歌舞伎町シャーロックを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
奈落から伸びる手を振り払い、たどり着いた真実。ピンクの象が見守る、モリアーティの隠れ家。
そこで手渡される、最後の謎。
『俺は、一体どんな男だったのか』
落語探偵は高座に上がり、いつもの調子で語りだす。
遠い誰かの浮世細工ではなく、己の人生の物語を。
そんな感じの、歌舞伎町シャーロック最終回である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
キャラクターと作品世界に前のめりに、体重を預けてみていた人の心を大事に扱うこの作品らしく、モリアーティの喪失をしっかりケアする、良い終わりだった。
後悔とやるせなさを込めつつ、人生という物語は続く。
孤独な”俺”が”俺たち”に成りつつ。
”犯罪”というショッキングで魅力的な題材を扱う際、必要な重さをしっかり抱え込みつつも、モリアーティと過ごした半年にしっかり目を向けて、イーストという愛すべき舞台に想いを込めて、しっかりまとめ上げてくれた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
滝壺に飲まれていく過去を前に、生者が出来ることは何か。
第21話で早めのピークを迎えたように見えて、ポットの穴を埋めれた者と埋めれなかった者、生き残る者と去りゆく者の断絶と絆へ、しっかり時間を使って作品なり、答えを出すエピローグであった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
この分厚い余韻は、やはり2クールという時間を適切に使った成果だと思う。
さてお話は、謎の残滓を一気に振り払って進む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
2クール目散々に僕らを悩ました殺人暗号は、モニャモニャした操作を経て意味をなし、名探偵と助手を最後の場所へと導く。
『イヤ、その情報で判るわけねぇだろ…』とも思うが、まぁ大事なのはソコじゃない。
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第1話アバンから印象だった、イーストの象徴。下世話で汚れた八百八町を、優しく見守るピンクの象。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
その視線にモリアーティが身を置いていたことが、僕には妙に救いであった。
『犯罪王としてかき回し、壊そうとしたこの街に、僕と同じ愛着を持ってくれていたのだなぁ』という、勝手な同一視。
それに浸る間もなく、お兄ちゃんのヤバ爆弾が勝手に炸裂する。いやー…確かに怪しい動きしてたけども、そっちかー…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
弟が好きすぎて頭おかしい類の人な兄に、目線を合わせて礼を言う。ワトソンくんの人間介護が、意外な所で役に立つ形。
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マイクロフトの描写は決着を前に刈り込んでおくべき枝葉でしか無い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
けども、ホームズが『すまない』と『ありがとう』を言葉にできるようになった変化を刻むには、丁度いい相手だとも思う。
愛ゆえに、盗聴器は仕掛ける、ストローはパクる、飲みかけのコーヒーは啜る。
ぶっちゃけキモい身内の想いを、ちゃんと受け止め適切に向き合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
そういう『マトモ』な行動を、ホームズは取れるようになった。モリアーティは形だけ整えて、実感できないまま奈落に落ちた。
このギャップが、名探偵が最後に挑む謎掛けとなる。
いやー…ヤバいな兄貴ッ!!
回想の中の回想として語られる、ジェームズとアレクサンドラの過去。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
命と人間性を巡るアレクの闘いは、『なぜ犯罪王は、家政婦だけを殺さなかったのか』という謎解きにもなっている。
そこには、少女のエゴとアガペがあった。
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病身をうとみ、死の天使の降臨を待ちわびていた少女。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
彼女がガラス越しに求めた救いは、弟の殺人によって奪われる。
自分が生きて、ティーポットに水を注ぎ続けなければいけない。怪物を怪物のまま、世にはなってはいけない。
その博愛は、死を諦め生を掴み取る、個人的理由とも重なっている。
ジャックがアレクを天使に擬して殺したことを思うと、なかなか複雑な描写であるが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
ここでアレクを無辜な天使ではなく、己の生きる意味を強く求める一人間として書き直したのは、とても良いと感じた。
かわいそうな怪物を救うことが、私の生きる甲斐なのだ。そこにしがみついて、奈落に落ちないんだ。
アレクはただ綺麗な理想だけを見て、あるべき人間の理想像をジェームズに押し付けていたわけではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
それが無駄にこぼれ落ちることも、自分が生きるために勝手にやってることも承知で、なお諦めずポットに水を注ぎ続けたのだ。
そこには綺麗な水だけでなく、感情と我欲の汗と涙が混ざっている。
人も殺せば、楽しく笑いもする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
菩薩とも悪鬼とも成り得る…あるいは同時にそうである人間模様を、落語をモチーフとしたこのアニメはじっと見据え、幾重にも重ねてきた。
話の起点であり、取り返しのつかない喪失でもあるアレクもまた、割り切れない人間味を携えた、噺の住人だったのだ。
健気な笑顔の奥に隠した、死病との闘い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
やはりガラス越し、遠い輝きを睨みつつ、アレクは無念のまま散った。
その思いを伝えられ、ジェームズはどう思ったのか。暗い奈落に落ちる前に、何を掴もうとしたのか。
