イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

しゃばけ:第2話『ものうい』感想ツイートまとめ

 江戸の日差しはひねもす暖かけれど、人の世に常に陰りあり。
 焦ることなく謎の種を蒔く、しゃばけ第2話である。

 

 一気に事件の核心に駆け込む早足ではなく、じっくりと謎の輪郭を撫でるように話は進んでいく。
 恵まれているからこその若旦那の懊悩、未だ全容が見えない凄惨な殺し。
 ゆったり明るいようでいて、じっとり暗い部分もある作品世界の空気を、たっぷり吸ってもらおうというのがやはりこのお話の心配りのようで、非常に丁寧に物語が転がっていく。
 そうやって隙間多めに作った作風が、独自の余裕と風格を宿して肌に心地よく、なかなかに贅沢な視聴体験をさせてもらっている。

 やっぱここら辺のゆったり感は、皆に愛され生活に困らない大店の御曹司が主役だからこそって感じを、岡っ引きの親分との会話シーンで感じたりした。
 袖の下を握るのも当然、日々の暮らしに汲々とする町衆の喋りや座り方はどうにも生き急いでいる感じがあって、汗の匂いが全くしない若旦那の清潔さとは大きく違う。
 そういう生臭さを遠ざけ、乳母日傘で生きてこれたからこそ、何もしなくても生きてるだけで丸儲けと周りが持ち上げてくれて、それが居心地の悪さを生む。
 このいかんともしがたい難しさを、あやかし達と共にじっくり解していくのが、作品全体のムードなのかな、と思う。
 かなり変則的な角度のジュブナイルだ。

 

 おつき二人の脅しが効いて、夜道に行き合っちまった凶刃が自分に届くか届かないか、ひんやり悍ましくてちと自分から遠いサスペンスが、主役の周りをたゆたっている感じだが。
 下手人の素性、首切りの謎が明らかになってくると、これが真に迫った危うさに変わってきて、お話全体の温度も上がっていく…のかなぁ?

 俺は若旦那が纏う上品な余裕、それが漏れ出して物語全体が焦らず転がっている様子がかなり好きなので、そういう塩梅を大事にしてほしい気持ちはある。
 同時に大店のボンがぼんやり生きる難しさと行き合ってるだけじゃ、ちとスパイスが足りないって感覚もある。
 ここら辺の調整は、なかなか難しそうだ。

 

 

 

 

 

 

画像は”しゃばけ”第2話より引用

 柔らかく温かな空気に作品全体を包みつつ、しっとり怪しい影が随所に見えてもいて、どっちが世界のほんとうなのか、ジリジリ怪しむような仕掛けも巧かった。
 素性を知られまいと消した提灯に、ぼうとオレンジの燈火を宿して闇を払うシーンの雰囲気は、文明の光が何もかもを明らかにせず、橋向こうの闇が濃かった時代を丁寧に描こうとする、この作品だからこその良さだ。

 徳川様の御威光で戦乱の空気は遥か遠く、商売が盛んで皆が潤ってる豊かさに昼が満ちつつ、未だ夜闇には目が行き届かぬ部分が残る頃合い。
 だからこそ、人ならざるものが若旦那の隣りにいてもしっくりハマる。

 

 ざわざわ妖怪の噂話も騒がしい神秘の領分を外れても、人は勝手に秘密の影を作る。
 若旦那が手焙りに燃やす文、岡っ引きに手渡される袖の下、闇の中に赤く光る白刃。
 平穏な日常の中、ゴリッとした異物感を主張しながら描かれる陰りはどれも人間由来で、八百八町に凝る業こそが妖怪よりも恐ろしいのだと、静かに告げてくる。
 この上品なクスグリが、今後お話が転がっていく中でどう発火するかは、とても楽しみだ。
 そこで炸裂するだろう人間の浅ましさを、人の理から外れて純朴なあやかしたちがどう評価するかで、作品の軸が一つ見える気がするんだよなぁ…。
 家鳴を筆頭に、このお話の妖怪たちはみんなピュアで可愛いね…。

 そらまぁ、異界を身近に感じ取れる若旦那に好意的な連中ばかりが、今ん所画面に写っているからそういう雰囲気…て話なんだろうけども。
 ここら辺、提灯吹き消した闇の底で出会った殺人事件の真実に、引き寄れせられ踏み入っていくなかで、荒々しい怪物と出会う展開にもなっていく感じか?
 はたまたそこから見えてくるのはあくまで人の業であり、隣り合いつつ混ざりきらない人外どもは、定命の浅ましさからあくまで遠い清浄境に立つのか。
 ここら辺の距離感をゆったり探っていくのも、このお話と付き合う上で結構楽しい部分かもしれない。
 若旦那のニンが綺麗なんで、あんま人間のどす黒い部分は表に絞り出されんのよな…。

 

 まぁその落ち着いて清らかな空気感が、作品最大のウリだと強く感じられる第2話でもあり、とても楽しく見てられた。
 栄吉との会話でもって、若旦那にも恵まれているなりの苦悩が確かにあって、ツルッとした白紙の子供として日々を生きてるわけじゃないと見えてきたけども、それもまた周りに愛され、それを返したいと願う心ゆえだ。

 そんな彼が巻き込まれた、人間性の汚濁と狂気を感じさせる血みどろの事件。
 一見正反対に見える清濁が、どういう繋がりで絡み合っていくかは、まだまだ謎のままである。
 これを噛みしめるのにたっぷり時間をくれるの、ミステリアニメとしてはかなり異質な語り口で面白い。

 ていうことは性急な謎解きはあくまで作品の味の一つでしかなく、そういうのも全部ひっくるめた若旦那の江戸暮らしそれ自体を、馥郁と吸い込んでおくんなまし! つうアニメなのだろう。
 良いねそういうの…忙しい昨今、なかなか珍しい趣向でありがたいよ。

 

 ある意味、変速型の”日常系”でもあるこの物語。
 過保護なイケメンから可愛いマスコットまで、作品を彩るキャラの削り出し方もとても良くて、落ち着いて楽しめるのがありがたいです。

 やっぱ若旦那のニンが作品全体に広がって、上品な良さを醸し出しとる話よな。
 そこに入り混じる、血の色闇の黒の怪しさをどう料理していくのか。
 次回も楽しみです。

 

 

・追記 山靜似太古、日長如小年(唐庚「酔眠」)