ヴィンランド・サガを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
時は、まさに世紀末。荒れ狂う時代の間で、男たちは夢を見た。ここではないどこか、彼方に過ぎ去った彼方を。
そんな微睡みを打ち破るように、岩が降り注ぎ剣が閃く。
乱世。
殺戮と略奪のイングランドに押し寄せる運命を、ヴァイキングはどう泳ぐのか。
そんな感じの、一週間ぶりのご無沙汰! ヴィンランド・サガ第10話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
ロンドン包囲戦は、まさかの逆進撃により逆風となり、王子は虜囚の身。それを好機と見たアシェラッドが、まさかの一騎駆に出るまでの黄昏を追うエピソードである。
一瞬の凪が、嵐の激しさをより強調するようなお話だ。
物語は境界線上の脆い静止を、三つ追いかけることで進む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
一つはロンドン、クヌート王子の天幕教会。
一つはトルフィンが夢見る、どこにもないヴィンランド。
一つはアシェラッドが見つめる、廃墟となりし属州ブリタンニア。
全ては荒々しい現実の狭間、一炊の夢だ。
それは脆く、儚く、だからこそ…尊いというには、ヴァイキングは戦に近すぎる。祈りは破られ、夢は覚め、郷愁は刃で自ら断ち割る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
所詮、血塗られた道。
諦めを杖にして、黄昏に背中を向ける。進む先は闘争…お互いの喉笛を狙い合う、巨人と神々の決戦場である。
ロンドン包囲軍は、名目上のトップであるクヌート王子が天幕に引っ込んでいるため、にらみ合いが続いている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
いかにも古ヴァイキング的な、気合の石投げ。『ヴァルハラに行けねぇぞ!』と腰抜けを煽る言葉を、祈りは静かに無視する。
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デーン陣営においてはキリスト者はマイノリティであり、王子は荒れ狂う北欧の価値観に逆包囲されている、とも言える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
祈れば。『剣を取るものは、剣によって滅ぶ』という言葉を任じて生きれば、正しい行いは報われる。
んなわけないじゃんと、トルケルは嘲笑う。
轟音を立てて迫ってくる超武力は否定しようのない現実であり、優しいラグナルおじさんが許してくれても、世間と敵はテントを壊す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
優しいだけでは生きていけない、世知辛い世紀末。クヌート王子の手弱女振りと、悪鬼のごとく益荒男のトルケル軍。
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そこでは包囲している側、正しい側が優位に立つという、ヌルい常識はひっくり返される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
お前らが火種を撒かねぇってんなら、穴熊やめて逆接岸だ!
トルケルのやりたい放題は、いっそ爽快ですらある。個人の”武”が、伝説足り得た最後の時代、最後の戦士…か。
しかし年表を見れば、ノルドの荒々しい価値観は静謐な祈りに塗り替えられ、キリスト教へと回収していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
包囲しているものは包囲されていて、強者は必ず弱者に転じていく。そんな巨大な潮目を、時代という海を泳ぐヴァイキングが知る由もない。
…存外、トルケルには”見え”ているかもだが。
ロンドン攻囲戦の逆転劇は、ウェセックスで『村を食って』いるアシェラッド戦士団には遠く、トルフィンは幼い姿のまままどろむ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
日暖かく、草豊かに生え揃い、羊静かに喰む。氷の故地とも違う、平和な”どこか”…戦いが”ごっこ”でしかない場所の夢だ
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そこでは、奪うことも殺すこともしなくていい。誰かを奴隷に貶めることも、自分が奴隷になることもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
理想郷。
それは未来に向かって(ヴィンランド植民という形で)伸びているだけでなく、既に取り返しがつかない過去にも伸びている。
なんと温かい、美しい夢だろう。でも、もう終わったのだ。
それが夢であると、過去であると認識するにつれ、空は曇り草は枯れていく。戦士団に潜り込んでから認識した、面白くもなんともないヴァイキング的現実の色に染まっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
海辺を略奪する”ヴァイキング”を、幼いトルフィンは見下ろす。
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俺はそこにいない。殺さない、奪わない、犯さない。”奴ら”は”俺ら”の村を焼いて奪う側で…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
そんな言い訳は、第7話ラストでもう枯れている。彼は略奪者の先導となり、殺戮と略奪と強姦を連れてきた。心の奥底で待ち望む故郷と、同じ場所を”奴ら”として焼いたのだ。
夢は、所詮夢だ。
『復讐なんて止めろ』
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
それを亡霊の夢枕が語ったのか、運命に流されつつもどこか冷静なトルフィンの深層心理が呟いたのか、判別は難しい。
戦争とヴァイキングが大ッ嫌いな、復讐者に向かない少年は、死人の側で目を覚ます。
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斧の突き刺さった死体と、名前のない恋人たちの遺骸。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
それを貪って、飢えを満たす番神達の群れ。どれだけ”奴ら”と蔑んだところで、その中に身を投じ、罪を重ねていることに代わりはない。
青い薄闇のなかを寄る辺なく、トルフィンは迷う。夢から覚めても、まるで夢のような異国。
見え隠れするヴァイキングの野営地、その明かり。夜を切り裂く太陽が、まだ顔を見せない狭間の時間を、苔むすローマの残骸が見下ろしている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
崩壊した文明の名残りと、再び国を荒さんと迫る蛮人の間。丘の上、夜と昼の間にアシェラッドが立つ。
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もはや富(闘争の燃料、”ヴァイキング”の好物)として機能しない、古代のコイン。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
それを弄びながら、アシェラッドは悪辣な戦士とも、憎い仇ともまた違う顔で、時代の潮目を見据える。
かつて栄華を誇り、今滅んだものを思いながら、滅ぼすものとしての自分をどこか、醒めた目で見ている…ように思う。
夜というには明るすぎ、朝というには暗すぎる境界線上で、アシェラッドはひどく聡明で、ナイーブな素顔を、チラホラと見せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
偉大なるローマの継承者、ブリタンニアの末裔!!