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それを探るのが最後の謎解きであり、言葉にするのが最後の高座となる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
まるで血みどろの連続殺人がなかったような、無邪気なゲームの現場。知恵と閃きを駆使して、楽しく遊べる謎の森。
ホームズと、存分に遊ぶ。
結局掴みそこねた、モリアーティの小さな夢の城。
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1、2、3と番号を振って、写真に閉じ込めた綺麗な思い出。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
それが謎解きの鍵になる辺り、やっぱりこの最終話…に続く三連作は長いリハビリだなぁ、と思ったりする。
僕らが愛おしい思えたものを、去っていったモリアーティもまた大事にしてくれたのだ。
…時間切れになっても、爆発はしなかったなこりゃ
マウスとマウスをくっつける関係性を明確に否定して、扉は開く。遊技場めいた死者の国に、最後に残った晴れ舞台。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
それは推理と噺の技量療法を試す、”落語探偵”シャーロック・ホームズ、最後の人間試験である。
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己の感じる思いも、何処か遠く実感できない推理機械。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
そんな男が引き寄せられた、古くて新しい話芸。下世話で貴い人のあり方を、そのまま飲み下す”落語”というメディア。
ガラス越しの幻影が、かつて教えてくれた一つの繋がり方を、シャーロックは静かに語りだす。
どうにも熱が宿らず、見限りを付けられた語り口。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
『俺とあいつ』を”めくり”に刻まれ、どうにも逃げ場無く自分を語るしか無くなってなお、ホームズは”ご隠居”と”八っつぁん”というキャラクターを借りる。
ぎこちない人形芝居に載せなければ、謎も思いも上手く語れない、穴開きの欠陥品。
『そいつが、ここまでたどり着きましたよ』と伝えるように、長い高座はホームズとモリアーティの過去と現在と、もう掴めない未来について語っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
それはホームズだけの血の通った語り口であり、同時に”型”を真似ることで生まれるオリジナリティである。
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ホームズは『生きているモリアーティ』を語り通すことで、己が果たすべきだった役割、それが出来なかった業、宿る後悔と感謝を形にしていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
それは『マトモ』な人間の赤心であるが、そのままの形では出てこない。
アレクのようには、ホームズは生きられないのだ。
落語の中に定型化されたキャラクター、”落語探偵”という型を借りることで、かすかに繋がれた世界。そこから手を伸ばし、自分のポットを満たしてくれたワトソン。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
致命的に届かなかった手を悔やみつつも、そうなるしかなかった痛ましさと実感を込めて、”ご隠居”はホームズとモリアーティを解体していく
その回り道があってようやく、ホームズの冷たい知性は哀しみと後悔にたどり着き、怪物でありそれだけではなかった16のガキとの思い出を、飲み下すことが出来る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
芝居がかった語り口から、仮面のないホームズ自身の言葉へ、いつの間にか移る。小西が巧すぎる…。
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生きてるか、死んでるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
くもりガラスの向こうで曖昧な、己の思い。業と思いに押し流されて、こうやって終わるしかなかった三人の物語。
それにサヨナラを言うためには、喪失の痛みも、虚無の誘惑も、それでも伸びてくる人情の手も、ちゃんと書く必要があった。三話使ったからこその、見事なサゲだ。
かくしてホームズは、ようやく泣ける。涙涙の名作を演じていても、熱の宿らなかった三文噺に、血が通う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
彼の”芸”を完成させる犠牲としては、沢山の死体と理不尽はあまりに重い。
それでも生き残っちまったのなら、思い出と想いの先に続くものを、サヨナラの”お釣り”として貰ってったほうが善いだろう
ホームズは幸運にして、ポットを埋める相手と繋がれた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
モリアーティーは不幸にして、ポットに穴が空いたまま、引き返せない奈落に落ちた。
壊れたまま、怪物として二人で生きる未来は消えて、道は別れていく。
それを何処かで望みつつ、諦めきれないから人を殺し、街を燃やした。
その結末は覆らない。あり得たかも知れない未来は、掴み取れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
でもその無邪気な空想は、確かに共有した過去と同じように、嘘でも作り事でもない。
人形は、もう振り返らない。パレードは終わり、そして続いていく。
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欲望の街が夕日に暮れて、山のお寺の鐘が鳴る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
あの少年が、かつて身を置いた居場所へ帰れる喜びと悲しみを抱えて、一日が終わる。
どん詰まりに思える路地裏には、やっぱり大きな空が広がっている。
モリアーティが進み得なかった場所へ、名探偵は進む。
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世の中には、上手くいくこともいかないことも、両方沢山ある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
