黄昏アウトフォーカス 第4話を見る。
前回思いを伝え肌を重ね、タイトル回収までして関係性としてはクライマックスにたどり着いた真央と寿。
映画も無事クランクアップを迎え、長いエピローグでありプロローグでもある物語を描いて、第一章が終わった。
大変良かった。
恋を伝えてセックスすれば何もかもが終わりってわけではなく、自分の寂しさを預けられる相手を見つけたり、本当の自分と出会うための大事な頂点を越えた先に、まだまだ続いていく世界がどんな色なのか、豊かに描いていたと思う。
ボーイズがラブする話なのに、それが人生の(とても大事な)一幕に過ぎないところが、僕は凄く好きだ。
クソみたいな初恋に殴り飛ばされ、居場所と定めたルームメイトの隣に立ち、カメラを通して思いを伝えあって、自分が自分でいられる場所を見つけた二人。
『思いを言葉にし、抱きしめて伝える』という、少年が大人になる上でとても大事な一歩を、彼らがちゃんと踏み出している様子が今回たくさん描かれた。
好きだという気持ち、誰かに求められている実感が、欠けていたものを埋め新しいものを教えて、何かに縛られていた自分を自由にする喜び。
寿と真央は、お互いの恋に素直になることと、映画作成に真剣に向き合うことで、そういうモノを知っていく。
その実感が、眩く透明な魂をそのまま保って、彼らをより強く優しい人にする。
このお話は、凄くロマンティックな物語だ。
恋を扱っているという意味合いではなく、その夢想主義、理想主義、純粋主義が、とてもロマンスを信じ背負っていると思う。
どこにも居場所がないまま、悪徳と退廃の重力に引っ張られかけていた寿が、愛を確かめるための淋しい窓としての携帯電話を捨てて、目の前にある人生と、愛しい人を間近に感じられるようになった、善き魂の変化。
それがルームメイトの少年との純情なる愛、お互いの輪郭を重ね合い確かめる交合、映画作成を通じて広がっていく世界に、眩く反射している。
誰かを心から愛し、己に嘘なくそれを伝えることは、歪みかけていた魂を真っ直ぐなまま保ち、その純粋さを他人に分け与えることで、自分もより素直に、やりたいことに向き合うことを許す。
真央の告白を受け取ることで、寿は心から愛されている実感を得て、彼の胸の中を自分の居場所と定める。
それはそこに閉じこもって両手でしがみつく依存ではなく、片腕をしっかり抱きしめて貰っているからこそ、もう一方の腕で可能性を掴み取れるような、拓かれた変化を彼にもたらす。
映画部でずっと一緒でなくても、毎日セックスばっかりしてなくても。
お互いがお互いを求め、埋め合い、信じてお互いのやりたいことを見つめて応援できるような、爽やかで心地よい関係性を、彼らは掴んだ。
その透明度の高い健全さが、セックスというインモラルな匂いのする行為に支えられて、愛の証として眩しい所が、僕は好きだ。
愛しているからこそ求め、時に欲望をせき止めて、眩しい星を見上げることも出来る。
クソ教師との逢瀬が、世間の目からコソコソ隠れ閉ざされた車内だったのに対し、四話分の冒険を駆け抜けた二人の物語は、星が瞬き夜が輝く、開かれた場所で終わっていく。
星よりも熱く強く燃え盛る、お互いの瞳の奥の光に照らされ焦がれて、言葉で、抱擁で、身体のつながりで、どれだけ相手を思っているのか、純粋なものを手渡し合っている。
そんな青春に吹き抜ける風は、熱量と風通しを両方宿していて、とても美しい。
子どもの善い所を壊さぬまま、お互いの手のひらで守ったまま、大人になってくんだなーって感じ。
前回黄昏の中のアウトフォーカスで、自分がどれだけ眼の前の少年を愛しているのか、何が起きてもその思いが永遠であるかを確かめた真央が、今回は遠い遠い星に焦点をしっかり合わせて、見ててるけど届かないものへ寿といっしょに進んでいくのが、凄く良かった。
夕方が終わって暗い夜が訪れても、もう寂しくも怖くないし、一人でもない。
星はもう、確かにそこにあるのだ。
あの光景は確かに、二人の物語のクライマックスとして素晴らしいものだったけど、そこで全てが終わるわけじゃない。
映画部にいる以外の楽しさも世界にはあるし、それは真央だけじゃない仲間と本気で映画作ったから見つかったものだし、真央という運命の相手に抱きしめてもらったからこそ、自分の夢だと認められたものだ。
色んな星が、皆の世界にある。
特別な誰か一人に片手を繋いでもらうことで、残されたもう一つの手がなんだって掴める魔法の手なのだと、心から信じられるようになるまでの物語。
