イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツ! ベストエピソード10選

遂に三年半の長い旅路を終え、一つの終わり、一つの始まりに辿り着いたアイドルカツドウ。
これまでの全178話から、個人的にベストだと思う話を選りすぐり、彼女たちの旅路を思い返してみよう、という企画です。
あくまで個人的な好みなので、あのエピソードやあのお話が入っていないこともありますが、まぁ完結記念ということで笑って収めてください。


・第13話『カロリーの悲劇!』
『かわいい系アイドルを容赦なくデブらせ、しっかり笑いを取る』というアイカツ!の容赦の無さがよく出た、コメディ系のお話。
結局体を動かして全てが解決していくこと、笑いの質がどこか上品なこと、デブる事自体ではなく不安のあこがれというアイドルの基本を忘れている油断を咎めることなど、今後ピカッと光るアイカツ!の『楽しいお話』の要素が全部詰まっている、アーキタイプ的なエピソードである。
珠璃あかの可能性をまったりと追求し、落ち着いた輝きがある第115話『ほっこり☆和正月』といい、SLQCシーズンの開幕とスミレちゃんの達成点を鮮烈に描いた第166話『私が見つけた最初の風』といい、正月一発目は良エピ多いなぁ……『ラッキーアイドル☆』も悪くはないんだが、次の『夢への扉』が遅れてきた神エピ過ぎてちょっと霞むな。


・第50話『思い出は未来のなかに』
言うまでもなく、一年目ラストエピソードにして、『お話の中心に座り続ける主人公』としての星宮いちごラストエピソード。
いちごが美月さんに勝てなかったり、孤立し挑戦することを肯定したり、アイカツ!らしさを最後まで維持した意味でも、まさに集大成といえる。(二週間でいちごが帰ってきたため、いちごにとって孤独がどういう意味を持っていたのか、掘り下げきれなかったのはまた別の話。それすらもあかりちゃんが回収したし)
この後ドリアカが台頭したり、いちごが帰ってきたり、増えたサブの掘り下げが活発になったりして、『星宮いちご』という少女個人に極限まで寄ったカメラワークはラストとなる。
やはり圧巻は"カレンダーガール"をBGMにセリフ一切なしで展開する、あおい姐さんといちごの濃厚な別れのシーンであり、ここで緊張感と達成感を炸裂させたことで、各年度ごとの締めを長尺でしっかり〆る演出の伝統が生まれることになる。
ここで蘭ちゃんを拾いきれなかった結果、第125話『あこがれの向こう側』でソレイユのラストエピソードをやらなきゃいけなくなるのだが、話数と時間経過だけが可能にするキャリアメイクを総括するという意味でも、あの話は50話では出来ない話でもある。


・第55話『合言葉はオケオケオッケー☆』
キャラの内面を掘り下げる踏み込みに、どうにも鋭さが欠ける二期であるが、きぃP初の掘り下げであるこの回は『美醜』というすげーギリギリなところに切り込みつつ、母の愛をしっかり描いた名エピソード。
ここでも『美しい・醜い』という判断基準それ自体を語るのではなく、きぃが他者との違いを気にして自分らしさを発揮できない状況を問題視し、お母さんが魔法をかけてあげた『過去の話』と、二重にクッションを効かせたアイカツらしい捌き方である。(なお、きいが醜いってことはゼッテーないし、俺の目の前でそういう話した奴は前歯二本ガッツリ貰うタイプのきい好きです僕は)
『子供が不安に思っているなら、大人は何億回でも『愛している』と言って行動で示して分からせてやるんじゃぁあ!!!』という真っ向勝負のメッセージが、アイカツの『良い大人』描写を代表していて、とても好きですね。
言っても詮ないが、ドリアカ勢はこのレベルの個別エピソードがあと二回あれば、シーズン全体の印象がかなり変わっていたと思う。
アイカツの大人力という意味ではやっぱジョニーであり、第46話・第96話・第117話と、名エピソードの影に教師・ジョニー別府の温かい行動があるのだ。

 

・第97話『秘密の手紙と見えない星』
アイカツでは非常に珍しい回跨ぎのエピソードで、第96話と合わせて完成するあかりちゃんど根性二部作。
アイカツ!において『なかったこと』になっている悪意や諦め、迷いといったネガティブな感情にギリギリまで接近し、世界を壊さない極限まで夢の裏側の影を掘り下げたお話。
このお話があればこそ、『いちご世代では出来なかったことをやる』というあかりジェネレーションのテーマ性はしっかりした足場を持っているし、自己評価の低さに押しつぶされそうなあかりちゃんのギリギリっぷりをちゃんと映したからこそ、最終話で軽やかに走る彼女の姿に感慨も生まれるわけだ。
星宮いちごの無垢性・天才性をもう一度俎上にあげて、『指す手筋すべてが正解を手に入れてしまうがゆえの、失敗や負の感情への親和性の悪さ』というテーマを発掘したうえで、あおい姐さんの手紙という神具を持ちだして凡人・あかりちゃんとの間にブリッジを架ける作りも良い。
ここで『いちごちゃんは今後、メンターとしてあかりちゃんに絡むのかなぁ』という予測も立てたが、美月-いちごの関係性を再演しない意味合いもあって、あくまで一番高い場所から見守り、時々声をかける程度の関係に落ち着く。
その緩やかな繋がり方もまたアイカツであり、星宮いちごだけが可能な後輩との関わり方だったと、今は思う。


