イマワノキワ

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九龍ジェネリックロマンス:第1話感想ツイートまとめ

 九龍ジェネリックロマンス 第1話を見る。

 香港に実在した東洋のカスバを舞台に、ノスタルジーが心地よく踊るラブロマンス…と思わせておいて、かなり怜悧なSFテイストがズズイと顔を出してきて、一筋縄ではいかない面白さがあるスタートだった。
 クールに見える主人公が、だからこそ静かな熱を孕んで同僚の男に恋する思いを丁寧に積み上げて、それがGenericな幻かもしれないという疑念で、一気に作品が反転するラスト。
 偽物の地球が天に浮かぶ未来で、滅びたはずの九龍城に刻み込まれているのは、祈りか呪いか。
 得体が知れぬからこそ面白い、まさに九龍城らしいサスペンスが魅力的な第一話であった。

 

 

 

 

 

 

 

画像は”九龍ジェネリックロマンス”第1話より引用

 色々言いたいことはあるんだが…とにかく工藤発がセクシー過ぎて脳髄ブチギレるかと思ったッ!
 作品全体の美術が猛烈に匂い立たせる、80Sの空気感をそのまま背負い、無遠慮で荒削りな”あの時代の男”…と思わせておいて、どこか郷愁と執着を遠い瞳の遥か彼方、静かに匂わせている魅力的な矛盾。
 ざっくり遠慮がない付き合いに見えて、「そらー令子チャンも夢中になっちゃうわ…」という優しさを要所で魅せて、しかし唇まで奪っておきながら思い出の彼方に身を引いていく。

 ず、ずるい…。
 おまけに声帯は杉田智和だッ!
 こんなん、メロメロになる以外道がないじゃないですかッ!!

 

 異様な存在感で堂々くゆらされるタバコといい、もはやレトロリバイバルな看板つけて再消費されてる調度といい、露骨に”あの時代”の味を出しているのだが、そこに漂う空気にはただただ過去を懐かしむノスタルジーだけでなく、後ろ向きの視線が持っている危うさ、ピントの合わなさも含まれている。
 見よ、令子の私室を偏執的なまでに埋め尽くす、”あの時代”への偏愛と執着。
 美術のキレが凄いことになっている事で、時を巻き戻し九龍城を舞台にするための”資格”を得ているわけだが、そこに見えているのが危うい幻であることを、令子の裸眼は語る。

 スイカを食べた後、タバコを吸いたくなるクセがどこから来たのか。
 自分の目は、工藤が好きだと語るメガネを必要としているのか、…それとも2.0の裸眼で、あるがまま世界を見るべきなのか。
 うだるような夏に閉じ込められた女の日常を切り取っているように見えて、あり得るはずもない宇宙九龍城を描く視線には、記憶と認識、愛着と寂寥が複雑に入り交じる、蜃気楼のような色合いがしっかり宿る。
 そこでただ一つ確かなのは、令子という個体が工藤にどうしようもなく惹かれていて、彼と過ごす時間がまるで夢のような輝きを、失われているはずの九龍城に生み出すという事実だ。

 

 最後に暴かれるGenericな真実の中、工藤がかつての婚約者にあまりにも似ている女を…その思い出が住まう九龍城を本当はどう思っているかは、まだまだ未知数だ。
 令子は別にかけなくてもいい…というかかければ現実が見えなくなるメガネを、工藤が己を愛してくれるかもしれないという希望の象徴として、その身に帯び続ける。
 この視界を巡る駆け引きは、猛烈なノスタルジーに縛られ変化を許されていない九龍という、場所への呪いが覆い焼きされているように思えた。
 どれだけ生活の…日常の舞台として描こうとしても、ノスタルジックでエキゾチックな異界にしかなり得ない場所に、日本人名の人たちが存在している異物感。

 それを令子たちは自覚しないし、してしまえば九龍という蜃気楼は、失われた恋と一緒にたち消えてしまうのかもしれない。
 そしてそんな危うさと偽物の気配に反して(もしくはだからこそ)、令子が工藤に向ける視線の静かな熱は、エピソード全体を強力に貫く柱として、確かな存在感を放つ。
 自分がなにかの影だったとしても、九龍に宿るノスタルジーが生み出した幻だったとしても、今たしかに胸を焼いている感情だけは、嘘ではない。
 そう思いたいからこそ、令子は工藤との触れ合いに心を強く寄せて、自分の存在を確かめようとして…近づいたからこそ、不確かな現実を思い知らされても行く。

 

 

 

 

 

 

画像は”九龍ジェネリックロマンス”第1話より引用

 窓ガラスの中の金魚、月に並ぶ人造の地球。
 なにかに不自由に閉じ込められ、反射の中にしか実像を結ばない妖しさは九龍城に幾重にも瞬き、工藤もまた令子にそんな危ういものを、何かの証として手渡す。
 罪作りな男め…マジ許さんよッ!(第一話から感情かき回されまくりマン)

 海も川もない人工的なスラムにおいて、金魚は人に飼われなければ生きていけない不自由で、脆い存在だ。
 だからこそ街の気配を色濃く宿して、その揺らめく魚影は美しい。
 令子の存在がそれをトーテムとしていることは、第1話の段階でかなり鮮明だ。

 

