イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

灰と幻想のグリムガル:第12話『また明日』感想

さらば異世界、さらば冒険、さらばパンツも買えなかった底辺転生義勇兵生活!!
『どこにもいけない僕達が、急に異世界に連れ込まれて命の遣り取りをすることになった』アニメも最終回、大物ぶっ殺してみんなで生きて帰って、まさに大団円であります。
じっくりとした足取りで、じっくりと青年たちの成長を切り取ってきたアニメらしく、冒険も止めないし異世界から帰還もしないし、記憶も戻らない。
でも、どこにも行けなかった青年たちが、少しだけ何処かに行くための足場を手に入れたのなら。
それはもう立派な物語なのです。

つーわけで、前回ヒヤヒヤさせられたランタの死亡フラグは無事叩き潰され、今度はハルヒロに点灯したと思ったら無事回避でした。
死ぬか死なないか、命のやり取りをお金にする仕事のシビアさを描いたり、命のあっけなさと重さを描くため結果的に人が死ぬことはあっても、露悪的に人命を使い潰すアニメではないので、みんな無事に帰ってきてくれて良かったと思います。
何でもかんでも上手くいく都合の良いお話でもなく、何でもかんでも悪い方に転がる悪意ある物語でもないわけで、ちゃんと栄光を掴んで終わり、それでも毎日が続いていくところに小さな劇的さに落ち着かせたのは、とてもこのアニメらしい。

戦闘描写の方は最終回ということもあってかヒロイック重点でして、最後に必殺のクリティカルを決めたハルヒロだけでなく、コボルドたちの猛攻を凌いだ時のアニメチックな無双っぷりは、今まで温存していた描写かなと思いました。
今回デッドスポットを殺すことで、ハルヒロ達は30ゴールドをたっぷり稼ぎ『どこにもいけない僕達』を卒業し、マリイの仇をとってマナトの死を本当に受け入れることが出来る。
そういうトロフィー的な戦闘であり、彼らの晴れ舞台は今回が最後でもあるので、火力が確実に増しているマジックミサイルとか、ようやく当たるユメの矢とか、派手目に味付けしたのは良かったんじゃないかな。
おかげでデッドスポットさんのサイズが時々ゴジラみたいなことになってましたが、絵で見せるメディアたるアニメーションに、ヴィジュアル的ハッタリは絶対必要なのだ。


ハルヒロは最後の死の線なぞりも良い見せ場でしたが、それよりむしろ集団戦時の的確な指揮役のほうが印象に残りました。
ラストシーンを相手取るのがメリイではなくマナトなことからもわかるように、思い返せばこのアニメはハルヒロがマナトと出会い、別れ取り乱し、彼の死を受け入れるまでのお話でした。
『マナトの開いた穴を心理的にも、機能的にもしっかり埋めることが出来たのだ』と見せるためには、かつてマナトが(実はいっぱいいっぱいながらも)華麗に率いていたリーダーの立場を、ハルヒロがしっかり務めることこそが、お話を〆るに必要な活躍だったと思います。

このアニメが『パーティーが機能するまで』の物語だったのは、マリイの言葉ではなく、小憎らしいランタのエールで意識を取り戻す所からも感じられます。
気の合う連中だけではなく、感情的に反りが合わない奴も『仲間』としてやっていく(もしくは離れていく)一歩一歩が義勇兵の人生なのであり、あそこで欄ったが主人公を奮起させるヒロインをやること自体が、このアニメがどういうアニメなのかよく分かる。
吉野さんの名演技もあって、ランタは生臭さと爽やかさのバランスが取れた、存在感のある良いキャラだった……。

マリイはヒロインというかお嫁さんの貫禄でして、ハルヒロ好き好きオーラがムンムン出ててヤバかったです。
義勇兵稼業が『命のやり取り』である以上、もう一度仲間を与え、かつての仲間を浄化し、仇を討ってくれたハルヒロがメリイにとって恋人以上の存在になってしまっているのはよく分かるんですが、それにしたって好き過ぎだ。
控えめに言って素晴らしい。
病み上がりのハルヒロを支える時の距離感とかも好きなんだけど、マナトの時は殺されて鐘もでなかった戦いが、最後で生き残って大金もゲットできるという、分かりやすい対比で描かれてるのも良かったな、ラストシーン。

他にもレンジとのしこりをちゃんと解消したり、過去を完全に振り切ったメリイとハヤシさんが仲良く飲んでいたり、かつてパンツも買えなかった青年たちがどこに辿り着いたのか、良く見えるエピソードだったと思います。
戦闘の見せ方にしてもそうなんですが、小さいながら達成感を積み重ね、コンパクトな成長と挫折を大事にしてきたアニメなわけで、このように総決算的な描写が積み重なると、凄く満足感がある。
まだまだ続いていく義勇兵生活に思いを馳せ、ここまでの歩みを振り返るモノローグも良い仕事をして、とても良い最終回でした。