・第99話『花の涙』
アイカツの天井』として、人間を止めアイカツそれ自体になろうとした少女、神崎美月がようやく負けることの出来る回。
人間・神埼美月からのSOSは例えば第41話とか、第42話とか、第47話とかでビンビン出ているのだが、悪意を持つことが許されないアイカツ世界の構造問題を一人で背負った結果、お話を回すエンジンは彼女が全て担当することになり、色んな無茶苦茶を押し通すことになる。
彼女のフアンとして、特に二期の彼女は見ていて辛かったし、絶対女王としての気高さや説得力よりも、どうにかして降ろしてあげないと破綻してしまいそうな危うさのほうが強かった。
そんな美月に個人として寄り添い、ある意味で心中してあげる優しさと向き合い方をしてあげれた唯一の存在がド素人・夏樹みくるであり、彼女と出会ったことで美月は弱くなり、負けて、神様をやめて人間に戻る事ができた。
それはいちごには出来なかったことだし、いちごとセイラがいなければ出来なかったことなのだろう。
その始末をつけたのが映画版であり、背負うものの減った美月の活躍は例えば第122話『ヴァンパイアミステリー』や第173話『ダブルミラクル☆』で見ることが出来る。
一アイドルとして自分らしさを楽しんでいる美月さんはとても幸せそうで、みくるには感謝してもしきれねぇ……ひなきも救ってもらってるしなぁ……。


・第131話『輝きのダンシングディーヴァ』
この後の情ハラエピも素晴らしい仕上がりなんだが、スミレちゃんの変化が一番わかり易いこのエピソードが、ユニット編のベストだと思う。
スミレちゃんが『別格の美人』であり、『別格の美人』でしかない事実の描き方は、あかりジェネレーションが巧妙だった幾つものポイントでも、強調していいだろう。
ただ座っているだけで愛される『持っている』女の子は、それ故に貪欲さに欠け、『どうなりたい』とか『何がほしい』という欲望を持つことがない女の子でもあった。
第102話であかりちゃんと出会うことで待っているだけの女の子は少しずつ変化してきて、このお話でついに具体的な顔を持つ一人の少女を心の底から『欲しい』と願うようになる。
そんな彼女が自分自身の物語のラスト、第176話で手に入れたのが『失敗』であることを鑑みても、非常に重要なターニングポイントだと思う。
あと色んなメタファーがマジ露骨でキマくってる話としてもグッドナイスだ……そこでベットに横たわってる必要、マジナイですよね?


・第147話『輝きのルミナス』
なんどでも言うが、あかりジェネレーションで一番濃厚に自分の物語を持っていたのはひなきであり、ポップな印象とは真逆に賢すぎる子供として自分を押し殺し、優等生が故の悩みに悩み続けた彼女の遍歴としてだけ見ても、三年目・四年目は大きな意味を持つ。
『優等生の悩み』という意味では、第71話『キラめきはアクエリアス』なども肌理の細かい名エピソードであるが、ひなきの場合はエピソードを計画的に積み上げ、その賢さ故に自分を縛り付ける自己規定の硬さを一個ずつ外して行った丁寧な構成が、段階を踏んだ満足感を生んでいる。
ひなきの臆病な部分引っくるめて肯定してくれるKAYOKOという『良い大人』と出会ったことで、彼女はようやく自分を肯定し始めるのだが、ここから第169話『ひなきミラクル!』を経て、SLQCに挑むことになる。
結果彼女は(これまでのように)負けるわけだが、『悔しい』というネガティブな自分を物分かりよく飲み込むのではなくて、全国の聴衆の前で堂々と認め、一個の表現として自分を語り切る姿に辿り着く。
それはこのエピソードでKAYOKOが与えてくれた肯定と成功経験だけが可能にしているのであり、あらゆる人生の物語においてそうであるように、小さな優しさと勇気の積み重ねだけが可能にする、とても小さな変化の物語でもある。
ひなきという少女がそういう物語を走り切れたということ、アイカツというシリーズ全体の中にひなきの物語が含まれているということは、とんでもなく豊かなことなのだと、僕は思っているのだ。


