イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第4話『異国の味に己が境遇を知る』感想

今週ロボは出ません!!! なクロムクロ第四話は、『サムライがタイムスリップするお話でやって欲しいこと、片っ端から全部やります!!』っていう回。
俺達が見たいシチュエーションを全部ぶっ込みつつ、剣之介と現代、剣之介と由希奈の距離がだんだん縮まっていく様子を、楽しく見ることが出来ました。
やっぱ王道シチュエーションは心にドカンと響くからこそ王道だなぁ……控えめに言って最高だった。

剣之介が好青年だというのはこれまでのお話でも十分以上に感じ取れる所ですが、序盤の忙しい展開も落ち着き、日常が描写される今回はそこが凄くよく見えたと思います。
無論彼にも彼自身のパーソナリティがあり、それが生み出す軋轢や拘りがある。
『450年後の未来』に戸惑う姿は彼が強い個性を持っているからこそ生まれるものであり、そこと折り合いをつけていく様子は、既存のパーソナリティにこだわり過ぎない柔軟性をよく表しています。
『鬼』や『家』『姫』という大切な思い出は手放さないまま、子供が笑う『泰平の世』を喜ばしげに見つめる姿には、彼の靭やかさと優しさがよく見えました。

『現代の食い物を拒絶した後ドハマリする』『TVに人が入っていると思い込む』『信号が認識できない』『服装がズレている』
剣之介の大真面目なリアクションもあって、タイムスリップの定番シチュエーションは最高に笑えるコメディーとして仕上がっていました。
やっぱこのセッティングだと、こういうギャップを活かした笑いは欲しくなるし、驚きと戸惑いの芝居が切れ味鋭いので、『これ、どっかで見たなぁ』という飽きよりも先に、笑いが腹から上がってきました。
ちょっとオーバーなんだけどやり過ぎではない、いい具合にナチュラルな反応をさせていて、動と静の緩急も良く効いていてで、やっぱ笑いは間合いだなぁと痛感。
テンション高めなんだけど下品にはならない笑いの調整具合は、PAのお家芸だね。

ド頭にカレーにまつわるやり取りを持ってきて、剣之介が現代を受け止める基本姿勢を視聴者にわからせたのは、非常に巧かったと思います。
やはり『食』というのは視聴者に一番身近な感覚ですし、その時代のものを『腹に収める』行動を描くことで、異質な文化や状況をどう扱うのか見せるのは、一番手っ取り早い。
食いもんに文句つける行動って、引っかかる人にはかなり引っかかる(自分はそのタイプ)描写だと思うのですが、OP挟んで即座にもしゃもしゃ食わせてストレスを引っ張らない作りも、凄く巧かったです。

剣之介が抱えている450年のギャップって作品を支える屋台骨で、早々簡単に崩してはいけないわけでども、それはそれとして流れ着いた先の文化を受け入れ、自分なりのアレンジで使いこなしていく。
現代と格闘するコメディの中に、剣之介の知恵と柔軟性がしっかり見えていたのは、ただ『あー面白かった!』の裏に確かなキャラ描写を埋め込む妙技で、素晴らしいと思いました。
コメディとストーリーの二枚取りが巧いというだけではなく、コメディの楽しい経験の中にキャラクター描写を埋め込むことで、視聴者のキャラクター理解を助ける相乗効果が出ているのが良い。
興奮しながら見たものってのはよく覚えているわけで、これはアクションの中にキャラクター描写を埋め込んでいたこれまでの回と、背中合わせの演出だと思います。
やっぱダラッダラ説明されるより、おもいっきり興奮して楽しくて、気づけば言いたいことが理解出来てるって方が頭に残るなぁ……それを実現すんのが難しいんだけどさ。


剣之介が現代に歩み寄るだけではなく、現代の人々が剣之介に近づいていく描写がしっかりしていたのも、今回面白いところでした。
最初から好感度バリタカの妹ちゃんが、ピョンピョン跳ねつつちょっかいを出してくる描写も良かったし、最終的な判断を和尚が後押しする信頼関係が随所に感じられたのも素晴らしかった。
妹ちゃんは『お侍大好き! お侍と暮らすの楽しい!!』という感情が、行動の端々から漏れてるのがホント良い……心の動きを二次元で表現出来んだから、アニメーターって凄い仕事よなぁ。(今更な感心)

由希奈は剣之介とは距離があるキャラなんですが、一緒に飯を食い、屋根を同じくし、お気に入りのタオルをふんどしに変えられ、買い物に付き合う中で、段々と遠慮がなくなっていきます。
カレー食う前はちょっと余所余所しかったけど、一通りギャーギャー騒いで心の障壁が解けたのか、洗いものしてる時はかなり図々しい間合いになっている。
本来的にのんびりして図太いキャラクターなので、『衣食住を共有することで、本来の自分を出せる間柄になってきた』ということなのでしょう。
こういう変化を直接的に台詞で言うのではなく、描写の端々から感じ取れるところが良いのだ。
作品に説明してもらったものは他人から貰った意見だが、自分で気づいた感想は自分のものとして大事に出来るのが、視聴者のサガだと思うわけで、気付けるヒントを自然かつ大量に配置し、自分の感想が発掘できるようお話作ってあるのは、本当に素晴らしい。