 令子と同じ顔の女とどんな過去があり、どんな感情を抱いているのか、軽薄で無遠慮な戯け顔の奥に魅せない工藤であるが、猛烈な引力が令子を引き寄せていることは、凄く伝わってくる。
 これは万人が認める色男とは言えない工藤に、吸い寄せられる令子の純情がしっかり画面に焼きつけられているからこそ、それに引っ張られて感じる引力なのだろう。
 そうやって自分を乗っけたくなるくらい、令子が魅力的に書けている…ということでもある。
 主役とヒロインが引力宿してかけているなら、ロマンスはその段階で”勝っている”わけで、いいスタートだなぁとつくづく思う。

 令子が何事にも動じないクールな風を装いつつ、藤井先輩の一挙手一投足に翻弄され、心を乱される塩梅がね…可愛くて良いんですよ。
 そしてかき乱すに足りる優しさを、80Sなノンデリの奥からジワッと滲ませてくる工藤の気持ちを、見ている側も知りたくなる。
 残酷な運命の被害者っぽいオーラがムンムン出ている、ピュアでかわいそうな令子に報いてくれる存在なのか、真意を確かめたくなってくるのだ。
 限られた場所、限られた命で美しく夢を泳ぐしかない金魚に、血の通った愛を返してくれる飼い主なのか、確かめねぇことにゃ、いても立ってもいられなくなるわけですよ。
 罪な男だ、工藤発…。

 

 

 

 

 

画像は”九龍ジェネリックロマンス”第1話より引用

 ボロボロで蒸し暑い(きわめて九龍らしい)部屋を、令子は白いペンキで塗りなおす。
 それは宇宙進出を成し遂げたはずの未来が宿す、時を止め巻き戻す呪いの現れだろうし、不確かな記憶を抱えた令子自身の心の延長でもあろう。
 それは令子を危うく苦しめ、そのピンチにギリギリ駆けつけるヒーローは、やはり工藤なのだ。
 そういう運命を見事に暗示しておいて、誰かと間違えて愛情いっぱいなキスの幻を、引き寄せ抱きしめもするのだから、まったく…まったく!
 ブチュチュぶっ込んだ後、どんな顔してるのか見せない演出が良かったね…泣いてたのか、笑ってたのか。

 

 令子は一人で喫茶店を訪れる時、伊達メガネをかけていない。
 工藤という存在がいないのならば、”メガネを掛けている私””工藤が懐かしむ思い出が重なる私”である必要はないのだ。
 しかし素顔の自分が一体誰で、この偽りの九龍がどんな場所なのか、2.0の裸眼で見えているわけでもない。

 廃墟の幻影が、果たして真実なのか。
 工藤と平和で静かで熱い夏を過ごす時間が、嘘ではないのか。
 確かめなければどこにも進めない所まで、令子は一話にして転がりだしてしまった。
 ずっと付かず離れず、からかわれ振り回されそれでも好きな、幸せな酩酊にまどろんでいられたら、幸せだったろうに。

 

 しかし夢は醒めるものだし、醒めなければ死と同じだ。
 お祈りのように数字をなぞり(それが”穢れ”を生み出すものなのが、極めて示唆的である)、九龍の不変なる停滞を心から望む工藤は、思い出の棺に閉じ込められている…のかもしれない。
 これを打ち破り、残酷な廃墟の真実を暴き立てて目を覚ます権利を、令子は掴み取れるのか。
 真実と出会うことが、彼女を突き動かす恋の成就と必ずしもイコールではない予感が、甘いノスタルジーに身を浸していたい僕らを、心地よく殴る。
 そこには個別の物語と痛みがあり、郷愁を跳ね除けて時は進み、Genericに写し取ろうとしても、真実は残酷に伸ばした手をすり抜けていく。

 それでも九龍という身近な異郷に、身勝手な夢と美しさを見てしまうのが僕らであり、工藤であり、もしかしたら令子(たち)なのかもしれない。
 ボコボコと煮立った真実は、閉じ込められた金魚を茹で殺して、なお溢れ出さない。
 それがどんな未来を指し示しているのか、令子が世界と己の真実を追いかける旅の中で、おそらく見えてくるのだろう。
 そこに既に失われた美しい景色が、身勝手な郷愁を押し付けられてなお眩しい夢が、寄り添ってくれることも教えてくれる、素敵な第1話だった。
 そこに人が生きた現実としてではなく、誰もが夢を押し付けた巨大な金魚鉢としての九龍を描く醜悪に、自覚的な美麗が大変良い。

 

 クローン人間やら仮想現実やら、色んな道具立てが飛び出しておかしくなSFテイストが、逆に九龍城を今、あるいは80Sからの二重重ねのノスタルジー/エキゾチズムで描くための道具立てとして、今後効いてきそうな感じもある。
 人間という存在が複製され、消失させられ、白いペンキで塗り変えられる世界なら、九龍城という場所、そこに宿った時代もまた、コピーされておかしくはない。

 そんな複製世代のロマンティシズムの奥に、どんな秘密が隠されているのか。
 令子は残酷な旅へ、踏み出さざるを得ない.
  工藤発のことを、好きだと自覚してしまったからだ。
 大変惹きつけられる世界観とドラマで、次回も楽しみです!