モリアーティとホームズ、同じ欠落を抱え、同じように出会い、同じようには満たされなかった二人。
その運命を、笑いと血飛沫でジリジリと描いた物語は、永訣とその先へと進んでいくのだ。
愛おしきものの喪失は、全てを奈落に投げ込むだけのパワーが有る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
ジャックに半身をもぎ取られ、滝つぼに落ちたモリアーティが、最後に遺した未練。
半歩間違えば、己も奈落に落ちていた実感と、手を差し伸べられなかった後悔を込めて、それを受け取る名探偵。
犯罪王と名探偵、現世に残るものと黄泉に去りゆく者。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
その境界線は、存外あやふやで不鮮明なものだと語りぬくためには、やはりどっしり『祭りの後』を描く話数が必要だった。
喪失に狂うホームズと、彼を彼岸に繋ぎとめんとすワトソン、アイリーンの奮戦…あるいは帰還。
皆が絶望と破滅の引力に引き寄せられ、明日を諦めようとするけども、繋がっちまった縁は、笑顔を共有した思い出は、簡単に滝壺に身を投げさせてくれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
そしてその人情が、どうしても拾いきれない業もまたあると…取り返しのつかない破局にもまた、夢の残り香が確かに薫るのだと。
届けるために話数を贅沢に使ったことが、馥郁たる余韻を残し豊かであった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
皮肉な表情の少年は、もう探偵長屋にはいない。『毎度バカバカしいお話』が回復したようでも、損なわれたものはある。
でも、新しく生まれるものも、またあるから。
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これは『俺の事件』を高みから玩弄するしか出来なかった推理機械が、お節介な助手と足並み揃えて『俺たちの事件』へと、踏み出すまでの物語。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
切なる祈りが儚く散り、下らん日々が魂を救う。
簡単には割り切れず、身を切るほどにシンプルな人間模様を切り取った、美しい万華鏡だ。
やって欲しいことを、大体やってもらえたアニメでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
作品世界の下世話な存在感とか、笑いと血飛沫で揺らしてくる話運びとか、インパクトと可愛げのあるキャラクターとか、バカを本気でやる鮮烈な知性とか。
良いところは沢山あるんですが、『まぁ、俺のアニメだったな』と勝手に思っています。
落語を通じてしか世界と繋がれないホームズの不器用に、アイツほど賢くも可愛くもない僕は勝手に己を重ねていて、だからこそ『マトモ』に漂白されて、捻じくれを正されて繋がるような終わりは、絶対に嫌だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
そういう風に生まれ落ちたどうしようもなさと、ちゃんと向き合って噺を書いて欲しかった
モリアーティが暗黒に惹かれ、ライヘンバッハに落ちる歩みを、情け容赦無く重たく描くことで。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
破滅の縁から浮かび上がって、ワトソンくんを隣においてどうにか浮世を生きていくホームズが、自分の”噺”に涙出来る結末には、嘘がなかったと想います。
業と心中して、死んじまう奴はどうしてもいる。
でも間違えちまったやつが、何もかも嘘だったわけじゃない。いびつな繋がりにも情は生まれるし、人間には色んな顔があっていい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
世間のどうしようもなさを犯罪都市に投影しつつも、柔らかく優しい視線をずっと忘れなかったのは、非常に強かったと思います。
殺人や因業という、凄く重たいモノをエンタメとして扱いつつも、それが視聴者にどう突き刺さるのか、どう突き刺すべきなのかよく考え、慎重に刃を奮っていたのも助かりました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
ジャックとモリアーティのショックをケアするように、ちゃんと話数を使ったのは本当に偉い。
卓越した知性によって、情から隔絶されていたホームズがちゃんと、血の通った”噺”をやってくれるかってのが終盤の気がかりだったんですが、最終回、見事にやってくれました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
あそこで借り物じゃない、自分とアイツとお前の噺を、ワトソンくんを客に演れた。素晴らしい到達点だったと思います。
長屋の連中もいいボンクラで、それぞれクセと生き方があって、とても好きになれました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
そいつらを踏みにじっているようで、モリアーティの犯罪行はなんとも寂しかったけども、その拒絶が全部ではなくて。
『なんだかんだ、楽しかった』と言ってくれたことが、僕の救いにもなりました。
最後に笑顔を思い返せたからと言って、モリアーティに合いた穴が埋まらなかったこと、彼が死を撒き散らした事実もまた消えません。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
そんな怪物の仮面が、否定しよう無く裏腹に人間の顔に繋がっている不可思議を、よく切り取った作品だったと思います。
絵空事のようには上手く運ばない世界で、なかなか上手く生きられない者たちに捧げる、一つの讃歌。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
僕はこのアニメをそう受け取りました。
まぁイーストはこれ以上無いほどに絵空事の舞台なんだけども、そこで展開するバカバカしいお話も、無惨な犯罪も、確かな手触りと体温があった。
それをアニメに宿し得たことが、”落語”という題材をただのお飾りではなく、自分なり語り得た証明なのかなぁ、とも思います。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月28日
そんな足取りが、主人公の人間遍歴としっかり重なっている語り口の見事さに感心しつつ、心からの『ありがとう』と『お疲れ様』を。
いいアニメでした。本当に面白かった。