』)だけでなく、今回も画面に映り込む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
華美な印象が強い孔雀だが、インドでは毒蛇に当たらず食い殺す獰猛な側面を見初められ、マハーマユリとして鬼神にもなっている。
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH pic.twitter.com/kVBRTmLhdn
これが仏教に入ると孔雀明王、その権能は三毒を食い尽くし、悟りに向かって衆生の目を開かせることとなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
スコポラミンで目を塞がれ、緩慢に死に向かうアッシュ。彼を蝕む毒を、英二は孔雀の鬼神となって食い倒すことが出来るのか。
それともゴルツィネの部屋にある、死と絶望の色に囚われた鳥のように、諦めの中で窒息していくのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
未来は未だ不確かである。望ましくは、英二とアッシュが共に見たあの異国の青い空、人間が人間として生きられる希望を、二人で掴んで欲しいものだが。
そういうモノを、ゴルツィネもアッシュに見ているのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
暴力も強要も強姦も殺人も、全ては愛の歪んだ現れ。ただ踏みにじり、犯されても痛みすら感じない便所ではなく、獰猛に息をする美獣としてリンクスを求めたからこそ、ゴルツィネの願いはここまで拗れ、人を傷つける形に尖った。
その毒気を当然肯定はできないけども、しかしあらゆる人が…救いようもない悪漢含めて、より満たされた世界を求めて生きていることは、間違いがないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
それがどうしようもなく食い違うからこそ、暴力的な衝突が発生し、その先にしか未来がないどん詰まりが、否定しようもなく立ちふさがるけど。
そういう壁をぶち壊し、自由を手に入れるためのツールだったはずの暴力は、ブランカによってあっさり否定されてしまった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月17日
暴力に暴力をぶつけるニヒリズム以上の答えがなければ、英二が準備している反抗も、同じ結果になるだろう。
さて、お姫様をやめた少年が出す答えは? 来週も楽しみですね。