イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

灰と幻想のグリムガル:第3話『ゴブリン袋には俺たちの夢がつまっているか』感想

ヒューマノイドを不意打ちして殺して日々の糧を手に入れる限界状況職業ドキュメンタリー、第3話目も死人は出ませんでした! ゴブリンは沢山死にました!!
先週『面白いけど、そろそろなんか起きろ(要約)』と偉そうに描きましたが、今回の話しを見ていて大体のペースト感覚がつかめたような、そんな感じの小さな一歩でした。
飯作ってパンツ洗って女の子にドキドキして、亞人殺しにも慣れ廃都探索にやりがいを感じ、銭を稼いでパンツを買い直す。
『殺し』の質感変化含め、異世界にぶっ飛ばされたダメ人間達の足取りを、でんぐり返しで見ていくアニメなんだな。
でんぐり返しなので歩いたり走ったり宇宙船でかっ飛んだりする他のアニメよりもゆっくり進むけど、でんぐり返しだからこそ見える景色もあって、それを切り取りたいからでんぐり返ってる。
多分そういう、ヘンテコで面白いアニメなのだと、僕は理解しました。


今週のお話に満足感があったのは、1話2話で丁寧にフェティッシュに描写されていた『何も出来ない僕達』が小さく、しかし確かに前進して、『何も出来ない』というストレスの貯まる描写に構成的な意味が生まれてきたからだと思います。
初めての亞人殺しはドタバタと不格好なもので、話の半分かけてメンタルを取り戻さなきゃいけないほどショッキングな出来事だった。
でも『殺し』にすら人間慣れて上手くなっていくもので、寝込みを襲い、単独行動の相手を的にかける『知恵』が付いてきた今回の戦闘描写は、彼らが確かに一歩前進したのだと教えてくれました。
その先に碌でもないガケがあるのか、それとも一般的な物語のように一歩ずつの階段があるのか探りたくなる用心も、異世界を徹底的に掘り下げて描写するフェティッシュな描き方があればこそ生み出される感覚なのでしょう。
人生のあらゆる出来事と同じく、それがいい子とか悪いことなのかはさておき事態は転がっていくものであり、異世界でも同じように起こる変化をスローモーションで捉えた今回の描写には、凄くヘンテコな満足感と安心感を覚えました。
そしてこの変化への満足は、1話2話で丁寧に『静止した状態』を描いたからこそ感じ取れる小さな動きなわけで、動きがないんじゃなくて小さいお話なのだという方針を、第3話でようやく感じ取れたように思います。

気合い入りすぎたアバンの料理描写を見ても、『今まさに、ここではない場所で生きている、僕達に似た人』を体温込みで伝えたいんだ! という意欲はミシッと伝わってきます。
同時に非常に美麗な美術はこの世のものとは思えなくて、正しくファンタジーな浮遊感と、地道でウロウロ同じ場所を歩きまわるリアリティが、ヘンテコに同居している。
この『浮かんでいるんだけど、地面に足がついている』という非常に独特な視聴感覚をこそ狙って、話のペースであるとか、描写の力の入れどころとかが決められているのでしょう。

義勇兵見習いたちの成長はすごく地味で、パンツ買い換えたり、ラーメン食ったり、前回は言われるままに買っていた異世界の商品を値切ってみたり、彼らの歩みは生活臭溢れる牛歩です。
それを丁寧に、時に苛立たしさすら感じるほどクローズアップでスローに描くことで、妙な体温というか親しみが、今回確かに生まれているように感じました。
やっぱ視聴者との共通点である衣食住や性欲を、生臭くならない程度に料理してお出しすると、異世界の中のリアリティはじわっと染み出てくる感じがする。

