人の領域と妖の領域がせめぎあうクリーチャーホラーもついに最終回、まさかまさかの最終章となりました。
半分ネタ、半分希望で先週言ってた『次回作はアルティメット番場先生のスタイリッシュアクション』が現実となり、異常な興奮を覚えつつ大満足なお話でした。
『怪物を見過ぎたものは、怪物になってしまう』という、怪異譚の基本にも忠実な終わり方でして、短い時間に色んなモノがみっしりと詰まった、良いアニメだったホント……。
影鰐人間爆誕の衝撃で忘れがちですが、このアニメはホラーでサスペンス。
最終話を引っ張る謎と恐怖は番場先生の生死……ではなく、奇獣と一体化した番場先生が人間の意志を保てるか、否かにあります。
クリーチャーに物理的に勝つのではなく、価値観的に勝利出来るかどうかをラストのフックに持ってくるのは、一番大事なものをちゃんと最後に持ってきた感じが強く出ています。
ベラベラしゃべくる木村の顔にだんだん浮かんでくる死相の見せ方とか、ジワジワした演出がうまいのもいつもどおり。
思い返せばこの話は、だんだん人間の領域に近寄ってくる奇獣を、時に倒し時に追い返し、時に乗っ取られたりしながら、命がけの交流を行うお話でした。
つまり奇獣と人間の距離感のお話であり、その語り部が奇獣と一体化することにはテーマ的な必然性があります。
その上で番場先生が『プレゼント』を持った少年を殺さなかったこと、奇獣ハンターが番場先生を見逃したことは、木村達が失ってしまった人間性の最終的な勝利といえるわけで、非常に気持ちが良い終わり方でした。
こういうテーマの捌き方がしっかりしていて、かつ血沸き肉踊る興奮と一体化していることは、とても素晴らしい。
そして主人公補正に一応のロジックが付き、それが無くなった後強烈な主人公力を獲得して物語を終わらせた番場先生がスゲェ。
『番場先生は影鰐人間なので、他の人間のようには死なない』という理屈はこれまでの(短い!)物語の中でちゃんと説明されていたものであり、こういう細かいロジックの積み重ねをサボらなかったことは、ショートアニメを積み上げる形式の中でも一つの大河性を維持出来る、大事なポイントだと思います。
最後の最後でダークサイドヒーローアクションにジャンルが切り替わるダイナミズムも良いし、ワリとぼーっとしてた語り部系主人公が『悪魔の力で悪魔を殺す』アウトサイダーに変化する気持ちよさやばい。
木村と看護婦さんをぶっ殺したのは……もう番場先生は奇獣の領域、追われる側に足を踏み入れ、帰れないことを見せるためには必要なシーンだな。
木村放っておくと超ろくでもない研究続けるし、恋人と自分の仇だしな、思い返すと。
番場先生のスーパースタイリッシュ奇獣狩りが映像で見たい気持ちもあるんですが、影鰐がここまでフレッシュな魅力を放っていたのはやはり、ホラーという題材あって事な気もします。
過去の名作をよく研究した『ホラーの美味しいところ詰め合わせ』な映像の魅力、短い時間にロジックを積み重ねられる奇獣の能力、犠牲者の生死や倫理をエッジに乗せることで生まれるサスペンス。
短編アニメというメディアの利点を最大限に活かした影鰐が、アクションものとして機能するかどうかは、正直解らないのです。
これだけの実力を見せてくれたスタッフなので、見せ方が変わっても面白いとは思うけど……番外編で番場先生が思う存分影鰐力を振り回すアクション回、無いですかね。
というわけで、ショートアニメの雄は見事に走りきりました。
挑戦的な題材を毎回魅力的に演出し、オムニバスな内容を楽しめる多彩さを持ったアニメでした。
同時に終盤怒涛の取りまとめが有効に機能し、バラバラだった物語が一つにまとまっていく気持ちよさもしっかりとあって、短編の楽しさと長編の楽しさ、相矛盾するそれを両立したのは本当に凄い。
クリーチャーのアイデア、恐怖の見せ方、解決の(もしくは解決できなかったことの)カタルシスなど、お話しの武器もたくさんあった。(毎回いいタイミングで流れるArrival of Fearもな!)
影鰐、良いアニメだったし凄いアニメだった。
ありがとうございました。