イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うしおととら:第21話『四人目のキリオ』感想

なんてことない毎日がかけがえないの系伝奇アクションアニメ、カレンダーガールな第21話はキリオ登場。
戦士にとって休息はつかの間のものですが、日常の暖かさを確かめたのもつかの間、危険な少年と暗い陰謀が蠢きだし、潮はまた戦場に赴き傷つくのでした、という展開。
過去編のジエメイ母もそうなんだが、潮が母性を感じた女は手の届く範囲で、けして守れないまま死んでいくな……母の顔も知らない中学生にぶっかけるにしては、運命の波は苦すぎる。

北海道に行ったり獣に落ちかけたり過去に飛んだり、いろいろ忙しかった潮が日常に戻ってくる序盤。
一度失いかけたからこそその価値に気付く描写がしっかり入ったのは、少年の成長を如実に見せていて好きなシーンです。
この思い出と温もりがあればこそ、潮少年は傷だらけで戦えるわけですが、同時にこれまでの超常の戦いが教えているのは、その足場が如何に脆いかということ。
いかにも妖しげな予感を込めたキリオの登場シーンは、いかにも不気味で恐ろしく、スパっと暖かい時間を断ち切る意味でも印象的な良いシーンだと思います。

槍と絆を深めたことが逆に慢心に繋がり、くらぎ戦での不覚を呼び込んでいるのは、直前のエピソードの正の側面だけを取り上げない、シビアな姿勢。
油断も隙もない完璧なソルジャーに仕上げちゃうと、成長の余地もなくなっちゃうし、『お役目様が目の前で死ぬ』という負けブックを素直に飲ませるためにも、ここは潮にヘマしてもらわないといけんのだ。
とらちゃんがいるとピンチにならないので、くらぎとの因縁を作りつつ物理的な距離を広げるのは、うしとららしい『お話しの都合』の作り方だ。
こういう細かいところ怠けないことが、狙った方向にお話が流れていっても『まぁやるだけやったししょうがねぇ……哀しいけど』という気持ちに繋がり、作品を肯定したくなる感情を生むわけだ。

お役目様は対になる凶羅の存在自体が抹消されたので、いまいちパンチに欠けるかと思ったが戦闘シーンの描写が迫力があり、ラストでぐっと存在感を増した印象。
裁縫の下りで『超異能者の妖怪ババァだけど、あの人も人間の血が流れてんだなぁ』という気持ちにさせていること、この実感が序盤で描かれた潮の日常とリンクしていることなど、色々巧かった。
お役目様に咲かれている描写は案外少ないのだけれども、潮の受け止め方が良いのもあって、スイっと心に入ってそれが抜け落ち、痛む。
その痛覚こそが彼女を死に追いやった陰謀と敵への怒りに変わり、『潮ー! どうにかしてくれー!!』という共感に繋がる。

どーでもいい奴がどーでもよく死ぬより、どうでも良くない人が痛ましく死ぬほうが見てる奴は気に留めるという真実を、やっぱりうしとらはよく解っている。
そして、死ぬものもただ消えるのではなく、思いや願いを残しそれが報われる形で死んでいったほうが、物語を受け止める側は気持ちが良いということも。
とは言うものの、やっぱお役目様の遺言は大暴れツンデレ凶羅くんがいてこそ映えるものであり、尺の厳しさを実感せざるを得ない……伝承者出して代理の仕事させたり、フォローは細かいんだけどね。


そして印象的な登場となったエピソード・ゲスト、引狭キリオ。
キリオの魅力であるふわっとした異質感、妖怪殺しの人形ゆえの残忍な無垢さみたいのは巧く演出できており、原作のエッセンスを咀嚼しアニメの言語に翻訳し直す手腕は、やっぱこのアニメすごいなと思う。
彼が斗和子の操り人形であり、危険で邪悪な存在に踊らされているというのを最初と最後、非常にショッキングな絵で持ってきたのは、今後の話を飲み込ませる上で凄く有効な手だと思います。
槍VS鎌、和風妖怪VS洋風妖怪というヴィジュアルから見て分かる通り、キリオは潮のシャドウではあっても敵ではない。
精神的にも物語立場的にもふわっとして危うい彼のイメージ、今後の立ち回りを分かりやすく伝え、絵で分からせるようシーンを工夫してきたのはエピソード頭のお話として良かったなぁ。

量産可能なエルザーレの鎌という力、獣の槍も叶わなかったくらぎを倒した英雄、お役目様の不在。
長編エピソードのど頭らしく、今回は今後の展開を元気にするためを、どんどんばら撒く展開である。
妖しげな予兆は的確に回収され、潮が大変なことになる未来を既読者である自分は知ってしまっているわけだけど、そういう立場から見ても『なんか凄い酷いことが起きそう。それを潮が打ち破ってくれそう』と思えるこのエピソードの種の巻き方は、やっぱり良い。
やっぱキリオが持ってる透明感が図抜けていて、これから先のお話についつい期待してしまう魔力があるのだな。

そんなわけで、戦士の故郷を確認しつつ新たな試練が待ち受ける、ロング・エピソード第一話となりました。
過去編で見せた演出の冴えはキリオ&斗和子にも及んでいて、早足の展開ながら満足感があり、この後起こるアレやソレにも期待が膨らみます。
2クールを折り返しても勢いが死なないうしとら、やっぱ良いアニメだな。