メディアからのイヤーなツッコミで場面のトーンがコメディからシリアスに変わり、夕日の中で二人は少し真面目な話をする。
由希奈にとって嫌な思い出である『父』と『鬼』がしかし現実のものであること、そしてそれが二人共通の問題であり、既に一度力を合わせて乗り越えたものだと確認することで、二人の距離は更に縮まります。
『この前、俺とお前が戦った相手がそうだ!!("俺とお前"……最高ですね)』と剣之介に言葉をかけられ、嫌悪し逃避気味だった『鬼』と『父』と向かい合う気持ちを固めた由希奈の心境変化を、表情一本で描いた所は凄く良かったですね。

今回にかぎらずこのアニメでは『剣之介が由希奈の手を取る』描写が多くて、武辺者である剣之介がお話を主導していく構図が、身体接触で表現されてんのかなと思います。
今回もグイグイと手を握って引っ張るシーンが多くて、オジサンドキドキしちゃいましたが、雪名も手を引っ張られるだけではなく、『鬼』にまつわる情報を剣之介に譲ったりしている。
二人がお互いのパーソナリティを持ちつつ、お互いを尊重できる間柄だってのは買い物の時の帽子にも現れていて、同じ麦わら帽子をかぶることで、似たところがある(もしくは、頑張って似たところを探している)二人の関係が、巧く視覚的に表現されていたと思います。
これもカレーと同じく、物語的な意図をうまく映像に埋め込んでいる部分ですね。


イヤーなメディアからのインタビューという形(あそこで監視対象ではなく、いやーなメディアの方を黒服さんが取り押さえるところがクロムクロだと思う)で、由希奈の父親の設定が開示されていました。
剣之介と一緒にクロムクロに乗ることで、由希奈は否応なく『鬼』と向かい合い、消えた『父』をどう扱うのか試されることになります。
自分をおいて消えてしまった嫌な『父』とどう向かい合うかは、おそらく由希奈の背負った物語の中でも大きな部分でしょうから、インタビューという形で設定説明がされたのは良いタイミングだと思います。
このアニメ物分りが良いキャラが多いので、メディアの人の分かりやすい無理解っぷりは、珍しい味付けだったなぁ。

ちょっとマッドな気配が漂う親父さんですが、彼の残した研究が今後『鬼』との戦いの中で活きてくる感じなんですかねぇ。
失踪した親父さんが『鬼』を求めて『鬼』になってしまったら中々皮肉な展開ですが、由希奈の人格的成長にも関わってくる話なので、ここら辺の事情はそれなりに進んでから明らかになるでしょうね。
剣之介の回想で示された『姫が死ぬシーン』にも気になるところがいくつかあって、コアブロックである『ウマ』崩壊してね? とか、もしかして剣之介一度死んで『ウマ』の中で再生されてね? とか。
今キャラクターが抱えているドラマを楽しく描きつつ、先の展開に繋がる伏線も的確に配置してくれているのは、視聴意欲が上がっていいですな。

今ん所、このアニメでメインを張るキャラクターは強く自分を持ちつつ、他人との接触を拒絶しない、対話可能な存在として描かれています。
例えば由希奈のママンは、立場的にはコミュニケーションに乏しい仕事人間となってもおかしくないキャラですが、むっちゃ親バカで情の濃い人として描かれている。
しかしそこにはギャップがあって、妹ちゃんへの対応と、由希奈に対する声色は明確に違っています。
コミュニケーションにかならず付随するギャップ(その最たるものが、剣之介の450年ですが)を存在しないものとして消し去って優しい世界を実現するのではなく、橋をかけることが不可能な深淵として諦めるでもなく。
各々の努力と歩み寄りで楽しく攻略できる、むしろそのギャップがあることが楽しいとすら思えるようにしっかり描けているのは、このアニメ最大の武器だと思うわけです。


と言うわけで、武辺者現代を行く!! というお話でした。
四話目にしてアクション要素のない展開でしたが、笑いの破壊力も日常の穏やかさも非常にクリアかつ的確に描写され、非常に面白かった。
キャラクターの感情がどう変化し、価値観がどのように移り変わっているかが絵と芝居でちゃんと伝わってくるのが、見ていて楽しい最大の要因なんだろうなぁ……他の部分も素晴らしいけど。
剣之介と由希奈の心も、賑やかな日常を共に生きることでちょっと近づいて、今後の展開が非常に楽しみであります。