と言うわけで、グリムガル終わりました。
最初独特かつインパクトのある美術に引きこまれ、ジリジリと『どこにもいけない僕達』について描く筆致に面食らいつつ、気づけば彼らの生活に引きこまれている。
そんなアニメでした。

あえてストーリーの展開を極限的にゆっくりにして、一つ一つの仕草に込められた感情をフェティッシュに接写することで、『異世界召喚』といううわっ付いた状況のリアリズムを丁寧に切り取る。
この割りきった演出姿勢は、そのスタイルでしか描けないオリジナリティに見事に直結していて、このアニメにしかかけない状況の生々しさや、感情の複雑さ、綺麗なものと汚いものをいっぱい詰め込んだ義勇兵人生が、しっかり伝わってきました。
ただ淡々と人生を切り取るのではなく、時に歌を使い、時に生々しい『殺し』を叩きつけ、時にゲーム的な技の演出をいれ、スローなペーストクローズアップのアングルなりに、盛り上がりをしっかり付けて視聴者を飽きさせない努力をしていたのも、とても良かったです。

個人的には、どうにも蔑ろにされがちな異世界転生者の『衣食住』に注目した描写が多かったのが、異世界に漂う匂いを強く感じられて良かったです。
パンツも自由に買えない、食いたい飯も食えない状況をねちっこく描写したおかげで、凡人(以下)が急に英雄になるという物語的嘘をつかずに、手応えのある成功を描けていました。
主役の一人であるモグゾーの特技を料理に設定して、ここら辺の生々しさを常時カメラに捉えていたのは、上手い設定だったなぁ。
落合福嗣さんの声優としての腕前はこのアニメで初めて見させてもらったんですが、穏やかながら頼りがいを手に入れていく巨漢を好演していて、とても良かったですね。

描かれるキャラクターもそれぞれ尖った個性を持ち、嫌な部分も多々あるけど、そんな凸凹が一つに収まってパーティーになる気持ちよさを大事にしていました。
ランタやマリイを切り取る筆が多彩で、ただの『嫌なやつ』が抱え込んでいる様々な感情を丁寧に掘り起こすことで、キャラクターたちが彼らを知り、好きになっていく過程と視聴者の心情が上手く咬み合っていました。
小さな世界で小さな成功と失敗、歩み寄りと別れを繰り返していく彼らのことを、勇仁のように好きになれるアニメで、本当に良かった。

お話の軸としてはやはりマナトとハルヒロの関係が大事でして、二人が出会い、導き成功し、驕り死に、再び立ち上がってその死を認めるまでの『命のやり取り』がお話をしっかり貫いていたと思います。
ゆっくり丁寧に二人の信頼関係や危うさを積み上げ、狙いすましたタイミングで殺し、その喪失に震える主人公たちをしっかり描く。
視聴者もまた感じているだろう感情を画面の中で丁寧に追いかけることで、主人公が手に入れ、失い、再び手に入れるものの感触が、しっかり視聴者に伝わり、共感できる。
そういう独特な手触りを作ることに成功していたからこそ、ハルヒロが『命のやり取り』を繰り返して達成した成長の物語に、爽やかな満足感があるわけです。
その物語を支えたのはやっぱりマナトなわけで、彼の死を受け入れるまでの長い旅路として、太い軸が用意された物語だと思います。

執拗とすら言える丁寧な目線はアクションでも生きていて、第1話で見せた無様な『殺し』と第12話の連携の取れた『殺し』の対比を見ると、キャラクターが置かれた状況を生々しく伝えるための努力を強く感じます。
『殺し』の様々な側面を、切り捨てることなくしっかり拾い上げてきたからこそ、マナトの死のあっけなさと喪失感はよく立ち上がってくるし、それを乗り越えようと藻掻くキャラクターたちにも寄り添える。
いろんな部分が細やかなアニメでしたが、戦闘シーンをただのアクションとして使い捨てず、ドラマとしての感情を色濃く載せていたことは、特に大事なポイントでしょう。

全て失われ、世界のルールに上手く適応できない青年たちが、自分たちの生き方を見つけ歩いていく話として。
個性の強い連中が時にいがみ合い、時に失い、分かり合い一つになっていく集団の物語として。
丁寧に構築されたファンタジーを、じっくりと飲み干していく異世界疑似体験として。
色んな楽しみ方が出来る、豊かなアニメでした。
独特だけど『こういう描き方もあるのか』『こういう描き方もなきゃいけない』と思わせる魅力に満ちていて、キャラクターも世界もその描き方も、とても好きになれるアニメだった。
灰と幻想のグリムガル、本当に良いアニメだった。
ありがとうございました。