イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

九龍ジェネリックロマンス:第2話感想ツイートまとめ

 白紙の思い出、まとわりつく謎。
 ロマンスは次々新たな扉を開き、残酷な色合いで懐かしい…という、九龍ジェネリックロマンス第2話である。

 

 前回衝撃の鯨井B真実で引いて、工藤先輩の過去やら揺れる心やらを描いてしかし、不確かに揺らめく現状をそれでも肯定してジェネリック・テラは天球に眩い…って話になると思いきや、すげー怪しい置鮎声が出てきて、更に謎は深まっていく。
 機縁が繋いだ…というには意味深過ぎる楊明の登場で、行き場のない令子の想いを受け止めてくれる人が出てきたのはありがたいが、ある種の誘導をかけている感じもあり、彼女の謎もまた気になる。

 残酷な真実がそこかしこに眠っていそうな九龍を、しかし身近で優しく美しい場所として見せてくる、衣食住の描写がやはり良く効いている。
 バチッとキメるところは安定感ある見せ方でしっかりやり切り、ノスタルジーと生活感がある日常の描写とメリハリを付ける、岩崎監督のコンテが生きてんのかな~という感じ。
 流行りの冴え方とはちょっと味わいが違うんだが、題材にしている場所の空気感とどっしり構えた古典派の演出は噛み合ってる印象で、久々に岩崎良明の精髄を味わっている。
 やっぱこういう、体温のある日常描写、それを活かしたサスペンスの切れ味を食べれると嬉しいね。

 

 令子の健気で無垢な恋を追いかけるのが主眼な話運びの中、冷たく尖った真実の欠片が随所に混ぜられている印象で、そのメリハリも気持ちいい。
 鯨井Bのミスコピー…かもしれない記憶なき令子の恋が、いつか否定されるべき嘘っぱちというわけではなく、何にもない彼女なり唯一の本当なのだと、ちゃんと伝わるロマンティック。
 それが随所に元気で、工藤発はあまりにもセクシーで、大変ドキドキさせられる。
 32歳という設定年齢に反して、令子が相当ピュアで純情なのが仕草の全てから伝わってくるので、その恋も傷つくことなく上手くいって欲しいと願ってしまうが…漂う不穏な空気は、それを許してくれそうもない。

 つーか鯨井Bの存在が顕になったことで、工藤発が今の令子と同じく、セクシーな先輩にただドキドキしていた時代が明らかにもなった。
 惹くものと惹かれるもの、時代と立場と記憶を変えて二人が演じるロマンスは、繰り返せばこそ宿命の色を帯びて、街角の小さな記憶では収まらないスケール感を、静かに匂わせる。
 あのヤバ医者の粘ついた執着を思うと、令子の出生には九龍揺るがすデカいネタが埋まっていそうだが、恋が転がる中でそれも暴かれていくのだろう。
 その真実が、令子と工藤先輩の純情を傷つけないで欲しいと、結構本気で願っている。
 でもこの後、マジでグラグラにされるんだろうな…そういう予感、ちゃんと造ってくれるのは親切だね。

 

 

 

 

 

画像は”九龍ジェネリックロマンス”第2話より引用

 さて今回冒頭、描かれるのは時間と相手を超えての”出会い”である。
 令子は自分の寄る辺ない気持ちを預ける相手を見つけ、彼女が差し出したエッグタルトを、ジェネリックテラが見守る(監視する?)中口に運ぶ。
 工藤は思い出の中、ピアスを揺らす鯨井Bに(今の令子に工藤がそうしているように!)翻弄され、水餃子を共に食べ、屋上でジェネリックテラ無き青空を見上げる。
 この思い出と”今”の間に、どれくらいの時が流れているかは解らないが、思い出という傷を持ち得ない無垢な女と、そのカサブタで人生塞がっちゃってる男の対比は、極めて印象的だ。

 楊明が令子の人生に食い込んでいく速度は明らかに異様で、初対面の相手に告げることじゃない入り組んだ因縁をすぐさま預けてしまったことと合わせて、出会いの裏に何かがあると考えたくもなる。
 そもそもジェネリックテラが建造されていない段階から、解体を示唆されていた九龍城砦(のSF的亡霊)が、令子と工藤が触れ合うこの時間軸、どういう場所なのかも判然とはしない。
 謎ばかりが埋まって、しかし恋に満ちた日々は懐かしくも美しい。

 

 前回工藤が見せていた九龍への愛着は、鯨井Bが自分に手渡してくれた名残を反芻しているのだと、”八”のお呪いの種明かしと合わせて、回想は教えてくれた。
 令子を惹きつける、戯けた仮面に深く刻まれた影。
 それが自分と同じ顔をして、しかし確かに違う声と人生を刻まれた女の残滓であると、令子は知ってしまった。