彼らはただ動物として活きているわけではなく、社会的承認を求めて動いています。
記憶も社会的立場もあやふやな異界ですら、自分が何かできるという感触を探して料理を作り、ゴブリンを殺す。
社会的承認の一つの形が金銭なのであり、同時に動物的欲求を満たすために必要な対価でもある以上、ゴブリン袋には確かに『俺たちの夢』が詰まっているのです。
『俺たちの夢』がゴブリンをぶっ殺して袋を略奪する以外で叶わない追いつめられた感じは、『ラーメン』という言葉が出てこず異世界言語に納得してしまう描写で、サラッと描かれていましたが。
ここら辺の『仕組まれた世界への気持ち悪さ』というアクを救いきらず、あくまで小さな成長を切り取ることをメインにしつつも、端っこの方でしっかり描写しているのはとても好きなポイントです。

記憶も金銭も奪われ、向いていない『殺し』を生業とさせられ、それでもいい服を着てうまい飯を食い『何者か』になりたいと願い続ける、足元のおぼつかない青年たち。
彼らの惨めで輝く日常を仮想するためにはこのペースが必要だと判断したからこそ、このアニメはこの歩幅でお話を進めているのであり、緻密な歩みで描かれたからこそ切り取れる時間感覚ってのは確かに存在するなぁと、納得させられるエピソードでした。
第2話で初めての『殺し』とそこからのリカバリーを、すっげーノロノロとやったことが、今回彼らが見せた変化の手触りについ微笑んでしまう結果を生んでいて、なかなかうまい組み立てだったと思います。


他のラノベなら『たはは』と頭をかいて終わりそうなラッキースケベも、この話では後を引きます。
雨がしとしとと降り続く中、餌のついていない釣り竿を水面に落とすような空回りの中で、重たくて面倒くさいけど、そこにしがみつくしかないパーティーの空気がよく漂っていました。
ここがシットリしているからこそ、廃都でのゴブリン『殺し』の達成感(と裏腹な、『俺たち、これ見て喜んで良いのかな?』という疑問と罪悪感)が生まれてくるわけで、ここも組み立てが良い。

若い男女が同じ屋根の下で暮らしているわけで、性の問題もまぁ迫ってくるわけですが、割りきって悪人やれるほど優秀でもない主人公たちは、そこもノロノロとどうにかクリアしていく。
このジワッとした性との向き合い方は、どうにもラノベジャンルはセクシュアリティを過剰に燃やしすぎるという偏見を持っている身としては、なかなか面白い態度でした。
監督のフェティッシュなのか、胸方面より腰から尻、足にかけてを攻めるカメラもあって、性的興奮という意味でもかなりヘンテコな角度から切り込んでるアニメだなぁ。

パンツを新品にしマッピングを行い、銭を稼ぐ。
小さな満足を積み重ねていく義勇兵見習いたちですが、来週の予告がマジ不穏で困ったものです。
Wizardシリーズへのリスペクトを考えると、サブタイトルに『灰』が含まれているのは不穏だし、予告の最後で写ったマナトくんの杖がな……。
ちょっといい風が吹いてきた所で、リーダー兼ヒーラーを奪ってピンチを強化するのは劇作的には上手い手なんだが……今回見せた小さな変化が思いの外気持よくて、『もうちょっとジワジワと足場を作っていく話やんない? なんなら最後まで』という気持ちに、結構なっている。

前回までは『いい加減誰かぶっ殺して話進めろよ!』という無責任な感想を抱いていた人間が書く文章でもないですが、今回のエピソードでお話の持っているテンポ、捉えたい画角を体の中に入れることが出来た感じがして、キャラやお話の舞台がだんだん好きになってきたわけです。
そうなってしまうと、あれほど待ち望んでいた悲劇にNOと言ってしまうのは、お話に引き寄せられている証拠なのか、はたまた無責任で現金な視聴態度なのか。
そこら辺の判断はつきかねますが、ともあれ『なにか新しいことをしている』という新規性以上の肌触りと、独特のペースながらお話を回す意思を感じ取れたことで、僕はこのアニメが好きになってきました。
ここから大きく話を転がすのか、はたまた小さな一歩を維持していくのか。
何かが起きそうな四話に、期待大です。