これが寿一人のものでも、真央一人のものでもなく、二人だからこその物語だったのだと告げるように、今回はお互いのモノローグが連祷のように、赤裸々な思いをよく綴っていた。
自分が語り部になっている時には、聞こえるはずのない内面の声。
それを抱擁の中に確かめ、言葉に出して届けた今、見えないはずのものは確かに目の前にあって、それこそが暗かった未来へ飛び出す自分の、道標になってくれている。
そういう、彼らがたどり着いた景色の象徴が”星”なのは、とても素晴らしい
めっちゃイチャイチャはするんだけども、セックスはするときもあるししないときもあるという、自制効きまくったバランスの善さに、最終話でたどり着いてたのも良かった。
ボーイズでラブなお話なんだから、遂に思いが通じ合った今、バコバコにやりまくったっておかしかないんだけども、二人は肉欲には溺れない。
それはお互いの気持を通じ合わせる、とても大切なことだからこそ、必要な時に必要な場所で、お互いの気持を重ねて育むものなのだ。
ここら辺、明らか不幸なセックスばっかしてた感じのクソ教師との関係から、寿が完全に脱却できた証明としても良かった。
やっぱよ…寂しいだけのガキ、良いように使うの善くねぇよ…。
切れない腐れ縁でズルズル繋がってたときは、不良行為に愛されない不安を誤魔化すしかなかった寿。
その本心や性傾向を、全部ひっくるめて受け入れてくれた真央との時間があればこそ、寿は腐れ落ちたへその緒を断ち切り、自分を支えてくれる本当の愛へと、身を預ける決意ができた。
今回二人が新しい世界へ飛び込んだり、聞こえてくる声に怯えず自分で確かめようとしたり、相手を独占するのではなく信頼して背中を支える道を選べるのは、みんなそういう、愛の実感あってこその変化だと思う。
誰も自分を抱きしめてくれない寂しさに、窒息しかけた自分の輪郭を抱擁でなぞり、口づけで確かめてくれる特別な存在と、確かに出会えた奇跡。 それが肝心な時に勇気が出なかったり、自分を大事にできなかったりした子ども達の未来を、爽やかな風が吹く色に塗り替えていく様子が、幸せなファンタジーの中に力強い作品だった。
『高校生が映画を作る』というシチュエーションの持つエモさも良いブースターになって、もちろん真央との恋は一番太い柱なんだけども、それが導きとなって寿が演じることの面白さ、誰かに見られている実感をもっと多くの人と、作り上げていく様子が良かった。
同性愛とセックス、ともすれば色眼鏡で見られがちなテーマを活用することで、子ども達がお互いへの愛を支えにして、極めて純粋に真っ直ぐ、強く優しい大人になる一歩目を踏み出していたのが好きだ
時に無批判、無条件に『善いもの』とされている恋愛が、寿と真央という人間一人一人の胸の傷に、ピッタリハマる個別の形に削り出されていて、もうそれでしか埋まらない運命に後押しされて、これ以上ないほどに近い距離で抱き合うまで…その後にも広がる景色を、豊かに描いていたと思う。
『この二人には、この恋じゃなきゃダメだったんだ』という手応えがしっかりあったことで、アリモノの恋愛を流用するのではなく、個別の手触りを宿して二人の人生を、愛と性の方向から照らすお話になってたのは、大変良かった。
セックスに関しても茶化すことなく、愛しさの極限、成長の必然として位置づけれていたと思う。
映画の内側と外側、カメラを見る側と撮られる側に世界と自分を分割していた真央が、映画みたいにはならない現実を映画よりも眩しく、自分たちが主演するロマンスとして駆け抜けていく。
そんな風に、大人と子どもを分ける一つの境界線が溶け合って、優しくOutfocusしていくことで物語が決着するのは、やっぱ良いなぁ、と思う。
撮る自分も撮らない自分も、恋人の手を取る人文もカメラを握る自分も、全部本当の自分だ。
心からそう思える特別な愛を、真央と寿はお互いに手渡し、捕まえ、抱きしめて星の瞬く方へと走っていく。
とても素敵な、美しいファンタジーだった。
さてお話は次回から第二章、溢れる映画愛で二人の物語を支えてくれた、市川監督を主役に進んでいくようだ。
オレがこのお話好きになったのは、あの映画バカがマジで映画好きすぎて、その熱意が周りに感染するほどのパワーあったからってのはデカいので、市川監督の話やってくれるのはマジ嬉しい。
つーか4.5話でのアンチロマンス宣言が、どう聞いても『これから男と男のど真ん中、全身で飛び込んでいくんでヨロシクッ!』としか聞こえないので、どんだけズブズブになっていくか大変楽しみです。
第一章めっちゃ良かったんで、続きも期待上がるの嬉しいなぁ…。