 そんな思い出の残照にどう立ち向かえばいいのか、年不相応に純情な令子は上手く解らず、楊明が差し出してくれたエッグタルトを飲み干す。
 工藤が毎日食べる水餃子が、鯨井Bへの愛を悼む追悼/反芻であると明かされた今、そこにはどこか食べてしまえば戻れない、ヨモツヘグイの匂いが宿る。
 …ノスタルジックな80'sSFロマンスの奥に、どうも幽霊譚の香りが漂い続けているのは、すげー気になるんだよな。
 「全員死んでて亡霊」って言われても、納得する気配がある

 

 工藤は初心な令子がどれだけ探っても追いつけず、解らない謎として描かれている。
 内面を言葉にすることも、誰かに頼ることもせず、鯨井Bがいない日常に取り残されながら、剽軽でノンデリな自分を取り繕う。
 この戯けた態度は、時に見せる真摯な情熱とのギャップで令子(と僕)をメロメロにするわけだが、思い出と真意の奥へ踏み込まれないための防壁迷路としても機能している。

 知りたいけど踏み込めず、思われたいけど離れていく。
 この心地よいアンビバレントが、適切な筆致でもって描かれていることで、僕らは九龍の奥で演じられる不思議なロマンスへと、どんどん引き込まれていくのだ。
 ズルすぎよ工藤発~~。

 

 

 

 

画像は”九龍ジェネリックロマンス”第2話より引用

 令子は思い出の名残を引き寄せ、愛しの先輩を捕らえた鯨井Bのピアスを模倣する。
 その残響を目の当たりにした時、工藤がどんな顔をしていたのか…泣くほどに傷つくその刃の鋭さを、直接描かず想像させる書き方が良い。
 最初は止めようとしていた楊明が、あまりにピュアにイヤリングと戯れる令子の横顔を見て、背中を押す方向へ舵を切り直すのもまた印象的だ。
 偶然友達になった…で終わらせるには、楊明は令子の顔を良く見すぎているし、彼女の決断に影響を与えすぎているように思う。
 親友との出会いなんてそんなもんかもしれないが、やっぱ気になるなぁ…。

 鯨井Bというシャドウが、記憶無き令子唯一の祈りである先輩との恋路にちらつく現状、フツーの話なら「自分に似た誰かなんて関係ない、在るがままの自分を信じて!」みたいな現状肯定が”正解”になると思う。
 鯨井Bのマネごと(しかし身体に傷を残すピアッシングは出来ない)で先輩の気を引く痛みに耐えかねて、扮装道具を棺に葬る仕草には、確かにそういう匂いもある。
 しかしSF世界に再生されたジェネリック九龍…そこに漂う80'sの香りを馥郁と吸い込まさせて貰った後だと、何かが終わってしまった後の現実をひたすらに認め続ける在り方が、作品の”正解”なのかは疑問が残る。
 というか、それじゃつまんないだろ!

 

 私に似ていながら私ではない、イヤリングではなくピアスを付ける鯨井B。
 彼女は工藤先輩がピュアッピュアのど新人だった時代を知っていて、心を奪って未だに閉じ込めている。
 黒い亡霊のように令子にまとわりつく思い出は、しかし令子にとって工藤先輩がかけがえない存在であるのと、全く同じ手触りで愛しく眩しい。
 ただ否定し殺してしまっては、令子が好きになった工藤の明暗もまた、嘘になっていってしまう。
 でも真似をして”鯨井B”になろうとしても、工藤先輩は自分の方を向いてくれない。
 まぁ令子が令子であっても、工藤先輩はそこに鯨井Bの影を見続けるわけだが…。

 アイデンティティを支えるには余りに頼りない、白紙の記憶も相まって、令子は自分がどんな存在であり、何をしたいのか惑い続けている。
 このあやふやなあり方は、ノスタルジーに満ちた美しい日常を延々繰り返しているように見えて、確かに生きて未来へ進もうとする人たちがそこに生きている、ジェネリック九龍の景色とも重なる。
 というかこの九龍の妖精(あるいは亡霊?)として、作品のエッセンスを結晶化出来る存在だからこそ、令子が主役になってるんだろうけど。
 ミステリの舞台とその主役が、ゆらゆら不安定に揺らめく振幅が、しっかり重なっていることが、この謎めいた物語に確かな芯を与えている印象だ。

 

 

 

 

 

画像は”九龍ジェネリックロマンス”第2話より引用

 まぁ言うたかて、令子ちゃんは超絶ピュアピュア先輩LOVE存在のまま、不確かに揺れ続けているわけだがな…。
 雨の中の仲直りは、三十路という設定年齢が嘘のように余りに純情で、繋ぎ止められた腕に籠もる熱もこっちに伝わろうってもんよ!
 水餃子の呪いを工藤にかけた鯨井Bに、レモン唐揚げで必死に抵抗する令子の健気も大変可愛らしいが、果たしてそれで勝てるのか。
 「共に何かを食べ、昨日を明日に変えていく」という行為自体が、この九龍でどれだけの有効性を保っているか、イマイチ解んないんだよな…。
 そういう行為が意味を持つのは、生者だけでしょ。

