メダリスト 第14話を見る。
時代という風が背中に強く吹き付けた結果、二期どころかその先の劇場版まで決定してしまったフィギュアスポ根アニメの新たな金字塔。
上がりに上がったハードルをしっかり飛び越え、運命の中部ブロック大会に期待が持てる滑り出しとなった。
滑走シーンは次回以降として、全国レベルで戦える選手になったいのりちゃんの現在地と、そこにたどり着いたことで変わった司先生…を見つめる耕一さんを、このアニメらしい丁寧な筆先で描いてくれて嬉しい。
真摯に誠実に競技に向き合う選手たち、それを支える人たちそれぞれが、それぞれの物語の主役であることを改めて思い知らされる、ここからのお話。
それを描く上でとても大事な、どっしり腰を落とし強い熱を宿した姿勢が、新たなスタートに鮮明な回だったと思う。
これが主役よりコーチ側・大人側から始まっていくのが、凄くこのお話らしいね。

伝説級のスマッシュヒットとなった”BOW AND ARROW”を継いでのOPは、ちょっとアイドルアニメっぽい味わいもある、みんなが可愛く眩しい素敵な仕上がりだった。
こっちの華やかさとEDの日常スケッチが、相補って作品世界を良く伝えていたのはとてもいいなと思う。
僕はOPラストカットが、みんなが氷上に刻んだ軌跡の花なのがとても好きだ。
それはスケーティングを大事にする司先生のコーチングを、しっかり汲んだ表現をアニメの顔に選んでると感じるし、何かとジャンプに目を奪われがちな(OPにもそういう表現は多々ある)フィギュアが、「軌跡を描く」アートであることを原典にしている意識が刻まれていたと思う。
ここから色んな選手が勝負に挑み、勝ったり負けたりする。
その結果を受けて色んな色が宿った涙を流し、転んで立ち上がり華麗に高く飛ぶ。
そんなそれぞれの飛翔と滑走に、全部意味があるのだと描くのがこのお話だし、その色合いはもしかしたら、こっからの中部ブロック大会(つうか次回)が一番濃いかなと思ったりもする。
そういう物語を描く作品の出だしが、皆が競い合った後栄光の証として演じられる、エキシビションの光景を先取りしているのは華やかかつ爽やかでとてもいいし、そういう場所にたどり着いたあの子たちが氷上に刻んだ傷跡が、美しい花になるのはとてもいい。(歌ってるのもHANAさんだし)




そんな心地よいスタートから、物語は王者不在の中部ブロック大会前日を描いていく。
相変わらずどっかズレた力み方で、縁遠かった競技トップレベルの世界に飛び込み、こえーお姉さんに顎グイされたり、常時カメラが狙ってる環境が当たり前のオリンピアンに、メダリストを目指す心意気を間近に見せてもらったりしていた。
運命のライバルは一人孤高のオーラ撒き散らし、夜鷹コーチとの運命の出会いを描かれる隣で、かなりズレた明浦路解釈で緊張を乗り切ろうとしている主役…コメディの強さも相変わらずだなッ!
この後描かれるように、司先生はめっちゃ繊細で冷えた部分をもっているわけだが、それを極力見せないように教え子に向き合ってるし、大人の難しさを全部飲み干すにはいのりちゃんはまだ幼いしで、頑張って見せてるイメージを過剰に膨らませた感じにはなるんだと思う。
でも「やべっ!」ていう状況でロールモデルにするの、最上級の敬愛以外の何物でもないよね…。
アニメになって見ると、夜鷹純の非人間的なまでの孤高が少し揺らいで、物言わぬ理解しにくさの奥から微かに、”人間”が匂っている感じもある。
雪の海辺で黄昏れる姿、光ちゃんとの出会いに運命を感じる回想。
どれも「コイツこっちが思ってるより、教え子のこと大事だな…」って感覚を受ける。
でもこれはアニメになってない物語において、一人間としての立ち姿を削り出された狼嵜光を僕が既に見てしまっているから、浮かび上がる蜃気楼かもしれない。
しかしやっぱ、司先生といのりちゃんの間にある絆とは別の…しかし根っこが同じモノが、間違いなく二人を繋いでる感じはするねぇ…。
緊張のあまり思わぬ無礼ぶっ放したいのりちゃんを、気になった相手に牙を突き立てることしか知らない女が噛みつきに行くわけだが、そういうゴタゴタを踏まえた上で、極めて堂々と他人の視線、世間の視線を飲み干す理依奈ちゃんが、メチャクチャ立派だった。
訳分かんねーまま徒手空拳で暴れ回ってるいのりちゃんに比べて、理依奈ちゃんはこの部屋に入った瞬間から(多分その前から)、自分が競技や国家を背負う存在である強い自覚で、自分を鎧っている。
その姿勢が生み出す受け答えや表情は、こっから進むキャリアに恥じない堂々としたもので、誰もが憧れたくなるオリンピアンの顔をちゃんと作っていた。