そこに彼の、民族的個人的アイデンティティが、あるのかないのか。
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アシェラッドの郷愁を蹴飛ばして、”ヴァイキング”は憂さ晴らしにお互いの命を取り合い、次第に夜は明けてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
過去か、未来か。デーンか、ブリタニアか。曖昧なものが曖昧なままいられる時間は、泡のように夢のように脆く短い。
そんな時間を共有した二人は、やはり”親子”に見える。
アシェラッドがトルフィンに見せた、非”ヴァイキング”的な表情は、例えばビョルンも知らない気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
殺し殺され、奪い奪われる。蛮なる愚か者のダンスを超えた、本当の戦士の生き方に憧れ、自分の手で壊した仇。仇敵にして保護者、先導者、教師。
二人の複雑さが、昼と夜の間で揺れる。
その曖昧は鮮やかな朝と、軍使の到来で終わりを告げる。どれだけ感傷を込めて過去を睨みつけても、味も素っ気もない現実はあっという間に押し寄せ、夢は終わる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
情勢を把握したアシェラッドが見上げた空に、流れるのは風雲か、溜息か。
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短い夢を一瞬で飲み込んで、アシェラッドは”ヴァイキング”になる。極悪な表情で首を切り落とし、配下の荒くれを焚きつける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
生きるか死ぬか、栄光か敗北か。俺達”ヴァイキング”がいるのは、その境界線の上だ!
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上手い。本隊殺しの罪を焚き付けに、見事100人をまとめ上げるカリスマと頭脳。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
だがそれは、大規模な街の略奪も出来ない『100人ぽっち』でしかない。
アシェラッド兵団は、強いのか弱いのか。
その白黒をはっきりつける乱に、”ヴァイキング”は飛び込もうとしていた。
破滅願望に突き動かされるような、一か八かの大勝負。それを諌めようとして、自分が信じる頭を立てて黙ったビョルンの、複雑な表情。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
肉を食らいお互い噛み付くばかりの”動物(ヴァイキング)”とは、少し違った視線でアシェラッドを見ている気もする。
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祈り、夢、郷愁。脆く大切なものを押し流しながら、時代と暴力は突き進む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
夜と昼の中間地点で、滅びと栄光の間で何かを見据える繊細を飲み込んで、アシェラッドは野望に火をつけた。
退路はない。安全圏はない。祈っていても、十字架は踏まれるだけだ
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そんな感じの、”非・ヴァイキング”的な主役たちの横顔を切り取るエピソードでした。みんな戦乱が嫌いなくせに、時代は世紀末、奪い奪わればっかの世界なんだよなぁ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
そして戻ることも出来たのに、復讐心に突き動かされて”ヴァイキング”の真ん中にいるトルフィン、かぁ…。カルマだね。
クヌート奪還の誉れと栄達を独り占めするべく、ロンドンへ取って返す一行。待ち構えるのは、蘇った戦神、”のっぽ”のトルケルとその軍勢。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
アシェラッドとトルフィンの複雑な夢を乗せて、船は戦場へと赴く。時代の嵐、その行き先を知るものは誰もいない。
マージ面白ぇな…来週も楽しみ。
あ、アシェラッドがキリスト坊主の戯言として語ってた『20年後』って、大体クヌートの死、ヴィンランド入植失敗と、物語の歴史的決着が付くタイミングなのか…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月16日
デカい目線で見ると儚く弾ける夢の、入り口にすら足をかけていない序章。どう転がっていくのか。アニメでどこまで見えるのか。ううむ…。