 工藤が令子に向ける真摯な情熱が、令子という今目の前にいる存在に投げかけられているのか、彼女と同じ顔をして今いない誰かにムケられているのか。
 令子は前者だと思いたくて、”工藤先輩が見てくれる自分”が正解なのだと、恋に浮かれたまま身を預ける。
 しかし滲み出す工藤の思い出を見るだに、確実に後者の視線が色濃く工藤を縛ってはいる。
 ここで「昔の女ばっか追いかけてカスがよー!」となれたら楽なのだが、工藤が工藤なり鯨井Bのいない九龍を見つめ、目の前にある変質してしまった誰かの”今”を大事にしてくれてる気配も、確かにあるんだよな…。
 この解らなさがヒキになって、九龍の奥へ俺をいざなう…。

 

 やっぱ令子がすげーピュアに、切実に工藤先輩を思い、その恋だけを頼りに記憶のない不確かさを生き延びようとしている姿が、上手く描かれているからこんだけのめり込むんだと思う。
 鯨井Bがなぜ消失したのかは未だ謎だが、存在が消えたとしても工藤との絆が名残続けるからこそ、令子は工藤にここまで見せられるのか。
 彼女の思いもまた、オリジナルからの借り物でしかないのか。

 そんな鏡像のゆらめきは、僕らの”現実”においては既に解体済みの九龍城砦とあの時代の、エキゾチックで魅力的(だと、外野が判断し消費する)部分を煮詰めた舞台とも、強く共鳴する。
 一体、この九龍はどんな場所なのか。

 

 

 

 

画像は”九龍ジェネリックロマンス”第2話より引用

 そんな問いかけを深く掘り下げてくれそうな、おっきー声の蛇男が美容クリニックに襲来ッ!
 ギラつく眼鏡、真紅のリップ、これみよがしな蛇革シューズ。
 全てが魅力的なヤバさを放っており、大変良いヒキでした。
 サスペンスはやっぱ、最後に強いヒキ作れるかが大事だからな…ここまで二話、冴えたパンチをしっかり叩き込んでくれているのは、とても嬉しい。

 

 工藤先輩が令子の奥に鯨井Bの影を見続けているのに対し、蛇沼院長は誰かのコピーでしかない令子の”今”を、ヤバい角度ながら見ている印象だ。
 鯨井Bの遺品であるリップを、剥ぎ取って自分に写し取る仕草。
 それはデリカシーのない態度の奥、極めてまっすぐに誠実に令子(に重なった鯨井Bの思い出?)を見つめてくる、工藤とは真逆の軽薄に思える。
 しかしそんな優しい先輩は、リップを剥ぎ取りイヤリングを外した素裸の令子を見てくれない…かもしれないわけで、記憶なくシワに歴史もない令子自体を、味わい見つめる蛇沼院長の存在は、自分の中で結構好印象だ。

 同時に大蛇を肌にまとわりつかせるような生理的嫌悪を通じて、おんなじ様に触ってくる工藤先輩が令子の中でどんだけ特別な存在なのか、対比することで際立たせる場面でもあったか。
 まーこの執着も、記憶がないコピーだろうが飯食って恋をする令子自身ではなく、彼女がなにかのコピーであるという事実そのものに、向いてんのかもしれないけど。
 だーれにも揺らぐ魂それ自体を見てもらえなくて、令子ちゃん可哀想ね…。

 

 そんな自分を大事にしたくても、己の足場である記憶がないという不安定が根っこにあるのが、なかなか難しいところである。
 そんな令子が唯一、現世に己をつなぎとめるアンカーに選んだ先輩も、愛した女が大事にしていたものを反芻し、幻視し、再生することでギリギリ生きてる状況だしなぁ…。
 それでも新しい友達に出会い、教えてもらったレモン唐揚げが美味しいことを認めあう姿に、確かな希望を感じもする。
 不確かで朧気な嘘でこっちの不安を煽りつつも、九龍に宿る色んな良さで二人の”今”を彩って、それは嘘であって欲しくないという願いを見るものに掻き立てて揺さぶってくるの、マジ巧いなぁと思います。

 この語り口は、宇宙にぽつんと再生されたジェネリック九龍が好ましい場所だと思えなきゃ成立しないわけで、凝りに凝った美術がしっかり、ドラマを加速させている手応えが嬉しい。
 そして麗しいノスタルジーに溺れきらさない、何かが確かに終わっているという冷たいメッセージも、作品にしっかり埋め込まれている。
 これもエキゾティズムで九龍という実在を消費しきらないために、とても大事な態度だと思う。

 

 令子と工藤がすれ違い触れ合う九龍は生者が恋する舞台か、思い出の墓標か。
 恋の行方と世界の謎が複雑に絡み合いながら、純情は熱く燃えていく。
 この真っ直ぐなロマンス自体が、懐かしくも美しい色を帯びていて、選び取ったテーマと舞台にしっかり重なっているの、本当に凄いなぁと思います。
 次回も楽しみ!