・第150話『星の絆』
すでに物語を走り切ったように思えるキャラクターたちの話を再構築し、取りこぼしたところを拾ったり、関係性を再度確認したりするエピソードがアイカツはとにかく上手い。
様々な事情に展開が振り回されがちな女児アニにおいて、キャラクターの物語に気を配り、要所要所で再演の機会を設けてくれる鷹揚さは、作中のキャラクターたちに思い入れ、独特の生命を感じつつある視聴者にとってありがたいものだ。
第47話『レジェンドアイドル・マスカレード』あたりから始まって、あおい姐さん一年間空白を埋めた第71話『キラめきはアクエリアス』、敗残兵たちのワンスアゲインを描いた名エピソード第79話『YES!ベストパートナー』と、物語の真ん中にいる時は描けなかったものを時期をおいて描く巧さは、特筆して良いだろう。
世代が移り変わった三年目からは特に顕著で、SLQCの価値を上げてラストに繋がる第124話『クイーンの花』、二年前に置いてけぼりにされた蘭ちゃんを拾い上げるルミナス・ラストエピソードたる第125話『あこがれの向こう側』、まさかのしおん3Dモデルに真心を見た第148話『開幕、大スターライト学園祭☆』、ユウちゃんの秘めた情熱を切り取った第156話『YOU!GO!KYOTO!!』、自分の夢を達成したみくるが幼い少女を導く強さを見せる第169話『ひなきミラクル!』、WM一瞬の復活と彼女たちのこれからを描いた第173話『ダブルミラクル☆』などなど、盛りを過ぎたはずのキャラクターを輝かせ直すエピソードの切れ味は鋭い。
そんな中で、第79話で掘り下げた美月の身勝手をもう一度拾い上げ、時代の徒花として咲いたトライスターをもう一度取り上げるこのエピソードは、人間ではなく物語的機構として色んな人を傷つけた美月に優しさを取り戻す意味でも、ルミナスに敗北させることで『アイカツの天井』だった神崎美月を完全に過去のものにする意味でも、とても大事なエピソードである。
かつて語り得なかった物語をどうにかして語ることで、物語には奥行きが出るし、キャラクターには救いと成長が生まれる。
そういうエピソード群の代表として、やはりこのお話しは素晴らしい。


・第178話『最高のプレゼント』
三年半に渡った長い物語の最後をどう〆るのか、皆が注目する中で特別なことは何もせず、アイカツらしさを画面に塗り込めつつ、バトンを渡して走り切った二人の主人公に敬意を捧げるアイカツ最終回。
SLQC編に入ってから何回も繰り返された『彼女たちの物語は終わらない。終わらないことに意味がある』というテーマを完全に拾い切る、『私のアツいアイドルカツドウ、はじまります!』というラストメッセージ。
そこからは、夢にむかってまっすぐに、時に回り道をしながら走る運動それ自体が貴重で、大事で、かけがえがないのだという強い意志を感じることが出来る。
そして過ぎ去っていた長い時間にも当然価値を見つけ、おしゃもじをマイクに持ち替えた一人の少女が静かに待つ高い場所へ、彼女に憧れてアイドルになった女の子が辿り着いたことの意味を、高く強く掲げるエンドシーン。
美月のように貪欲に育てるのではなく、自分らしく静かに待ち続けたいちごも、凡人として小さな成長を積み重ね高みに至ったあかりも、これまで描いてきた物語がなければけして辿りつけなかった場所で肩を並べた。
そして、そのどちらにも価値が有るのだと確認する話運びは、自分たちが積み上げてきた物語への誇りに満ちている。
自分たちが作り上げてきたものと、そこからはみ出して生まれたもの両方に、理解とプライドがある素晴らしい大団円だったと思う。
アイカツは終わる。
しかしそこに存在した少女たちの物語は確実に何かを生み出していたし、それはたとえアニメーションの放送が終わったとしても消えない、とても貴重なものだったのだ。


・劇場版第一作『劇場版 アイカツ!』
番外ではありますが同時に大傑作でもあるので、やはりこれを外す訳にはいかないでしょう。
TV放送で『美月が負ける』話としての説得力を積み上げつつも、どうしても踏み込みが足らなかった『いちごが勝つ』物語としての説得力をたっぷり積み上げつつ、美月から女王の冠を禅譲されたいちごにあかりが追いつく物語を始める第1話でもあるという、贅沢な構図。
一つの歌を仕上げる過程を追いかけることで、一少女の人生と心を救う芸能の凄さ、アイドルの力を確認するというアーティストムービーの側面も持っていて、非常にレンジの広い物語だといえる。
しかし何より、『譲るのではなく奪われたかった』というセリフに代表される美月のプライドと弱さ、神から人間に戻ってしまった少女の戸惑いを丁寧に描き、それに報いたいと願ういちごの柔らかな感情を真っ向から描いたヒューマニティこそが、この映画最大の魅力だろう。
優しく、強いこの物語が劇場版第一作というスペシャルな立場に存在していることは、アイカツにとってとても幸運なことだ。
見てねー奴は今から見ろ。アイカツ知らなくても見ろ。