こういう先輩の生き方を、直接肌で感じ目で見る距離にまで自分を持ってきたいのりちゃんは、夕凪ちゃんもドン引きの熱量でメダリストへの決意を語り、その瞳は異様な力に満ちている。
もともと誰かを見つめる誰かの視線を、丁寧に追いかけ信条の変化を描く作品ではあるんだけども、今回は特にそういう演出が鋭かった。
偶然助けた女の子が、自分の大事な人の人生を変えた存在であると気づいた時、耕平さんが膝を曲げていのりちゃんを見つめる視線とか、とても良い。
ここで真っ直ぐその顔を見つめられるのが、普段は戯けてばっかのオモシロおじさんの根源だわな…。
光ちゃん曰く「ちょっとおかしいから強い」いのりちゃんは、フィギュアエリートの常識を全てぶっちぎり、常識はずれのスピードで競技のてっぺんに指先が届く所まで、自分を押し上げてきた。
同時にその原典は何も出来ない惨めさに涙し、ズレた感性を家族のフォローしてもらって、ようやく人生を歩けてるズッコケ少女だ。
この熱とトボケが初手から元気な二期だが、理依奈ちゃんを日本全部が見つめているように、いのりちゃんという存在もまた色んな人に見つめられ、判断される。
暗く冷たく、何もかもが上手く繋がれない場所から抜け出してみたら、繋がりの糸が気付かぬまま張り巡らされてる場所に、確かに身を置いている。




そこは「出来ないやつ」と突き放される怖さだけでなく、繋がりを理不尽に断ち切られる辛さだけでなく、そこから立ち上がりもう一度進み出す…その姿に、隣り合う誰かが新たなスタートを決意できる、再出発の連鎖に満ちてもいる。
俺は加護家サーガが好きなので、アニメはかなり分厚く描いてくれてありがたい限りなんですが。
芽衣子さんという大きな柱を喪った虚無に、明るい態度の奥でずーっと引きずられてきた耕平さんが、どんだけ同じく現世に取り残された司くんをちゃんと見てきて、その奮起から受け取るべきものを掴み取っていたか、しっかり書いてくれて嬉しい。
羊ちゃんと共に、妻のいない世界を生き延びていく定めに押しつぶされず、冗談と身勝手を明るく突き出し、話のメインテーマとあんま関係ない所で、共通する強度を宿して自分の物語を生きてきた、一人の男。
司先生が押しつぶされそうになった挫折と理不尽は、空っぽになってしまった病室から遺品を引き上げた耕平さんだって、もちろん背負ってきた。
それでもヘラヘラ笑ってきた男は、でもその喪失から進み出すつもりにはなれなくて、いのりちゃんとの出会いによって一足先に未来へ進みだした司くんに手を引かれて、この晴れ舞台に足を運んだ。
羊ちゃんと一緒に、輝きの証明をここで見届けようという気持ちになったのだ。
司くんがここで泣くのは、自分が迷いつつ突き進んできた第二の道が、一人間にそういう決意を抱かせる眩しさを宿していることを、改めて突きつけられたからだと思う。
これが大会の結果が出た後ではなく、全てが動き出す前なのが、俺はとても好きだ。
耕平さんが妻を喪った虚無から生き直してもいいと思えたのは、勝敗の熱でも競技の火花でもなく、そこにたどり着く資格を愛弟子に与えるべく、本気で魂を燃やしている同居人の日常を、間近で見たからだ。
司くんがいのりちゃんのため自分のため…そして芽衣子さんのために、身勝手に誠実にコーチ業に向き合ってる、その眩しさを見届けたからだ。
「息してるだけで偉い」ってわけじゃないけど、そういう影響の受け方は勝ってようが負けようが関係なく、唯ひたむきである事に支えられている。
そういう不思議な引力を自分に取り戻させてくれたいのりちゃんの試技こそが、真実自分が何をしてきたかの証になると、司くんが恩人に告げて勝負が始まる。
二期第一話にして人生の宿題には一つの答えが出たが、描きたいものに貪欲なこの物語はそんな所で止まりはしない。
カメラに映らない何処かで、同じ質量の物語を輝かせ背負った戦士たちが、どう飛びどう転ぶのか。
転んでなお、どう立ち上がるかを描くことで、僕らもその不屈と再生を目撃していく。
氷の闘技場が本格的に姿を表す前に、そこにどういう光が瞬くかを描く、二期第一話でした。
大変良かったです。
こっから九話、第一部ラスト直前までをTVシリーズでやり、怒涛の最終決戦を映画でやる流れだと思いますが、そういう大きなスポ根的うねりと同じくらい、俺はこのお話が切り取る、厳しくも靭やかな人生たちの描写が好きで。
耕平さんにフォーカスすることで、このお話が何を描くのか、力強く宣誓して新たなスタートを切れたと思います。
3Dモデルも一新され、「ENGIくん立派になって…」って感じであるが、さて肝心の演技描写がどんなものか。
次回、しっかり見届けたいと思います。
ニ期、とっても良くってありがたい